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第六章 平和の価値
五十一話 モッコ
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時は第三次世界大戦の最終決戦のさなかココドリロ王国は危険に晒されていた。
「女王陛下!報告です!何者かが海から王国に迫ってきております」
王国に残った衛兵が女王に伝言する。
なんだと「敵軍はミズ帝国か」
「わかりません、ですが無数の軍勢がこちらにむかってきています。敵船の数はおよそ十隻以上と思われます」
女王はうなずくと頭を抱えて長考した。
どうする。なぜだ、やはり兵を招集したのはこの国を落とすための罠だったのか。だが長々と考えている場合ではない。
女王は腹を括って言った。
「やむを得ん、私が出よう」
「今すぐに国民たちを峡谷に非難させたのち残っている兵士たちには悪いが私についてきてほしい。兵士達にはそう伝えてくれ」
「わかりました!」
するとその衛兵はその部屋を出ると城の窓から衛兵に向かって大声で伝えた。
「全衛兵に通達‼︎国民の避難を第一に優先し、全ての民の避難が終了次第、海岸へ向かい敵軍と応戦する」
この時、伝言役の衛兵は女王が応戦に加わることは伝えなかった。なぜなら本人に口止めされたからである。
その後、国は逃げ惑う人集で溢れかえった。幸いにも国民の非難はすぐに終わらせることができた。
そして迎えた決戦、女王が海岸に来ると海外で戦闘準備をしていた衛兵達に驚かれる。
「陛下、ここにいては危険です!国民と一緒に避難してください」
だが衛兵がなんと言おうと無駄でしかなかった。
「何を言うか、一国の最高位の責任者兼統率者である私が窮地に陥った祖国を救わずに一体何をしているのか、そして私は負けん。たとえ私が負けたとしてもそれは私が統率者の器ではなかったということが証明されるだけだ。その時はまた新たな統率者を決めてこの国を任せればいい」
女王はそう明言し、獣人の姿に返信した。女性は元から背が高く筋力だけでなく腕や尻尾のリーチが長いため、とても強力で頼りになる存在だった。
そして決戦の火蓋は切られた。初めに攻撃してきたのは敵軍の方でありたい方が放たれた。砲弾は着弾すると同時に強い衝撃を生み出し広範囲の兵士達を吹き飛ばした。
それに対しココドリロ王国軍も投石や先日の海岸での迎撃戦で余った槍を使った槍投げなどをして戦った。
しかし、敵の船が岸につくと戦況は一気に劣勢へと変化していった。
敵軍は剣や魔法その他の武器はもちろん、そのほかにも敵軍の使用しているテツハウという爆弾のせいでココドリロ王国軍は一気に押されていった。
「まずい!退かねばやられてしまう」
「退くな‼︎ここで退いてしまっては国民が危険に晒されるだけだ!頑張って持ちこたえろ」
弱音を吐く衛兵に別の衛兵が喝を入れた。
「クソッこんな時にあの兵士たちがいてくれれば」
また別の衛兵が呟く。
「口じゃなくて手を動かせ!」
彼女たちはそうやって互いに言い合っていた。
すると二、三隻目と次々と船が着岸し、敵兵がどんどん攻めてくる。その奥にも七隻の船が迫ってきており、彼女たちは窮地に立たされていた。しかし、幸運というのは意外なところから来るものである。
次の瞬間、右の沿岸からすでに着岸している三隻の船に光の斬撃のようなものが飛んできた。その斬撃は一瞬のうちに三隻の船とまだ船に乗っていた敵兵たちを散り散りに消し去った。彼女達はその光景に衝撃を受け斬撃の飛んできた方に目を向けると彼女達のよく知る人物に似た人物が立っていた。
「あれってルガさんじゃないか」
「でもそれにしては少し違うくないか?」
そこに立っている人物はボロボロで茶色く薄汚れた布をフードのように被り下を向いて顔を隠している。それだけでなくそいつの右足の太ももの中間あたりから義足がついている。
ココドリロ王国の女王はその姿を見るなり息をのんだ。
「あの者は…まさか」
するとそいつはすぐにこちらへやってくると、驚嘆する彼女達に指示を出す。
「船はまだ七隻ある、槍を投げる娘達は横に並んで、バラバラじゃなくて一斉に投げるんだ。そして剣を持ってる娘達は沈んだ船に乗ってた敵兵を岸にあがらせないために海に入って備えて」
このガラガラとした声を聞く限りすぐに男だとわかったが彼女達は今初めて出会った彼を疑うことなく指示を聞き入れ衛兵達はすぐ行動に移した。
はい‼︎
その後彼の指示と彼女達の頑張りによってこの戦いに優勢に立つことができた。ココドリロ王国軍は他の六隻の船を潰し敵船が残り一隻になると、それ以上攻撃してくることなくなり敵船は引き返そうとしていた。
「まずい!逃げられる、誰かこの中に魔力を持っている奴はいないか!このままだと敵軍が仲間を連れてまたやってくる可能性がある」
彼はそう言って周りの衛兵達に魔力供給を求める。すると衛兵の中からルガの訓練を受けた者たちが集まってきた。
「私少しなら訓練しました」
一人の衛兵に続いて他の衛兵も恐る恐る挙手して前に出てくる。
彼は剣を上に掲げて言った。
「ありがとう、さすがは私の娘の部下だ」
インスティンクション
その呪文を唱え両手で力強く剣を振ると、さっきと同じような光の斬撃が飛び出し船を木っ端微塵に吹っ飛ばした。
彼の後ろには歓喜を挙げる衛兵達がいる。しかし彼がその声に気づくことはなく、ボーっと目の前の海を眺めていた。
その頃、ルガのいる戦場では暗黒で邪悪な大竜巻が戦場の兵士たちを襲っていた。
「退け!退け!あの渦に巻き込まれると死ぬぞ‼︎」
戦場にいる一人の戦士がそう言っていた。
また別の兵士は、悲鳴と風が空を切る音の鳴る戦場の中をわき目も振らず一心不乱に逃走している。そいつがどの方向を向いても、あの頼もしい六人の戦士はどこにも見当たらなかった。
それでも目の前の強敵に抗うのは少なからずこの戦場にいた。青髪の彼女は自分の率いる隊の者たちが皆逃げ出そうとも彼女だけは逃げずに剣を構えていた。
いったいなぜこんなことになったのか、話は少し前に遡る。
終戦を宣言したミズ帝国の皇帝とオストノルレ連合軍代表及びルゲン王国の国王は一時的な協定を組み目の前にいる真の敵モッコ率いるコーゼン王国軍を討ち取ろうとしていた。
「クソがぁ!貴様さえいなければ計画はもっとうまく進んだはずなのに」
するとモッコは胸ポケットから透明な瓶に入った黒い液体を出した。その液体は魔力濃度が高く魔学に縁がない者にも視認できるほどのオーラを放っていた。
モッコはその液体を飲み干し、しばらくしてからその効果が現れた。モッコの周りに黒色の竜巻のようなものがモッコを中心に発生した。
「奴はあの中にいるぞ!突撃だぁ‼︎」
「やめろ‼︎迂闊に手を出すな…」
しかし、その言葉を聞き入れることなく兵士たちは黒い竜巻目掛けて突撃する。そして兵士たちは恐怖し悲鳴をあげる。
「うわああああああああ‼︎」
竜巻に触れた部分から砂粒となり徐々に体が崩れていく。兵士たちは退がれ、助けて、竜巻に触れるな、などと周囲に声をかける。
それに、災難はこれだけでなくモッコの手下達がテツハウを投げて攻撃を仕掛ける。
「あともう少しだ!」
「隊長に続け!」
すると黒い竜巻も少しずつ動き出し周囲にいる兵士を侵食し始める。
「逃げろ!」
「陛下、お逃げください。奴はあまりにも危険です」
「ならん、ここでケジメをつけなければならない。それが無理だというのなら我は頂点に立つ者として全てを捨てる」
こうしている間にもモッコはどんどん兵士たちを侵食していき少しずつ大きくなっていく。
「これでは奴を狙えん、誰かが中に入って直接奴を討ち取るしかない」
ラグナルがそう言うと二人の男が名乗り出た。
「「我が行こう」」
そう言って前に出てきたのはヴィシチェとクヌートだった。二人は剣を掲げて軍勢に向かって明言する。
「勇気あるものは皆ついてまいれ!我々がこれから行うのは戦争ではなく責務をまっとうすることである」
「これは我々のただのわがままでありそなたらにとってはなんの益にもならない。しかし、祖国を守りたいと言う願いがあれば我々についてきてほしい。以上だ」
するとクヌートは隣にいるラグナルとアスケラーデンに言った。
「お主たちに吾輩からの最後の願いを聞き入れてくれぬか」
「はい、何なりとお申し付けください」
ラグナルとアスケラーデンの二人は片膝をついて頭を下げる。
「そうか、ではお主らにはここに残って我らの行く末を見届けてほしい」
この言動にアスケラーデンは驚きを隠せずにいたがラグナルに止められ返答するのをやめた。ヴィシチェも同じように部下を残して恐らく最期になるであろう別れを告げた。そして二人は大勢の兵士を連れてモッコがいると思われる竜巻を取り囲む。この頃になると竜巻はまた成長しており、黒い竜巻はさらに大きくなっていた。
その化け物を前にたった今協定を結んだミズ帝国とオストノルレ連合の兵士達はとても勇ましい姿に見えた。特に最前にいる指揮者の向ける背中はとても大きかった。
進めえええええ‼︎
オオオオオオオオ‼︎
この合図が聞こえると全ての兵は走り出した。彼らは強敵を前に勇敢に戦った。たとえそれが凄惨であり、何も残さず無意味に散っていったとしても。
その頃、この戦争の最終決戦の地にて、両軍がその場で一時的な協定を結び、敵をお互いの敵国からモッコとその部下達に変えて共闘をしていた。そして黒い竜巻となったモッコを倒すべくほとんどの兵士がモッコに向かって戦いを挑む。その中にはスヴィエートもいた。
彼女もまた一隊のリーダーであり、ヴィシチェやクヌートのようにならい隊員の答えを聞いた上で兵士を鼓舞しモッコと戦った。しかし、相手はモッコだけでなくその部下である兵士達もまた敵であり、今までと同様にテツハウを投げたり剣を振るったりなどして戦っていた。
戦場はますます荒れてきておりだんだん減っていく兵士の人数、竜巻に吸い込まれていく兵士たち、それでも諦めずに戦い続ける両軍の兵士たち。そして、自分なりの行動で周囲に我を知らしめるスヴィエート。
しかし、その彼女の戦いも長く続くものではなかった。
「あともう少しだ!食いしばれ!」
剣を交えて戦っている中、仲間の悲鳴を聞きついついよそ見をしてしまう。スヴィエートが敵を切り捨てて倒したあと、ほんの少しの余裕を生みまたよそ見をすると頭に硬く熱いものが直撃した。
それは一瞬の出来事だった。スヴィエートは膝から落ちると同時に周囲の音が聞こえなくなった。周りの兵士はこっちを見て顔を青ざめているが、なんて言っているのか全く聞き取れなかった。
頭の後ろの方から頬にかけて生暖かい水のようなものが一直線にゆっくりと流れていく。それと同時に目の前が暗くなり始め意識が朦朧とする。さらに体が寒くなり体全体の力が抜けていく。
彼女はこの出来事がなんなのかをすぐに察した。だがあえて考えないようにしていた。なぜならこのまま目を瞑ってしまうと自分の好きな彼との約束を破ってしまうからである。
しかし彼女の目の前は暗闇に閉ざされ、口元で微かに感じていた風が止んだ。一定のリズムを刻んでいた音も消えてスヴィエートは目を閉じた。
「女王陛下!報告です!何者かが海から王国に迫ってきております」
王国に残った衛兵が女王に伝言する。
なんだと「敵軍はミズ帝国か」
「わかりません、ですが無数の軍勢がこちらにむかってきています。敵船の数はおよそ十隻以上と思われます」
女王はうなずくと頭を抱えて長考した。
どうする。なぜだ、やはり兵を招集したのはこの国を落とすための罠だったのか。だが長々と考えている場合ではない。
女王は腹を括って言った。
「やむを得ん、私が出よう」
「今すぐに国民たちを峡谷に非難させたのち残っている兵士たちには悪いが私についてきてほしい。兵士達にはそう伝えてくれ」
「わかりました!」
するとその衛兵はその部屋を出ると城の窓から衛兵に向かって大声で伝えた。
「全衛兵に通達‼︎国民の避難を第一に優先し、全ての民の避難が終了次第、海岸へ向かい敵軍と応戦する」
この時、伝言役の衛兵は女王が応戦に加わることは伝えなかった。なぜなら本人に口止めされたからである。
その後、国は逃げ惑う人集で溢れかえった。幸いにも国民の非難はすぐに終わらせることができた。
そして迎えた決戦、女王が海岸に来ると海外で戦闘準備をしていた衛兵達に驚かれる。
「陛下、ここにいては危険です!国民と一緒に避難してください」
だが衛兵がなんと言おうと無駄でしかなかった。
「何を言うか、一国の最高位の責任者兼統率者である私が窮地に陥った祖国を救わずに一体何をしているのか、そして私は負けん。たとえ私が負けたとしてもそれは私が統率者の器ではなかったということが証明されるだけだ。その時はまた新たな統率者を決めてこの国を任せればいい」
女王はそう明言し、獣人の姿に返信した。女性は元から背が高く筋力だけでなく腕や尻尾のリーチが長いため、とても強力で頼りになる存在だった。
そして決戦の火蓋は切られた。初めに攻撃してきたのは敵軍の方でありたい方が放たれた。砲弾は着弾すると同時に強い衝撃を生み出し広範囲の兵士達を吹き飛ばした。
それに対しココドリロ王国軍も投石や先日の海岸での迎撃戦で余った槍を使った槍投げなどをして戦った。
しかし、敵の船が岸につくと戦況は一気に劣勢へと変化していった。
敵軍は剣や魔法その他の武器はもちろん、そのほかにも敵軍の使用しているテツハウという爆弾のせいでココドリロ王国軍は一気に押されていった。
「まずい!退かねばやられてしまう」
「退くな‼︎ここで退いてしまっては国民が危険に晒されるだけだ!頑張って持ちこたえろ」
弱音を吐く衛兵に別の衛兵が喝を入れた。
「クソッこんな時にあの兵士たちがいてくれれば」
また別の衛兵が呟く。
「口じゃなくて手を動かせ!」
彼女たちはそうやって互いに言い合っていた。
すると二、三隻目と次々と船が着岸し、敵兵がどんどん攻めてくる。その奥にも七隻の船が迫ってきており、彼女たちは窮地に立たされていた。しかし、幸運というのは意外なところから来るものである。
次の瞬間、右の沿岸からすでに着岸している三隻の船に光の斬撃のようなものが飛んできた。その斬撃は一瞬のうちに三隻の船とまだ船に乗っていた敵兵たちを散り散りに消し去った。彼女達はその光景に衝撃を受け斬撃の飛んできた方に目を向けると彼女達のよく知る人物に似た人物が立っていた。
「あれってルガさんじゃないか」
「でもそれにしては少し違うくないか?」
そこに立っている人物はボロボロで茶色く薄汚れた布をフードのように被り下を向いて顔を隠している。それだけでなくそいつの右足の太ももの中間あたりから義足がついている。
ココドリロ王国の女王はその姿を見るなり息をのんだ。
「あの者は…まさか」
するとそいつはすぐにこちらへやってくると、驚嘆する彼女達に指示を出す。
「船はまだ七隻ある、槍を投げる娘達は横に並んで、バラバラじゃなくて一斉に投げるんだ。そして剣を持ってる娘達は沈んだ船に乗ってた敵兵を岸にあがらせないために海に入って備えて」
このガラガラとした声を聞く限りすぐに男だとわかったが彼女達は今初めて出会った彼を疑うことなく指示を聞き入れ衛兵達はすぐ行動に移した。
はい‼︎
その後彼の指示と彼女達の頑張りによってこの戦いに優勢に立つことができた。ココドリロ王国軍は他の六隻の船を潰し敵船が残り一隻になると、それ以上攻撃してくることなくなり敵船は引き返そうとしていた。
「まずい!逃げられる、誰かこの中に魔力を持っている奴はいないか!このままだと敵軍が仲間を連れてまたやってくる可能性がある」
彼はそう言って周りの衛兵達に魔力供給を求める。すると衛兵の中からルガの訓練を受けた者たちが集まってきた。
「私少しなら訓練しました」
一人の衛兵に続いて他の衛兵も恐る恐る挙手して前に出てくる。
彼は剣を上に掲げて言った。
「ありがとう、さすがは私の娘の部下だ」
インスティンクション
その呪文を唱え両手で力強く剣を振ると、さっきと同じような光の斬撃が飛び出し船を木っ端微塵に吹っ飛ばした。
彼の後ろには歓喜を挙げる衛兵達がいる。しかし彼がその声に気づくことはなく、ボーっと目の前の海を眺めていた。
その頃、ルガのいる戦場では暗黒で邪悪な大竜巻が戦場の兵士たちを襲っていた。
「退け!退け!あの渦に巻き込まれると死ぬぞ‼︎」
戦場にいる一人の戦士がそう言っていた。
また別の兵士は、悲鳴と風が空を切る音の鳴る戦場の中をわき目も振らず一心不乱に逃走している。そいつがどの方向を向いても、あの頼もしい六人の戦士はどこにも見当たらなかった。
それでも目の前の強敵に抗うのは少なからずこの戦場にいた。青髪の彼女は自分の率いる隊の者たちが皆逃げ出そうとも彼女だけは逃げずに剣を構えていた。
いったいなぜこんなことになったのか、話は少し前に遡る。
終戦を宣言したミズ帝国の皇帝とオストノルレ連合軍代表及びルゲン王国の国王は一時的な協定を組み目の前にいる真の敵モッコ率いるコーゼン王国軍を討ち取ろうとしていた。
「クソがぁ!貴様さえいなければ計画はもっとうまく進んだはずなのに」
するとモッコは胸ポケットから透明な瓶に入った黒い液体を出した。その液体は魔力濃度が高く魔学に縁がない者にも視認できるほどのオーラを放っていた。
モッコはその液体を飲み干し、しばらくしてからその効果が現れた。モッコの周りに黒色の竜巻のようなものがモッコを中心に発生した。
「奴はあの中にいるぞ!突撃だぁ‼︎」
「やめろ‼︎迂闊に手を出すな…」
しかし、その言葉を聞き入れることなく兵士たちは黒い竜巻目掛けて突撃する。そして兵士たちは恐怖し悲鳴をあげる。
「うわああああああああ‼︎」
竜巻に触れた部分から砂粒となり徐々に体が崩れていく。兵士たちは退がれ、助けて、竜巻に触れるな、などと周囲に声をかける。
それに、災難はこれだけでなくモッコの手下達がテツハウを投げて攻撃を仕掛ける。
「あともう少しだ!」
「隊長に続け!」
すると黒い竜巻も少しずつ動き出し周囲にいる兵士を侵食し始める。
「逃げろ!」
「陛下、お逃げください。奴はあまりにも危険です」
「ならん、ここでケジメをつけなければならない。それが無理だというのなら我は頂点に立つ者として全てを捨てる」
こうしている間にもモッコはどんどん兵士たちを侵食していき少しずつ大きくなっていく。
「これでは奴を狙えん、誰かが中に入って直接奴を討ち取るしかない」
ラグナルがそう言うと二人の男が名乗り出た。
「「我が行こう」」
そう言って前に出てきたのはヴィシチェとクヌートだった。二人は剣を掲げて軍勢に向かって明言する。
「勇気あるものは皆ついてまいれ!我々がこれから行うのは戦争ではなく責務をまっとうすることである」
「これは我々のただのわがままでありそなたらにとってはなんの益にもならない。しかし、祖国を守りたいと言う願いがあれば我々についてきてほしい。以上だ」
するとクヌートは隣にいるラグナルとアスケラーデンに言った。
「お主たちに吾輩からの最後の願いを聞き入れてくれぬか」
「はい、何なりとお申し付けください」
ラグナルとアスケラーデンの二人は片膝をついて頭を下げる。
「そうか、ではお主らにはここに残って我らの行く末を見届けてほしい」
この言動にアスケラーデンは驚きを隠せずにいたがラグナルに止められ返答するのをやめた。ヴィシチェも同じように部下を残して恐らく最期になるであろう別れを告げた。そして二人は大勢の兵士を連れてモッコがいると思われる竜巻を取り囲む。この頃になると竜巻はまた成長しており、黒い竜巻はさらに大きくなっていた。
その化け物を前にたった今協定を結んだミズ帝国とオストノルレ連合の兵士達はとても勇ましい姿に見えた。特に最前にいる指揮者の向ける背中はとても大きかった。
進めえええええ‼︎
オオオオオオオオ‼︎
この合図が聞こえると全ての兵は走り出した。彼らは強敵を前に勇敢に戦った。たとえそれが凄惨であり、何も残さず無意味に散っていったとしても。
その頃、この戦争の最終決戦の地にて、両軍がその場で一時的な協定を結び、敵をお互いの敵国からモッコとその部下達に変えて共闘をしていた。そして黒い竜巻となったモッコを倒すべくほとんどの兵士がモッコに向かって戦いを挑む。その中にはスヴィエートもいた。
彼女もまた一隊のリーダーであり、ヴィシチェやクヌートのようにならい隊員の答えを聞いた上で兵士を鼓舞しモッコと戦った。しかし、相手はモッコだけでなくその部下である兵士達もまた敵であり、今までと同様にテツハウを投げたり剣を振るったりなどして戦っていた。
戦場はますます荒れてきておりだんだん減っていく兵士の人数、竜巻に吸い込まれていく兵士たち、それでも諦めずに戦い続ける両軍の兵士たち。そして、自分なりの行動で周囲に我を知らしめるスヴィエート。
しかし、その彼女の戦いも長く続くものではなかった。
「あともう少しだ!食いしばれ!」
剣を交えて戦っている中、仲間の悲鳴を聞きついついよそ見をしてしまう。スヴィエートが敵を切り捨てて倒したあと、ほんの少しの余裕を生みまたよそ見をすると頭に硬く熱いものが直撃した。
それは一瞬の出来事だった。スヴィエートは膝から落ちると同時に周囲の音が聞こえなくなった。周りの兵士はこっちを見て顔を青ざめているが、なんて言っているのか全く聞き取れなかった。
頭の後ろの方から頬にかけて生暖かい水のようなものが一直線にゆっくりと流れていく。それと同時に目の前が暗くなり始め意識が朦朧とする。さらに体が寒くなり体全体の力が抜けていく。
彼女はこの出来事がなんなのかをすぐに察した。だがあえて考えないようにしていた。なぜならこのまま目を瞑ってしまうと自分の好きな彼との約束を破ってしまうからである。
しかし彼女の目の前は暗闇に閉ざされ、口元で微かに感じていた風が止んだ。一定のリズムを刻んでいた音も消えてスヴィエートは目を閉じた。
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