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その後の二人
一ヶ月後の解禁話 1
しおりを挟む「ねぇ裕、ちょっと休憩しようよ」
そうひょっこり扉から顔を覗かせた蓮がにっこりと笑うので、自分の荷物でいっぱいになった部屋を一度ぐるりと見回した裕は、うーんそうだな。と腰をあげた。
至る所に置かれた、段ボールの残骸。
それがなんだかむず痒くて、裕は蓮がキッチンでコーヒーを淹れてくれているのをリビングのソファに座りながら待ち、
『あのさ、一緒に暮らさない?』
とあの揉めに揉め、なんとか無事元サヤに戻ったその翌日、ネックレスをお店で直してもらい家に帰ったあと、俺が付けるよ。と蓮が後ろに回りこんでつけてくれた時に言われた言葉を、思い出していた。
驚く裕に、ほら、ゆうこちゃんに家に勝手に入られたりとか防犯の面で不安だし。なんて言ったあと、それからぎゅっと抱き締め、
『……ていうのは建前で、ほんとは俺が裕とずっと一緒に居たいからなんだけど……』
なんてすりっと首を鼻先で擽られながら言われた裕は、気恥ずかしさと嬉しさに目尻をぽわんと染め、小さく頷いたのだ。
──そうしてあれよあれよという間に蓮の家への引っ越しが決まり、こうして荷ほどきをある程度終え、これから蓮との暮らしが始まるのかぁ。なんてもうけっこう入り浸っていたにも関わらずなんだか新鮮な気持ちになっている裕がソファにくたりと沈んでいれば、
「なんとか今日で終わりそうだね」
なんて手にマグカップ二つを持ち、片方を裕へと差し出しては笑う蓮が隣に座った。
きしりと揺らぐソファ。
鼻を擽るコーヒーの良い香りに、さんきゅ。と呟きながら両手で受け取った裕がフーッフーッと息を吹き掛け、
「……にしても、色んな事がとんとん拍子に進みすぎて、なんか不思議な感じする」
と目を伏せ小さく笑えば、するっと肩に腕を回された。
「俺は嬉しいなぁ。これから毎日裕と一緒に居れるなんて、夢みたい」
そうふにゃりと眉を下げ嬉しそうに笑う蓮のだらしない顔に、ぷっと吹き出した裕。
それからその肩にこてんと頭を乗せ、俺も。と小さく呟いた。
リビングの窓は開け放たれ、そこからふわりと吹く春めいた風が、静かにカーテンを揺らしている。
その穏やかな景色を眺め、……幸せだなぁ。と一人ごちた裕だったが、ふとダイニングカウンターの上に置かれていたカレンダーが目に留まり、今日までの日付全てにバツがされていて、なにあれ。と指をさした。
「なんでバツしてんの?」
「ん? ……あぁ、あれね、」
裕のその素朴な疑問にカレンダーを見たあとずいっと顔を寄せ、
「裕にセックス禁止令出された日から一日過ぎるたびにバツしてるんだよ。3月のカレンダーにはちょうど一ヶ月目の日にちゃんと花丸もしてるし、その日と次の日はアリさんに俺達お店休むってもう言ってあるから」
なんて、忘れてたなんて言われて期限を伸ばされたら堪んないからね。と言わんばかりの顔で笑い、ちゃっかり休みまで取ったと告げてくる蓮に、裕は目を見開き、それからなんだか気恥ずかしくて視線を逸らしつつも、口を開いた。
「別にそこまでせんでも……ていうか忘れねぇし。俺だって我慢してんだから……」
だなんてぽつりと呟く、裕。
そうすれば一瞬の間のあと、マグカップを手から奪いテーブルに置いた蓮に腕を引かれ、どさっとソファの上に押し倒されてしまった。
「もーなんでそういちいち可愛い事言うの!?」
へ、と間抜け顔で蓮を見やる裕に馬乗りになった蓮がそう言いながら、むぎゅむぎゅと抱き締めてくる。
それに、いてぇ! つうか可愛い事とか何も言ってねぇし!なんてケタケタ裕が笑い声をあげれば、ぐりぐりと肩に顔を押し付けながら、蓮も笑った。
「あ、そうだ」
「ん?」
「ずっと言うタイミング逃して言えてなかったんだけど、俺、ゆうこちゃんとは何にもしてないからね」
「へ?」
「セックスどころか、キスだってしてないから」
まぁキスはやむを得ずしそうになってたんだけど。とはあえて言わず、でも本当に神に誓って何もしてません。と蓮が真剣な眼差しで裕を見つめれば、裕は一度ぱちくりと瞬きをしたあと、へぇ、そうなんだ。と興味のなさそうな声で返事をした。
「……信用ないよね」
「いや、信じてないわけじゃねぇけど、」
「……けど?」
「蓮があの子とキスとかエッチとかしてても、別に気にしねぇなぁと……」
そうぽそりと呟いた裕に、え、さすがにそれは俺の事に興味なさすぎない? それはそれでめちゃくちゃ悲しいんだけど。と表情を曇らせた蓮の顔を、裕は一度溜め息を吐いてからむんずと両の掌で挟んだ。
「お前が好きなのは俺だってのは分かってたし。だから蓮の本気のキスもエッチも、全部俺のもんじゃん。そんなんで違う女抱こうが何しようが屁でもねぇよ。むしろキスとかエッチとかしちゃってても、蓮の本気を貰えないその子に同情するレベルだっつうの」
なんて言い切り、少しだけ身を起こしてちゅっと触れるだけのキスをした裕。
その自信満々な台詞と、可愛らしいキスに心臓をギュンッと絞られたような甘い痛みで体を震わせた蓮は目を見開き、それからもう堪らないという風に、裕をきつくきつく抱きすくめた。
「ぶっ、いた、いたいって鼻潰れてる!」
「そんなん知らないよもう! 可愛すぎる裕が悪い!」
「はぁ!?」
「はぁ~~もう可愛すぎる……」
天にも昇りそうな気持ちでそう呟いた蓮の言葉に、ぷっと吹き出した裕が乱暴に蓮の髪の毛をぐしゃぐしゃと撫ぜ、
「ほんとお前の趣味は分からん」
とそれでも歯を見せては嬉しそうに笑うので、蓮はもうこのどうしようもないほどの愛しさとトキメキに潰されて死んでしまうのではないかなんて思いながら、早く花丸の日になる事を願うばかりだった。
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