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冒険者の血統
光を降らす魔法使い
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レクスマイアに屋敷を与えられて五日目になる。
アールヘイズ皇帝『ルビアレス・シュタイザー』は、確かに俺に伯爵位を授けた。しかし、俺自身は封印解除の為に、連日のように帝国魔法士達による解除儀式に出席させられていた。
毎回、この城の部屋で様々な魔法により俺の封印を解こうと試行錯誤しているが、封印は全く外れる気配が無い。
余程、強力な封印なのだろう。帝国魔法士達も日々、魔力を消費しているが五日目ともなると、中には諦めが見え始める者もいる。
規格外の魔力を持っていたと言われるクラウンによって、封印されているのだから。並大抵では無いと思っていたが……帝国魔法士が十人程でかかっても進展が無いので、さすがの帝国も頭を抱えていた。
「いい加減にしろ! これは、一体どういう事だ」
ジュペルグ侯爵が魔法士達に向かって、顔を真っ赤にして叫んでいる。
彼は、些か甘く考えていたのかもしれない。だが俺にしても、ただボーッと突っ立っていて済むものでは無い。
魔法をかけられる度に、身体の奥から締め付けられる様な苦しみに耐えている。〝いい加減にしろ〟は、こっちのセリフだ。
今日は昼から始まって、現在は既に夕方。
魔法士達もかなり限界に達していたが、ジュペルグは尚も続けさせようとしている。
「なあ。もう今日はやめないか? そんな疲労した魔法士では、解除なんて到底無理だろ」
「何故だ……何故、全く変化が無いのだ」
ジュペルグはブツブツと独り言のように喋り、俺の話も聞こえていない。何をそんなに急ぐのか知らないが──と、思っていた所で、その部屋に一人の女性が入って来て、ジュペルグに何やら耳打ちする。
女性は頭を下げて一旦部屋を出ると、暫くして入れ替わるように別の女性が入って来た。
「ジュペルグ侯爵様。お初にお目にかかります、シルファと申します」
真っ白な司祭服を来た金髪の女性は、ジュペルグにそう名乗った。
すごく綺麗なその女性に、思わず俺は目を奪われていたのだが。何故かその女性はチラリとこちらを向き、俺にウィンクをした。
なんだ? 色目を使われたのか? それとも何かの合図か?
兎に角、俺はその女性に見覚えが無い。ジュペルグは女性に向かい相変わらずの高圧的な態度で言う。
「挨拶は必要ない。さっそくやって見せろ」
「承知しました」
シルファという女性が俺に近付き、俺にだけ聞こえる声量で伝える。
「私が魔法を使い始めたら、何があってもあなたは喋らないで。黙って私の指示に従って」
そう告げて、シルファは俺に──と、いうよりは周囲に向けて何か魔法を使い始めた。
空からキラキラと輝く粒が降り注いで来る。
シルファはそれを何度も何度も、重ね合わせるように魔法をかけた。よく見れば部屋全体では無く、俺の周囲にだけその光は降り注いでいた。
すると急に周りの景色が歪み出す。
シルファを見ると然り気無く指を指している。その方向は部屋の扉の方だ。意味が分からなかったがシルファの口の動きが伝えていた。
〝部屋から出なさい〟と……。
しかし、この状況で部屋から出たら、何処に行くのかと呼び止められるだけだと思うのだが?
取り敢えず俺は部屋の扉の方に向かって歩く。
驚く事にジュペルグも、他の魔法士達も誰一人として俺を見ていない。見えていないのか?
俺は静かに部屋を出る。
部屋を出ると、そこにはローズの姿があった。
「シュウ、ついてきて。絶対に喋らないでね」
「おい? これって……」
「喋らないで!」
俺は黙ってローズの後を歩く。途中で、ローズは城の者に出くわして何度か挨拶をかわすのだが、俺はまるで誰からも見えていないかの様に無視された。
城の外へ出ると一台の馬車があった。
ローズがその馬車に乗り込むので、俺も乗り込み。扉が閉められて、漸くローズが口を開いた。
「シュウ。帝国から離れるわよ!」
「…………」
「あなたは騙されてるのよ。帝国はあなたの力を奪うつもりなの」
「…………」
「ねえ! 聞いてる?」
「喋るなって言ったじゃないか……」
「もういいに決まってるじゃない!」
相変わらずよく怒る女だ。それにしても、帝国もそうだがローズも一体俺に何をさせたいんだ? そして、シルファとは一体何者だったのだろうか?
どちらにしても、ローズが勝手に動いているようだが。ここは俺の知る情報を説明しておく必要がある。
「ローズ。聞きたい事は山程あるんだが、取り敢えず帝国から離れるって言うけど、お前は何も分かってないぞ。俺が調べた話だと、村に襲撃に来た帝国軍とジュペルグの率いる帝国軍では、どうも違うっぽい」
「どういう事?」
「帝国軍にも派閥があるっぽくてな。俺が思うにレティマがいたのはおそらくベイルート派って奴で、ジュペルグの率いる方は皇帝直轄の本体だ。それで、ベイルート派はおそらく村を襲った連中。
ベイルート派は裏で結構、悪どい事をしてるって話でな。俺がいなくなったら何をするか分からんのだぞ? それこそ、ヴェロスに危険が及ぶ可能性がある」
ところが。
その話を聞いてもローズは、何故か意味深な笑みを浮かべて、言う。
「まあ。話は分かった。けど、ヴェロスなら大丈夫よ。あと、セイラル盗賊団もね……」
アールヘイズ皇帝『ルビアレス・シュタイザー』は、確かに俺に伯爵位を授けた。しかし、俺自身は封印解除の為に、連日のように帝国魔法士達による解除儀式に出席させられていた。
毎回、この城の部屋で様々な魔法により俺の封印を解こうと試行錯誤しているが、封印は全く外れる気配が無い。
余程、強力な封印なのだろう。帝国魔法士達も日々、魔力を消費しているが五日目ともなると、中には諦めが見え始める者もいる。
規格外の魔力を持っていたと言われるクラウンによって、封印されているのだから。並大抵では無いと思っていたが……帝国魔法士が十人程でかかっても進展が無いので、さすがの帝国も頭を抱えていた。
「いい加減にしろ! これは、一体どういう事だ」
ジュペルグ侯爵が魔法士達に向かって、顔を真っ赤にして叫んでいる。
彼は、些か甘く考えていたのかもしれない。だが俺にしても、ただボーッと突っ立っていて済むものでは無い。
魔法をかけられる度に、身体の奥から締め付けられる様な苦しみに耐えている。〝いい加減にしろ〟は、こっちのセリフだ。
今日は昼から始まって、現在は既に夕方。
魔法士達もかなり限界に達していたが、ジュペルグは尚も続けさせようとしている。
「なあ。もう今日はやめないか? そんな疲労した魔法士では、解除なんて到底無理だろ」
「何故だ……何故、全く変化が無いのだ」
ジュペルグはブツブツと独り言のように喋り、俺の話も聞こえていない。何をそんなに急ぐのか知らないが──と、思っていた所で、その部屋に一人の女性が入って来て、ジュペルグに何やら耳打ちする。
女性は頭を下げて一旦部屋を出ると、暫くして入れ替わるように別の女性が入って来た。
「ジュペルグ侯爵様。お初にお目にかかります、シルファと申します」
真っ白な司祭服を来た金髪の女性は、ジュペルグにそう名乗った。
すごく綺麗なその女性に、思わず俺は目を奪われていたのだが。何故かその女性はチラリとこちらを向き、俺にウィンクをした。
なんだ? 色目を使われたのか? それとも何かの合図か?
兎に角、俺はその女性に見覚えが無い。ジュペルグは女性に向かい相変わらずの高圧的な態度で言う。
「挨拶は必要ない。さっそくやって見せろ」
「承知しました」
シルファという女性が俺に近付き、俺にだけ聞こえる声量で伝える。
「私が魔法を使い始めたら、何があってもあなたは喋らないで。黙って私の指示に従って」
そう告げて、シルファは俺に──と、いうよりは周囲に向けて何か魔法を使い始めた。
空からキラキラと輝く粒が降り注いで来る。
シルファはそれを何度も何度も、重ね合わせるように魔法をかけた。よく見れば部屋全体では無く、俺の周囲にだけその光は降り注いでいた。
すると急に周りの景色が歪み出す。
シルファを見ると然り気無く指を指している。その方向は部屋の扉の方だ。意味が分からなかったがシルファの口の動きが伝えていた。
〝部屋から出なさい〟と……。
しかし、この状況で部屋から出たら、何処に行くのかと呼び止められるだけだと思うのだが?
取り敢えず俺は部屋の扉の方に向かって歩く。
驚く事にジュペルグも、他の魔法士達も誰一人として俺を見ていない。見えていないのか?
俺は静かに部屋を出る。
部屋を出ると、そこにはローズの姿があった。
「シュウ、ついてきて。絶対に喋らないでね」
「おい? これって……」
「喋らないで!」
俺は黙ってローズの後を歩く。途中で、ローズは城の者に出くわして何度か挨拶をかわすのだが、俺はまるで誰からも見えていないかの様に無視された。
城の外へ出ると一台の馬車があった。
ローズがその馬車に乗り込むので、俺も乗り込み。扉が閉められて、漸くローズが口を開いた。
「シュウ。帝国から離れるわよ!」
「…………」
「あなたは騙されてるのよ。帝国はあなたの力を奪うつもりなの」
「…………」
「ねえ! 聞いてる?」
「喋るなって言ったじゃないか……」
「もういいに決まってるじゃない!」
相変わらずよく怒る女だ。それにしても、帝国もそうだがローズも一体俺に何をさせたいんだ? そして、シルファとは一体何者だったのだろうか?
どちらにしても、ローズが勝手に動いているようだが。ここは俺の知る情報を説明しておく必要がある。
「ローズ。聞きたい事は山程あるんだが、取り敢えず帝国から離れるって言うけど、お前は何も分かってないぞ。俺が調べた話だと、村に襲撃に来た帝国軍とジュペルグの率いる帝国軍では、どうも違うっぽい」
「どういう事?」
「帝国軍にも派閥があるっぽくてな。俺が思うにレティマがいたのはおそらくベイルート派って奴で、ジュペルグの率いる方は皇帝直轄の本体だ。それで、ベイルート派はおそらく村を襲った連中。
ベイルート派は裏で結構、悪どい事をしてるって話でな。俺がいなくなったら何をするか分からんのだぞ? それこそ、ヴェロスに危険が及ぶ可能性がある」
ところが。
その話を聞いてもローズは、何故か意味深な笑みを浮かべて、言う。
「まあ。話は分かった。けど、ヴェロスなら大丈夫よ。あと、セイラル盗賊団もね……」
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