魔法主義世界に魔力無しで転生した俺は、無能とバカにされつつも無能の『フリ』して無双する

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冒険者の血統

謎の洞窟

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 光の祭壇とやらに触れた俺は、次に目が覚めると知らない洞窟の中に送られていたのだが。それから暫く洞窟内を歩くと、突然大きな地震が起きて裂けた地割れに飲み込まれそうになった。
 間一髪で、落ちる事は逃れたが今だに地震は細かく続いている。次に大きな揺れが来たら、今度こそ俺はこの床と共に確実に落ちるかもしれない。
 まったく、何なのだこの洞窟は。

 慎重にかつ素早く歩みを進めると、洞窟は細くなっていき一人歩くのが精一杯くらいの幅になっていた。
 すると前の方から何か〝グルルル〟と、獣のような唸り声が聞こえてきて、俺は弓を構える。
 
 少しカーブしている洞窟の道の先から、少しずつ唸り声が大きくなってきて魔物が近付いているのが分かる。
 チラリと覗くと四足歩行の動物が見えた。狼を三倍くらいの大きさにした感じで、鋭い牙を持っている。
 その姿は紛れもなく敵意を剥き出しにしていた。動物ではなく魔物のようだ。

「くそっ! 魔物が出るのか」

 俺は先手必勝とばかりに引き絞った弓を放つ。
 矢は高速で解き放たれ、一瞬で見事に狼の頭部を射ぬいていた。数で来られなきゃ十分に対処出来そうだ。しかし、洞窟自体はどこまで続くのだろうか?
 疑問を抱きながらも、弓を構えながら俺は更なる魔物に警戒しながら奥へと進む。
 
 途中。三体程倒したが、まだ奧には辿り着かない。
 既に一時間程を歩いた所で、先の方に明かりが見えた。光の揺らぎ具合から、どうやら誰かが火を起こしているように見える。
 慎重に近付く。
 誰かが背を向けてそこに座り込んでいた。まだ気付かれてはいない。

「動くな。黙って両手を上げて、こっちを向け」

 その者はユックリと両手をあげると、静かにこちらを向いた。
 しかし、その顔を見て俺は言葉を失ったのだ。そこにいたのは、ヴェロスの牢獄で死んだはずのトータルだった。
 見た目優男なお兄さん────そう。間違える筈もない。
 
「若旦那!? まさか……本当に?」
「トータル! 本当におまえなのか?」
「若旦那こそ、何故こんな所に?」

 トータルは目を丸くして心底驚いた顔をしていた。
 驚くのはこっちの方なのだが。久しぶりの再会にのんびりしている暇は無かった。再び大きな地震が起きたのだ。
 洞窟の天井が崩れ落ちてくる。俺とトータルは慌ててその場から走って逃げだした。
 
「トータル! 逃げ道はあるのか?」
「この先に街がありますぜ」

 街だと?
 洞窟の中に街があるのか? 兎に角、今はトータルに任せた方が良さそうだと思い、俺は彼について行く事にした。
 すると、やがて本当に大きくひらけた場所に出た。
 いつの間にか地震は収まっており、目の前には街らしきものが見えて俺は開いた口が塞がらない。

「若旦那。こっちですぜ」

 トータルが慣れた感じで街の中を歩いていく。
 街は活気に満ちていた。思った以上に多くの人が暮らしているようだ。時折、人と目が合うがその目はどこか寂しげだ。
 複雑な造りの道をトータルについて行くと、一件の家に案内された。そしてトータルは家の中に入り叫ぶ。

「おーい! 若旦那だぞ」
 
 中から慌てた感じで飛び出して来たのは、なんとヤンマだった。そして少し遅れてアンナまでも現れたのだ。

「な……バカな」

 ヴェロスで死んだはずの三人が勢揃いした。しかし、これにはさすがの俺も違和感を感じた。言葉が出ない。
 それは、他の者も同じようで唖然とした表情でヤンマとアンナは俺を見ていた。

「シュウ……なの?」
「これは悪い夢に違いないぞ」
「おい、ヤンマ。俺に会って『悪い夢』とか、それは悪い冗談だろ」

 俺の言葉に二人は固まった。だが暫しの間があり、やがてアンナがその目に涙を浮かべて叫んだ。

「どうしてこんな所来るのよ! シュウは、まだやることがあるでしょ!?」
「ちょっと……落ち着けよ、アンナ。俺だって別に来たくて来たわけじゃないけどよ。せっかく会えたのに随分酷くね?」

 アンナの反応は自然なものかもしれないが、この状況は夢だと思わずにはいられなかった。
 いや。夢というよりは……
 俺はアンナの言葉を聞いて、ある一つの仮説が確信になりつつあった。

 俺の前に、死んだと思った三人がいる。それ以前に、ここに来るまでに何人か街の人間を見たが、時折見た事のある者がいたのだ。
 それらは思いだそうとするが、なかなか思い出せなかった。
 しかし、今俺は気付いた。

 ああ。確かにここは俺が居ていい場所ではないのだ────何故なら街で見た人達には、俺が今までに見た事のある者が何人かいた。だがそれは全て、もうこの世にはいないはずの人々だったのだから。
 盗賊団において〝殺さず〟を誓いながらも中には何人か、抗争になりやむを得ず殺してしまった者達。俺はそれを思い出した。

「ここは……死後の世界か?」

 俺が呟いた言葉にアンナは頷いた。トータルとヤンマは残念そうな顔をして下を向いた。まるで、俺を弔う様に。
 まさか、俺は死んだのか?
 
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