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その後
翌五月1
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ばあちゃんは、俺のことも両親のことも全て忘れて逝った。
ICUの中で見たばあちゃんの視線。あなたは誰?と問いかけるような視線が、今でも忘れられない。
「っ!!」
ガバッとベッドから起き上がる。今見た悪夢に、冷や汗をかいていた。
今は5月下旬。そんなに寒くないはずなのに、体がカタカタと震える。
「……遥、どうした?」
「……悪い、起こしたか」
どうやら正人を起こしてしまったらしい。俺の尋常じゃない様子に気付いた正人は、ゆっくりと起き上がった。
「なんでもない……」
「そんなわけないだろう。泣いているじゃないか」
指でそっと涙を拭われる。それで自分が泣いている事に気がついた。それほど怖かったのか。俺は。
確かに、あの夢…いや、あの過去。それは俺のトラウマだ。
「…ひとりぼっちになった時こと、思い出したんだ」
「今は一人じゃないぞ。俺がいる」
抱き締められ、ポンポンと背中を叩かれる。その暖かさに安堵した。
抱き締めて寝てくれないか、といつもはしないお願いをしてしまう。正人は優しく笑い、それを受け入れてくれた。
正人に抱き締められながら再び微睡む。トクントクンと聞こえる音。暖かな正人の体温。
一人じゃないと全身で感じる事ができて、やっと落ち着くことができた。俺は一人じゃない。大丈夫、この暖かさはなくならない。正人の心音を聴きながら、ゆっくりとまた夢の世界へ旅立った。
「忘れ物はないか?」
「ああ、大丈夫だ」
これから約1ヶ月、正人は研修のためこの駐在所から離れる。昇任による研修のようだ。
大きなボストンバックを持って、出発しようとしている正人を見送る。
「俺、本当にここにいてもいいのかな?立場としては居候だし……」
「ここを担当する同僚にも伝えてあるから大丈夫だ。お願いだから、このままここにいてくれ」
「もうどこにも行かないよ」
顎を掴まれ、顔を傾けられる。俺は目を閉じ、それが降りてくるのを待った。ふわりと唇が降りてきて、長く口づけをする。
「じゃあ、行ってくる。遥」
「ああ、気をつけて」
パトカーに乗り込み、正人は出発した。
これから1ヶ月、長い一人だけの生活が始まる。
「……もう、いいかな?」
「わあっ!」
感慨に耽っていたのだが、後ろから聞こえる声に驚き振り向いた。ひょっこりと物陰から姿を現した人物は、正人と同じ警察の制服を着ている。正人が言っていた同僚の方だろう。
「いやあーあっついあっつい!朝からすごいもの見せられちゃった!あっ私、畑中と申します。高取の代わりに今日から約1ヶ月、この村を守らせていただきます」
「はじめまして、高取遥と申します」
慌てて俺も挨拶をする。これから1ヶ月お世話になるのだから、最初の心証は良くしておかねば。
正人と同僚の畑中さんは、スポーツ刈りの、白い歯が輝く気さくな好青年だった。お互い固く握手を交わす。
「高取から話は聞いています。私がいても、普段通りの生活をされてください」
「……わかりました」
といってもなあ、と少し戸惑う。この駐在所はただの一軒家と言っても過言ではない。入り口は玄関しかないし、そこからいろんな部屋に繋がっている。どこにいても、畑中さんの存在を感じてしまうだろう。
それに畑中さんも気づいたのか慌てて謝ってきた。
「すみません、落ち着けませんよね。ここはほとんど一軒家みたいなものだし」
「他の駐在所は違うんですか?」
「もっと家と駐在所は別れていますね。玄関だって別々にあるし。言っちゃわるいが古いですよねぇ」
「まあ、今だに土間なんてある家ですからね」
畑中さんが溢したことに思わず苦笑する。
他の駐在所はこんなにボロくないのか。つまり、それほどの場所に飛ばされたと。正人は父の怒りを買ったみたいな事を言っていたが……
少し正人がここに飛ばされるまでが気になってしまった。
「ところで遥さん――とお呼びしてもいいでしょうか?」
「はい。大丈夫です」
「仕事の時間は大丈夫ですか?」
「あっヤバい!早く出ないと……!」
時計を見ると結構な時間が過ぎていた。早く出なければ、遅刻してしまう。
急いでスーツを着て、カバンを手に取り外へと出る。会社へ行くため愛用のカブに乗りエンジンをふかすと、畑中さんから慌てて引き留められた。
「遥さん!あのっ鍵を預からせていただきたいのですが――」
鍵?何で俺の鍵を預かるんだ?
俺が不思議そうな顔をしていると、唇を尖らせてちょっと不満げに説明してくれた。
「高取のやつ、鍵を渡してくれなかったんですよ。合鍵でさえ。遥さんから鍵を貰ってくれって。だから遥さんの鍵を日中は借りて、帰られた時にお返しします。それでよろしいでしょうか?」
「……もしかして、鍵貰えなかった時連絡してくれとか言われてません?」
「わっ!何で分かったんですか?」
なんと用意周到な奴だ。畑中さんを通して俺がこの家に留まっている事を確認してやがる。
俺が鍵を受け取りに帰らなかったら、畑中さんが正人に連絡する。逆に俺が朝いなくて鍵が貰えなかったら、また畑中さんは正人に連絡する。
だから逃げないって言ってるのに……!
信用されているのかいないのか、正人の束縛は止まらない。ため息をついて畑中さんに鍵を渡した。
「ありがとうございます!帰りにまた渡しますね!」
元気よく手を振る畑中さんに見送られ、俺は仕事へ向かった。
夕方、仕事が終わり家に帰ると、畑中さんが出迎えてくれた。畑中さんの帰り支度はもう済ませてある。どうやら自分の仕事が終わった後、俺の帰りを待ってくれていたようだ。
「すみません!待たせてしまって!」
「いえいえ、大丈夫ですよ!それでは鍵を返しますね。明日また受け取りに来ますので!」
「何だか面倒をかけているようで申し訳ないです」
「いえいえ!迷惑だなんて!むしろこっちが謝る側ですし……」
「謝る側?」
畑中さんに謝られようなことはされていないんだけれどな?
なんのことか全く分からず困惑していると、畑中さんが突然、勢いよく深々とお辞儀をして謝ってきた。綺麗な45度のお辞儀に驚き少し後退る。
「申し訳ございませんでした!」
「えっ!?何がですか?」
「半年前のことです。遥さんは思い出したくないことだと思うのですが、どうしても謝りたくて……!!」
半年前…?謝る…?
何のことだか本当に分からなくて首を傾げていると、畑中さんが言いにくそうに伝えてくれた。
「半年前の、あなたが襲われた事件のことです。私がいる署にも連絡が来まして。けれど犯人を取り逃がしてしまい…大変申し訳ない…!」
「あっ…!」
この言葉でやっとピンときた。
正人に襲われた時の事だ。村中逃げ回ったあの事件のこと。
えっ、ちょっと待て、アイツ管轄の警察署に連絡したのか!?
「れ、連絡が来たんですか!?あのとき!?」
「ええ、高取から連絡が来まして。すぐ駆けつけたのですが、犯人の姿はどこにも見えず……」
マジか……本当に連絡していたらしい。
じゃあ俺はあのまま逃げていたら結局警察に捕まっていたのか?
思いもよらない事実を知り顔が思わず引きつる。
「すみません、気分を悪くされましたよね……」
「いえ!大丈夫です」
違う。引きつっているのは正人の行動のことだ。あのときどうあがいても逃げることは無理だったらしい。結局俺は正人に捕まるしかなかったのか。
しかもこっちでも暴漢に襲われたって嘘つきやがって。暴漢はお前だってのに。帰ってきたら説教だな。
畑中さんの誤解を解こうと顔を上げると、彼はしゅんと項垂れていた。まるで怒られた時の犬のようだ。
そんなに責任を感じなくてもいいのに!
全く関係ないのに責任を感じさせてしまい、本当に申し訳なかった。
「畑中さん、あの――」
「清ちゃん」
謝ろうしたら、突然横から話しかけられ思わずそちらを振り向く。そこには、よく見慣れたおばあちゃんが立っていた。
「山田さん……?」
「ばあちゃん!」
迎えに来なくても良かったのに、と畑中さんは慌てて山田さんの元へ向かう。それを山田さんは優しい目で見ていた。
というか、ばあちゃんって、もしかして……
「山田さんの孫!?」
「あっはい、そうです。母方の祖母なんですよ。高取かは聞いてませんでした?」
そんなの聞いてない!!
新たな事実にまた驚く。畑中さんと山田さんが血縁関係だったなんて全く知らなかった。正月に誰か来ている事には気づいていたけれど、それがまさか正人の同僚の人だったなんて。
「正人知ってたなら言えよ……!」
「もしかしたら遥さんに言いたくなかったのかもしれないですね」
思わず正人に恨み言を言ってしまう。知らないよりも知ってた方がいいに決まってるのに!
正人はあまり同僚や上司の話はしない。警察の中でもいろいろあるのかなと思ってなるべく聞かないようにしていたが、こんなことがあるんだったら今度からしっかりと聞くことにしてやる。せめて誰が正人の代わりに来るとかの情報ぐらいは聞こうと思った。
「高取の代わりで来たのも、この村に祖母がいるからなんです。ここに勤務中は祖母の家から出勤させていただきます」
「そうだったんですね……」
「ばあちゃんも迎えに来てくれた事だし、今日はもう家に帰りますね。明日またよろしくお願いします」
鍵を俺に渡した畑中さんは、山田さんと共に家へと帰っていった。玄関から段々と遠くなっていく二人の影を見送る。
「今日はね、清ちゃんの大好きな寿司だよ」
「本当!?めっちゃ嬉しい!」
小さく聞こえてきた声に思わず微笑んだ。
いつも家に一人でいる山田さん。孫の畑中さんが来てとても嬉しそうだ。いつもお喋りだけど今日は更にお喋りになっている。
これ以上聞くのは失礼だなと思い、俺も家に入った。横開きの戸をガラガラと閉めて、施錠する。土間から靴を脱いで、居間へと向かう。いつも二人でいる家は、想像以上に静かで、広かった。
「……広いな」
誰もいない居間を見て、思わず呟いてしまう。
ふっと頭に過った気持ちは、心の中に閉じ込めておくことにした。
ICUの中で見たばあちゃんの視線。あなたは誰?と問いかけるような視線が、今でも忘れられない。
「っ!!」
ガバッとベッドから起き上がる。今見た悪夢に、冷や汗をかいていた。
今は5月下旬。そんなに寒くないはずなのに、体がカタカタと震える。
「……遥、どうした?」
「……悪い、起こしたか」
どうやら正人を起こしてしまったらしい。俺の尋常じゃない様子に気付いた正人は、ゆっくりと起き上がった。
「なんでもない……」
「そんなわけないだろう。泣いているじゃないか」
指でそっと涙を拭われる。それで自分が泣いている事に気がついた。それほど怖かったのか。俺は。
確かに、あの夢…いや、あの過去。それは俺のトラウマだ。
「…ひとりぼっちになった時こと、思い出したんだ」
「今は一人じゃないぞ。俺がいる」
抱き締められ、ポンポンと背中を叩かれる。その暖かさに安堵した。
抱き締めて寝てくれないか、といつもはしないお願いをしてしまう。正人は優しく笑い、それを受け入れてくれた。
正人に抱き締められながら再び微睡む。トクントクンと聞こえる音。暖かな正人の体温。
一人じゃないと全身で感じる事ができて、やっと落ち着くことができた。俺は一人じゃない。大丈夫、この暖かさはなくならない。正人の心音を聴きながら、ゆっくりとまた夢の世界へ旅立った。
「忘れ物はないか?」
「ああ、大丈夫だ」
これから約1ヶ月、正人は研修のためこの駐在所から離れる。昇任による研修のようだ。
大きなボストンバックを持って、出発しようとしている正人を見送る。
「俺、本当にここにいてもいいのかな?立場としては居候だし……」
「ここを担当する同僚にも伝えてあるから大丈夫だ。お願いだから、このままここにいてくれ」
「もうどこにも行かないよ」
顎を掴まれ、顔を傾けられる。俺は目を閉じ、それが降りてくるのを待った。ふわりと唇が降りてきて、長く口づけをする。
「じゃあ、行ってくる。遥」
「ああ、気をつけて」
パトカーに乗り込み、正人は出発した。
これから1ヶ月、長い一人だけの生活が始まる。
「……もう、いいかな?」
「わあっ!」
感慨に耽っていたのだが、後ろから聞こえる声に驚き振り向いた。ひょっこりと物陰から姿を現した人物は、正人と同じ警察の制服を着ている。正人が言っていた同僚の方だろう。
「いやあーあっついあっつい!朝からすごいもの見せられちゃった!あっ私、畑中と申します。高取の代わりに今日から約1ヶ月、この村を守らせていただきます」
「はじめまして、高取遥と申します」
慌てて俺も挨拶をする。これから1ヶ月お世話になるのだから、最初の心証は良くしておかねば。
正人と同僚の畑中さんは、スポーツ刈りの、白い歯が輝く気さくな好青年だった。お互い固く握手を交わす。
「高取から話は聞いています。私がいても、普段通りの生活をされてください」
「……わかりました」
といってもなあ、と少し戸惑う。この駐在所はただの一軒家と言っても過言ではない。入り口は玄関しかないし、そこからいろんな部屋に繋がっている。どこにいても、畑中さんの存在を感じてしまうだろう。
それに畑中さんも気づいたのか慌てて謝ってきた。
「すみません、落ち着けませんよね。ここはほとんど一軒家みたいなものだし」
「他の駐在所は違うんですか?」
「もっと家と駐在所は別れていますね。玄関だって別々にあるし。言っちゃわるいが古いですよねぇ」
「まあ、今だに土間なんてある家ですからね」
畑中さんが溢したことに思わず苦笑する。
他の駐在所はこんなにボロくないのか。つまり、それほどの場所に飛ばされたと。正人は父の怒りを買ったみたいな事を言っていたが……
少し正人がここに飛ばされるまでが気になってしまった。
「ところで遥さん――とお呼びしてもいいでしょうか?」
「はい。大丈夫です」
「仕事の時間は大丈夫ですか?」
「あっヤバい!早く出ないと……!」
時計を見ると結構な時間が過ぎていた。早く出なければ、遅刻してしまう。
急いでスーツを着て、カバンを手に取り外へと出る。会社へ行くため愛用のカブに乗りエンジンをふかすと、畑中さんから慌てて引き留められた。
「遥さん!あのっ鍵を預からせていただきたいのですが――」
鍵?何で俺の鍵を預かるんだ?
俺が不思議そうな顔をしていると、唇を尖らせてちょっと不満げに説明してくれた。
「高取のやつ、鍵を渡してくれなかったんですよ。合鍵でさえ。遥さんから鍵を貰ってくれって。だから遥さんの鍵を日中は借りて、帰られた時にお返しします。それでよろしいでしょうか?」
「……もしかして、鍵貰えなかった時連絡してくれとか言われてません?」
「わっ!何で分かったんですか?」
なんと用意周到な奴だ。畑中さんを通して俺がこの家に留まっている事を確認してやがる。
俺が鍵を受け取りに帰らなかったら、畑中さんが正人に連絡する。逆に俺が朝いなくて鍵が貰えなかったら、また畑中さんは正人に連絡する。
だから逃げないって言ってるのに……!
信用されているのかいないのか、正人の束縛は止まらない。ため息をついて畑中さんに鍵を渡した。
「ありがとうございます!帰りにまた渡しますね!」
元気よく手を振る畑中さんに見送られ、俺は仕事へ向かった。
夕方、仕事が終わり家に帰ると、畑中さんが出迎えてくれた。畑中さんの帰り支度はもう済ませてある。どうやら自分の仕事が終わった後、俺の帰りを待ってくれていたようだ。
「すみません!待たせてしまって!」
「いえいえ、大丈夫ですよ!それでは鍵を返しますね。明日また受け取りに来ますので!」
「何だか面倒をかけているようで申し訳ないです」
「いえいえ!迷惑だなんて!むしろこっちが謝る側ですし……」
「謝る側?」
畑中さんに謝られようなことはされていないんだけれどな?
なんのことか全く分からず困惑していると、畑中さんが突然、勢いよく深々とお辞儀をして謝ってきた。綺麗な45度のお辞儀に驚き少し後退る。
「申し訳ございませんでした!」
「えっ!?何がですか?」
「半年前のことです。遥さんは思い出したくないことだと思うのですが、どうしても謝りたくて……!!」
半年前…?謝る…?
何のことだか本当に分からなくて首を傾げていると、畑中さんが言いにくそうに伝えてくれた。
「半年前の、あなたが襲われた事件のことです。私がいる署にも連絡が来まして。けれど犯人を取り逃がしてしまい…大変申し訳ない…!」
「あっ…!」
この言葉でやっとピンときた。
正人に襲われた時の事だ。村中逃げ回ったあの事件のこと。
えっ、ちょっと待て、アイツ管轄の警察署に連絡したのか!?
「れ、連絡が来たんですか!?あのとき!?」
「ええ、高取から連絡が来まして。すぐ駆けつけたのですが、犯人の姿はどこにも見えず……」
マジか……本当に連絡していたらしい。
じゃあ俺はあのまま逃げていたら結局警察に捕まっていたのか?
思いもよらない事実を知り顔が思わず引きつる。
「すみません、気分を悪くされましたよね……」
「いえ!大丈夫です」
違う。引きつっているのは正人の行動のことだ。あのときどうあがいても逃げることは無理だったらしい。結局俺は正人に捕まるしかなかったのか。
しかもこっちでも暴漢に襲われたって嘘つきやがって。暴漢はお前だってのに。帰ってきたら説教だな。
畑中さんの誤解を解こうと顔を上げると、彼はしゅんと項垂れていた。まるで怒られた時の犬のようだ。
そんなに責任を感じなくてもいいのに!
全く関係ないのに責任を感じさせてしまい、本当に申し訳なかった。
「畑中さん、あの――」
「清ちゃん」
謝ろうしたら、突然横から話しかけられ思わずそちらを振り向く。そこには、よく見慣れたおばあちゃんが立っていた。
「山田さん……?」
「ばあちゃん!」
迎えに来なくても良かったのに、と畑中さんは慌てて山田さんの元へ向かう。それを山田さんは優しい目で見ていた。
というか、ばあちゃんって、もしかして……
「山田さんの孫!?」
「あっはい、そうです。母方の祖母なんですよ。高取かは聞いてませんでした?」
そんなの聞いてない!!
新たな事実にまた驚く。畑中さんと山田さんが血縁関係だったなんて全く知らなかった。正月に誰か来ている事には気づいていたけれど、それがまさか正人の同僚の人だったなんて。
「正人知ってたなら言えよ……!」
「もしかしたら遥さんに言いたくなかったのかもしれないですね」
思わず正人に恨み言を言ってしまう。知らないよりも知ってた方がいいに決まってるのに!
正人はあまり同僚や上司の話はしない。警察の中でもいろいろあるのかなと思ってなるべく聞かないようにしていたが、こんなことがあるんだったら今度からしっかりと聞くことにしてやる。せめて誰が正人の代わりに来るとかの情報ぐらいは聞こうと思った。
「高取の代わりで来たのも、この村に祖母がいるからなんです。ここに勤務中は祖母の家から出勤させていただきます」
「そうだったんですね……」
「ばあちゃんも迎えに来てくれた事だし、今日はもう家に帰りますね。明日またよろしくお願いします」
鍵を俺に渡した畑中さんは、山田さんと共に家へと帰っていった。玄関から段々と遠くなっていく二人の影を見送る。
「今日はね、清ちゃんの大好きな寿司だよ」
「本当!?めっちゃ嬉しい!」
小さく聞こえてきた声に思わず微笑んだ。
いつも家に一人でいる山田さん。孫の畑中さんが来てとても嬉しそうだ。いつもお喋りだけど今日は更にお喋りになっている。
これ以上聞くのは失礼だなと思い、俺も家に入った。横開きの戸をガラガラと閉めて、施錠する。土間から靴を脱いで、居間へと向かう。いつも二人でいる家は、想像以上に静かで、広かった。
「……広いな」
誰もいない居間を見て、思わず呟いてしまう。
ふっと頭に過った気持ちは、心の中に閉じ込めておくことにした。
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