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事もあろうに、最悪過ぎた現実

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 俺はワングに質問した。それは一度聞いたが、答えを貰えていない重要な事でもある。

「もう一度聞くぞ。いつから俺が魔王じゃないと感じた?」

 聞きたい事は山程あるが、この答え次第で対策も変わる。
 デモンズも俺の事を疑っているのか、それともワングだけなのか。それだけでもハッキリさせたいのだ。
 これ以上の下手は打てない。ワングだけならば、ここでコイツを始末する方法もある。

「最初からだ。魔王様はとは言わん。
 それに勘違いしているようだが、お前の中にある魂は二つ。それはベルを斬ったお前の人格が語っている。
 我等が目的は魔王様のスコタディを呼び覚まし、再び覚醒させる事だ。
 しかし、いつまでもお前のたましいが消えぬ理由は一つしかない。
 お前の本体がポースであるからだ。そして、それはブライト以外に他ならない」

 ワングは化けの皮を剥がした様に、今まで見た事も無い邪悪な笑みを浮かべて滔々と語りだした。
 それは、このゲームを作り上げた筈の俺も知らない、悪の歴史とたましいの話。
 俺の考えを根底から覆すものだった。

 ――――――――――

 人には光と闇の精神があるという。
 本来二つは絶妙なバランスで混じり合い、それが一つのたましいとして命を宿している。
 しかし、例外的に何とも混ざらぬ。既に一つの純粋なたましいとして完結された、特別な精神が存在する。
 真なる光の魂。これを【ポース】と呼び。
 真なる闇の魂。これを【スコタディ】と呼ぶ。

 ポースは神界の神や天使などに宿るモノで、スコタディは魔界の悪魔や魔物などに宿るのだ。どちらも普通は、未完成である人間に宿るモノでは無い。
 ところが、何百年も昔。
 この世界でポースを宿すが現れた。それがブライトという少年だったという。
 彼は、生まれながら虚弱体質だったが。代わりに秘められた魔力と不思議な力を持っていた。
 ワングの言う【未来予知】の能力がそれらしい。

 ところが当時の世界には、優れた魔法は殆んど無く。肉体的に優れた者こそが正義であった。
 その事から、虚弱体質に生まれたブライトは、剣も振れずバカにされた事でマジックイーターを作った。という話がある――――が、真相は違った。
 
 ゛我を解放せし者よ。そなたに力を授けよう ゛

 ブライト少年は、数百年も昔に出来た地下の迷宮で。一つの複雑な魔法による鍵を見つけ。何も知らず解除してしまった。
 しかしそれは魔界の王。つまり、真の魔王のスコタディを封印していた鍵だったのだ。

 魔王はここぞとばかりに特別な力を有する肉体である、ブライト少年の身体へと入り込んだ。
 しかし、ポースとスコタディが融合する事は無い。
 ブライト少年はポースが宿っていた為、スコタディは完全にその身体を支配出来ず、ブライトと魔王という二つの人格が出来上がってしまった。

 光と闇は相殺され、魔王もブライトもお互いに力を存分に発揮出来なかった。
 そして魔王はブライトを自分の中から消し去る為、マジックイーターを作り出した。
 それにより虚弱体質だったブライトは肉体の変化を感じる。そして、その変化に溺れ始めた。それは虚弱体質に生まれたブライトにとっては麻薬の様な物だったのだろう。

 徐々にブライトの心に欲が溢れ。ブライトは魔王に人格を奪われ始めたのだ。
 魔王は次々と人々の魔力を食い肉体的力を獲た。それに更に溺れ、ブライトの人格は抑え込まれていった。

 だが、魔王は完全にブライトを抑え込めなかった。ブライトの意思が強くなる、ある出来事が起きたのだ。
 
 それはブライトの幼馴染みであるリリスという少女。
 彼女は幼い頃からブライトの魔法の才能を誉めていた。そして、バカにされる彼を励まし続けていたのだ。
 ところが、ある日突然ブライトは変わってしまった。心配した彼女は、他人の魔力を喰う彼を止め続けた。

 ゛あなたの特別な力は、人々を導くモノなのよ ゛

 リリスは、ブライトの未来を見据える能力を知っていたのだという。その上でブライトは王になるべき人間だと言い続けてきた。
 人々を苦しめ魔力を奪うブライトを彼女は認めなかった。

 逆転されそうな状況に魔王は、リリスを障害とみなし。彼女を殺したのだ。
 だが、この行動が魔王の誤算だった。
 別の何かが自分の中に存在すると、ブライトに気付かせる事になってしまったのだから。

 皮肉にも、大切な幼馴染みの死によってブライトは彼女の為にも国王となる事を誓った。
 魔王との人格と必死で戦いながらも、未来予知の能力を使い人々を導き。ヴィルゼフ・ヨハネ城と、このヴァンドルク王国を築きあげたのだ。
 過ちを忘れぬように、魔王を甦らせた迷宮の上へ。
 そう。決して力を誇示する為の建国では無かったのだ。

 その後も、魔王とブライトは生涯をかけて精神的に戦い続けたようだが…………自らが老いた時。遥か遠くの国の一人の剣豪に、魔王として自分自身の討伐を依頼したようだ。
 理由はワングも知らないようだが、俺には分かる気がする。

 それはリリスとの約束を果たした達成感。そして彼女を殺した自分を、魔王を、消し去りたかったのだ。
 だが皮肉にも、この歴史は死しても続いた。
 ポースもスコタディも肉体に依存するだけのもの。ブライトが死んだ後、ブライトと魔王の魂はそれぞれ別の肉体へと転生する。
 今度は別々の者として。ブライトと魔王……それぞれのポースとスコタディの戦いは何代と続く事になったのだ。
 
 総司令のデモンズ、四魔将のベルとワングだけは、当時の真の魔王と共に解放されたスコタディだったようだ。彼らもまた肉体を変え魔王と共に生きてきた。
 ならば、この話の信憑性も高い。

 だが、こうなると複雑な気持ちになる。
 何故なら、俺は魔王の記憶やブライトの記憶らしき夢を見る……それは俺が作ったゲームの設定だからだと思っていたわけだ。
 しかし――――
 ワングに聞いた、魔王の話の真相。
 リリスが夢に出てきた事。
 俺の知らない数々の事は、俺が前世の記憶から復元出来ていないだけのゲーム設定とは思えないのだ。 

 敢えて答えを出すなら。
 俺は本当に魔王のスコタディ。もしくは、ブライトのポースだという事になる。
 そして、そのどちらも宿っている可能性。

(じゃ俺は……俺は、一体誰なんだ?前世の自分坂田隼人の記憶、は。一体なんなんだ?)
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