【完結】君と恋を

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第三章

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 そして月日が流れるのは早いもので、蓮による誠也への突然の一位争い宣言から、もう半月が過ぎようとしていた。

 中間報告では誠也が一位を守り続け、そして二位がカイといういつも通りの順位だったが、しかしその次にはなんと宣言通り怒濤の追い上げを見せている蓮がカイと僅差で三位にランクインしており、波乱の展開を見せていた。

 そうなれば当然盛り上がるもので。誰が一位を取るのか。と、誠也とカイ、或いは蓮の三者の争いムードが漂い始めていて、その熱にあてれるよう、お店は毎日大繁盛となっていた。

 そんなお祭りのような雰囲気のなか、蓮の追い上げに面白くなさそうにしているカイ一派が何か起こすのでは。と気が気じゃないまま不安を抱えている裕だったが、内勤として覚えなければいけないこと、やらないといけないことはどんどんと増えていくばかりで、目まぐるしい日々をこなすので精一杯だった。


 そして今日も男本(ホスト全員の顔写真や簡素なプロフィールが載っているメニュー本で、新規のお客様はこの本の中から好みのホストを選ぶ事ができる)片手に、裕はガヤガヤと煩い店内の中で待ちのソファに座る女の子二人に向かって、膝を付きメニューを見せていた。
 愛想笑いもだいぶ上手くなった裕は、お兄さんは指名できないの? なんていう冗談も軽やかに受け流せるようになっており、ははっと笑いつつ促せば、やはり見目の良い蓮とカイ、それからナンバーワンという見出しに惹かれるのであろう誠也で迷っているようだった。


「んー、じゃあこの人で」

 数分悩んだ末、女の子が指を指したのは、蓮で。
 その言葉に裕は、いつも蓮が指名されるたびなんとも言えない誇らしいような、それでいて少しだけざわっとするような気持ちになってしまうのだが、平静を装って、かしこまりました。と笑いながら席へと案内をした。


 キラキラと色とりどりの照明で照らされた、席数が30前後の、一般的な中箱の店。
 だが店内は熱気と活気に溢れており、その一席に先程の女の子二人を座らせた裕は盛り上がりを見せている蓮の卓へと向かい、こっそりと耳打ちで、「あっちの席、新規でお前指名だから宜しく」と引き抜きの言葉を掛ければ、分かった。なんて蓮が立ち上がった。

「ごちそうさま。ちょっと待っててね」

 そう女の子に声を掛け、それから然り気無く裕の腰を一度くっと引き寄せては、

「……ね、今日俺、そろそろちゃんと休めよってアリさんに怒られたせいで一部で終わりになったからさ、どこか二人で出掛けない?」

 なんて、蓮がこそっと耳打ちで問いかけてくる。
 その突然の近さと言葉に裕は、……こいつ仕事中に、しかも女の子たちが見てる前で……! と顔を赤くしてしまったが、きっと女の子達からはホストと内勤が何か打ち合わせをしているだけにしか捉えられていないだろうという事まで計算した上での行動に、……やっぱタラシだ。と少々ぶすっとした顔をして、机で見えないのを良いことに蓮の足を軽く踏んだ。

「(仕事中に私語は厳禁だろばか)」

 なんてじろりと蓮を睨む裕。
 それに、いったぁ。なんて呟き、それでも笑顔のまま蓮が席を離れていく。
 しかし、その後ろでは蓮が抜けた穴を埋めるヘルプとして付くため待っていた瑛が居り、ばっちり一部始終を見ていたようで、……お前ね。と蓮に対して苦笑いを浮かべていたのだった。



 ──そんな賑わいを見せる店のなか、裕は上手くお店を回すため石やんや他の内勤と連携を取りつつ必死に頑張り、そしてそろそろ一部が終了するその間際、突然蓮の席で、

『ドンペリ、ロゼ入りましたー!』

 というヘルプからのコールが響いた。


 その高級ボトルコールの声に、一気にざわつく店内。
 それに一瞬だけ呆けてしまった裕だったが、慌ててバックヤードへと向かい、けれども優雅に席へと持っていけば、蓮の席を囲むようホスト達が並び一斉にコールが始まった。

『いいオトコー! はい、いいオトコー! 蓮くんなんでそんなにいいオトコ!? いいオトコ! ホントにイケメンいいオトコ!』

 なんていうイケメンだからこそ通用するコールがかかり、蓮はその中央で両手を広げ、煽っていて。
 そしてコールが鳴り終わったと同時に、グイッとグラスを呷った蓮に、周りから歓声があがる。
 その割れんばかりの声のなか、蓮は女の子の肩を抱きありがとうと微笑んでいて、その姿に裕は少しだけ胸が痛んだ気がしたが、煌めく照明を背にきらきらと輝いている蓮はとても格好良く、ぼうっと見惚れてしまった。




***



「おつかれさま」

 営業も滞りなく終わり、内勤としてのホールの片付けを終えスタッフルームへと向かえば、ソファに座り裕を待っていた蓮が、そう声を掛けてくる。
 その声に、蓮もおつかれ。と裕も笑ったが、

「お前なぁ、ホールであんな事言ってくんなよ」

 と言いながら着替えようと、ロッカーを開けた。

 だが、何も言わない蓮がそれでもじっと自分を見ている気がして、裕はそろりと後ろのソファに座っている蓮を見た。

 そうすれば、やはりじっと見ていた蓮と目が合ってしまうだけで。
 普段着替えなんて当たり前に皆の前でやっているというのに、何故か途端に気恥ずかしく、

「……見んな」

 なんてぼそっと呟いては、口を尖らせる裕。

 その顔に、……堪んないなぁ。と言いたげな顔でははっと笑った蓮が、はいはい。なんておざなりに言っては、長い足を組み携帯へと目を落としていて。

 それにほっと安堵しつつ、なるべく早く着替えた裕がショルダーバックを肩に下げ、くるりと後ろを振り向けば、バッチリ見ていたらしい蓮の瞳とぶつかり、

「おまっ、見んなっつったろ!」

 と再度怒りの声をあげてしまったのだった。




 
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