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冒険者の血統

仕組まれていた強盗

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 正直言って衝撃であり、悲劇だった。
 目の前の御者は一瞬で魔法のシールドを展開させた。これは、完全に俺の予想に反する行動だ。
 戦いに慣れていない者には不可能な行動だからだ。

 あの時、御者に対してアンナはアッサリとナイフを突き付けたはずだったが、今の動きから判断するに簡単にやられるような人物では無いはずなのだ。
 俺は直感的に分かってしまった。

「あんた。あの時、わざと俺達の襲撃受けたのか?」

「まあ。セイラル盗賊団の『殺さず』は噂に聞いてましたからね。下手に抵抗すると、あなた達も本気で来るでしょ?」髭面の御者は笑顔で答える。

 あの一行の中で、強そうなのはフードローブの男だけだと思っていたが。話を聞いてみれば実は、全員がサラン国の軍関係者だったというオチだった。
 俺は、逆に罠にかかったわけだ。
 あの小太りターバン男でさえ、訓練された兵だった。軍隊のくせに小太り体型になるとは、余程良い物を食べて生活しているのだろうか。

 何にせよ。俺とした事が最初から完全に仕組まれていた事だとは予想もしなかった。
 セイラル盗賊団に襲撃依頼を出したのも、彼らの指示だと言うのだから……これはもう完全に完敗だ。最初から俺は彼らの掌で転がされていたのだ。

「あんたら、目的は何なんだよ?」

「私はルシアン様に協力しただけですよ。彼があなたの事を求めてるのですよ。それで色々とあなたの事を調べた結果、ヤラセの強奪事件をする事になったんです。まぁ、色々と予想外な事は起こりましたがね」

 どうやら一枚も二枚も、三枚も上手うわての相手だったようだ。それなら、回りくどくヴェロスのギルドに捕まえさせなくても良いと思ったが……
 それすら、必要な計画に入っていたと言うのだから驚かされた。
 何と、ルシアンという男。
 俺をギルド隊に一旦捕まえさせて、サラン王国の商人に手を出したという理由で、アールヘイズ帝国相手に『罪人引き渡し要請』をするつもりだったのだと言う。

 当初は、捕まえた者達だけのつもりだったらしいが。
 今は盗賊団が丸々捕らえられているので、盗賊団全員を対象に引き渡し要請が出されているという話だ。
 他国から要請を受けている以上、帝国はセイラル盗賊団を勝手に処分出来ない。

 ローズが言ってた、帝国だけのお尋ね者じゃなくなった……ってのは、そういう意味だったわけだ。
 しかし、自国の商人を襲っただけで引き渡し要請するとは────
 
「あんたの国は、商人ごときに随分と入れ込むんだな。さぞかし国民への愛が深いのか……それとも、余程平和で暇なのか?」

 俺の嫌味に近い言葉に、御者は顔色一つ変えない。

「いやいや。さすがに我がサラン王国でも、たかだか商人を襲った盗賊ごときに、引き渡しなんか要請しませんよ」
「は!? だって、俺の引き渡し要請をしてるんだろ?」

「問題は誰、襲ったかじゃないのですよ。あなたが、誰襲ったのかが問題なのです。あなたが襲ったのは、我がサラン王国の大恩人にして、同盟国ゼクルート王国の騎士様なのですよ」御者は苦笑いをする。

「────ん? なんだって?」

 俺は聞き間違いをしたのだろうか? 

「だから。あなたが襲ったのはゼクルート王国の宝であり、北方大陸の英雄と呼ばれる『剣神』ルシアン・ルーグ様なんですよ」御者は再度答えた。これならバカにでも分かるだろう、といった感じで。

「なに? ────よし、分かった。金を払うから俺を逃がしてくれ。一生、他国で牢獄暮らしとかはごめんだ。いや、ごめんなさい。逃がしてください、お願いします」

 『剣神』は、さすがに噂に聞いた事がある。
 しかし、そんなのに手を出したなんて寧ろ俺の方が被害者だろ。ましてや、それを仕向けたのは本人だと言うのだから。
 これは殆んど詐欺じゃないか! なのに、重罪で捕まるとかアホくさい。
 俺は、「じゃっ」と手を挙げて静かにその場を立ち去ろうとしたが、御者によりガシッと腕を握られた。

「こらこら、ダメですよ。私は、ちゃんとあなたをパルスタインに送り届けなきゃいけないのですから。何も取って食おうってんじゃないですし、大丈夫ですって」
「嫌だ! これは詐欺だ」

 どんなに愚痴ってみた所で、『さあさあ、行きますよ』っと意外と力の強い御者により、馬車に押し込まれてしまった。
 ローズは俺の封印の解除と、とある魔法の習得を目指す事になる……と言っていたはずだが? ならば、それをこいつらが手伝うのだろうか。
 サラン王国も俺の力を欲して奪いに来たのか?
 どちらにしろ、誰かには利用される事になるのだろう。こんな事なら力を奪われて、レクスマイアで伯爵様してた方がマシだ。

 くそ。ローズの奴、嵌めやがったな。ヴェロスに戻って絶対、文句言ってやる!
 ────なんて思っていたが。
 ひたすら馬車に揺られて、漸くパルスタインに到着した頃。
 馬車を降りた俺は、ローズへの恨みなど忘れて目の前の光景に唖然としていた。

 パルスタインの街の外に巨大な船が停まっていたからだ。それは船と言っても海を行く船ではなく、空を行く船。

 北方大陸では既に飛んでいると、聞いてはいたが……これが飛空艇ってやつか? どうやら俺は、本当にとんでもない相手に絡まれてしまったようだ。
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