逃げられない檻のなかで

もうの

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その後

翌五月6

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「昨日で研修が終わって、今日の日程は帰るだけだったから昨日のうちに帰って来たんだ」
「沢山あったからあげと遥の喘ぎ声を聞いて、俺は誰かを連れ込んだのかと思った。相手を殺してやろうかと思った」
「でも俺で自慰をしていたんだな。俺の制服を握って自慰している所を見たときは卒倒するかと思った」
「俺が欲しいって遥が言った時、天にも昇るような気持ちだった。その言葉をもっと聞きたくて、少し焦らしてしまった。ごめんな」
「遥がもっと俺を求めてくれて嬉しかった。初めてフェラしてくれたな。ありがとう、気持ち良かった」
「それだけじゃない、床オナまで……一生懸命腰を振る姿は遥のセックスを見ているようで、劣情を煽られたぞ」
「それから股がって対面座位で……」
「もう止めてくださいっ!」

 俺は今、座った状態で正人に後ろから抱きつかれ、昨日の出来事を事細かに教えられていた。
 起きた時からこの調子だ。なんなら朝もう一発されそうになった。今日は仕事だし、昨日の行為のせいで体中酷い痛みだったから即効断ったけれども。
 というか昨日の恥態を正気になってから言われると恥ずかしさで死ぬ。ごめんなさい。もう許してほしい。

「死んでも離さないからな」
「死んだら離して下さい……」

 頭をぐりぐりと肩に押し付けられ、はぁとため息をつく。
 俺はとんでもないことをしてしまったのかもしれない。この様子じゃ、本当に死んでも離してくれないかもしれない。
 でもいいか。俺だって正人から離れられないんだから。後ろからぎゅうぎゅうと抱きついてくる正人に身を委ね、朝食を食べ始めた。

 すると、ドンドンと戸が叩かれる音がした。この音はきっと畑中さんだ。
 正人は今日まで研修の予定だったから、畑中さんは今日まで正人の代わりに駐在所で勤務する。俺は畑中さんを迎え入れるため、急いで玄関へ向かった。すると正人も後ろから着いてきた。ひっつき虫か、お前。
 抱きつき離れない正人を放置して、玄関の鍵を開けた。

「畑中すみません、おはようございます」
「遥さん、おはようございます!今日で……ってアレ!?高取!?」

 相当ビックリしたのだろう。体を大きく動かして後ずさった。畑中さんは感情と共に体が動くタイプらしい。
 正人は不機嫌を隠すことなく畑中さんを見据える。

「遥さん?なんでお前が遥さんと呼んでいるんだ」
「高取と名字が一緒だからだろ!俺は呼びやすいようになあ!」
「高取さんでいいだろう。気安く下の名前で呼ぶな」
「いや村の人達にも遥さんって呼ばれてるだろ!」
「お前は村の人間じゃないからな」
「それはあまりにも可哀想じゃないか?」

 あまりの横暴さに突っ込んでしまう。
 正人は同僚の人とだとこんな感じになるんだな。気軽に言い合いをしている二人を見ると、気を許せる友達なんだろう。

「別に遥でもいいですよ。呼び方気にしないし」
「遥さん!」
「遥っ……!」

 今度は畑中さんが勝ち誇り、正人が悔しがっていた。呼び方なんてなんでもいいだろうに。ましてや男同士なんだし。その様子が面白くて、笑ってしまった。

「さて、今日までは俺が駐在所勤務でいいか?というかなんで高取ここにいるんだよ」
「遥に会いたくて早く帰って来た」

 お熱いことで、とため息をつきながら畑中さんは駐在所へと入る。今日で最後なら、と俺は気になっていたことを聞いた。

「畑中さん、少し前に俺と正人が血縁ではないのかって聞かれましたよね?その時難しい顔されていたじゃないですか。あれ、どういうことですか?」
「畑中、お前そんな事遥に聞いたのか」
「だって本当のことだろ!」

 畑中さんは少し焦った表情で俺達を見て、正人は呆れた目を畑中さんに向けている。俺は二人の差に首を傾げた。
 つまり、どういうことなんだ?

「警察内でも、高取と遥さんの事広まっているんです。いずれ高取のご両親の耳に入るでしょう。その時、どんなことになるか……」
「あ……」

 そうか。俺が血縁者で正人のご両親とも面識があったら、問題にはなるだろうが家族の話で済む。
 けれど赤の他人で駐在所に住み着いてるとなると――

「俺、ここにいられなくなりますよね……」

 駐在所だけじゃない、きっと正人とも別れなければならなくなる。
 自分の位置の危うさを再認識させられた。俯いていると、安心させるかのように正人は少し力を込めて抱きついてきた。

「もし両親が何か言ってきても、全力で守る。それだけだ」
「正人……」

 正人はしっかりと前を見据えて、宣言する。そうだな、俯いているわけにはいかない。正人と離れることが出来ないと自覚したんだから、自分の場所は自分で守らないと。

「守られるだけじゃ男が廃るからな。俺も戦うよ。口喧嘩なら負けないぜ?」
「遥っ!」

 俺が一緒に戦うと言ったことが相当嬉しいのか、正人はもっと抱きついてきた。あんまり抱きつかれるとそろそろ苦しい。

「俺は二人のこと応援しますよ!――ところで遥さん、仕事の時間は大丈夫ですか?」
「あっヤバい!!」

 どうやらまた話し込み過ぎたみたいだ。時計を見ると相当ギリギリの時間。俺は急いで朝食を掻きこみ、スーツを来て外へと出る。

「いってらっしゃい、遥」
「いってきます!」

 俺はカブに乗り込み、仕事へと向かう。
 いつもの日常に満面の笑みを浮かべた。

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