【完結】君と恋を

文字の大きさ
上 下
59 / 65
君と恋を~誠也とカイの話~

誠也×カイ その後 1※

しおりを挟む
「なかなか便利なものだな」

 網の上にカマンベールチーズやオイルサーディンを並べていると、ソランツェが焚き火台を見ながら感心している。
 網が乗せられるこういう器具はないそうで焚き火は地面に直で火!らしい。そして、焼きたい肉や鍋は三脚(トライポッド)で吊り下げる。土魔法が使える人は簡易的なかまどを作ったりするみたいだけど。
 へえ、そうなんだと言いながら、網付きの小さい折り畳み焚き火台とメスティンやシェラカップをセットにしてここで売ったらソロ冒険者に売れそうじゃない?とかもっとシンプルにトライポッド用に吊り下げられる網の製造販売を考えたけど、どう作ればいいんだろう?鍛冶?魔法でいけるかな?

 今後考えてみようと思った所で、チーズやオイルがぐつぐつして来たので火力の弱めの所へ移動し、空いた場所にステーキ肉とウインナーを置く。美味しく焼けろよ~。

「リヒト、袖が危ない。今、火が付きそうだった」
「火に油だもんな」

 どうも肉の油で火が燃え上がり袖がやばかったらしい。無駄に袖口広いからひらひらしてるんだよな、この派手な上着。

「ほら、脱げ。椅子に置いておくから」
「ん、ありがと」

 ソランツェに脱がせてもらいながら、オイルサーディンの味付けをしたりチーズをかき混ぜる。うーん、美味しそう。
 皿にチーズを付けたパンとウインナーを取ってソランツェに手渡す。

「はい。ソランツェ、これ先に」
「この白っぽいのは何だ?」
「チーズだよ。判る?」
「固形の物は知っている。……食べた事はないが」
「これね、チーズフォンデュっての。熱で溶かしたチーズにパンやウインナーとか付けて食べると美味しいんだよ」
「ウインナー?」
「あ、ソーセージって言った方がいいのかな?判る?お肉といえばお肉かなあ」
「ソーセージとやらも聞いた事はないが……」
「じゃあ、パンから食べてみて。ほい、あーん」

 ちょっとふざけてあーんとしてみたら素直に口を開けるソランツェにそのままチーズの付いたパンを食べさせる。と、耳が横にぺたんとしてしっぽをブンブン振りだした。

「美味い」
「あは。よかった。じゃあ、次はこれ」

 あーん、とウインナーも口へ入れると、これまたブンブンしっぽが揺れている。
 喜んでくれているんだなって嬉しくなるね。こんなのステーキ肉食べたらどうなっちゃうんだろう?しっぽ千切れるんじゃない?
 さて、そんなソランツェを見ながら俺は椅子に腰を下ろしオイルサーディンとビールで一杯!美味~い!
 ソランツェにもビール勧めたけどお酒飲まないんだってさ。気にせず飲めと言われたので気にせず飲んでやる。



「そろそろお肉もいい感じ~!」
「っ、リヒト?!」

 肉はいい感じで焼けたかなと思って、勢いよく椅子から立って肉の様子を見ようと少し中腰になっていたら何やら横からソランツェの慌てる声がする。
 何だ、どうした?と顔を向けてみれば顔を赤くしたソランツェが一点を見つめ固まっている。

「え?どうし――」

 ソランツェは俺の横で小さい折り畳み椅子に座っていたので、目線の位置が中腰で立つ俺の下半身に……おっと?俺の脚……


「わあああああ!!」
「すまない!見るつもりはなかった!!」
「あああああああ!!!」


 さっき立ってた時に、すっかり忘れて上着脱がせてもらったけど、あれは脱いじゃ駄目なんだった。Oh……。
 ソランツェにはアシュマルナにやられた無駄に開いたスリットから俺の下半身が見えたようで……、どこがどう見えたかは怖くて聞けない。
 慌てて脱いでいた上着を腰に巻き羞恥にぷるぷる震えていたら、顔は未だ赤いが我に返ったソランツェから

「……そんな扇情的な服と下着は止めた方がいいぞ」

 と、有難いご忠告を頂いた。

「そこに俺の意思はないんだよ……」


 俺、泣きそう。




++++++



 その後、お通夜みたいな雰囲気の中ご飯を食べた。
 ソランツェがこの肉美味しいなって一生懸命盛り上げてくれたけど俺のテンションは暖簾に腕押し糠に釘状態だった。ごめん、変なもの見せて。



 片付けも終え、今日はしっかりシャワーテントも用意してのお風呂を準備する。ゆっくり浸かって傷を癒やしたい……。ポータブル浴槽は小さいからそんなにゆったり出来ないけども。

「貴重な水なんだがなあ……」

 早く入りたいなと思いながら浴槽にお湯の準備をしているとソランツェが横に来てちょっと難しい顔している。アシュマルナのおかげと理解はしていても複雑らしい。

 この世界、聞く限り水路はあるが日本みたいな便利な水道設備はない。水路と言っても排水用で、生活用水や飲用出来る水は井戸からか魔法で生み出す。
 しかし、そもそも魔力と引き換えに水を生み出せる水魔法が使える人はごく少数しか生まれないらしく、十歳の時に行われる適性判定で水属性が使えると認められるとすぐに国や貴族に連れて行かれる。衣食住面倒見てやるので高貴な我らの為に常に水を生み出せって話らしい。
 で、自分達はそれで水は確保出来ているので平民たちの為の生活用水・飲用水の水路整備がなかなか進まない。やってはいるらしいけど。だから、現時点での平民の水は基本的に井戸からで貴重なもの。
 お風呂なんかは水が豊富に使える王族とか金持ち貴族のもので、水が貴重な平民は体を濡らした布で拭くのがメイン。冒険者の人とかは綺麗な泉や川があればそこで水浴びしたりするらしい。なんつーか、衛生環境大丈夫なん?て思うわ。
 まあ、そんなんだから、ソランツェはこの車内の簡易キッチンの蛇口から飲用もできる綺麗な水が延々と出る仕組みには一番驚いていた。
 その時に俺自身も水魔法使えるよって目の前で水球を何個か作ったら、人前で水魔法は使わないようにと注意された。連れて行かれたくないから守りましょう。



「ソランツェも入るだろ?」
「は?!」

 湯の準備も出来たし、ボディソープとかタオルやら着替えを出しながら訊くと、吃驚した声を上げて固まってしまった。
 そして、みるみる内に顔が赤く――

「え? あ! ゴメッ、一緒にって訳じゃなくて、後で、俺の後でって事! 先でもいいけど!」
「い、いや、そうだな! スマン、つい……いや、あの」

 夕食時の光景が思い出されたって事だよね。お互い顔を真っ赤にしてしばし見つめ合ってしまった。いい大人二人でウブかよ。



 よし、風呂で泣こう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

処理中です...