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冒険者の血統

冒険者ギルドの長

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 ◇◇◇

 またしても……
 今度は何処だ? ローズの家──ではなさそうだな。流れから行けばギルド本部……もしくは、帝国の首都レクスマイアのどちらかか。

 無駄に広い部屋だ。
 そして無駄に大きいベットだ。──あれ? 裸?
 俺は上半身裸の状態だ。そして、ガチャリと扉が開けられる音がして誰かが入って来た。ローズだ。

「おはよう。またこの展開か……って顔してるわね」
「ああ。まさか、とうとう服まで脱がされるとはな……もう、お前に犯された後って感じだな」

「死ね! 何回それ言うのよ、面白くないから!」

 ローズは顔を真っ赤にしている。やはり、こういう冗談は通じないようだ。なかなか可愛い所があるじゃないか。
 だが彼女がいるなら、帝国に捕まった可能性は排除された。と、いう事は────

「ここは、ギルド本部か?」
「そうよ。ここはギルド本部館の【クラウンの間】 あなたは、クラウンの血統者だと概ね認められたわ。潜在魔力を調べる為に、あなたの服を脱がせてもらったのよ」
「ローズ、おまえ……やっぱり脱がしたんじゃねーか」
「違うわよ! 私じゃなくてギルドの神官よ。 まぁ、兎に角。あなたの中にある魔力は証明されたわ。これで一先ずは安心よ」

 会話の途中で再び扉が開けられて、一人の男が入って来た。
 ローズと同じ宝石の様な蒼い瞳と黒髪。男なのは見れば分かるが、その美しさは目を見張るものがある。
 そして、その顔に似合わない太い声が俺に向けて発せられた。

「目覚めたようですね。シュウ・セイラル──いや。シュウ・ヴェロスと呼ぼうか?」
「セイラルでいい……まだ、自分でも受け入れられないんだ」

 男はクスッと笑う。何が可笑しいのか知らないが、次の瞬間には真顔に戻り、俺の横にいたローズを見据えて、少し叱る様に声をかけた。

「ローズ。お前は何故ここにいる!? 早く隊に戻れ」
「はい……」

 ローズの様子がやけに萎らしい。普段からそうならば、本当に美しいだけの『華』であろうに。何処か憂いを感じるというか。少し──可哀想にも見えた。
 そのローズが静かに退室すると男は改めて俺の方を向き、笑顔で語りかけてきた。

「客人の前ですまなかった。彼女は、あれでもギルド隊を指揮する立場なのだ。こんな所で油を売ってる場合では無いはずなのだがね」
「ああ。俺は別に気にしないよ」

 ローズよりは上の立場なのは言動から理解出来たが、聞けばこの男の名前は『ヘリオス・ウィルヘイム』ヴェロス冒険者ギルドのギルド長だった。つまり、現在ヴェロスの街を統治している者という事になる。
 ヘリオスは俺を帝国から守る為に、当分はギルドにかくまうと言った。そして、俺にかけられた封印の解除方法を全力で調べるとも約束してきた。
 
 随分と話が早いが正直な所、俺は別に力の解放なんて望んでいないのだが────それよりも親父達がどうなったのかを訊ねると、やはり帝都レクスマイアに送られたという話だ。

 帝国の幹部はクラウンの血統者である俺を、血眼で探していると言う。今のままではレクスマイアに近付く事も出来ない。
 親父達を助ける為には魔力を解放して、クラウン・ヴェロスの血縁である事を大々的に全国民に示す事で、国民全体を味方につける事が一番の近道だとヘリオスは言う。

 不本意ではあるが、結局俺はある程度の権力を得る必要がありそうだ。ギルドは元々、それを望んでいる感じなのか────

「ギルドは俺をどうしたいんだ?」

「ギルドは……と、いうよりは。私には、あなたを導く義務があるのです。ウィルヘイム家には代々言い伝えがあってね。クラウン・ヴェロスの血縁者が現れた時には、それを正しく導き協力する……というのが家命でしてね」

 何処かで聞きた事がある話だ……と思ったら、『ウィルヘイム家』とはローズの家じゃないか。
 事実。ヘリオスはローズの兄だと言う。数年前に彼らの父が病で亡くなり、以降は長男の彼がギルド長をやっているようだ。随分と若いと思ったら、まだ二五歳だと言われて驚いた。

「って事は。数百年前にクラウンがヴェロスを託した仲間ってのは……」
「如何にも。我々ウィルヘイム家の先祖は、曾て冒険者王クラウンと共に、シュテルマインを魔物から取り返した六人の仲間の一人『ピーター・ウィルヘイム』なのですよ」

「へえ。じゃあやっぱりローズも名家の人間だったんだな」

 結局、最初に思った通り。親の七光りだったわけだ。
 しかしヘリオスは間髪入れず答えた────

「いや……妹は正直、我が家には相応しくない」ヘリオスは呆れた様に数回首を横に振り、話を続ける。

「恥ずかしい事に、彼女はウィルヘイム家の落ちこぼれでね。子供の時は神官に光の適正を示されて期待されていたんだが。結局、時が経って見れば魔法の才能は無く。代々家に続く剣術もダメで。
 今でこそギルド隊の隊長をやらせているが。それも最初は、肩書きだけでも家名を汚さない為の偽装だったのですよ。妹は、肩書きに負けない為に努力したようだが。まあ……どんなに努力しても、あの程度なのです……」

 光の適正は普通、生まれつき授かる事は無いと聞く。
 それが本当ならローズは聖女なのではないのか? しかし。どうもその話とは裏腹に、ローズの評価は相当に低いようだ。
 なるほど──退室する時のあの態度は、兄に頭が上がらない為だったわけか。
 この家族にも色々問題がありそうだ。
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