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第九章 水没した世界
八十六話 マールの憂鬱
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マールが両親に会えると期待していた応接室にはルーリンという女性が待機していた。
「待って!行くってどこに行くの?それだけじゃ納得できないよ」
「納得するもしないも関係ありません、これから貴方を州知事宅へ連れて行きます。」
「じゃあ、ルガさんたちも一緒に…」
「ダメです」
「どうして!」
「なぜならオクト州知事にそう申し付けられているからです、さぁ行きますよ」
するとルーリンは早速マールを船のような乗り物にに乗せてある場所へ向かう。
「待って!せめてルガ兄たちにも会って話してよ」
「無理です、あの方々はもうおかえりになられました」
「えっ…」
するとマールは急いで応接室に戻り、廊下へ出るドアを開ける。そこにはずっと待っといてくれていると思っていた者たちがいなかった。
その悲しみと寂しさから涙袋から涙が溢れ出てきた。その後、マールはルーリンに手を引かれて連れて行かれてしまった。
一方でルガたちは、館内の係の者に促され州庁を出ていた。
「なんだったんだあいつ」
「しょうがねぇだろ、そう言われたんだから」
「じゃあジョセフはしょうがないの一言だけで済ませるの?」
「納得がいってないのはみんな一緒ですよ、ジョセフさんを責めないであげてください」
「ルガはどうなのさ、こんなの、おかしくないか?」
「たしかに、」
そして再びマールとルーリンの二人はシャボン玉のような者でできた船に乗り、オクト州知事の元へ向かっていた。
マールはついさっき起こった出来事に悲観し落ち込んでいる。透明なシャボン玉の中からはいろんな景色が見えた。
太陽に照らされて海底の風景はとても華やかに目に映る。サンゴ礁や白い砂、海藻に数多くの魚など。竜宮城の庭はきっとこんな感じなんだろうというようなとても綺麗な風景。
しかし、マールはこのような息を呑む絶景をしかめっ面で眺めていた。
「マール様、オクト州知事のおられるオクト州までは丸一日かかります。ですので途中でパーキングエリアに止まって食事をしたり、ホテルで宿泊をするので、到着は明日の昼くらいの予定です」
「ええ、そう」
そっぽを向いて返事をする彼女にいささか腹を立てる。
この時は二人とも、このまま何事もなくオクト州に付きそのままことを終えると思っていたが、そんなことはなかった。
ルーリンはもうしばらく船を走らせていると、後方から数台の船が近づいて来る。船は全部で三台あり、そのほとんどが遮光されていて中の様子が見られなくなっている。三台の船は次第にマールたちの乗る船に近づいていき、マールたちの乗る船を囲むように並走する。
そんな怪しい船が近づいてきているのにも関わらずルーリンは我関せずといった感じで黙々と船を運転していた。
しかし、不意に事件はやってくるものだった。右隣に並んだ船の中から男の人がこちらに飛び乗ってくる。男はこの船に乗り込むと真っ先にマールを人質にして、ルーリンに船を停めるよう指示した。
「女、今すぐ船を停めろ、俺の命令に従え」
男はルーリンに向かって命令するも、彼女を締め上げるには一筋縄ではいかなかった。
「オイ、お前の上にあるそれは何だ?」
「うえ?」
もちろん上に何かがあるはずもなく、男が上を向いている隙にルーリンは触手で男の頭部を殴り飛ばす。
「えっ?」ドゴォッ
男の体は見事に宙を舞い船の後ろの方へぶっ飛んだ。男が顎を押さえてもがき苦しんでいるところをルーリンはマールを取り返しに行った。
「何ですか⁉︎急に…!」
「大丈夫です、お嬢様もうしばらく時間はかかりますがこいつをちゃんと追い出します」
ルーリンがそう言ってマールの元から離れた途端、また別の船から別の男たちが乗り込んできては、マールとルーリンを取り押さえる。
「キャッ!」
「イヤッ」
複数人男に捕まった二人は床に押さえ込まれる。殴り飛ばされた男が起き上がり、二人の元へ近づいて来る。
「クソッ!この女が調子乗ってんじゃねぇぞ!」
男は愚痴をこぼしながらルーリンの頭を踏みつける。
「クゥッ…」
「ルーリンさん!」
「やめろ、いくらターゲットじゃないと言え、別の星だったら高値で売れるんだ、傷つけるんじゃねえ」
「チッ…へいへい」
そいつは舌打ちしながら操縦席に座り目的地を変えて走行する。
取り押さえられたマールとルーリンはもがいて抜け出そうとするが、取り押さえているのは男でしかも一人につき二人がかりで押さえつけているため、びくともしない。
「コイツは見た目がいいなぁ、ターゲットじゃなかったら一発やりたいところだぜ」
マールはその言葉の意味をすぐに理解した。すると、恐怖心が込み上げてきて泣き、助けを求めようと叫ぶ。
「イヤ、イヤッ助けて!」
「やめろ!喋るな!余計興奮して来るだろ…。」
「ヒイッ」
「いけません、お嬢様!コイツらに耳を貸してはだめです」
「お前ら、目的地まであと10分で着く。この船ごと宇宙船に乗るから、その二匹はここで縛って外にバレないようこの船の中に閉じ込めておけ」
「そして、AA12526に着いたら俺たちの仕事は終わりだ」
「ダブルエー?いちにいごーにいろく?」
マールが誘拐犯の言っていた呪文を復唱していると、再び誘拐犯にさらなる恐怖を突きつけられる。
「これから別の海流に乗って宇宙船のある所まで行く。これでもう、俺たちの勝ちだ」
しかし、この次誘拐犯の望みは崩れ、マールの願いが叶った。マールは誘拐犯の押さえつけられる手の中で絶望していると、急に自分を押さえつけるものがなくなり、体が軽くなった。
なぜかと思い、体を起こしあたりを見回すと、そこにはさっきまで一緒にいたルガやその仲間たちの姿があった。
誘拐犯の男たちはジョセフによって吹っ飛ばされ、船の後方に追い詰められる。
「何だ?コイツらはどっから入ってきた?」
「悪いな、お前らにはないだろうけど、俺たちには瞬間移動というとっても便利な移動手段があるんだ」
「一旦逃げるぞ、船から出ろ!」
「させるかよ!」
その瞬間、ジョセフとエフィは誘拐犯たちに向かって縄を投げて捕まえる。誘拐犯たちはあっという間にお縄につき、海流を降りた先で待機させていた警察に身柄を預けた。
ルガたちが登場してからこれまでずっと、マールは感極まって泣き出した。しばらくして警察が去っていく頃に泣き止んだ。
「…うっうぅぅ…」グスン
少し落ち着いてから、ルーリンは今まで何事もなかったかのように。
「ところで、どうして私たちが誘拐犯に襲われているってわかったのですか?」
「そんなの、簡単さ外からマールが乗っている船が襲われているのが見えたんだよ」
そうしてルガが表向きの事情を説明していると、裏でロスたちが。
「本当はマールのことが気になるから、ずっと念視で見てたくせに」ボソッ
「ってか、こんなところで油売ってていいのかよ、早く行こうぜ」
そうしてルガたちは今までマールたちが乗っていた船とは別の船を使い、再び目的地のオクト州へ向かう。
それから1時間とも経たないくらいで一行はオクト州へ着いた。
船の中から外を見渡すようにルーリンは。
「つきました、ここがオクト州です。」
そこは、今まで綺麗な景色や街並みを見てきた彼らにとっては別の意味で圧倒された。それは、海の中なんて所詮こんなものかと、言いたくなるような寂しい風景だった。
そう、ここは海底でさっきまでタートル州のような浅瀬とは違い、太陽の光が遮られるような場所、それがオクト州である。
「暗いな、」
「やっぱり、海底まで来ると流石に暗くなるよな」
そうやって海底が自分たちの期待していたようなところでないと知ったみんなはため息をついて嘆いていた。
だが、ルーリンはそんなルガたちにあるものを渡そうとする。
「失礼しました、皆様は地上出身の方々。暗い海底では周りの景色が見えないのも当然でしたね」
「なんだよ、嫌味か?」
「いいえ、皆様にはこちらをお渡しいたします」
ルーリンはサングラスのようなものを持ってきて、ルガたち全員に渡す。
「ムーングラス!」
ルガは彼女の持って来るものに納得していた。
「ムーングラス?」
「その通りです、よくご存知ですね」
「サングラスの逆で暗いところを見るためのメガネだ」
「はい、ですがムーングラスというのは昔の言い方で今ではほとんどの人たちが採光眼鏡と呼んでいます」
「とりあえずつけてみろよ、大体のものは見えるようになるから」
そう言われてジョセフたちは眼鏡を装着する。すると今度はルーリンに。
「ではあちらをご覧ください」
と言われるかままに視線を向ける。そこには彼らが期待するような美しい風景が並んでいると思いきや、そうでもなかった。目の前に映るのは大きな岩と、そこに空いた無数の穴だった。
「…」
「ちなみにあそこは私の実家です」
ロスたちはさらに文句を言いづらくなった。
「それともう一つ、ここはオクト州でも田舎の方なのでもっと州庁付近の街に行けば皆様も見慣れたような街並みがありますので、ご安心を」
その言葉にホッとした一同は、早々と再出発する。
そして州庁付近の街に着いた途端、一同は騒ぎ出した。
「スゲェ‼︎城がある!」
「街も綺麗!」
「これとさっきのところが同じ瞬間だとは思えない」
「これじゃあまるで空き地と都じゃねえか」
「空き地と都…」
「言い過ぎだ」
「とっ、とりあえず州庁まで行こうか…そこに行けばマールの両親に会えるんでしょ?」
「それはわかりません」
「わからない?何でだ」
「マール様のお父様はこのオクト州の州知事です。仕事はもちろん、外交との交流、そして次期領主選挙戦などと忙しい日々を過ごしているのです」
「でも、娘と会うためなら少しぐらい時間を割いてやってもいいんじゃ」
「貴方たちに何がわかるのですか、彼の方は州のため、街のためと多忙な毎日を過ごしているのです少しは理解してください。」
「わかった…今はお父さんに会えなくてもいい」
「マールさん…」
「だって、待っていればそのうち会えるんでしょ」
「はい、いつになるかはわかりませんが、きっとお会いできると思います」
「それならいいじゃないか」
「それに、ここがイヤになったら惑星アンリに帰ればいい。ここよりもそっちの星の暮らしに慣れているだろうから」
「そうですね」
「それじゃあ最後にオクトって奴の顔を見せてよ」
「かしこまりました」
ルーリンは触手に抱えたタブレットにある男の顔を映し出し全員に見せる。
「へぇ、なかなかかっこいいじゃん」
「これが私のお父さん…」
「以外…」
そこには似ても似つかない凛々しい男の顔が写っていた。
「全然似てないな」
「フフッ…確かにそうですね」
「確かに、私もマール様はお母様に似ていると思います」
「本当?」
「ええ、そしてこちらが…」
などと雑談をしている間に、迎えが来てしまった。
「ルゥゥリン」
怪獣の咆哮のような大きな声と巨大な影と共に現れたのは、まさに怪獣だった。この声にほとんどの者がうろたえる中、ルガとルーリンだけが上を向いていた。
「何?何?」
「何だ、変な声がするぞ」
「それに今、ルーリンって…」
「思ったよりも早く会えたようだな」
「皆様、視線を上に向けてください」
そこにはさっきまで見ていた凛々しい男の顔をしたマールと同じような姿の怪物がいる。
「彼がオクト州の州知事、クラーケン・オクトです」
「待って!行くってどこに行くの?それだけじゃ納得できないよ」
「納得するもしないも関係ありません、これから貴方を州知事宅へ連れて行きます。」
「じゃあ、ルガさんたちも一緒に…」
「ダメです」
「どうして!」
「なぜならオクト州知事にそう申し付けられているからです、さぁ行きますよ」
するとルーリンは早速マールを船のような乗り物にに乗せてある場所へ向かう。
「待って!せめてルガ兄たちにも会って話してよ」
「無理です、あの方々はもうおかえりになられました」
「えっ…」
するとマールは急いで応接室に戻り、廊下へ出るドアを開ける。そこにはずっと待っといてくれていると思っていた者たちがいなかった。
その悲しみと寂しさから涙袋から涙が溢れ出てきた。その後、マールはルーリンに手を引かれて連れて行かれてしまった。
一方でルガたちは、館内の係の者に促され州庁を出ていた。
「なんだったんだあいつ」
「しょうがねぇだろ、そう言われたんだから」
「じゃあジョセフはしょうがないの一言だけで済ませるの?」
「納得がいってないのはみんな一緒ですよ、ジョセフさんを責めないであげてください」
「ルガはどうなのさ、こんなの、おかしくないか?」
「たしかに、」
そして再びマールとルーリンの二人はシャボン玉のような者でできた船に乗り、オクト州知事の元へ向かっていた。
マールはついさっき起こった出来事に悲観し落ち込んでいる。透明なシャボン玉の中からはいろんな景色が見えた。
太陽に照らされて海底の風景はとても華やかに目に映る。サンゴ礁や白い砂、海藻に数多くの魚など。竜宮城の庭はきっとこんな感じなんだろうというようなとても綺麗な風景。
しかし、マールはこのような息を呑む絶景をしかめっ面で眺めていた。
「マール様、オクト州知事のおられるオクト州までは丸一日かかります。ですので途中でパーキングエリアに止まって食事をしたり、ホテルで宿泊をするので、到着は明日の昼くらいの予定です」
「ええ、そう」
そっぽを向いて返事をする彼女にいささか腹を立てる。
この時は二人とも、このまま何事もなくオクト州に付きそのままことを終えると思っていたが、そんなことはなかった。
ルーリンはもうしばらく船を走らせていると、後方から数台の船が近づいて来る。船は全部で三台あり、そのほとんどが遮光されていて中の様子が見られなくなっている。三台の船は次第にマールたちの乗る船に近づいていき、マールたちの乗る船を囲むように並走する。
そんな怪しい船が近づいてきているのにも関わらずルーリンは我関せずといった感じで黙々と船を運転していた。
しかし、不意に事件はやってくるものだった。右隣に並んだ船の中から男の人がこちらに飛び乗ってくる。男はこの船に乗り込むと真っ先にマールを人質にして、ルーリンに船を停めるよう指示した。
「女、今すぐ船を停めろ、俺の命令に従え」
男はルーリンに向かって命令するも、彼女を締め上げるには一筋縄ではいかなかった。
「オイ、お前の上にあるそれは何だ?」
「うえ?」
もちろん上に何かがあるはずもなく、男が上を向いている隙にルーリンは触手で男の頭部を殴り飛ばす。
「えっ?」ドゴォッ
男の体は見事に宙を舞い船の後ろの方へぶっ飛んだ。男が顎を押さえてもがき苦しんでいるところをルーリンはマールを取り返しに行った。
「何ですか⁉︎急に…!」
「大丈夫です、お嬢様もうしばらく時間はかかりますがこいつをちゃんと追い出します」
ルーリンがそう言ってマールの元から離れた途端、また別の船から別の男たちが乗り込んできては、マールとルーリンを取り押さえる。
「キャッ!」
「イヤッ」
複数人男に捕まった二人は床に押さえ込まれる。殴り飛ばされた男が起き上がり、二人の元へ近づいて来る。
「クソッ!この女が調子乗ってんじゃねぇぞ!」
男は愚痴をこぼしながらルーリンの頭を踏みつける。
「クゥッ…」
「ルーリンさん!」
「やめろ、いくらターゲットじゃないと言え、別の星だったら高値で売れるんだ、傷つけるんじゃねえ」
「チッ…へいへい」
そいつは舌打ちしながら操縦席に座り目的地を変えて走行する。
取り押さえられたマールとルーリンはもがいて抜け出そうとするが、取り押さえているのは男でしかも一人につき二人がかりで押さえつけているため、びくともしない。
「コイツは見た目がいいなぁ、ターゲットじゃなかったら一発やりたいところだぜ」
マールはその言葉の意味をすぐに理解した。すると、恐怖心が込み上げてきて泣き、助けを求めようと叫ぶ。
「イヤ、イヤッ助けて!」
「やめろ!喋るな!余計興奮して来るだろ…。」
「ヒイッ」
「いけません、お嬢様!コイツらに耳を貸してはだめです」
「お前ら、目的地まであと10分で着く。この船ごと宇宙船に乗るから、その二匹はここで縛って外にバレないようこの船の中に閉じ込めておけ」
「そして、AA12526に着いたら俺たちの仕事は終わりだ」
「ダブルエー?いちにいごーにいろく?」
マールが誘拐犯の言っていた呪文を復唱していると、再び誘拐犯にさらなる恐怖を突きつけられる。
「これから別の海流に乗って宇宙船のある所まで行く。これでもう、俺たちの勝ちだ」
しかし、この次誘拐犯の望みは崩れ、マールの願いが叶った。マールは誘拐犯の押さえつけられる手の中で絶望していると、急に自分を押さえつけるものがなくなり、体が軽くなった。
なぜかと思い、体を起こしあたりを見回すと、そこにはさっきまで一緒にいたルガやその仲間たちの姿があった。
誘拐犯の男たちはジョセフによって吹っ飛ばされ、船の後方に追い詰められる。
「何だ?コイツらはどっから入ってきた?」
「悪いな、お前らにはないだろうけど、俺たちには瞬間移動というとっても便利な移動手段があるんだ」
「一旦逃げるぞ、船から出ろ!」
「させるかよ!」
その瞬間、ジョセフとエフィは誘拐犯たちに向かって縄を投げて捕まえる。誘拐犯たちはあっという間にお縄につき、海流を降りた先で待機させていた警察に身柄を預けた。
ルガたちが登場してからこれまでずっと、マールは感極まって泣き出した。しばらくして警察が去っていく頃に泣き止んだ。
「…うっうぅぅ…」グスン
少し落ち着いてから、ルーリンは今まで何事もなかったかのように。
「ところで、どうして私たちが誘拐犯に襲われているってわかったのですか?」
「そんなの、簡単さ外からマールが乗っている船が襲われているのが見えたんだよ」
そうしてルガが表向きの事情を説明していると、裏でロスたちが。
「本当はマールのことが気になるから、ずっと念視で見てたくせに」ボソッ
「ってか、こんなところで油売ってていいのかよ、早く行こうぜ」
そうしてルガたちは今までマールたちが乗っていた船とは別の船を使い、再び目的地のオクト州へ向かう。
それから1時間とも経たないくらいで一行はオクト州へ着いた。
船の中から外を見渡すようにルーリンは。
「つきました、ここがオクト州です。」
そこは、今まで綺麗な景色や街並みを見てきた彼らにとっては別の意味で圧倒された。それは、海の中なんて所詮こんなものかと、言いたくなるような寂しい風景だった。
そう、ここは海底でさっきまでタートル州のような浅瀬とは違い、太陽の光が遮られるような場所、それがオクト州である。
「暗いな、」
「やっぱり、海底まで来ると流石に暗くなるよな」
そうやって海底が自分たちの期待していたようなところでないと知ったみんなはため息をついて嘆いていた。
だが、ルーリンはそんなルガたちにあるものを渡そうとする。
「失礼しました、皆様は地上出身の方々。暗い海底では周りの景色が見えないのも当然でしたね」
「なんだよ、嫌味か?」
「いいえ、皆様にはこちらをお渡しいたします」
ルーリンはサングラスのようなものを持ってきて、ルガたち全員に渡す。
「ムーングラス!」
ルガは彼女の持って来るものに納得していた。
「ムーングラス?」
「その通りです、よくご存知ですね」
「サングラスの逆で暗いところを見るためのメガネだ」
「はい、ですがムーングラスというのは昔の言い方で今ではほとんどの人たちが採光眼鏡と呼んでいます」
「とりあえずつけてみろよ、大体のものは見えるようになるから」
そう言われてジョセフたちは眼鏡を装着する。すると今度はルーリンに。
「ではあちらをご覧ください」
と言われるかままに視線を向ける。そこには彼らが期待するような美しい風景が並んでいると思いきや、そうでもなかった。目の前に映るのは大きな岩と、そこに空いた無数の穴だった。
「…」
「ちなみにあそこは私の実家です」
ロスたちはさらに文句を言いづらくなった。
「それともう一つ、ここはオクト州でも田舎の方なのでもっと州庁付近の街に行けば皆様も見慣れたような街並みがありますので、ご安心を」
その言葉にホッとした一同は、早々と再出発する。
そして州庁付近の街に着いた途端、一同は騒ぎ出した。
「スゲェ‼︎城がある!」
「街も綺麗!」
「これとさっきのところが同じ瞬間だとは思えない」
「これじゃあまるで空き地と都じゃねえか」
「空き地と都…」
「言い過ぎだ」
「とっ、とりあえず州庁まで行こうか…そこに行けばマールの両親に会えるんでしょ?」
「それはわかりません」
「わからない?何でだ」
「マール様のお父様はこのオクト州の州知事です。仕事はもちろん、外交との交流、そして次期領主選挙戦などと忙しい日々を過ごしているのです」
「でも、娘と会うためなら少しぐらい時間を割いてやってもいいんじゃ」
「貴方たちに何がわかるのですか、彼の方は州のため、街のためと多忙な毎日を過ごしているのです少しは理解してください。」
「わかった…今はお父さんに会えなくてもいい」
「マールさん…」
「だって、待っていればそのうち会えるんでしょ」
「はい、いつになるかはわかりませんが、きっとお会いできると思います」
「それならいいじゃないか」
「それに、ここがイヤになったら惑星アンリに帰ればいい。ここよりもそっちの星の暮らしに慣れているだろうから」
「そうですね」
「それじゃあ最後にオクトって奴の顔を見せてよ」
「かしこまりました」
ルーリンは触手に抱えたタブレットにある男の顔を映し出し全員に見せる。
「へぇ、なかなかかっこいいじゃん」
「これが私のお父さん…」
「以外…」
そこには似ても似つかない凛々しい男の顔が写っていた。
「全然似てないな」
「フフッ…確かにそうですね」
「確かに、私もマール様はお母様に似ていると思います」
「本当?」
「ええ、そしてこちらが…」
などと雑談をしている間に、迎えが来てしまった。
「ルゥゥリン」
怪獣の咆哮のような大きな声と巨大な影と共に現れたのは、まさに怪獣だった。この声にほとんどの者がうろたえる中、ルガとルーリンだけが上を向いていた。
「何?何?」
「何だ、変な声がするぞ」
「それに今、ルーリンって…」
「思ったよりも早く会えたようだな」
「皆様、視線を上に向けてください」
そこにはさっきまで見ていた凛々しい男の顔をしたマールと同じような姿の怪物がいる。
「彼がオクト州の州知事、クラーケン・オクトです」
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