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冒険者の血統

大魔法使いの能力と古代魔法

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 ◇◇◇

 ローズはヴェロスの街の一件の宿屋の前にいた。
 何も知らないシュウは帝国の誘いに乗りレクスマイアに向かったが、ローズにはそれを追いかけた所でシュウを奪い返す手段が無かった。

 相手は皇帝。ヴェロスのギルド隊なんて、帝国内では中程の存在である。話も聞いてもらえないし、まして奪還なんて無理な話。
 それに盗賊仲間を人質にとられているシュウは、ローズの言葉を聞いた所ですんなり受け入れないだろう。

 自分の兄は平気でシュウを帝国に渡してしまった。
 聞けば、ヴェロスは今後一生。ギルドと言うより、ウィルヘイム家が統治する事になっているという。
 つまり兄は、事実上の帝国での権力を得る為にシュウを帝国に売ったのだ。兄にも爵位が与えられるという。もはやローズにとって、兄は頼れる人間では無い。
 
 それで、ローズは最後の頼みとばかりにこの宿を訪れたのだ。
 ローズが宿の一室の扉をノックすると、中から頭にターバンを巻いた小太りの男が現れた。
 それはローズが会いたい男では無かったが、その本人はもうすぐ戻って来ると言うので待たせてもらう事になった。

 ────程なくしてローズの求めた男が帰って来た。
 それはルシアン・ルーグという北方大陸から商人の護衛でついてきた人物であり。
 一度は、あの牢獄の所でレティマからシュウを助けてくれている人物でもある。
 街で話を情報を集めた結果、居場所を突き止めたのだ。
 そのルシアンは、ローズを笑顔で出迎えた。

「これは隊長さん。一体どうしました?」

「実はお願いがあり伺いました。北方大陸の方に中央の国の問題を押し付けるのは、大変失礼とは分かっているのですが……シュウ・セイラルをアールヘイズ帝国の手から救い出して欲しいのです!
 シュウ・セイラルとは、数日前にルシアン様に助けていただいた者の事です。本来、我がウィルヘイム家が彼を守り、導く役割であるにも関わらず。兄のヘリオスはシュウを帝国に渡してしまいました。こうなるともはや、まっとうな方法で彼を取り戻すのは難しく。
 どうかルシアン・ルーグ様のお力をお借り出来ないかと……」

 ルシアンは頭を下げるローズに、一瞬戸惑ったような顔をしたが。直ぐにカラカラと無邪気に笑って答えた。

「君達も、そのアールヘイズ帝国の人間だろ? まあ、兎に角よく分からないから説明してくれないかな? 後さあ。そういう事なら、頼まれるのは大歓迎なんだよ。何せ、俺としても君達にどうやって恩を売ろうか考えていた所なのだから────」

「え? 恩を……ですか?」

 ルシアンの言葉の意味は、ローズには直ぐに理解出来なかった。
 ただ今は、ルシアン・ルーグの力を借りられる事が、何よりも頼もしく感じており。恩を売りたいなどという言葉は、ローズにとっては願ったり叶ったりであった。
 何せ彼は、『魔王』を世界に解き放つ前に倒したと言われている大英雄なのだから。

 ローズは、説明を求めるルシアンに全てを話した。
 シュウが家族を人質にとられており、帝都レクスマイアに行く事になった事を。そして表向きは『シュウの保護』という話だが、おそらく帝国が考えている『裏』について。

 ローズは帝国の考えに、ある程度の予想がついていた。
 アールヘイズ帝国に伝わる古代魔法に『アポロフィ』という魔法があり、それを使うと対象の魔力を術者に移す事が出来るのだ。
 最初、ギルドの牢に来たレティマは、それを帝国に使われる前にシュウを奪おうとしたのだ。その事はあの時、レティマ本人から聞いたので間違いなかった。
 
 ローズの話を頷きながら聞いていたルシアンは、一通りの内容を聞き終えるとサラッと言い放つ。

「取り敢えず。今すぐに彼がどうにかなる事は無いんだろ? 何せ彼の魔力は封印されているもんな」

「ど、どうしてその事を?」

 ローズは帝国の考えについての話はしたが、シュウの封印についてはルシアンに何も話していないはずだった
 ルシアンは、少し申し訳なさそうな笑みを浮かべて答えた。

「何か騙すみたいになって悪いんだけどさ。実は俺、商人の護衛としてここに来たわけじゃないんだよな。こういうと誤解されそうだけど、最初から俺の目的もシュウ・セイラルの魔力なんだ……」

 ローズは、ルシアンの目的を聞いて驚いた。
 ルシアンは、クラウン──と、言うか。正確には、プシュケスフィアを使える魔法使いを探していたのだ。
 それはもはや、この世には存在しないとされてきたのだが。クラウンという男がプシュケスフィアで最近まで生きていたという話と、その子供を残している。という情報を聞き付けて、北方大陸から来たのだ。

 その理由は、再び魔王が復活した時に備えての協力者探しだった。
 魔王はスコタディと呼ばれる魂の持ち主で、肉体が滅びても直ぐに転生して生まれ変わってしまう為、プシュケスフィアにて魂自体を封印し無ければ真の終わりは来ないからだ。

 つまり。ルシアンは、きたるべき時の為の準備として、シュウにはプシュケスフィアを身に付けてもらい、最終的には魔王の魂を封じる手伝いを頼みたかったのだった。
 ルシアンは言う。

「どうやら利害は一致してるのかな? 俺としても、折角見付けたプシュケスフィアを使える可能性のある魔法使いから、魔力を奪われては困る。ただ、もうしばらく待ってくれ。俺の仲間が合流するまで────」

 どのみち、自分でどうする事も出来ないローズは。黙って了承するしかない立場でもあり。ルシアンを信じて待つ事にした。
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