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第二話っ、引きこもりの田代と俺っ!ヒャッハー! その12

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全長十メートルほどで太い胴回りをした毒蛇──ポイズンアナコンダは人間もサメ鹿も容易く絞め殺して丸呑みにしてしまう。
おまけに牙から垂れるあの神経毒はかなり厄介だ。
ゴインズがルイーザに向かって「じっとしていろっ、動くんじゃないぞっ」と声をかける。
そんなルイーザはゴインズに言われるまでもなく、固まったまま動かなかった。

俺とゴインズは互いに視線で合図した。
「油」
「目潰し」
手短に確認を取る。

何の準備もなく、ポイズンアナコンダに無為無策で突っ込んでいっても、
たかが見習い魔術師に駆け出し戦士の寄せ集めパーティー程度では、
返り討ちに遭って食われるのがオチだ。
だが、きちんと準備して対処法を知ってさえいるなら、何とでもなるモンスターでもある。

ポイズンアナコンダの銀色の眼がじっと俺たちを見つめている。
俺は油の詰まった袋を取り出した。袋の油を撒いて、周りの地面に撒いて火をつける。
その間にゴインズが目潰し用の粉をポイズンアナコンダの顔に投げつけた。

一定時間、ポイズンアナコンダの視力を奪ってから、炎の熱でピット器官を狂わせる。
その間に追い払うか、狩ればいい。
ここでよくあるミスが、視力を奪うだけか、熱を出すだけかのどちらか片方しかやらない場合だ。

蛇は目潰しを食らわせて、視力を奪っても獲物の熱を感知して正確に食らいついてくるし、
逆に熱でピット器官を混乱させても目視で襲いかかってくる。
だからどちらか片方が欠けると意味がない。
これでポイズンアナコンダに返り討ちにされる新米冒険者やハンターは決して少なくはないのさ。

俺は長い木の枝に布を括りつけ、油を染み込ませると火を付けた。
それをポイズンアナコンダの鼻の下あたりで降ってやる。
間近に迫る強い熱を感知し、ポイズンアナコンダが威嚇し、燃え上がる布に牙を立てようと足掻く。
その間にゴインズが取り出した手突槍を構え、ポイズンアナコンダの顎を突き上げた。

この槍の穂先には毒が塗りこんである。
激しくのたうち回るポイズンアナコンダにゴインズが危うく吹き飛ばされそうになったが、
懸命に踏ん張って堪えた。
その間に俺はメイスを振り上げると何度もポイズンアナコンダの頭部を殴打した。
槍の刃が更にポイズンアナコンダに食い込んでいく。

猛然と胴体と尾を振るい上げ、俺とゴインズを弾き飛ばすと、ポイズンアナコンダはそのまま地面に横たわり、
動かなくなった。
あれが最後の悪あがきだったのだろう。
尻餅をついているルイーザを尻目に俺達は早速、ポイズンアナコンダの解体をはじめた。

なんせポイズンアナコンダの毒液は精力剤として使えるし、牙も薬やお守りとして人気が高い。
おまけに革は高値で取引されている。
ポイズンアナコンダを一匹売れば、家族三人が余裕で二ヶ月は暮らしていけるほどの身入りになるのだ。
もっとも、それで金に目が眩んだまともな狩りの腕も持たない連中が、
日々ポイズンアナコンダの餌として食われているのだが。

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浅瀬になっている沼沢地の水面から、ホテイアオイが大量に群生しているのが見える。
ポイズンアナコンダの解体を終え、剥ぎ取った皮や牙をまとめてから俺達はしばしの休憩を取っていた。
焚き火の前で、コーンパイプで煙草を吹かしているゴインズと茶を飲んでいるルイーザに俺は声をかけた。
「そろそろビッグヒキガエルを捕まえましょうか。もう日暮れだし、丁度いい時刻だと思いますよ」

「そうだな、ビッグヒキガエルを捕まえる準備は出来てるし、もう頃合だろう」
そう言うとゴインズが巨大な網を取り出した。
俺とルイーザは、ポイズンアナコンダの肉の細切れを沼の水面に放り投げていった。

ポイズンアナコンダの肉は生臭くて、あんまり美味いもんでもないが、
悪食で知られるビッグヒキガエルにはご馳走に見えるだろう。
撒き餌をしてから半刻(一時間)もしない内に早速、ビッグヒキガエルが何匹か姿を現す。
体長七十センチ位の大きさのカエルだ。

そこをゴインズがえいっと網を投げて捕らえていく。
俺達は捕まえたビッグヒキガエルをナイフで捌き、油袋を取り出していった。
ここも地球との違いがあるな。

あっちだとヒキガエルの耳腺から分泌されたセンソを採取したり、
そのままヒキガエルを陰干しにするからな。
ルイーザは手先が器用なようで、上手く油袋を抜き取っては、壺の中へと放り込んでいった。

肉は沼のほうへと投げる。ビッグヒキガエルは共食いもするからな。
それにしても今夜は夜通しになりそうだ。
焚き火に小枝をくべながら、俺は夜空を見上げた。

「ねえ……マリアって冒険者とかじゃないのよね?」
カエルの腹を割いて、油袋を取っていたルイーザが不意に俺に声を掛けてきた。
「ええ、そうですけど」

「それにしてはただの道具屋の娘には思えないわ……何だか凄く手馴れてるし……」
そこで網でカエルを捕まえていたゴインズが俺の代わりに答えた。
「マリアはマッコイ爺さんから手ほどきを受けてるし、チャールズ神父からも治癒魔法を習ってるからな。
実際、下手な冒険者や傭兵なんかよりもずっと頼りになるよ。
この前のアンデッド事件の時も孤児を守って活躍したんだぜ」

ゴインズのその言葉にルイーザは目を丸くした。
「私もあの時、街にいたけどゾンビを二体くらい退治してから、ずっと隠れてたわよ……」
「あんまり戦い慣れはしてないっていうことですか?」

「そういう事よ……攻撃魔法はちゃんと習ったんだけど、部屋にこもって一人で練習とかばっかりしてたから、
いざという時に体が動かないのよね……」
「その内慣れますよ、ルイーザさん」
「そうだといいんだけど、それとあたしには、敬称も敬語はいらないわよ」

俺はルイーザの言葉に頷いた。
「わかったわ、ルイーザ」
そうしている内に雨が降り始めた。
俺達は一旦、作業の手を止めると、沼地の近くにある小屋に入った。
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