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冒険者の血統
北方の英雄と中央英雄の息子
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◇◇◇
「丸一日経って、まだ見付からんのか! くそ。あの、魔女め! 封印を解除出来る聖女などと嘘吹きやがって。一体、どこの差し金だ」ジュペルグは怒りを露にして、部下に怒鳴りちらしていた。
帝国の魔法士達も、困った様な顔でジュペルグに対応している。
そもそも、皇帝陛下に向かって自信満々に──『数日でシュウ・セイラルの力を引き出します』なんて事を言っておいて。蓋を開けてみれば、そのシュウ・セイラル本人を、身元も分からぬ魔女に誘拐されてしまったのだ。
既にジュペルグの脳内は、皇帝陛下への言い訳ばかりを考えていた。
丁度、捕らえられていたセイラル盗賊団がいる。
ジュペルグは、彼らに拷問でもして何かシュウ・セイラルについて口を割らせようと考え、城の地下牢獄へと訪れたのだが────
「これはジュペルグ侯爵様。この様な場所に一体何用でしょう?」牢獄の守衛は立ち上がり、敬礼して答える。
「ここに、盗賊団のカザス・セイラルと、その一味が捕らわれていると聞いた。二、三ばかり尋問したい事があるので、会わせてくれ」
「申し訳ありません、ジュペルグ侯爵様。盗賊団には現在、会わせる事が出来ません。これは、皇帝陛下のご命令でして」
守衛は敬礼の姿勢を崩さないままジュペルグに伝える。すると、ジュペルグの顔がみるみる不機嫌な表情になった。
「どういう事だ! 相手は罪人だろ。なのに尋問も許されぬというのか?」
「申し訳ありません。これは、皇帝陛下のご命令でして。近く、サラン王国に引き渡されるとか、何とか……」
「な、なんだと!」
ジュペルグはその言葉に驚きを隠せなかった。
何故ならば、シュウ・セイラルを誘拐した魔女の言葉を聞いた時、何処と無く北方大陸の訛りを感じたからだ。
直感的に、これは何かしら繋がりがある様に感じた。
きっと彼の力を手に入れようとする者に違いない。そして、そいつらには光の魔法を使える者が存在する。
何故ならば、魔女がシュウ・セイラルを誘拐した時の魔法は、周囲の光の屈折率を変えて姿を見えなくする光の魔法『ブライト・ブラインド』のようなものを使った様に見えたからだ。
これはジュペルグにとって脅威であった。
光の魔法を使える者は、世界に数える程しかいないという。それが味方になっているのなら、早く対策を打たなければ。その者達に更なる力を与える事になってしまうのだから。
ジュペルグは、あの時城で不信な事は無かったかと聞いて回った。
すると、数名の者が答えたのだ────『ローズ隊長くらいしか見てません』と。
それを聞いてジュペルグは皇帝に告げた。
『ローズ・ウィルヘイムが、他国と内通して帝国への裏切りを企てている』────
◇◇◇
「やあ。待ってたよ、シュウ」
目の前に着陸している飛空梃から、フード付きのコートを着た男がこちらに向かって来て、俺に向かって陽気に声をかけてきた。
彼は俺が襲った商人達の護衛をしていた男であり(それも計画的だったのだが)、ローズの話によると俺をレティマから助けてくれた男で、そして────北方大陸の英雄という事だが?
「あんた……ルシアン……だっけ? どうして、こんな回りくどい事するんだ? 俺に何をさせたい」
「なあに。何もしないし、悪い事をさせるつもりも無いさ。ただ、今後の為に君に恩を売りたい。そして、いつか……俺に協力してほしいんだよ────その時が来たらね」
ルシアンはそう言って、俺に事の事情を話した。
どうやら彼は本当に『魔王』とやらを討伐したらしい。しかし、その『魔王』は記憶を維持したまま、魂を転生させる事が出来るらしい。
そこで魂を封印する魔法〝プシュケスフィア〟を使用出来る者を探しているのだという。
その魔法は以前、クラウン・ヴェロスが使用したという事は親父にも聞いていたので、息子である俺にその責務を求めるのは確かに分からないでもないのだが。
当の俺自身が、いまだに実感が湧かない。
魔力が封印されているというのは、色々な者に色々な所で聞いたが、結局その封印自体が解けていないらしいし。
「それで? 俺があんたに従う理由はあるのか?」
「ないさ。だから、俺は君に恩を売りたいと言ってるんだ。君の父親や仲間を救いたいだろ? 今の君では何も出来ない。だから、強くなる必要があるんだよ」
「なるほどね。じゃあ、あんたは俺の封印を解く方法を知ってるのか?」
「それを知ってるのは俺じゃない」──と、ルシアンは言う。そして丁度、ルシアンの後ろの方から一人の女性が歩いて来た。
その金髪の髪には見覚えがある。
「シルファ?」
俺の呼び掛けに彼女は答えた。
「ごめんなさい。私の名前は本当はシルファじゃないのよ。私の名前はルカ。 ルカ・プレーンよ。一応光の魔法使いで、あなたの封印を解く魔法は実際には使えないけど、解く方法は知ってるわ」
ルカという女性はそう告げた。
「丸一日経って、まだ見付からんのか! くそ。あの、魔女め! 封印を解除出来る聖女などと嘘吹きやがって。一体、どこの差し金だ」ジュペルグは怒りを露にして、部下に怒鳴りちらしていた。
帝国の魔法士達も、困った様な顔でジュペルグに対応している。
そもそも、皇帝陛下に向かって自信満々に──『数日でシュウ・セイラルの力を引き出します』なんて事を言っておいて。蓋を開けてみれば、そのシュウ・セイラル本人を、身元も分からぬ魔女に誘拐されてしまったのだ。
既にジュペルグの脳内は、皇帝陛下への言い訳ばかりを考えていた。
丁度、捕らえられていたセイラル盗賊団がいる。
ジュペルグは、彼らに拷問でもして何かシュウ・セイラルについて口を割らせようと考え、城の地下牢獄へと訪れたのだが────
「これはジュペルグ侯爵様。この様な場所に一体何用でしょう?」牢獄の守衛は立ち上がり、敬礼して答える。
「ここに、盗賊団のカザス・セイラルと、その一味が捕らわれていると聞いた。二、三ばかり尋問したい事があるので、会わせてくれ」
「申し訳ありません、ジュペルグ侯爵様。盗賊団には現在、会わせる事が出来ません。これは、皇帝陛下のご命令でして」
守衛は敬礼の姿勢を崩さないままジュペルグに伝える。すると、ジュペルグの顔がみるみる不機嫌な表情になった。
「どういう事だ! 相手は罪人だろ。なのに尋問も許されぬというのか?」
「申し訳ありません。これは、皇帝陛下のご命令でして。近く、サラン王国に引き渡されるとか、何とか……」
「な、なんだと!」
ジュペルグはその言葉に驚きを隠せなかった。
何故ならば、シュウ・セイラルを誘拐した魔女の言葉を聞いた時、何処と無く北方大陸の訛りを感じたからだ。
直感的に、これは何かしら繋がりがある様に感じた。
きっと彼の力を手に入れようとする者に違いない。そして、そいつらには光の魔法を使える者が存在する。
何故ならば、魔女がシュウ・セイラルを誘拐した時の魔法は、周囲の光の屈折率を変えて姿を見えなくする光の魔法『ブライト・ブラインド』のようなものを使った様に見えたからだ。
これはジュペルグにとって脅威であった。
光の魔法を使える者は、世界に数える程しかいないという。それが味方になっているのなら、早く対策を打たなければ。その者達に更なる力を与える事になってしまうのだから。
ジュペルグは、あの時城で不信な事は無かったかと聞いて回った。
すると、数名の者が答えたのだ────『ローズ隊長くらいしか見てません』と。
それを聞いてジュペルグは皇帝に告げた。
『ローズ・ウィルヘイムが、他国と内通して帝国への裏切りを企てている』────
◇◇◇
「やあ。待ってたよ、シュウ」
目の前に着陸している飛空梃から、フード付きのコートを着た男がこちらに向かって来て、俺に向かって陽気に声をかけてきた。
彼は俺が襲った商人達の護衛をしていた男であり(それも計画的だったのだが)、ローズの話によると俺をレティマから助けてくれた男で、そして────北方大陸の英雄という事だが?
「あんた……ルシアン……だっけ? どうして、こんな回りくどい事するんだ? 俺に何をさせたい」
「なあに。何もしないし、悪い事をさせるつもりも無いさ。ただ、今後の為に君に恩を売りたい。そして、いつか……俺に協力してほしいんだよ────その時が来たらね」
ルシアンはそう言って、俺に事の事情を話した。
どうやら彼は本当に『魔王』とやらを討伐したらしい。しかし、その『魔王』は記憶を維持したまま、魂を転生させる事が出来るらしい。
そこで魂を封印する魔法〝プシュケスフィア〟を使用出来る者を探しているのだという。
その魔法は以前、クラウン・ヴェロスが使用したという事は親父にも聞いていたので、息子である俺にその責務を求めるのは確かに分からないでもないのだが。
当の俺自身が、いまだに実感が湧かない。
魔力が封印されているというのは、色々な者に色々な所で聞いたが、結局その封印自体が解けていないらしいし。
「それで? 俺があんたに従う理由はあるのか?」
「ないさ。だから、俺は君に恩を売りたいと言ってるんだ。君の父親や仲間を救いたいだろ? 今の君では何も出来ない。だから、強くなる必要があるんだよ」
「なるほどね。じゃあ、あんたは俺の封印を解く方法を知ってるのか?」
「それを知ってるのは俺じゃない」──と、ルシアンは言う。そして丁度、ルシアンの後ろの方から一人の女性が歩いて来た。
その金髪の髪には見覚えがある。
「シルファ?」
俺の呼び掛けに彼女は答えた。
「ごめんなさい。私の名前は本当はシルファじゃないのよ。私の名前はルカ。 ルカ・プレーンよ。一応光の魔法使いで、あなたの封印を解く魔法は実際には使えないけど、解く方法は知ってるわ」
ルカという女性はそう告げた。
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