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冒険者の血統
そして事態は転がる
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ヴェロスのギルド本部での目覚め。そして、ヘリオスから一通りの説明を受けた俺の立場は、どうやらクラウンの血縁者である事を認められているようだ。
しかし、それはまだヴェロスのギルド内だけでの話。
街の者達全員に信じてもらう為には、力を証明する必要があるとヘリオスは言う。その為の手段を探す間。
俺はギルド地区にとどまる事を言い渡された。
「シュウ様はやはり、曾てのクラウン様のように伯爵になられるのですか?」と、俺の隣を歩く若いギルド隊員(と言っても、俺より年上だろうが)の男は訊ねてきた。
彼は『レンズ・キール』という名前らしい。うろうろしていた俺に、ギルド地区を案内してくれると言い出したのだ。
ギルド隊内部では、既に俺の事は知れ渡っているとか……
「さあ。俺は実感がないんだ……それに伯爵とか興味がない」
「なるほど。僕がその立場ならヴェロスの為に奮起すると思うのだけれど。シュウ様はあまり野心が無いのですか?」レンズは不思議そうに俺を見た。
「野心って言うか……今、上手く行ってるのにわざわざ新しい風を吹かせなくても良いと思うんだ。ウィルヘイム家が統治してるなら、それでいいんじゃないかな?」
「いや。クラウン様はヴェロスの英雄──いや、神ですからね。その気さえあれば、この街の者は誰でもシュウ様を歓迎すると思いますよ────あ、着きました! ここが我々ギルド隊の本部です」
ギルド隊の本部と言われたから、むさ苦しい所なのかと思ったが。案内されて中に入ると、想像を裏切る綺麗な所だ。
中はかなり広い。入って直ぐ訓練場になっているらしく、その中央でローズが三人の男を相手に木剣で稽古をつけていた。
ギルド隊は魔法だけじゃなく、剣術も普通に行う。
一昔前なら剣術なんてバカにされていたが、大昔は普通に主要な技術だったらしいし。三年程前に北方大陸で一人の男が剣を使って魔王を討伐した……という噂が広まってから、再び剣術も各国で見直されている。
「あれが、我らの隊長ローズ様です」
「ああ、知ってる」
「すごいですよね! あの美しさからは想像も出来ない程、荒々しくも鋭い剣筋。ローズ隊長に憧れて隊員になった者も多い」
レンズは目を輝かせている。と、言うか……彼にしたらローズも年下だと思うのだが。彼は年齢、性別関係無く、力有る者はしっかり尊敬出来るのか。
しかしウィルヘイム家は代々、剣術に優れていたと聞くし。
ローズが軽く三人を相手にしている姿も頷ける──が、確かヘリオスの話では、彼女は剣術もあまり才能がなかったと言っていた。
今に至るには、相当に努力したのだろうか。
一段落したらしいローズが、剣を下ろしてこちらを見た──が、スッと目を剃らして立ち去って行く。
「おいおい! 無視かよ?」
「別に私には、今あなたと話す事は何も無いだけよ。ギルド長から大体は聞いたのでしょ?」
「聞いたけど、ローズと話しちゃいけないわけじゃないだろ。それにヘリオスは自分の兄貴だろ? ギルド長……なんて、やけによそよそしい言い方だな」
ローズは何故か不機嫌そうな顔になった。そして少し考える素振りを見せ、おもむろに隊員の一人から練習用の木剣を受け取る。
次に、それを俺に投げて来たので空中で受け取った。
まさか? と思っているとローズが言う。
「クラウンは、優れた魔法使いだったけれども。剣術にも定評があったらしいわ。あなたはその血を継いでいるのでしょ? 私と勝負しなさいよ」
こいつ何言ってんだ? いきなり過ぎるし、俺は剣なんて殆んど使わないんだから勝てるはずが無い。
俺、何か機嫌をそこねる様な事を言ったのか? これは、完全にイジメだと思うのだが……
断ろうと思っていたら、周りが盛り上がりだした。
周りは俺をクラウンの血縁者だと知っているが為に、自分達の隊長との試合に並々ならぬ興味を持ったようだ。
「隊長頑張ってください!」「隊長なら勝てますよ」「ギルド隊の力を見せてやってくださいよ」
っと──全部、ローズへの声援だ。
「いやあ。さすがにシュウ様でも、ローズ隊長には勝てないでしょう」と、レンズが言う。
お前もかよ……
当然と言えば当然だろうが俺って一応、英雄的扱いでは無かったか? などと思うが、兎に角。
こうなると逆に俄然やる気が出てくる。剣に不慣れでも身体能力には自信があるのだ。上手くかわして一発お見舞してやろう。
そして、ローズに土下座で『参りました』と言わせてやる! ……よし、見てろよ。
「俺が勝ったら何か褒美はあるのか?」
「何が欲しいの?」
「俺への態度を改める──とか、どうだ?」
「いいわ。じゃあ、私が勝ったら。あなたは、一生私に敬語で話しなさいよ。例え、ヴェロスの王と呼ばれてもね」
プライド高ぇ……ますます服従させたくなってくるぜ!
なんて、思っていたのだが。その試合は次の瞬間、中止となった。
「隊長! レクスマイアから帝国軍が来ました。シュウ・セイラルを引き取りに来たとの事」
ギルド隊員の一人が慌てて、そうローズに告げた。
「何故!? 彼の事はギルドだけしか……」
ローズが驚愕している間に、既に帝国の紋章入りの鎧や法衣を纏った者達はゾロゾロとギルド本部内へと踏み込んで来ていた。
随分と対応が早すぎるのではないだろうか? そう思いながら奴らを見て、俺は気付いた。
ちっ。最初から売られてたってわけか……
帝国軍と一緒に来たのは、ヘリオス・ウィルヘイムだった。
しかし、それはまだヴェロスのギルド内だけでの話。
街の者達全員に信じてもらう為には、力を証明する必要があるとヘリオスは言う。その為の手段を探す間。
俺はギルド地区にとどまる事を言い渡された。
「シュウ様はやはり、曾てのクラウン様のように伯爵になられるのですか?」と、俺の隣を歩く若いギルド隊員(と言っても、俺より年上だろうが)の男は訊ねてきた。
彼は『レンズ・キール』という名前らしい。うろうろしていた俺に、ギルド地区を案内してくれると言い出したのだ。
ギルド隊内部では、既に俺の事は知れ渡っているとか……
「さあ。俺は実感がないんだ……それに伯爵とか興味がない」
「なるほど。僕がその立場ならヴェロスの為に奮起すると思うのだけれど。シュウ様はあまり野心が無いのですか?」レンズは不思議そうに俺を見た。
「野心って言うか……今、上手く行ってるのにわざわざ新しい風を吹かせなくても良いと思うんだ。ウィルヘイム家が統治してるなら、それでいいんじゃないかな?」
「いや。クラウン様はヴェロスの英雄──いや、神ですからね。その気さえあれば、この街の者は誰でもシュウ様を歓迎すると思いますよ────あ、着きました! ここが我々ギルド隊の本部です」
ギルド隊の本部と言われたから、むさ苦しい所なのかと思ったが。案内されて中に入ると、想像を裏切る綺麗な所だ。
中はかなり広い。入って直ぐ訓練場になっているらしく、その中央でローズが三人の男を相手に木剣で稽古をつけていた。
ギルド隊は魔法だけじゃなく、剣術も普通に行う。
一昔前なら剣術なんてバカにされていたが、大昔は普通に主要な技術だったらしいし。三年程前に北方大陸で一人の男が剣を使って魔王を討伐した……という噂が広まってから、再び剣術も各国で見直されている。
「あれが、我らの隊長ローズ様です」
「ああ、知ってる」
「すごいですよね! あの美しさからは想像も出来ない程、荒々しくも鋭い剣筋。ローズ隊長に憧れて隊員になった者も多い」
レンズは目を輝かせている。と、言うか……彼にしたらローズも年下だと思うのだが。彼は年齢、性別関係無く、力有る者はしっかり尊敬出来るのか。
しかしウィルヘイム家は代々、剣術に優れていたと聞くし。
ローズが軽く三人を相手にしている姿も頷ける──が、確かヘリオスの話では、彼女は剣術もあまり才能がなかったと言っていた。
今に至るには、相当に努力したのだろうか。
一段落したらしいローズが、剣を下ろしてこちらを見た──が、スッと目を剃らして立ち去って行く。
「おいおい! 無視かよ?」
「別に私には、今あなたと話す事は何も無いだけよ。ギルド長から大体は聞いたのでしょ?」
「聞いたけど、ローズと話しちゃいけないわけじゃないだろ。それにヘリオスは自分の兄貴だろ? ギルド長……なんて、やけによそよそしい言い方だな」
ローズは何故か不機嫌そうな顔になった。そして少し考える素振りを見せ、おもむろに隊員の一人から練習用の木剣を受け取る。
次に、それを俺に投げて来たので空中で受け取った。
まさか? と思っているとローズが言う。
「クラウンは、優れた魔法使いだったけれども。剣術にも定評があったらしいわ。あなたはその血を継いでいるのでしょ? 私と勝負しなさいよ」
こいつ何言ってんだ? いきなり過ぎるし、俺は剣なんて殆んど使わないんだから勝てるはずが無い。
俺、何か機嫌をそこねる様な事を言ったのか? これは、完全にイジメだと思うのだが……
断ろうと思っていたら、周りが盛り上がりだした。
周りは俺をクラウンの血縁者だと知っているが為に、自分達の隊長との試合に並々ならぬ興味を持ったようだ。
「隊長頑張ってください!」「隊長なら勝てますよ」「ギルド隊の力を見せてやってくださいよ」
っと──全部、ローズへの声援だ。
「いやあ。さすがにシュウ様でも、ローズ隊長には勝てないでしょう」と、レンズが言う。
お前もかよ……
当然と言えば当然だろうが俺って一応、英雄的扱いでは無かったか? などと思うが、兎に角。
こうなると逆に俄然やる気が出てくる。剣に不慣れでも身体能力には自信があるのだ。上手くかわして一発お見舞してやろう。
そして、ローズに土下座で『参りました』と言わせてやる! ……よし、見てろよ。
「俺が勝ったら何か褒美はあるのか?」
「何が欲しいの?」
「俺への態度を改める──とか、どうだ?」
「いいわ。じゃあ、私が勝ったら。あなたは、一生私に敬語で話しなさいよ。例え、ヴェロスの王と呼ばれてもね」
プライド高ぇ……ますます服従させたくなってくるぜ!
なんて、思っていたのだが。その試合は次の瞬間、中止となった。
「隊長! レクスマイアから帝国軍が来ました。シュウ・セイラルを引き取りに来たとの事」
ギルド隊員の一人が慌てて、そうローズに告げた。
「何故!? 彼の事はギルドだけしか……」
ローズが驚愕している間に、既に帝国の紋章入りの鎧や法衣を纏った者達はゾロゾロとギルド本部内へと踏み込んで来ていた。
随分と対応が早すぎるのではないだろうか? そう思いながら奴らを見て、俺は気付いた。
ちっ。最初から売られてたってわけか……
帝国軍と一緒に来たのは、ヘリオス・ウィルヘイムだった。
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