魔法主義世界に魔力無しで転生した俺は、無能とバカにされつつも無能の『フリ』して無双する

エンドレス

文字の大きさ
上 下
55 / 79

完全なる敗北

しおりを挟む
 自分の作ったゲームの、知らない物語をにわかに受け入れ難いのは確かだ。今までにも、未設定の部分が補完されていたりはしたが。心の何処かでは、やはりゲームの中の世界だと思っていたのかもしれない。

 実際に自分の前世、坂田隼人の記憶で進んで来れた。
 最短ルートを始め。魔物の攻略。王国の救出。レイチェルの宝玉の在りかも、ゲーム内の再起の宝玉の場所から判断したわけだ。
 
 だが夢に見る事だけは、自分も知らない事がある。リリスの夢とワングの発言のシンクロ率など。
 潜在的な記憶とも言えるが、確証なんて無いのだ。

「お前。適当な事言ってるんじゃないだろうな?」

 その言葉は、ワングを疑ったというより。自分の考えを裏付けたくて口に出していた。
 そして、突如。また激しい頭痛が襲ってきた。それは自分が自分である事を歪められた俺に、追い討ちをかけるように。
 気を失いそうな激痛に、俺は思わず頭を抱える。

「言ったはずだ。我等の目的は魔王様の人格を呼び覚ます事。ここで嘘を言って何になる」

 正論だった。寧ろ真実を告げなければ意味が無いのだから。
 だからこそ、こんな状況でもこの男は俺に手を出さないのだろう。
 自分が魔王な筈が無いと思っていた。
 しかし度々起きる身体への異変や見る夢などが、正に俺の中で何かが呼び覚まされようとしている証拠とも言えるのだ。

「くそ……お前。これを狙って全部話したのか……」
「少し喋り過ぎたかな?お前の中のスコタディが動きだしたか?クックック……随分と顔色が悪いな」

 ニヤニヤしたワングの顔がヤケに俺の怒りを誘った。
 しかし、ここで腹を立てては奴の狙い通りな気がして、沸き上がる感情をグッと抑え込む。

 しかし、次の瞬間――――
 ワングは消えた。霧と言葉だけを残して。

『それでは。最後の仕上げといこう……』

 辺りに響き渡るワングの声を聞いて、俺は何が起きたのか分からなかった。敵が見えなくなった事に、一層の緊張感が走る。
 突然何処かから何かしてくるのではないかと、キョロキョロ辺りを警戒する。
 しかし、何も起きない――――
 全く何も起きないのだ。

(なんだ!?アイツ、何処にいる?)

 ワングは人に気配を感じさせない。
 それこそが奴の最強の武器なのだから。決して正面切っての戦闘に長けているわけでは無いが。不意打ち、暗殺には長けている。
 俺は気を抜かず必死で気配を感じようとした。
 もちろん床に倒れている女性二人の事も、いつでも守れるように。

 しかし俺は突如、妙な不安を覚えた。
 部屋のドアをよく見れば鍵はかかっているのだ。
 ワングはあくまで、スコタディが宿っているが肉体がある。肉体ある者がドアや壁をすり抜ける事は考えられない。
 奴にかかれば鍵くらいは簡単に開けられるだろう。しかし、その鍵がそもそも開いていなかった。

 自分の部屋でもあるまいし。入った後に無意識に鍵をかけるなんて、そんな独り暮らしの女子みたいな行動をするようには見えない。
 考えられる事は、最初からこの部屋にワングは入っていない可能性。
 
 【魔法思念】それは魔法世界で度々使われる魔法だった。
 簡単にいえばテレビ中継だ。
 自分の思念を魔法で霧のように使い、そこに映像として映す。あたかもそこに何かがあるように、何かがいるように見え。
 その思念が消えると霧だけが残る。

 霧ならばドアの隙間でも入れるし、思念だけなら当然壁も関係ない。と、いうことは最初からワングは俺に何かをするつもりは無かったのだ。

「ちっ!時間稼ぎか!」

 俺は女性二人を抱えて直ぐに部屋を出た。
 城の外へ飛び出すと、門番がビックリした様にこちらを見ていた。

「ど、どうしましたか?」
「ワングは何処に行った!?」
「ワング様ならば何かブツブツ言いながら、街の方へ出て行きましたが?」

 門番は相変わらず俺を魔王だと思っている。
 普通に対応しているので、ワングは俺の事を何も報告していないようだ。
 いや、寧ろ俺に向けてテレビ電話しながら移動している様なモノだから、余計な事は話せなかったのだろう。
 俺は真っ先にルカとベネットの所へ向かった。


「あら、あら。どうしたの?さっきお連れさんが二人程来て、あなたが呼んでいるからって……」
「お婆ちゃん!どんな奴だった?ルカ達は一緒に行ったのか?」
「え、えぇ。街の人みたいだったわね。どうして?」

 完全に俺の失態だった。
 最初からバレていた事を知った時に思っていたが。ルカ達を避難させた所まで見られ、後の対策まで考えられていたのだ。
 さすがは賢く、隠密行動に優れたワング。最初から最後まで完全に上を行かれていた。
 
「お婆ちゃん。彼女達を……怪我はしてないけど、衰弱してます。誰か回復魔法使える人いますか?」
「まぁ大変!神父様ならすぐ来てくださるわ。後は飲み物ね……」
「じゃあ、お願いします!」
「あら、ちょっと!?」

 お婆ちゃんに女性二人を預け、俺は外へ出た。
 無駄な騒ぎを起こさないワングの対応に、俺は完全なる敗北感を覚えた。
 何故なら既に外は明るく街の人も行動している。強引にルカ達を拐えばお婆ちゃんが大騒ぎするし、ルカ達だって黙っていない。街が騒ぎになれば、さすがに俺も騒ぎのある方へ向かう。
 それが分かっていて、冷静に対応したのだ。

 ワング自身は存在感が皆無。最初から最後まで、ハッキリと顔を見せなかったし、殆んど喋らなかった。
 記憶にも残らない程、気配を絶っていたのだ。ルカやベネットがワングを覚えていなくても変ではない。
 だがおそらく、更に用心深いワングの事。人間にしか見えない別の者にも、一応付き添わせたに違いない。

 朝から騒ぎを起こすとも思わないルカ達は、不審に思いながらも、堂々と迎えに来た者に対して油断したのだろう。
 ルカ達にワングの事を教えなかったのが間違いだった。
 俺に「コッソリと別の安全な場所に移動を頼まれた」とでも言えば、断って時間をとらせるのも躊躇われる。

 俺は考えた。
 街の中は何本も道があるし、万が一気付いた俺と鉢合わせにならないようにする筈だ。
 普通なら当然城から最短の道を使うだろう。
 ならば、ワングは堂々と遠回りのルートを使っているに違いないと俺は推理した。
 俺は一番可能性の高い道を全速力で走った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

崩壊寸前のどん底冒険者ギルドに加入したオレ、解散の危機だろうと仲間と共に友情努力勝利で成り上がり

イミヅカ
ファンタジー
 ここは、剣と魔法の異世界グリム。  ……その大陸の真ん中らへんにある、荒野広がるだけの平和なスラガン地方。  近辺の大都市に新しい冒険者ギルド本部が出来たことで、辺境の町バッファロー冒険者ギルド支部は無名のままどんどん寂れていった。  そんな所に見習い冒険者のナガレという青年が足を踏み入れる。  無名なナガレと崖っぷちのギルド。おまけに巨悪の陰謀がスラガン地方を襲う。ナガレと仲間たちを待ち受けている物とは……?  チートスキルも最強ヒロインも女神の加護も何もナシ⁉︎ ハーレムなんて夢のまた夢、無双もできない弱小冒険者たちの成長ストーリー!  努力と友情で、逆境跳ね除け成り上がれ! (この小説では数字が漢字表記になっています。縦読みで読んでいただけると幸いです!)

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

処理中です...