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ヴィルゼフ・ヨハネでの【M ・I】
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女性二人を担いで迷宮を戻る。
やがて階段を登ると玉座の間へと出てきた。ここまでは特に問題は無い。
問題は、この玉座の間から出る方法だった。と、言っても扉は一つ。その扉から出る以外には無いのだ。
迷宮から、どこか別の場所に出る道がある可能性も考えた。しかし直ぐにそれは頭の中で却下した。
そんなルートがあるなら、わざわざ魔将であるワングに玉座の間を守らせる必要が無いからだ。
つまり俺は、どう考えても隠せない女性二人を担いだまま、ワングと対面する必要があった。それは超絶不自然極まりない。
ワングには見付かってはいけない。
俺は考えた。この城の構造。ワングの行動パターン。その他、何らかの手段。
まず、この玉座の間。入り口は確かに一つしかないが、その壁の向こうが何も無いわけではない。
ポツンとこの部屋だけが存在するわけがないのだから。
ならば、壁の向こうは城の外か。もしくは別の部屋だ。
答えは簡単だった。
なんせ、この玉座の間の右隣が魔王の部屋。つまりは俺が案内された場所だ。単純に右の壁をすり抜ければ、魔王の部屋へ行く事が出来る。
魔王の部屋から出れば、廊下越しにワングが立っているのは見えるのだが、出口はワングが立っている場所とは反対方向だし、どうとでもなる。
ルカとベネットを街の外に連れ出す時も、そこまでは何とかなったわけだし。
(ってか、どうやって壁を抜けるんだよ……)
名案だと思ったが、いきなり詰んだ。
ぶち壊すのは簡単だが、俺の剣術を持ってしても全く無音で壊すのは無理がある。さすがに中で激しい音がしたら、ワングが飛び込んで来るだろう。
やはり奴をどうにかしなければならない。
だがワングは二十四時間、扉を離れない気がする。人間じゃないから、トイレにもいかないだろうし。簡単には玉座の間の扉を放置しない。
ところが最初、俺がここに来た時。
ワングが迷宮の奥まで俺を案内した。あの時は交代の兵士がいたのだ。
それが今はいないという事は。あれは、俺が来る事を見越しての事前の対応だったのだろう。
何か、あの時のようなイレギュラーはないか?と、暫し考えた。だがどれだけ脳内でシミュレーションを繰り返しても、玉座の間では扉を開かれただけでアウトだ。
やはり、ここで何をしてもダメだと結論付けた。
そして一時間後――――。
俺は一人。玉座の間の扉を豪快に開き、そこにいるワングに問う。
「異常は無いか?」
「これは魔王様。地下の方で何か音がした気はしましたが、ここは何人たりとも通っておりません」
「うむ。お前がここを守っておれば安泰だ。我は部屋に戻る」
隣の部屋に入り、俺は鍵をかけた。
もちろん部屋の壁が壊れている事はない。ただ、俺は部屋の端に鎮座する巨大なベットを動かす。それはキングサイズ……いや、魔王サイズか。
とても大きいが、動かせない事はない。
そしてベットの下にある小さな穴を広げる様に、床を剥がしていく。すると人が通れる程の穴が開いた。
俺が飛び降りると。そこは、先程まで居た迷宮の行き止まり部分だった。
そして俺は、その端の方に寝かせていた女性二人を一人ずつ担ぎ。煉瓦を部分的に抜いた壁の部分を、梯子の様に使い。上の部屋へと上げた。
そう。俺は考えた結果。
玉座の間の壁では無く、下から魔王の部屋の床に向けて。天井を破壊したのだ。念のためベットのあった辺りを狙ったのは、異変があっても気付かれ難いからだ。
半分賭けに近い行動だったが、成功だ
(俺、イーサン・ハントになれるんじゃね?正にコレはミッションインポッシブルだなぁ)
女性二人を部屋に上げてから、俺も悠々と穴から部屋に戻る。
後は穴の開いた床に板でも置いておく。下の瓦礫は処分しておいたから、迷宮から天井を見られても暗くて穴が開いてるとは分からないだろう。
最悪の場合の避難ルートも確保出来たし、後は何事もなかったかの様に、ベットを戻す。
これで、万が一部屋に入られても穴があるとは気付かれない。
我ながら惚れ惚れする程に完璧な仕事だった。
――――と、俺は思っていた。
ところが、突然。
いる筈のないワングの声が背後から聞こえたのだ。俺はビクッと後ろを振り向いた。ワングが立っている。
「何をしてるのですか?魔王様」
「は?何で?鍵は?」
あまりに不意な状況に、俺は思わず魔王様的言い回しすら忘れて問い掛けていた。
ワングは顔色一つ変えずに答えた。
「鍵なんて私には意味が無いと、知っている筈ですが?」
「そ、そうか。お前、扉の警護はどうした?」
既に状況はどうしようもないが、せめて何とか場を取り繕えば何とかなると判断し。俺は逆に問い詰めた。
しかし、次の瞬間。
これがそもそもの間違いだったと諦めさせられる言葉をワングが吐いた。
「私があの扉を警護した事なんて、今まで一度も無い。魔王様……
いや。ブライト国王と呼ぶべきか?
私が見張っていたのは誰の侵入でも無い。おまえの行動だよ」
頭が真っ白になった。
今まで俺がやっていた芝居は何だったのかと考えると、とても恥ずかしくなってくる。どうやら俺はコイツらを甘く見ていたようだ。
そしてワングは、俺の事をブライト国王と呼んだ。魔王とブライト国王は同じじゃないのか?という疑問も頭をよぎるが、今はそれどころではない。
最初から疑われていたなら、ルカとベネットを逃がしたのもバレている可能性がある。ここから何とか挽回して隙を作り一刻も早く街に行きたいところだ。
(コイツがどこまで知ってるか探るか……)
「最初から知ってたのか?じゃあ何で泳がせた?」
「おや?どうやら記憶は戻っていないようだな。魔王の記憶もブライトの記憶も……
その様子では、未来を読む能力は何処かに置き忘れたのか。
閣下の心配も、まるで無用だったようだ。
さそがしお喜びになるだろう」
(未来を読む?空気なら読めるが?まぁ、俺はブライトなんかじゃないけどな)
空気を読むのも、都合良く未来を展開させる能力という意味では、軽い未来予知並のチートだろうが。
あからさまな未来予知なんて、そんな能力があったなら今頃こんなピンチに陥っている筈が無い。
何か勘違いはしているようだ。だからといって、打開策は思い付かなかった。
やがて階段を登ると玉座の間へと出てきた。ここまでは特に問題は無い。
問題は、この玉座の間から出る方法だった。と、言っても扉は一つ。その扉から出る以外には無いのだ。
迷宮から、どこか別の場所に出る道がある可能性も考えた。しかし直ぐにそれは頭の中で却下した。
そんなルートがあるなら、わざわざ魔将であるワングに玉座の間を守らせる必要が無いからだ。
つまり俺は、どう考えても隠せない女性二人を担いだまま、ワングと対面する必要があった。それは超絶不自然極まりない。
ワングには見付かってはいけない。
俺は考えた。この城の構造。ワングの行動パターン。その他、何らかの手段。
まず、この玉座の間。入り口は確かに一つしかないが、その壁の向こうが何も無いわけではない。
ポツンとこの部屋だけが存在するわけがないのだから。
ならば、壁の向こうは城の外か。もしくは別の部屋だ。
答えは簡単だった。
なんせ、この玉座の間の右隣が魔王の部屋。つまりは俺が案内された場所だ。単純に右の壁をすり抜ければ、魔王の部屋へ行く事が出来る。
魔王の部屋から出れば、廊下越しにワングが立っているのは見えるのだが、出口はワングが立っている場所とは反対方向だし、どうとでもなる。
ルカとベネットを街の外に連れ出す時も、そこまでは何とかなったわけだし。
(ってか、どうやって壁を抜けるんだよ……)
名案だと思ったが、いきなり詰んだ。
ぶち壊すのは簡単だが、俺の剣術を持ってしても全く無音で壊すのは無理がある。さすがに中で激しい音がしたら、ワングが飛び込んで来るだろう。
やはり奴をどうにかしなければならない。
だがワングは二十四時間、扉を離れない気がする。人間じゃないから、トイレにもいかないだろうし。簡単には玉座の間の扉を放置しない。
ところが最初、俺がここに来た時。
ワングが迷宮の奥まで俺を案内した。あの時は交代の兵士がいたのだ。
それが今はいないという事は。あれは、俺が来る事を見越しての事前の対応だったのだろう。
何か、あの時のようなイレギュラーはないか?と、暫し考えた。だがどれだけ脳内でシミュレーションを繰り返しても、玉座の間では扉を開かれただけでアウトだ。
やはり、ここで何をしてもダメだと結論付けた。
そして一時間後――――。
俺は一人。玉座の間の扉を豪快に開き、そこにいるワングに問う。
「異常は無いか?」
「これは魔王様。地下の方で何か音がした気はしましたが、ここは何人たりとも通っておりません」
「うむ。お前がここを守っておれば安泰だ。我は部屋に戻る」
隣の部屋に入り、俺は鍵をかけた。
もちろん部屋の壁が壊れている事はない。ただ、俺は部屋の端に鎮座する巨大なベットを動かす。それはキングサイズ……いや、魔王サイズか。
とても大きいが、動かせない事はない。
そしてベットの下にある小さな穴を広げる様に、床を剥がしていく。すると人が通れる程の穴が開いた。
俺が飛び降りると。そこは、先程まで居た迷宮の行き止まり部分だった。
そして俺は、その端の方に寝かせていた女性二人を一人ずつ担ぎ。煉瓦を部分的に抜いた壁の部分を、梯子の様に使い。上の部屋へと上げた。
そう。俺は考えた結果。
玉座の間の壁では無く、下から魔王の部屋の床に向けて。天井を破壊したのだ。念のためベットのあった辺りを狙ったのは、異変があっても気付かれ難いからだ。
半分賭けに近い行動だったが、成功だ
(俺、イーサン・ハントになれるんじゃね?正にコレはミッションインポッシブルだなぁ)
女性二人を部屋に上げてから、俺も悠々と穴から部屋に戻る。
後は穴の開いた床に板でも置いておく。下の瓦礫は処分しておいたから、迷宮から天井を見られても暗くて穴が開いてるとは分からないだろう。
最悪の場合の避難ルートも確保出来たし、後は何事もなかったかの様に、ベットを戻す。
これで、万が一部屋に入られても穴があるとは気付かれない。
我ながら惚れ惚れする程に完璧な仕事だった。
――――と、俺は思っていた。
ところが、突然。
いる筈のないワングの声が背後から聞こえたのだ。俺はビクッと後ろを振り向いた。ワングが立っている。
「何をしてるのですか?魔王様」
「は?何で?鍵は?」
あまりに不意な状況に、俺は思わず魔王様的言い回しすら忘れて問い掛けていた。
ワングは顔色一つ変えずに答えた。
「鍵なんて私には意味が無いと、知っている筈ですが?」
「そ、そうか。お前、扉の警護はどうした?」
既に状況はどうしようもないが、せめて何とか場を取り繕えば何とかなると判断し。俺は逆に問い詰めた。
しかし、次の瞬間。
これがそもそもの間違いだったと諦めさせられる言葉をワングが吐いた。
「私があの扉を警護した事なんて、今まで一度も無い。魔王様……
いや。ブライト国王と呼ぶべきか?
私が見張っていたのは誰の侵入でも無い。おまえの行動だよ」
頭が真っ白になった。
今まで俺がやっていた芝居は何だったのかと考えると、とても恥ずかしくなってくる。どうやら俺はコイツらを甘く見ていたようだ。
そしてワングは、俺の事をブライト国王と呼んだ。魔王とブライト国王は同じじゃないのか?という疑問も頭をよぎるが、今はそれどころではない。
最初から疑われていたなら、ルカとベネットを逃がしたのもバレている可能性がある。ここから何とか挽回して隙を作り一刻も早く街に行きたいところだ。
(コイツがどこまで知ってるか探るか……)
「最初から知ってたのか?じゃあ何で泳がせた?」
「おや?どうやら記憶は戻っていないようだな。魔王の記憶もブライトの記憶も……
その様子では、未来を読む能力は何処かに置き忘れたのか。
閣下の心配も、まるで無用だったようだ。
さそがしお喜びになるだろう」
(未来を読む?空気なら読めるが?まぁ、俺はブライトなんかじゃないけどな)
空気を読むのも、都合良く未来を展開させる能力という意味では、軽い未来予知並のチートだろうが。
あからさまな未来予知なんて、そんな能力があったなら今頃こんなピンチに陥っている筈が無い。
何か勘違いはしているようだ。だからといって、打開策は思い付かなかった。
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