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第二話っ、引きこもりの田代と俺っ!ヒャッハー! その11

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鈴木の言葉に田代が他人事のように笑っていた。
おいおい、これまで好き勝手してきたお前が笑える話かよ?

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熟しすぎて妙に甘たるくなったメロンの種を吐きながら、一つ首を回す。
俺は店の留守番をしていた。
暇だから俺は店に持ち込んだ本を読んでいた。
俺がどんな本を読んでるのか、気になるか?
別に小難しい内容の本じゃないぜ。

俺が今読んでるのはグリム童話さ。
結構面白いぞ。
子供向きの本だって?でも、中々含蓄がある話も多いぜ。

さて、そろそろ爺さんも戻ってくる頃だな、そんな事を考えていると店に客が飛び込んできた。
客は黒いローブを羽織った少女で年齢は十代半ばほどに見える。
幼さを残してはいるが、綺麗な顔立ちをしていた。

「あの、ここにビッグヒキガエルの油が置いてあると聞いたんだけど」
と、少女が俺に訪ねてきた。

「それなら今、ちょっと在庫が切れてしまっています、申し訳ありません……」
俺は申し訳なさそうな顔を作って頭を下げた。
「そう……」
俺の言葉に少女はとても残念そうな表情を浮かべた。

ちなみにビッグヒキガエルの油というのはセンソのことだ。
センソには様々な使い道がある。
局所麻酔や止血に使ったり、あとは強心効果もある。
それとトリップ用の幻覚剤にもな。

ビッグヒキガエルのセンソはかなり強くて、地球上にあるセンソの何百倍も高い作用を示すぜ。
錬金術師や魔術師達にも人気の高い商品で、爺さんと俺の店でも取り扱っているよ。
というよりも今朝も常連の錬金術師が在庫を一つ残らず買っていったからな。

多分、媚薬の原料に使うつもりなんだろうな。
モルヒネと混ざたり、他の薬と組み合わせたり、レシピは色々あるけど、
あの錬金術師の作る媚薬は評判が良いんだ。

「あと、十日ほどお待ち頂けるなら、新しく入荷して来ると思いますので、予約していかれますか?」
俺は少女に尋ねた。
そんな少女が瞳を潤ませながら「それじゃあ、間に合わないのよ……」と涙声で訴えてくる。
俺は口に手を当てながら、言った。

「それだとビッグヒキガエルを自分で狩ってくるしか、方法はありませんね。
この街からなら、徒歩で半日ほど掛かりますけど、ビッグヒキガエルの生息する沼地がありますよ。
ただ、途中で盗賊やモンスターに遭遇したりもしますから、護衛を連れて行かないと危険だと思いますが。
それか、冒険者ギルドに依頼をするとか。まあ、それだと割高になっちゃうかもしれませんが」

大量にビッグヒキガエルの油が必要ならともかく、個人で使う程度なら普通に買った方が安くて済む。
一匹分を集めようが、百匹分を集めようが、道中にかかる最低限の護衛料やギルドでの依頼料は同じだからだ。
つまり、最低限のコストはかかる。

「うーん……」
「それにこの店以外にもビッグヒキガエルの油を取り扱っている店はありますよ。
他の店にはもう行かれましたか?」
俺の言葉に少女が頷いた。

「他のお店もどこも在庫切れって言われたわ……」
誰かがセンソを大量に買い占めてるってことか?
そこで、店のドアについた鐘が鳴り響き、マッコイ爺さんがひょこっと顔を出す。
「おや、新しいお客さんかな?」

俺は爺さんに事の次第を話した。
「それだったら、知り合いの錬金術師がまだ持ってるかもしれんし、
訳を話せば分けてくれるかもしれんぞ」

少女が爺さんの言葉に目を輝かせる。
それから俺は心当たりのある錬金術師の家に行き、少しでいいから油を分けてくれと頼んだ。
だが、錬金術師──ボブの奴は既に材料をすべて錬金釜に放り込んだあとで、
奴は申し訳なさそうな顔をして俺に謝った。
いや、こっちこそ無理を言って悪かったよ、ボブ。

58

そんな事があって、俺たちは今、沼地へと向かっている。
黒いローブの少女──ルイーザが水筒の水を飲みながら切り株に座って一息ついている。
ルイーザは見習い魔術師で、魔法実験の試薬にどうしてもすぐにセンソが必要だとのことだった。

それだったら、もっと早く買っておくべきだと他人は言うかもしれないが、
どうやらルイーザは材料のことを失念していたようだった。
まあ、人間なんだからこういうミスくらいは起こすだろうさ。

コイツが少し間抜けなのかもしれないけどな。
それから再び、山麓から沼へと続く道を歩いていく。
なんで俺も一緒にいるんだって?

もしかしたら、新しい客になってくれるかもしれないからさ。
それにここで貸しを作っておけば、生成したアイテムを安く卸してくれるようになるかもしれないしな。
見習い魔術師のルイーザには金がないんだ。
金欠ルイーザには、まともに護衛を雇う銭がないってわけさ。

そういうわけだから、俺、ルイーザ、
それと元孤児の駆け出し戦士をやってるゴインズの三人で沼地に向かうことになった。

ちなみに駆け出しとはいっても、ゴインズはサモスから武器の使い方を仕込まれているし、
チャールズから習った治癒魔法と神聖魔法を少しだが扱える。
だから舐めてかかると痛い目を見ることになるだろうよ。

ルイーザが泥濘を踏まないように避けて通る。
さっきの通り雨で出来た泥濘だ。山の天気は変わりやすいからな。
それから少しして、ようやく沼地が見えてきた。
ここまでモンスターとも遭遇していない。

ルイーザが喜びながら沼の方へと駆け出していった。
俺とゴインズの沼地に不用意に近づくなと、制止する声もルイーザには聞こえてはいないようだ。
何かが沼地からガバッと飛び出してきた。
それはビッグヒキガエルを餌にしている巨大な毒蛇だった。
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