逃げられない檻のなかで

舞尾

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その後

翌八月※

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『ふざけるな!この一族の恥さらしめ!!』

 風呂から上がり、廊下を歩いている時だった。
 激しい怒鳴り声が家中に響く。それは居間から聞こえているようだった。
 そっと中を覗くと、正人が電話をしていた。どうやら怒鳴り声の正体は電話の相手の人らしい。

『お前は勘当だ!!二度と帰ってくるな!!』

 男性の大きな声にびくっと驚いてしまう。その拍子に襖に足をぶつけ、ガタンと音を立ててしまった。それに気がついた正人がこちらを振り向く。

「……遥、いたのか」
「ごめん、立ち聞きしてしまって……」

 お互い何も言えず黙りこんでしまう。電話はもう繋がっていないようだった。
 さっきの電話の相手はきっと、正人の父親だ。勘当とか、帰ってくるなとか言っていたから。

「正人、さっきの声って……」
「遥」

 何も言うなというように、正人は抱きついてくる。
 抱き締める力が強くて、正人がまた不安になっていることに気付いた。

「今日抱いてもいいか?」
「……明日仕事だし」
「素股でもいいから」

 これは相当キてるな。
 正人はどうしようもなく不安になると俺を抱く。それで安心出来るのなら、自分の身を差し出すけれど――この不安は一生付きまとうものだろう。
 問題解決にはならないんじゃないか、そう言いたかったけれど正人の顔を見てその言葉を飲み込んだ。

「……父に何言われても大丈夫だと思っていたんだが……思ったよりキツいな」
「……分かったよ。素股だけな」

 寂しそうな顔で言われ、これ以上拒否することなどできなかった。安心させるように背中をぽんぽんと叩くと、正人は小さくありがとうと呟いた。
 しばらくして落ち着いた正人は、触れるだけのキスをして風呂場へと向かう。俺はそれを見送った。

 父親にあんな事言われたんだ。やっぱりキツいよな。
 俺のせいで仲違いさせてしまったことに胸が痛む。
 やっぱり、家族は全員仲良くしてほしい。俺には仲良くするような肉親は、もういないから。

 ――プルルルルル!

「っ!?」

 突然電話の音がけたたましく鳴り響いた。
 一体どこからなんだと音の出所を探すと、机の上――正人のスマホから鳴り響いていた。おそるおそる電話の相手を見ると、母と表示されている。
 正人の母親……!
 思わず息を飲んだ。電話に出るとか余計な事はしない方がいいだろう。

 しかし、電話は一向に鳴り止まない。一分、二分と時間は過ぎていき、とうとう五分経ってしまった。それでも電話は鳴り止まない。
 正人は留守番設定していないのか……!?
 どうしよう。このままだと正人が風呂から上がるまで電話は鳴り続ける気がする。スマホを正人の元へ持っていくか、それとも、俺が電話に出るか。

「……あ」

 これは正人の家族のことを直接聞けるチャンスなんじゃないか?
 ふと、その事に気が付いた。きっと、正人に家族の事を聞いても有耶無耶にされるだけだろう。それならば、いま正人のお母さんに聞いた方が早いのではないだろうか?
 勝手に電話に出るべきではないと思うけれど、 やっぱり気になるんだ。正人の家族のこと。
 だから鳴り響いている電話を掴み、意を決して電話に出た。

「もしもし」
『……正人じゃないわね、貴方が相手の方かしら?』

 値踏みされている。
 直感した。高いトーンで思惑を圧し殺した声。社長や投資家などの偉い人達が嘘を装う声だ。すぐさま、営業モードに切り替える。こういう人達には少しの隙さえ見せてはいけない。

「初めまして。私、正人さんとお付き合いさせていただいている高取遥と申します。ただいま正人さんは入浴されており、私が代理でお電話を取らせていただきました。」
『遥さんね、正人がいつもお世話になっております。』
「いえ、こちらこそ正人さんに大変お世話になっております。」

 掴みは上々だ。まだ警戒の色は消えないが、不快には思われていない。
 ここからが大事だ。きっと色々聞かれるだろうし、お小言を言われるかもしれない。なめるな、こちとら銀行員時代にクレーム処理は馴れているんだ。何か言われたら倍返ししてやる。
 そう思っていたのに。

「……えっ?」

 言われたことは予想外の事だった。


「遥」

 寝室のベッドに寝転がっていると、風呂から上がった正人が部屋に入ってきた。けれど表情は明るくない。
 ふらふらと誘われるようにこちらへと向かってくる。起き上がり、それを迎え入れた。二人分の重さを受けベッドが軋む。
 腕を背中に回すと、痛いほどの力で抱き締められた。

「正人、大丈夫か?」
「遥、はるかっ……」
「大丈夫だから」

 軽くキスをしたあと、衣服を脱いで四つん這いになる。
 最初に襲われた時から、俺も大分変わった。襲われる前の俺は、こんな恥ずかしい格好なんて絶対しなかっただろう。
 けれど、それで正人が安心するのなら俺はどんなことでもする自信がある。

「ありがとう、遥」

 ローションを股にかけられ、ニュルニュルとちんこを抜き差しされる。
 これはこれで、中々しんどい。直接的な刺激がないから、体が徐々に高められる。

「はっ、は……」
「ぁ……うっ、あっ!?」

 じわじわとくる快感に耐えていると、俺のちんこをぎゅっと握られた。ぐしゅぐしゅと上下に擦られ、声が止まらない。嬉しいとてもいうように、先走りが溢れた。

「お前っ俺はいいから!」
「遥も気持ちよくなってほしいから……」

 そういって、乳首をぐにぃと捻られる。正人に開発された乳首は少しの刺激でも快感を拾い、また俺のちんこが大きくなったような気がした。

「遥、やっぱり最後までいいか……?」
「……それでお前はが安心するのなら……いいけど……」
「……ああ、安心する。ありがとう遥」

 しかし振り返ると、正人は寂しそうな目をしていて。そんな迷子の子供のような目をした正人を見て、つきりと胸が痛む。
 やはり、このままではいけない。

「正人、まとめて休暇とか取れないか……?」
「……なんで?」
「実家に来てほしいんだ。じいちゃんばあちゃんや、両親に……報告したい」
「分かった。今度まとめて休みをとるよ。俺も挨拶したいから」

 会話はこれきりだというように、行為を続けられる。熱い塊を受け入れながら、目を瞑った。
 家族がいなくなった俺にとって、やっぱり今いる家族は大事にするべきだと思うんだ。

 例え正人を騙す事になっても。
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