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これは初めから運命だったのか?
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薄れゆく意識の中、俺は懐かしい夢を見ていた。
それは前世の自分。一生懸命生きた坂田隼人が、意外と呆気ない最後を迎えた。平和な日本という国の夢だ。
俺――――坂田隼人は神奈川県の外れの小さな街で、トラック運転手の父と、看護師の母の間に生まれ育った。
そんな俺は、幼い頃から変な子供だったとよく親に聞いていたし、実際に変な子供だったと自覚もしている。
一人遊びが過ぎるというか……子供なんて、皆そんなもんだとは思うのだが、俺は異質だった。
誰もいない部屋で、よく一人で会話していたからだ。
子供の頃。確かに、俺に語りかけてくる存在がいたのだ。俺はその何かとよく喋っていた気がする。
何を話していたかは殆んど覚えていなかったが。
そんな俺は八歳のある時。突然意識を失い病院に運ばれる事になった。
その日から俺は半年程。病院のベットで原因不明の病と戦い続ける日々だったのだ。
そして九歳の誕生日を迎える前。
俺が目を覚ますと。両親や親戚がベットで眠る俺を囲っており。皆が何故か泣いていたのだ。
俺は一度心肺停止にまで陥ったのだと聞いた。
その後。突然息を吹き返した俺に、親戚皆は安堵の涙を流していたのだ。九死に一生ってやつだろうが……
丁度その時から、俺の頭の中で語りかけてくる存在もいなくなった。代わりに俺の身体はスゴい勢いで回復し、一週間後には退院出来るまでに至ったのだ。
結局あの時の病気は分からない。
けど、それからは。家のベットで寝る度に、毎日変な夢を見るようになったのだ。
当時はアニメも漫画も、さほど興味が無かったのに、何故かその夢は魔法使いが溢れる不思議な世界の話だった。
それから俺はその夢に似た物語が好きになった。
ゲームやアニメ、漫画、ラノベ。色々なジャンルでファンタジーを漁った。
俺は小さい時から両親が不在の事が多く。所謂、鍵っ子で、ご飯も作り置き。兄弟もいないので、家に一人の事が多かった為か。暇さえあればパソコンを弄ったりしていて、そんな趣味の流れから情報系の高校、専門学校と通うようになった。
その後はソフトウェア製作会社に勤めながらも、自作アプリを作ったりして生きていたが。
ある時、興味で始めたのがゲーム製作。
当時、大なり小なりゲームを自分で作って配信する流れが、主流になりつつあった事から。
俺は初めて【マジックイーター】というゲームを作ったのだ。
ゲームの題材は、俺が子供の頃から夢に見てきた不思議な世界の話。子供の頃とは言え、大人になっても度々見ていたので、シナリオ製作には特に苦労しなかった覚えがある。
それが大ヒットしてから俺の生活は一変したわけだが。
結局、その人生はつまらない最後を迎えた。
そういえば、あのゲームを作ってる時ってのは、何かこう……使命感みたいなのを感じていたのだ。
夢に忠実にゲーム製作をすればする程、のめり込んでいて。ご飯も食べずに作っていた事もある。
しまいには『あなたが世界を救う……』なんて、ゲームとごっちゃになったような、謎の幻聴が聞こえてきたりしていて。
今、思うと。あの時は、とてつもなくヤバイ状態だった。
゛早く……目を覚ましなさい ゛
(――――ってそう、そう。こんな感じの脳内で響く声。
たまに聞こえていたよなぁ。ってあれ?そう思えば、あの声は昔から度々聞こえていた気もするな……
いつからだったんだっけ?)
゛目を覚ましなさい…… ゛
今、確かに声が響いた気がした。
そして途端に俺は息苦しくなる。まるで突然、辺りの空気が無くなったかの様に。俺は必死になって、大きく息を吸い空気を肺に取り入れようとした。
すると――――
「ルカ様。直ぐ治りますからね」
突然、ミュート機能を解除されたかのように。音が……声が……耳に飛び込んで来た。瞳には、パッと光が射し込んだように視界が甦る。夢から覚めたのだ。
目の前では左肩に剣が刺さったままのルカに、ベネットが回復魔法をかけていた。
その光は今までで見たこと無い程、激しく大きく青い光を放っている。ベネットが最大の魔力を放出して、ルカを治療しているのだ。
そして、辺りを見れば致命傷のワング。それに、既に動かないデモンズが倒れている。
ワング……いや、ブライトを斬ったのは俺自身であった事も思い出した。
しかし俺の身体は意思に抵抗して少しずつ歩みを進める。
抑えようとする気持ちと、反発する肉体。それが何処に向かっているのかというと、少しずつルカとベネットに近付いていた。
この期に及んで全員を殺さないと、この身体は気が済まないようだ。ルカを治療していたベネットが、静かに近付く俺に気付く。
「ルシアン様……近付かないで」
ルカへの治療を続けたまま、ベネットは震える声で懇願する。その身体はルカを抱えて、逃げようかという姿勢も見えていた。
俺が一歩近付いた瞬間。
ベネットはルカの腕を肩にかけて、立ち上がらせようとした。だが、それを制するように。
俺は、ルカの左肩に刺さる剣を握って勢いよく引き抜く。
ベネットの回復魔法により、かなり回復していたのか。
抜いてもあまり出血はしなかったが、ルカの顔は苦痛に歪み、ベネットと二人。再び地面に倒れた。
(くそっ!抑えられない!)
「ルシアン……」
「ルシアン様!」
二人の絶望した様な声と、顔を見ながら。俺の腕はその剣を振り上げた。
(いっそ俺の力で痛みも与えず楽にしてやるか?結局、ベネットが死ぬ運命は変わらねぇのか?しかもルカまで自分の手で殺す事になっちまうのかな?)
最後の最後に俺は分かった気がする。
これは最初から、ブライトの未来予知で決められた運命なのだと。逆らう事がそもそもの間違いだった。
ただ。
俺には、一つだけこの世界の神から与えられた力がある。
一か八か。ここに来て逆に、空気を読んでやろうと考えたのだ。ただそれは人生最大の大博打だった。
このゲーム的にどちらがバットエンドなのか。それはきっとブライトにも予知出来ていない事かもしれない。
だが俺は、魔王に抵抗する事をやめた。
そして剣は容赦なく振り下ろされ――――
ルカとベネットは真っ赤な血に染まったのだ。
それは前世の自分。一生懸命生きた坂田隼人が、意外と呆気ない最後を迎えた。平和な日本という国の夢だ。
俺――――坂田隼人は神奈川県の外れの小さな街で、トラック運転手の父と、看護師の母の間に生まれ育った。
そんな俺は、幼い頃から変な子供だったとよく親に聞いていたし、実際に変な子供だったと自覚もしている。
一人遊びが過ぎるというか……子供なんて、皆そんなもんだとは思うのだが、俺は異質だった。
誰もいない部屋で、よく一人で会話していたからだ。
子供の頃。確かに、俺に語りかけてくる存在がいたのだ。俺はその何かとよく喋っていた気がする。
何を話していたかは殆んど覚えていなかったが。
そんな俺は八歳のある時。突然意識を失い病院に運ばれる事になった。
その日から俺は半年程。病院のベットで原因不明の病と戦い続ける日々だったのだ。
そして九歳の誕生日を迎える前。
俺が目を覚ますと。両親や親戚がベットで眠る俺を囲っており。皆が何故か泣いていたのだ。
俺は一度心肺停止にまで陥ったのだと聞いた。
その後。突然息を吹き返した俺に、親戚皆は安堵の涙を流していたのだ。九死に一生ってやつだろうが……
丁度その時から、俺の頭の中で語りかけてくる存在もいなくなった。代わりに俺の身体はスゴい勢いで回復し、一週間後には退院出来るまでに至ったのだ。
結局あの時の病気は分からない。
けど、それからは。家のベットで寝る度に、毎日変な夢を見るようになったのだ。
当時はアニメも漫画も、さほど興味が無かったのに、何故かその夢は魔法使いが溢れる不思議な世界の話だった。
それから俺はその夢に似た物語が好きになった。
ゲームやアニメ、漫画、ラノベ。色々なジャンルでファンタジーを漁った。
俺は小さい時から両親が不在の事が多く。所謂、鍵っ子で、ご飯も作り置き。兄弟もいないので、家に一人の事が多かった為か。暇さえあればパソコンを弄ったりしていて、そんな趣味の流れから情報系の高校、専門学校と通うようになった。
その後はソフトウェア製作会社に勤めながらも、自作アプリを作ったりして生きていたが。
ある時、興味で始めたのがゲーム製作。
当時、大なり小なりゲームを自分で作って配信する流れが、主流になりつつあった事から。
俺は初めて【マジックイーター】というゲームを作ったのだ。
ゲームの題材は、俺が子供の頃から夢に見てきた不思議な世界の話。子供の頃とは言え、大人になっても度々見ていたので、シナリオ製作には特に苦労しなかった覚えがある。
それが大ヒットしてから俺の生活は一変したわけだが。
結局、その人生はつまらない最後を迎えた。
そういえば、あのゲームを作ってる時ってのは、何かこう……使命感みたいなのを感じていたのだ。
夢に忠実にゲーム製作をすればする程、のめり込んでいて。ご飯も食べずに作っていた事もある。
しまいには『あなたが世界を救う……』なんて、ゲームとごっちゃになったような、謎の幻聴が聞こえてきたりしていて。
今、思うと。あの時は、とてつもなくヤバイ状態だった。
゛早く……目を覚ましなさい ゛
(――――ってそう、そう。こんな感じの脳内で響く声。
たまに聞こえていたよなぁ。ってあれ?そう思えば、あの声は昔から度々聞こえていた気もするな……
いつからだったんだっけ?)
゛目を覚ましなさい…… ゛
今、確かに声が響いた気がした。
そして途端に俺は息苦しくなる。まるで突然、辺りの空気が無くなったかの様に。俺は必死になって、大きく息を吸い空気を肺に取り入れようとした。
すると――――
「ルカ様。直ぐ治りますからね」
突然、ミュート機能を解除されたかのように。音が……声が……耳に飛び込んで来た。瞳には、パッと光が射し込んだように視界が甦る。夢から覚めたのだ。
目の前では左肩に剣が刺さったままのルカに、ベネットが回復魔法をかけていた。
その光は今までで見たこと無い程、激しく大きく青い光を放っている。ベネットが最大の魔力を放出して、ルカを治療しているのだ。
そして、辺りを見れば致命傷のワング。それに、既に動かないデモンズが倒れている。
ワング……いや、ブライトを斬ったのは俺自身であった事も思い出した。
しかし俺の身体は意思に抵抗して少しずつ歩みを進める。
抑えようとする気持ちと、反発する肉体。それが何処に向かっているのかというと、少しずつルカとベネットに近付いていた。
この期に及んで全員を殺さないと、この身体は気が済まないようだ。ルカを治療していたベネットが、静かに近付く俺に気付く。
「ルシアン様……近付かないで」
ルカへの治療を続けたまま、ベネットは震える声で懇願する。その身体はルカを抱えて、逃げようかという姿勢も見えていた。
俺が一歩近付いた瞬間。
ベネットはルカの腕を肩にかけて、立ち上がらせようとした。だが、それを制するように。
俺は、ルカの左肩に刺さる剣を握って勢いよく引き抜く。
ベネットの回復魔法により、かなり回復していたのか。
抜いてもあまり出血はしなかったが、ルカの顔は苦痛に歪み、ベネットと二人。再び地面に倒れた。
(くそっ!抑えられない!)
「ルシアン……」
「ルシアン様!」
二人の絶望した様な声と、顔を見ながら。俺の腕はその剣を振り上げた。
(いっそ俺の力で痛みも与えず楽にしてやるか?結局、ベネットが死ぬ運命は変わらねぇのか?しかもルカまで自分の手で殺す事になっちまうのかな?)
最後の最後に俺は分かった気がする。
これは最初から、ブライトの未来予知で決められた運命なのだと。逆らう事がそもそもの間違いだった。
ただ。
俺には、一つだけこの世界の神から与えられた力がある。
一か八か。ここに来て逆に、空気を読んでやろうと考えたのだ。ただそれは人生最大の大博打だった。
このゲーム的にどちらがバットエンドなのか。それはきっとブライトにも予知出来ていない事かもしれない。
だが俺は、魔王に抵抗する事をやめた。
そして剣は容赦なく振り下ろされ――――
ルカとベネットは真っ赤な血に染まったのだ。
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