逃げられない檻のなかで

舞尾

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その後

翌四月2

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「どうしたらいいかなあ山田さん」
「そうねぇ……」

 仕事で訪れたついでに、この件を山田さんに相談した。
 ちなみに村人全員に俺達の関係はバレている。バレているというか正人のせいでずっと前から誤解されていたようだけれど。そして村人の中であの事件は暴漢に襲われて前後不覚になっていた俺を正人が愛の力で正気に戻したという認識になっている。
 これだけは解せぬ。暴漢はアイツだぞ。
 しかし、俺が変な目で見られるだけなので言わない。

「若いうちに沢山やっといたほうがよかよ。こんな老体じゃ何もできんからねぇ」
「……そスか」

 私の若い頃はねぇ…と山田さんのお喋りが始まってしまった。
 何か良いアドバイスがあるかなと思ったけれど何もなかった。逆にもっと励めと言われてしまい、思わずため息をつく。
 行為自体が嫌いではないのだ。愛されていると感じる事ができるし、互いに触れあうと満たされる。でも、いかんせん回数が多いのだ。次の日動けなくなるまでされると、どうしても怯んでしまう。

「どうしたらいいのかな~!!」

 ちゃぶ台に腕を伸ばし、バタバタと動かす。どうにもならない状況に対する憂さ晴らしのように。
 すると、遠くから夕方のチャイムが聞こえてきた。昔懐かしいリズムを奏でるチャイムは、5時を知らせるものだ。
 もうこんな時間か。山田さんともう少し話していたかったけれど、そろそろ夕飯の支度をしなければ。

「山田さん、アドバイスありがとう」

 資料を片付け、帰る支度をする。立ち上がり玄関に向かおうとしたとき、山田さんがポツリと呟いた。

「これは私の経験なんだけどねぇ」

 その言葉に思わず立ち止まり、座っている山田さんを見つめる。その目は懐かしさと、少しの寂しさを湛えていた。

「私の旦那さん、それはそれはモテたんよ。私はそれがずっと不安でねぇ…愛想つかされないように必死だったわぁ」
「……」

 山田さんは優しく微笑みながら話を続ける。

「もしかしたら駐在さんは何か不安なのかもねぇ」
「不安……」

 まさか、あんな事までした奴だぞ?
 けれどそんな事はないと言い返すことはできなかった。


 それから家に帰り、正人と一緒に過ごした。
 ご飯食べて、風呂入って、愛し合って。いつもと同じ日常を過ごしたのだけれど。

 なぜか、山田さんの言葉がずっと心に引っかかっていた。
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