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しおりを挟むあがって。と言ってはキッチンの方へと向かった雅の背を眺め、お家デートだぁ……。なんて心の中でぼやいた春が頬を紅色に染め上げながら、雅の家を見回す。
ワンルームのその部屋は玄関から見て左手にキッチンがあり、右手にトイレや風呂場があるようで、そしてそのままリビングを兼ねている。
キッチンと部屋とを仕切るように置かれたこじんまりとしたチェアセットは黒色で、その後ろのリビングスペースに置かれたソファやテレビ台、パソコンが開かれたままのテーブルやラグ、そして窓側に寄せられたベッドも黒く、シックでシンプルな部屋は、まさに雅らしかった。
そして楽譜が立て掛けられた電子ピアノが置かれているのも見た春は、ここであの素晴らしい曲が作られたのか。とドキドキとし、その綺麗でお洒落な部屋をもう一度ぐるりと見回したあと、ちらりとベッドへと目を落とした。
だがそれから春は意識しないようにしようと慌てて目を逸らしたが、けれども不意に横から声をかけてきた雅に、盛大にビクッと身を震わせてしまった。
「春?」
「わっ!」
「えっ、なに。わはっ」
突っ立ったままの春に気付き、小首を傾げながら声をかけた雅だったが、一瞬きょとんとしたあと、おかしかったのか可愛らしく笑い、とりあえず座って。と春の手を握った。
それから狭い部屋をそれでも手を繋ぎながら数歩進んだあと、ソファへと春を座らせた雅が手を離しては軽く触れるだけの優しいキスをおでこに落とし、キッチンへと戻っていく。
その甘すぎる仕草も後ろ背も格好良く、春は破裂しそうな心臓のまま、ソファの上で自身の膝を抱えるよう、丸くなりながら悶えた。
「ううぅぅ、雅さんが格好良すぎる!」
そう素直に膝の間に顔を突っ込んで喚く春に、またしても雅が目を瞬かせ、だがそれからふはっと笑った。
「なんだそれ」
「だってなんか、こう、大人で余裕な感じが……!」
「……余裕じゃない」
「へ、」
「……春が俺の家に居るとか夢みたいで、今心臓が口から飛び出てきそうなほど、緊張してる……」
「っ!」
ポリポリと襟足を掻きながら雅が視線をそらしそう呟けば、分かりやすく春が息を飲む。
その音に、……あーまじでくそダセェ。と雅は恥ずかしさで顔をほんのりと赤くさせながらも、いやでもずっと片思いしてた相手がまさか今恋人として自分の家に居るんだぞ。緊張しない奴なんていないだろ。と開き直っては、キッチンからリビングのソファに居る春をちらりと見た。
「……まじで俺の方が余裕ないと思うから、あんまり煽んないでね」
「あ、煽っ!?」
「……そういう可愛い顔、あんましないでって事」
「なっ、なに言っ、」
ボンッと顔を真っ赤にし口をパクパクとさせる春に、……いやまじでヤバい。このシチュエーションが既にヤバいのにこんな可愛い春が俺の恋人だと思ったら、ちょっともう……。と目元を手で覆った雅は、しかし一度上を向き深呼吸をしたあと、気分を変えるべくすぐ側の冷蔵庫を開けた。
「……コーヒー……、は飲めないんだったな、ごめん、お茶か水しかないけど、」
「……あ、じゃ、じゃあ水が、いいです」
「……ん」
先ほど熱烈なキスをかわしたというのに、やはりどことなくぎこちない空気が二人の間に流れてゆく。
そのアンバランスさはされど甘酸っぱく、雅はちょこんとソファに座り直している春を見て、……うあぁ……。と今更ながらじわじわと実感が出てきたのか、まじで俺人生の運をここで使いきってしまったのかもしれん。だなんて馬鹿な事を考えながら、ミネラルウォーター片手にリビングへと向かったのだった。
***
そんなぎこちなくも甘い空気の中、それから雅は冷蔵庫にある物で軽く夕食を作り、春は凄いと何度も言いながら美味しい美味しいと喜んでくれ、そんな春に雅は別に凄くないだろ。なんて言いながらも恥ずかしそうにはにかんでは、二人は部屋に来た時よりも随分と穏やかに食卓を囲んだ。
──そうして、夜も深まった頃。
交互に風呂に入ってはベッドに隣同士に座り、しかしお互いにソワソワとし出してはどちらともなく手を握り合って、二人は触れるだけのキスをした。
それは本当に幼稚で軽く、可愛らしいキスだったが、うっとりと目を閉じて気持ち良さそうにしている春は、破壊力満点で。
身長はほぼ変わらないというのに、筋肉質だが雅よりも細い春は、雅のスウェットの裾をだぼつかせている。
そんな妖艶でもあり可愛すぎでもある春のお風呂上がりの姿と、彼シャツならぬ彼スウェット姿に雅は、死んでしまうかもしれない。と鼓動をドコドコと高鳴らせながらも、春の可愛い可愛いキス顔を盗み見ては、そっと薄い背中に腕を回し、ベッドへと優しく押し倒した。
……ギシッ。と軋むベッドの音が、二人きりの部屋に響いては溶けてゆく。
だがそれでも一度もキスを止めることなく雅が口付けをしたままでいれば、春もまた、するりと腕を雅の首へと回し、もっと。とねだるだけで。
それに調子づいた雅が春の上に乗り上げ、しかしその瞬間、互いの下半身がぶつかり二人ともビクッと体を跳ねさせてしまった。
「んあっ!?」
「っ、く、」
急な刺激に堪らず声を漏らした春のスウェット越しの陰茎は、キスだけだというのにもうすっかり勃ちあがっている。
だがそれは雅も同じであり、スウェット越しに勃起した陰茎が春のモノと擦れる感触に、雅が小さく声を出す。
その、お互い体の芯を熱くさせている事に気付いた二人は顔を赤らめ、しかし春は雅の肩を握り、そして雅は春の顔の横に手を付いたまま、ちらりと春を見た。
「……はる、」
「……ぅ、はい……」
「……触っても、良い?」
「っ、は、はい……」
「……うん」
「……っ、」
「……ふく」
「へぁっ?」
お互いぎこちなく意味のない頷きをしたあと、ポツリと呟いた雅。
しかしその言葉に春は緊張から変な声を出し雅を見つめ、そんな春の瞳から視線を逸らしつつ、されど雅が春のスウェットの裾を握った。
「服、脱がせたい。春の体をちゃんと見たい」
あけすけに言い放つ雅のその言葉に息を飲み、とうとう湯気を立たせそうなほど真っ赤になった顔を覆っては、呻いた春。
「っ、う、ぁ……」
だなんて漏れる声と春の初すぎる反応に雅も恥ずかしい想いでいっぱいだったが、それでも、脱がすから。と有無を言わさず服を捲り上げ始めれば、露になる春の美しい腹筋に雅は露骨にごくりと唾を飲み込んだ。
薄いが、綺麗に筋肉が付き割れた腹。
滑らかで美しい、キメ細やかな白い肌。
それから可愛らしくツンと尖ったピンク色の胸の突起に、ズクン、とより一層重くなる腰。
男の、というよりは誰かの体にこんなにも興奮する日が来ようとは。だなんて雅は今まで自身をセックスに関して淡白だと思っていた事が間違いだったと認識しながら、春の全てが美しい。と恍惚の表情を見せ、興奮しすぎて鼻血出たらどうしよ……。なんて馬鹿な事を思いつつ目を細めた。
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