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冒険者の血統
その馬車に揺られて
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大丈夫と言い切るローズに、疑念すら抱く。
「大丈夫って? 何の根拠があるんだよ」
「ヴェロスは現在、兄が帝国貴族になっているから帝国の管理下に置いてるの。帝国貴族が統治している限りはギルド反対派は勿論、他の貴族も手を出せないわ。好ましくない結果だけれどその反面、帝国の貴族はギルドと違って、帝国内では一番守られる立場なの」
「なるほど。ローズの兄貴は俺を売って貴族になったわけか。それは分かったけど、俺の親父や仲間はどうなるんだ? 俺が逃げたら、当然そのしわ寄せはセイラル盗賊団に向けられるだろ」
「それも大丈夫。あなたは逃げたんじゃなくて拐われた事になってるだろうし。 それにセイラル盗賊団は、もう帝国だけのお尋ね者じゃないから、帝国の考えだけで勝手に処罰できないのよ」
「なに!? どういう事だ? それって状況が余計に悪いんじゃねぇのか?」
馬車は動きを止めない。
どうやら、目的地は取り敢えず『パルスタイン』らしい。
パルスタインは、レクスマイアから南へ二日程向かった先にある街だが、帝国領の東の端はゲッコウの村、帝国領の南の端はパルスタインと呼ばれる程、どちらも辺境の地にある。
俺は、一時的に姿を眩ます段取りになっていると言う。
その間、俺は何をするのか──と聞くと、俺の封印の解除と、とある魔法の習得を目指す事になると思う……という話だが。
「俺の封印は帝国の魔法士でも無理だったんだぞ? 一体、どうやって解除するんだ?」
「うん。その方法も知ってる人がいるから」
ローズがそう告げて直ぐに馬車が動きを止めた。
どうしたのかと思っていると、ローズが立ち上がり馬車の扉が開けられた。
そしてローズは、すました顔で言う。
「じゃあ、私はここまで。後はシュウだけ、この馬車でパルスタインに向かってね」
「おう。のんびり一人旅ってわけだな……っておい! 何の説明も終わってねぇぞ!」
「まあ。向こうに着けば分かるから。私はヴェロスに戻るわね」
「ちょっ! おい、待てってば」
ローズはさっさと馬車から降りて、行ってしまった。
戸惑っていると髭面の御者の男が「では先を急ぎますよ」っと言って、再び馬車の扉を閉めた。
何なんだ一体────ってあれ? この御者の男……何処かで見た記憶がある。
何処だったっけ?
馬車の中で考えたが、どうにも思い出せない。
それから馬車は止まることなく、数時間走っていた。俺はいつの間にか眠りにつき。
不規則な馬車の揺れは、次に起きてもまだ続いていた。
それにしても乗り心地の悪い馬車だ。ジュペルグに与えられた貴族用の馬車は本当に良かった。
全く、こんな荷馬車に毛が生えた程度の馬車で、二日も旅させるつもりなのかよ。と、思った所で俺は思い出した。
荷馬車? そうだ! あの髭面の御者────俺が襲った荷馬車を操っていた御者の顔じゃないか。
と、いう事は。この馬車はサラン王国の商人の馬車なのか? と、思ったが、引っ張ってる台車は荷物用では無く。椅子と扉付きのキャビンであるから余計に不思議だ。
まあ。台車を変えただけなのかも知れないが。
わざわざ、それをする理由も分からない。それにあいつらは商人だったのだから、こんな手の込んだ事をする理由が無い。
御者に確認する必要があると思ったが、なかなかの速度で移動する馬車の扉を開けるのは危険なので、次止まるのを待つ事にしよう。
一時間程経って、馬車は動きを止めた。
扉が開けられて、例の髭面の御者が声をかけてきた。
「一旦、飯にしましょうか」
ハッキリと顔を見たがやはり間違いない。あの時、俺が襲った商人の御者だ。考えてみればあの商人一行を迎えに来たのが、ローズ率いるギルド隊だったのだから、何らかの契約をしていてもおかしくはないのだが。
俺は、気になった事は聞かないとダメな性分なのだ。
「あんた。ひょっとして、サランから魔鉱石運んでた人じゃないのか?」
「よく覚えてましたね。確かに……私は、あの時の御者ですよ」
俺は咄嗟に御者に向けて弓を向けた。
ローズが馬車の中にしっかり持って来てくれていたのだ。親父から預かった母の使っていた変わった造りの弓を。
それは半ば反射的な行動だったのだが。しかし、御者は次の瞬間には自分の目の前に、魔法のシールドを出現させていた。
その手際の良さは、普通の御者の動きでは無い。そして、御者は言う。
「別に私は、君の敵じゃないのだから。ここは黙って弓を下ろしてくれないかな?」
そう言って、御者はもう一度魔法で何かを出現させた。
その手には美味しそうなサンドイッチがあった。
そういえば、飯にするって言ってたっけ? しかし、この状況で飯を魔法で出すとか、完全に舐められてる気がする。
俺は「はあ……」とため息を吐き。弓を下ろした。
「大丈夫って? 何の根拠があるんだよ」
「ヴェロスは現在、兄が帝国貴族になっているから帝国の管理下に置いてるの。帝国貴族が統治している限りはギルド反対派は勿論、他の貴族も手を出せないわ。好ましくない結果だけれどその反面、帝国の貴族はギルドと違って、帝国内では一番守られる立場なの」
「なるほど。ローズの兄貴は俺を売って貴族になったわけか。それは分かったけど、俺の親父や仲間はどうなるんだ? 俺が逃げたら、当然そのしわ寄せはセイラル盗賊団に向けられるだろ」
「それも大丈夫。あなたは逃げたんじゃなくて拐われた事になってるだろうし。 それにセイラル盗賊団は、もう帝国だけのお尋ね者じゃないから、帝国の考えだけで勝手に処罰できないのよ」
「なに!? どういう事だ? それって状況が余計に悪いんじゃねぇのか?」
馬車は動きを止めない。
どうやら、目的地は取り敢えず『パルスタイン』らしい。
パルスタインは、レクスマイアから南へ二日程向かった先にある街だが、帝国領の東の端はゲッコウの村、帝国領の南の端はパルスタインと呼ばれる程、どちらも辺境の地にある。
俺は、一時的に姿を眩ます段取りになっていると言う。
その間、俺は何をするのか──と聞くと、俺の封印の解除と、とある魔法の習得を目指す事になると思う……という話だが。
「俺の封印は帝国の魔法士でも無理だったんだぞ? 一体、どうやって解除するんだ?」
「うん。その方法も知ってる人がいるから」
ローズがそう告げて直ぐに馬車が動きを止めた。
どうしたのかと思っていると、ローズが立ち上がり馬車の扉が開けられた。
そしてローズは、すました顔で言う。
「じゃあ、私はここまで。後はシュウだけ、この馬車でパルスタインに向かってね」
「おう。のんびり一人旅ってわけだな……っておい! 何の説明も終わってねぇぞ!」
「まあ。向こうに着けば分かるから。私はヴェロスに戻るわね」
「ちょっ! おい、待てってば」
ローズはさっさと馬車から降りて、行ってしまった。
戸惑っていると髭面の御者の男が「では先を急ぎますよ」っと言って、再び馬車の扉を閉めた。
何なんだ一体────ってあれ? この御者の男……何処かで見た記憶がある。
何処だったっけ?
馬車の中で考えたが、どうにも思い出せない。
それから馬車は止まることなく、数時間走っていた。俺はいつの間にか眠りにつき。
不規則な馬車の揺れは、次に起きてもまだ続いていた。
それにしても乗り心地の悪い馬車だ。ジュペルグに与えられた貴族用の馬車は本当に良かった。
全く、こんな荷馬車に毛が生えた程度の馬車で、二日も旅させるつもりなのかよ。と、思った所で俺は思い出した。
荷馬車? そうだ! あの髭面の御者────俺が襲った荷馬車を操っていた御者の顔じゃないか。
と、いう事は。この馬車はサラン王国の商人の馬車なのか? と、思ったが、引っ張ってる台車は荷物用では無く。椅子と扉付きのキャビンであるから余計に不思議だ。
まあ。台車を変えただけなのかも知れないが。
わざわざ、それをする理由も分からない。それにあいつらは商人だったのだから、こんな手の込んだ事をする理由が無い。
御者に確認する必要があると思ったが、なかなかの速度で移動する馬車の扉を開けるのは危険なので、次止まるのを待つ事にしよう。
一時間程経って、馬車は動きを止めた。
扉が開けられて、例の髭面の御者が声をかけてきた。
「一旦、飯にしましょうか」
ハッキリと顔を見たがやはり間違いない。あの時、俺が襲った商人の御者だ。考えてみればあの商人一行を迎えに来たのが、ローズ率いるギルド隊だったのだから、何らかの契約をしていてもおかしくはないのだが。
俺は、気になった事は聞かないとダメな性分なのだ。
「あんた。ひょっとして、サランから魔鉱石運んでた人じゃないのか?」
「よく覚えてましたね。確かに……私は、あの時の御者ですよ」
俺は咄嗟に御者に向けて弓を向けた。
ローズが馬車の中にしっかり持って来てくれていたのだ。親父から預かった母の使っていた変わった造りの弓を。
それは半ば反射的な行動だったのだが。しかし、御者は次の瞬間には自分の目の前に、魔法のシールドを出現させていた。
その手際の良さは、普通の御者の動きでは無い。そして、御者は言う。
「別に私は、君の敵じゃないのだから。ここは黙って弓を下ろしてくれないかな?」
そう言って、御者はもう一度魔法で何かを出現させた。
その手には美味しそうなサンドイッチがあった。
そういえば、飯にするって言ってたっけ? しかし、この状況で飯を魔法で出すとか、完全に舐められてる気がする。
俺は「はあ……」とため息を吐き。弓を下ろした。
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