逃げられない檻のなかで

もうの

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その後

翌四月5

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「……ん」

 次の日、太陽が相当高くなってから目を覚ました。太陽は真上を過ぎている。もしかしたらもう午後になっているかもしれない。

「起きたか」
「まさと……」

 側には正人がベッドに腰かけていた。休みだからかシャツにスウェットというラフな格好をしている。まあ、俺は真っ裸だったけれど。

「水……」

 喉にツキリと痛みを感じて、水を求める。本当に喉がカラカラだった。声も枯れている。それほど喘いでしまったのだろう。俺は全く覚えていないけれど。

「遥、水だ」
「ありが……いっ!?」

 起き上がろうとしたら、全身に激痛を感じた。差し出されたペットボトルも受け取れない。
 体が全く動かないなんて、こんなこと初めてだ。

「お前、一体どれくらい……」
「……やっぱり覚えてないか」

 正人は薄く微笑むばかりだ。体は綺麗になっているからどれだけナカに出されたかは分からない。けれどいまだに感じる異物感と体のしきみよう。多分今までの最高記録を更新した。それだけは自信もって言える。

 これじゃ、水さえ飲めないじゃないか。
 正人に手伝ってもらい、ベッドから起きあがる。手錠されていたせいか腕も全く動かない。仕方ないので正人に水を求めた。

「正人……水……」
「わかった」

 水を求めると正人は持っていた水をぐいっと飲み、口移しをてきた。
 自分で動けない俺はそれを受けとるしかない。顔を傾けて正人を待つ。
 ピッタリと唇をあわせて、水を受けとった。ポタポタと飲めなかった水が唇から落ちる。

「……もっと」
「ふふっ、わかった」

 何笑ってるんだよ。こんなちょっとじゃ喉は潤せないだろうが。これ飲んだら文句言ってやる。
 しかし、近づいてくるその顔が幸せそうだったから、文句を言うことを止めた。

 これを数回繰り返して、俺の喉はやっと潤された。水を飲んだあと、ぽすりと正人の肩に頭をぶつける。
 動けない俺の精一杯な抗議だ。

「どーすんだこれ、全く動かないじゃないか」
「……ごめん。本当に酷いことをしたと思ってる」

 でも、俺は――と話す目はまだ少し昏くて。
 ベッドに乗り上げ、俺に抱きついてくる。俺はまだ正人を不安にさせているらしい。
 そう、全ての原因は俺なんだ。俺の軽卒な行動。なら、しっかりとけじめつけないと。

「正人……ごめんな、お前を不安にさせて…」
「遥……?」

 目が合わないことをいいことに、ゆっくりと俺の本音を伝えた。
 照れくさくていつもは言えない言葉を紡いでいく。二度と不安になんてさせないように。

「……俺だって今の生活が大切だし、正人の隣は俺がいい。今出来た居場所を失いたくない」
「っ……」

 どうにか腕を動かして、正人に抱きつこうとする。しかしやっぱり力が入らなくて、うまく抱きつけない。でもいい。俺がしたいこと、正人には伝わっているみたいだから。
 そっと、抱き返してくれる。

「ごめんな。俺考えが足りないからまた不安にさせるかもしれないけど、でも、お前の側にいさせてくれるか?」

 顔を上げて目を合わせる。これだけはしっかり目を見て言わないと。
 正人は大きく目を見開くと――ぎゅうううっと抱きついてきた。だから、痛いっての。

「なんで、なんで、お前はそんなに優しいんだ…!もっと俺を怒ってくれ。責めてくれ!じゃないと、その優しさにつけ込んで俺はもっと酷いことをしてしまいそうだ…!」

 全身を使って俺をかき抱く。愛していると、絶対離さないとでもいうように。
 なんとか腕を動かして、背中をポンポンと叩いてやった。この大きな迷子に安心してもらわないと。

「もっとしろ。俺は全部受け入れるから」
「遥……」
「あのとき、俺はお前の全てを受け入れるって決めたんだから」
「ありがとう……ずっと、俺の側にいてくれ」
「それはこの指輪もらった時にとっくに決めてたぞ」
「途中で愛想を尽かしたりしないでくれ」
「こんなことされても愛想尽かしてないんだから、これからもきっとないぞ」
「大好き……大好きだ遥……」
「俺も大好きだ、正人」

 ぽとりぽとりと、正人は涙を流す。何泣いてんだよ。泣くな、バカ。

「……ありがとう、俺を受け入れてくれて。俺は幸せだ、幸せ者だ」

 顔を上げた正人は、幸せだと綺麗に笑う。その目の闇は完全に消えていた。
 良かった。俺の気持ちも伝わったみたいだ。
 正人は首筋に顔を埋め、鬱血の跡を残す。チクチクとした痛みを感じながら、俺は正人に話しかけた。これだけはどうしても伝えないと。

「……ただ、ああいうのはたまにしてくれ。体がもたない」
「…………」

 しかし正人は無反応だ。首筋に顔を埋めて俺が言った事を無視をしようとしてやがる。

「おい!何か言えよ!」
「月1……」
「それだと俺壊れるぞ!?」
「それは嫌だ。遥が許可してくれる時にする」
「……じゃあ半年に一回、とか」
「それで我慢する」
「もっと我慢してくれ」

 笑いあいながらお互い自然に顔が寄り添って…キスをした。


 それから、俺達のセックスは週1になった。絶倫は健在なのでその一回で何回もされてしまうのだけれど。
 でも体の繋がりだけではなく、今はちゃんと心も繋がっているから、もう大丈夫だ。

 今日も俺は研修のため繁華街へと向かう。

「遥、終わり何時だ?」
「今日もまた夕方だな。バスの時間過ぎてしまうかも」
「じゃあ、迎えに行くぞ」
「ありがとう、頼むな。あっ一緒に焼き肉なんてどうだ?」
「……たまにはいいな。外っていうのも」
「じゃ、また夕方な!」

 夕方の約束に胸を踊らせながら、俺は仕事へと向かった。
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