逃げられない檻のなかで

舞尾

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その後

翌四月1

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 この村に移り住んで早数ヶ月。
 季節は春に変わっていた。

 会社近くにある桜並木の下を通って帰る。桜は満開を過ぎ去り、少しずつ花びらが散り始めていた。
 桜が散る風景を見ながら一年前この村に来たことを思い出す。

 この田舎に初めて来た時、俺は何が何でも都会に帰ろうとしていたな。そして正人と知り合って、一緒に住むようになって、あの事件があって――

 本当にいろいろあった。ほんっとうに。
 俺の中でアレは事件だ。通報レベルの事件だ。俺じゃなかったら絶対正人の事嫌いになってたぞ。まあ、今の生活が心地いいから水に流すことにするけれど。

 とにかく、いろいろなことを乗り越え俺は今の平穏な生活を送っている。仕事も順調で、全て順風満帆……な、はずだったのだが。
 俺は今の生活でちょっと困っていることがある。

 それは夜の営みが多すぎる事だ。
 俺が休みの日の前日、必ず正人に求められる。互いに休みはシフト制だから、休みが被る日は殆んどないのだけれと、正人は次の日仕事だろうと絶対俺を抱く。

 しかも正人は絶倫なのだ。抜かずに何回もヤるせいで、次の日俺は家から出ることなどできなくなってしまう。
 俺ももう二十代後半。そんな十代みたいな体力も精力もないのだ。せめて週一にしてほしい。そして休みはゆっくり休みたい。もうずっと俺の休みが休みじゃなくなっているから。

 明日は俺の休みの日。今日こそ断るぞ!
 そう意気込んで家へと帰った。


「正人ー風呂、いいぞ」
「ありがとう」

 髪をタオルで拭きながら、居間でくつろいでいた正人に風呂へ入るように促す。風呂はだいたい俺が先で、その次に正人が入る。今日も同じ順番だ。
 ゆっくりと正人は立ち上がり、風呂場へと向かった。

 パタン、と風呂場の扉が閉まったのを見て、俺は行動を始める。
 風呂に入りながら考えたのだ。どうやったら断れるのかを。そして思い付いた。

 先に寝てしまえばいいのだ!
 なんでこんな簡単なことを思い付かなかったのか!

 先に寝てしまえば正人だって手を出さないだろう。きっと大人しく寝てくれるはずだ。
 だから俺は急いで髪を乾かして二階へと上がり、少し迷ったが自分の部屋に入った。

 村に戻って以来、夜はずっと正人の部屋で寝ている。
 というか村に帰ると正人の部屋にダブルベッドが置いてあった。正直ちょっと引いた。
 それを無視して今まで通り自分の部屋で寝ようとしたのだが、毎晩正人の部屋に連れ込まれてしまった。それは俺が働き始めるまで続き、なんだか習慣的になってしまったのでずっと正人の部屋で寝ていたのである。

 自分の部屋で寝ること、これで察してほしい。今日の営みは遠慮したいということを。
 ごそごそと毛布をめくり、布団の中にはいる。

 正人が自分の部屋に入るまで起きているつもりだったが、風呂上がり特有の暖かさと仕事の疲れで、うとうとしてしまう。
 結局、意識を保つことができず、俺は本当に寝てしまった。


「……か」
「……ん……」
「……遥」

 唇の柔らかな感触と、春特有の肌寒さに少しずつ意識が覚醒する。

 目を開けると、正人が俺に覆い被さっていた。布団は可哀想なことに、床に放り投げられている。
 なぜこんなことに?

「遥、俺達の寝室はこっちじゃないぞ」

 そう言われて思い出した。正人から逃げるために俺は自分の部屋で寝ていたのだ。
 正人が覆い被さっているこの状況は、完全に作戦が失敗してしまったということなんだろう。
 つーかこいつそういや寝ていても手出してたわ。俺が虫さされだと思っていたアレは、正人が寝込みを襲ってできていたものだった。 殆んど一年前のことだったから、すっかり忘れていた。

 正人が首筋をペロペロと舐める。手は俺のシャツの中に侵入しようとしていた。
 ヤバい。このままヤる気だ。
 焦りながら正人の手首を掴み、侵入を止める。こうなりゃ説得しかない。

「いや、連日ヤってるし、今日くらいはいいんじゃないかって。だから、別の部屋に……」
「遥」

 すると俺の服の上からちんこを揉みしだかれた。思わずビクリと反応する。

「ひぁっ!や、やめっ……」
「夫婦なのに別々に寝るつもりか?」

 手と手を絡ませ、指輪をなぞられる。そのまま両手をきゅっと握られ、俺たちはより密着した。
 耳に舌を這わせられる。ゾクゾクとした感覚が背中を走り、徐々に体の熱が高まっていった。

「俺はこんなに求めているのに」

 そして深いキスをされる。正人の舌が唇の中に侵入し、俺の舌と絡まりあった。
 ビクビクと反応する体はもう寝る事なんてできない。完全に火が着いてしまった。
 こうなってしまったらもうダメだ。俺はなんでも正人の言うことにしたがってしまう。

「一緒に寝るな?」
「寝る、ねるから……」

 こうして、なし崩し的にまた夜の営みが開始されてしまうのだ。
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