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君と恋を~誠也とカイの話~
誠也×カイ その後 2
しおりを挟む「おし、これで完璧だろ」
なんて腰に手をあてながら笑った海の隣で、誠也も、最高じゃん。と相づちを打つ。
その誠也の台詞に、だろ。とまたしても得意気な顔をした海が見下ろしているのは、ベッド横の小棚の上に置かれたランプで。それは、あれでもないこれでもないと海が散々悩み、つい先程やっと見つけたのか、一目惚れだと買ってきたものだった。
それを嬉しそうに見つめている海の横顔が可愛らしく、誠也は海を抱き寄せそっと触れるだけのキスをした。
ちゅっ、ちゅっ。と寝室に響く、可愛らしいリップ音。
二人とも口元に笑みをたたえたまま唇を啄み、海がゆるりと誠也の首に腕を回せば、反る背中を支えるよう誠也の大きな手が添えられる。
「ん、ふっ、」
海の口から吐息混じりの声が漏れ、いつしか絡まり合った舌が、くちゅりと音を立てた頃。
ぞわぞわと走る快感に海がふるりと震えた瞬間、そのまま押し倒され、横のベッドへと二人倒れ込んだ。
「っ、あっぶね、」
スプリング音が部屋を裂き、突然の事に目を丸くした海が急に押し倒された浮遊感にバクバクと心臓を鳴らしたまま誠也に向かって非難の声を浴びせたが、当の本人は、
「わははっ、ごめんなさい」
なんて微塵も思っていない謝罪の言葉を吐いては、海の上に股がったまま。
その軽さと、それでもじとりと見やる瞳の奥にありありと劣情が揺れているのが見てとれ、海は堪らずうぐっと喉を鳴らし、視線を逸らした。
首元にひたりと掌を当てゆるりと撫でながら顔を近付けてくる誠也に、カーテンの隙間から覗く未だ明るい外の景色をちらりと見た海が、
「……まだ、昼だろ」
とやんわり肩を押し返そうとしたが、その掌をぱしりと掴んでは引き寄せ、熱烈な瞳で海を見た誠也は海の指先にキスを落とした。
「今したい」
指先に微かに唇が触れただけなのに、擽ったいようなもどかしい快感が背筋を走ってゆく。
それに身を揺らし、小さく吐息を溢した海は、
「っ、分かった、けど、準備、してくるからどけ」
なんて観念したかのように了承し、けれども、待ってろ。と言わんばかりに誠也を見つめた。
その、睨んでいるつもりだろうが目尻を紅色に染め上げ上目遣いになっている海の破壊力満点な恥じらい滲む表情に、誠也がごくりと息を飲む。
そして、俺がするから。と呟いては、逃がさないと言わんばかりにそのまま首筋に顔を寄せ、するりとシャツの隙間から掌を侵入させれば、海が上擦った声を上げ身を捩った。
「うあっ、」
首から鎖骨にかけてを舌先でなぞり、さわさわと掌で海の腹筋や薄い脇腹を撫ぜてゆく、誠也。
その些か性急な手付きに海も荒い息を吐き、
「せい、や、それ、いい。そんなんしないでいいから、も、早くいれろ……」
なんてまたしても悩殺級の台詞を口にしたが、けれども誠也はずっと前から感じていた違和感にぴくりと眉を寄せ、愛撫を中断し海を見た。
「っ、せいや、」
そんな誠也の僅かな不機嫌さを知らず、首に腕を回し、甘やかな声を出しては誠也の名を呼ぶ海。
すっかりスイッチが入っている海のその甘えるような仕草に流されてしまいそうになった誠也だったが、いやいやいや、ここでまた流してたらタイミング逃すでしょ。と己を叱咤し、「うみさん」と名を呼んでは首に絡まる腕を取り、じっと海を見た。
そこでようやく誠也の異変に気付いたのか、あ? と間抜けな顔をして海が誠也を見つめ返したが、その瞬間、ガバッとシャツを捲りたくしあげてきた誠也に海は瞳を丸くし、うぁ! と情けない声を出してしまった。
「はっ!? なんだよ!?」
若干パニックになりながら海が誠也の手を掴み服を下ろさせようとするが、マウントを取られているせいか上手く力が入らず。
やめろと首を振ってみたが聞く耳もたずといった態度でじっと自分を見つめてくる誠也に、海は羞恥で顔を赤くし、それから下唇を噛んでは堪らず視線を逸らした。
「も、なんなんだよ。いやだ……、やめろって、せいや……」
そうぽつりと呟いては目を腕で隠し、何故だか出てきた涙にグスッと鼻を鳴らす海。
その仕草に、誠也は自分が抱えていた疑問が確信へと変わった事を、知った。
「なにが嫌なの、うみさん」
「なにがって……、とりあえずそんなんいいから、服、放せって」
「嫌。ていうか何にも良くないんだけど」
「なに、ほんと意味分かんねぇんだけど。なんで怒ってんだよ?」
本当にこの状況が理解出来ず、海が腕で顔を隠したままそうぼそりと呟けば、「うみさん、顔」なんてまたしても乱暴な手付きで誠也が腕を掴んでくる。
普段まるで壊れ物を触るかのような優しい手付きで触れてくる誠也の、その普段とはまるきり違う力強さで有無を言わさず無理やり腕を退かされ、恥ずかしさやら憤りやらで堪らずぽろりと目の端から涙が溢れた事を自覚し、なんでこんな雰囲気になってんだよ。と海がグスグス鼻を鳴らしながら誠也を見る。
そうすれば誠也がじっとこちらを見ては指で涙を拭ってくるので、先程までの強引さと今の優しい指先の感触にやはり訳が分からず、海はううっと嗚咽を溢しながらも、無意識に誠也の指にすりっと目尻を擦り寄せた。
滲み歪んだ世界が晴れ、じっとこちらを見つめてくる誠也の瞳と視線がぶつかる。
どこか悲しげな表情のまま見下ろしてくる誠也に、なんでそんな顔してんだよ。と問い掛けようと、海が口を開いた瞬間。
「ねぇ、うみさん。なんで俺にちゃんと裸見せてくんないの?」
なんて言われてしまい、海は思わず口をつぐんでヒュッと喉を鳴らした。
一瞬にしてどっと汗が吹き出すような感覚がして、指先が緊張で強張るのが分かる。
口のなかがカラカラに乾いていく気持ち悪さに、無い唾をなんとか飲み込んだ海はどうやって誤魔化そうかと考えあぐねたが、誠也がそう易々と折れてくれる訳はないと知っているからこそ、やっとの思いで、
「……って、」
と小さく呟いた。
「なに?」
「だって……」
「うん」
「……俺、男だから……」
「……はい?」
「っ、だから、俺、胸なんかねぇし、むしろアバラとか浮いてて気持ち悪ぃし、お前が俺の事好きって言ってくれてる気持ちを疑ってるとかそういう事じゃねぇけど、……けど、やっぱ女を抱くのとは全然違うだろ」
段々と尻すぼみになっていると自覚しつつ、とうとう言ってしまった。と海が誠也から視線を逸らし、またしても下唇を噛む。
ずっとずっと、あえて避けていた事。
目に見えて分かる女との体の違いに、海はずっと悩んでいたのだ。
自分を好きだと言ってくれる誠也のその気持ちに、嘘がないのは勿論分かっている。
けれども、どこからどう見ても男のこの体まで全てまるっと愛してもらえるのかはまた別の問題だとも分かっていて、だからこそ海は誠也の反応を見るのが、怖かったのだ。
初めて体を繋げた日も、お互い繋がるという事ばかりに意識を集中し過ぎていて服を脱がずに事を始め、楽らしい。というネットの情報を信じバックからなんとかやっとの想いで繋がる事が出来た。
そんな初体験を終えたからこそ、海はやはり自分の体は男だと思い知らされたのだ。
柔らかさの欠片すらないだろう体に、漏れるのは押し殺せなかった野太く汚い声ばかり。
本来排泄する為の場所なのでやはりどちらも辛く、突っ込み脂汗を浮かべていた誠也の姿を痛さで全身が張り裂けそうになりながら振り返り見た時、自分達は何をしているのだろう。と海は不覚にも泣きそうになってしまったのだ。
子どもが出来るわけはなく、それでも快楽とは程遠いこんな行為になんの意味があるのだろうか。と怖くなり、けれども後ろから抱きすくめられながら名前を呼ばれ、苦しさで涙が絶えず出続けてしまいながらも一体になれたような感覚が嬉しくて、背中に当たる誠也の体温がひどく愛しくて、幸せだった。
だからこそ、海は誠也に体を見せる事が怖くなってしまった。
日が経ち誠也が余裕を見せ始め、セックスを楽しむようになってもその得も言われぬ恐怖感は拭えず。暗がりでなら服を脱げるようになっても、痛いから。と言い訳をしては、向かい合ってセックスをする事を避けていた。
そして自身も徐々に痛さだけではなく気持ち良さが上回っていったが、だとすれば快楽に溺れだらしない表情をしてしまっているだろう自分を見せる事が怖く、何より膨らみなんてない胸を見られる事が、海にはとても怖かった。
この体で少しでも楽しんでもらうにはどうすれば良いのだろう。
どうすれば少しでも女としている時と変わらず見えるのだろう。
そう考えた結果がこれで、海はあまり服を脱ごうとはせず、脱いだとしてもバックからしか繋がらないので背中だけなら大丈夫だろう。という結論に至ったのだ。
最中は必死に声を押し殺し我慢するようにしていたが、だからなのかその反動で好きが溢れて誠也の腕に顔を擦り寄せてしまう癖が出来てしまい、それがここ最近の悩みだったのだが、セックスについては上手くいっていると思っていた。
だからこそ誠也の予期せぬ怒りや問い掛けが辛く、海はまたしても泣きそうになりながら、ずびずびと鼻を啜った。
「……男の体見たって楽しくねぇだろ。だから俺なりに色々考えて……、なのになんでそんな怒ってんだよ」
……ああもう最悪だ。こんな事で感情的になって泣いて、不細工な顔晒して、なにやってんだ。と海がやるせなさでいっぱいになっていれば、
「……うみさんってほんとばかだよね」
なんて溜め息混じりに誠也が呟いたので、……言うに事欠いてそれかよ! と海は堪らず誠也を睨んでしまった。
「ばかだよ。ほんとばか。ばかすぎ」
追い討ちをかけるよう“ばか”を連呼してくる誠也に言い返そうと口を開いたが、びたんっと両の頬を大きな掌で包まれ、
「うみさんはさ、誰と結婚してんの?」
なんて有無を言わさぬ瞳で答えろと視線を合わせてくる誠也。
じんわりと温かくなる頬とその鋭い視線に、海は馬鹿正直に返事をしてしまった。
「誰って、お前じゃん」
「……うん。じゃあなんでうみさんは俺と結婚したの?」
「……す、好きだからに決まってんだろ」
「そうだよね。じゃあさ、俺は誰と結婚してんの?」
「は?」
「俺が結婚してんのは、誰」
「誰って、……俺」
「そうだよね。じゃあなんで俺はうみさんと結婚したか分かってる?」
「……さっきからなんだよ」
「いいから答えて」
「……チッ……、そりゃ、お前も、その、俺が好きだから、だろ」
「そう、当たり。俺、うみさんの事大好きなんだよ」
そう言って笑う誠也に、いやだから知ってるって。と海が困惑の表情を浮かべれば、
「女の子でもなくて、その辺の男でもなくて、うみさんが、俺は好きなんだよ。言ってる意味分かる?」
なんて言いながら、誠也がこつんと額を合わせてくる。
その問いにハテナマークを浮かべた海に、まだ分かんないの? とゴンッと頭突きをし、
「好きな人の裸見たくない人間なんて、この世に存在するとでも思ってるの? 俺の気持ちはちゃんと理解してるのに、ていうかむしろ結婚までしてるのになんでそこが繋がらないのか、ほんと謎なんだけど」
と笑う誠也に、海はようやく誠也が何を言わんとしているかを知り、はっと息を飲んだ。
ぶつけられた額がじんじんと痛んだが、それよりも今言われた言葉に今まで自分が考えていた想いの卑屈さと間抜けさを自覚した海が、カァッと頬を染め、わなわなと唇を震わせる。
……俺、ほんとに馬鹿だ。いやでも誠也が俺の体見たいとか思ってるなんて考えねぇだろ普通。なんて顔を掌で覆っては唸り声をあげる海。
だが心のなかでいくら言い訳を溢してみても、この半年ぐらいの悩みが途端に馬鹿馬鹿しく思えた海は、木っ端微塵に消え失せた恐怖心に堪らず吹き出し、ったく、なにやってんだ俺。と一人相撲していた事を恥じた。
「ね、うみさん。顔見せてよ」
不意にそう甘く囁かれ、びくんっと身を震わせながら海がそろりと指の隙間から、誠也を見やる。
そうすれば蕩けそうなほど甘い瞳で自分を見ている事に気付き、ドクンッと心臓が高鳴ってしまった。
……もしかして、セックスしてる最中ずっとそんな顔してたのか? と焼けるようなその熱視線にくらくらと目眩がしてしまいそうで、海がハァッと堪らず熱い息を溢せば、そっと誠也が腕を取り顔を覗き込んでくる。
「……ぁ、」
「ねぇ、さっき色々考えて、って言ってたけど、もしかしてずっとバックでしかさせてくれなかったのもわざとだった?」
「……」
「うみさん」
「……そ、うだよ」
「全然俺に前戯とか準備とかもさせてくんなかったのも、声我慢してたのも、」
「……だって、普通引くだろ」
「……ハァ~~……、もうほんとばかじゃん! なんか理由あるのかなって俺なりに悩んでたのまじで無意味だったって事じゃん! まじでいい加減にして欲しい!」
なんて言いながらむにむに頬をつねってくる誠也に、「わ、悪かったって」と呟いたが、
「許さない。今までどんな顔して俺に抱かれてたのかとか、声とか、体とか、全部見せてもらうまで許さない。いっとくけどもう遠慮しないから。俺に愛されてるって、ちゃんと自覚してもらうまで、まじで許さないから」
とばっさり言い捨てては、見下ろしてくる誠也。
それに、ま、まじで言ってんのか? と表情を引きつらせた海だったが、誠也はのそりと体重をかけてくるばかりで、やはりそう簡単には許してもらえはしなさそうだった。
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