魔法主義世界に魔力無しで転生した俺は、無能とバカにされつつも無能の『フリ』して無双する

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完全なる敗北

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 自分の作ったゲームの、知らない物語をにわかに受け入れ難いのは確かだ。今までにも、未設定の部分が補完されていたりはしたが。心の何処かでは、やはりゲームの中の世界だと思っていたのかもしれない。

 実際に自分の前世、坂田隼人の記憶で進んで来れた。
 最短ルートを始め。魔物の攻略。王国の救出。レイチェルの宝玉の在りかも、ゲーム内の再起の宝玉の場所から判断したわけだ。
 
 だが夢に見る事だけは、自分も知らない事がある。リリスの夢とワングの発言のシンクロ率など。
 潜在的な記憶とも言えるが、確証なんて無いのだ。

「お前。適当な事言ってるんじゃないだろうな?」

 その言葉は、ワングを疑ったというより。自分の考えを裏付けたくて口に出していた。
 そして、突如。また激しい頭痛が襲ってきた。それは自分が自分である事を歪められた俺に、追い討ちをかけるように。
 気を失いそうな激痛に、俺は思わず頭を抱える。

「言ったはずだ。我等の目的は魔王様の人格を呼び覚ます事。ここで嘘を言って何になる」

 正論だった。寧ろ真実を告げなければ意味が無いのだから。
 だからこそ、こんな状況でもこの男は俺に手を出さないのだろう。
 自分が魔王な筈が無いと思っていた。
 しかし度々起きる身体への異変や見る夢などが、正に俺の中で何かが呼び覚まされようとしている証拠とも言えるのだ。

「くそ……お前。これを狙って全部話したのか……」
「少し喋り過ぎたかな?お前の中のスコタディが動きだしたか?クックック……随分と顔色が悪いな」

 ニヤニヤしたワングの顔がヤケに俺の怒りを誘った。
 しかし、ここで腹を立てては奴の狙い通りな気がして、沸き上がる感情をグッと抑え込む。

 しかし、次の瞬間――――
 ワングは消えた。霧と言葉だけを残して。

『それでは。最後の仕上げといこう……』

 辺りに響き渡るワングの声を聞いて、俺は何が起きたのか分からなかった。敵が見えなくなった事に、一層の緊張感が走る。
 突然何処かから何かしてくるのではないかと、キョロキョロ辺りを警戒する。
 しかし、何も起きない――――
 全く何も起きないのだ。

(なんだ!?アイツ、何処にいる?)

 ワングは人に気配を感じさせない。
 それこそが奴の最強の武器なのだから。決して正面切っての戦闘に長けているわけでは無いが。不意打ち、暗殺には長けている。
 俺は気を抜かず必死で気配を感じようとした。
 もちろん床に倒れている女性二人の事も、いつでも守れるように。

 しかし俺は突如、妙な不安を覚えた。
 部屋のドアをよく見れば鍵はかかっているのだ。
 ワングはあくまで、スコタディが宿っているが肉体がある。肉体ある者がドアや壁をすり抜ける事は考えられない。
 奴にかかれば鍵くらいは簡単に開けられるだろう。しかし、その鍵がそもそも開いていなかった。

 自分の部屋でもあるまいし。入った後に無意識に鍵をかけるなんて、そんな独り暮らしの女子みたいな行動をするようには見えない。
 考えられる事は、最初からこの部屋にワングは入っていない可能性。
 
 【魔法思念】それは魔法世界で度々使われる魔法だった。
 簡単にいえばテレビ中継だ。
 自分の思念を魔法で霧のように使い、そこに映像として映す。あたかもそこに何かがあるように、何かがいるように見え。
 その思念が消えると霧だけが残る。

 霧ならばドアの隙間でも入れるし、思念だけなら当然壁も関係ない。と、いうことは最初からワングは俺に何かをするつもりは無かったのだ。

「ちっ!時間稼ぎか!」

 俺は女性二人を抱えて直ぐに部屋を出た。
 城の外へ飛び出すと、門番がビックリした様にこちらを見ていた。

「ど、どうしましたか?」
「ワングは何処に行った!?」
「ワング様ならば何かブツブツ言いながら、街の方へ出て行きましたが?」

 門番は相変わらず俺を魔王だと思っている。
 普通に対応しているので、ワングは俺の事を何も報告していないようだ。
 いや、寧ろ俺に向けてテレビ電話しながら移動している様なモノだから、余計な事は話せなかったのだろう。
 俺は真っ先にルカとベネットの所へ向かった。


「あら、あら。どうしたの?さっきお連れさんが二人程来て、あなたが呼んでいるからって……」
「お婆ちゃん!どんな奴だった?ルカ達は一緒に行ったのか?」
「え、えぇ。街の人みたいだったわね。どうして?」

 完全に俺の失態だった。
 最初からバレていた事を知った時に思っていたが。ルカ達を避難させた所まで見られ、後の対策まで考えられていたのだ。
 さすがは賢く、隠密行動に優れたワング。最初から最後まで完全に上を行かれていた。
 
「お婆ちゃん。彼女達を……怪我はしてないけど、衰弱してます。誰か回復魔法使える人いますか?」
「まぁ大変!神父様ならすぐ来てくださるわ。後は飲み物ね……」
「じゃあ、お願いします!」
「あら、ちょっと!?」

 お婆ちゃんに女性二人を預け、俺は外へ出た。
 無駄な騒ぎを起こさないワングの対応に、俺は完全なる敗北感を覚えた。
 何故なら既に外は明るく街の人も行動している。強引にルカ達を拐えばお婆ちゃんが大騒ぎするし、ルカ達だって黙っていない。街が騒ぎになれば、さすがに俺も騒ぎのある方へ向かう。
 それが分かっていて、冷静に対応したのだ。

 ワング自身は存在感が皆無。最初から最後まで、ハッキリと顔を見せなかったし、殆んど喋らなかった。
 記憶にも残らない程、気配を絶っていたのだ。ルカやベネットがワングを覚えていなくても変ではない。
 だがおそらく、更に用心深いワングの事。人間にしか見えない別の者にも、一応付き添わせたに違いない。

 朝から騒ぎを起こすとも思わないルカ達は、不審に思いながらも、堂々と迎えに来た者に対して油断したのだろう。
 ルカ達にワングの事を教えなかったのが間違いだった。
 俺に「コッソリと別の安全な場所に移動を頼まれた」とでも言えば、断って時間をとらせるのも躊躇われる。

 俺は考えた。
 街の中は何本も道があるし、万が一気付いた俺と鉢合わせにならないようにする筈だ。
 普通なら当然城から最短の道を使うだろう。
 ならば、ワングは堂々と遠回りのルートを使っているに違いないと俺は推理した。
 俺は一番可能性の高い道を全速力で走った。
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