魔法主義世界に魔力無しで転生した俺は、無能とバカにされつつも無能の『フリ』して無双する

エンドレス

文字の大きさ
上 下
52 / 79

遅くなったけど人質救出始めます

しおりを挟む
 『マジックイーター』というゲームのメインストーリーは魔王討伐であった。
 しかし、その魔王とは。この世界の唯一無二でありながらも、何代と続いた魔王歴史の結果でもあった。
 魔王にも当然、過去の背景が設定されているわけだ。

 ゲームでの討伐対象の魔王とは、プシュケスフィアで封じられた魂が、再起の宝玉を奪われる事により復活した魔王である。
 これは俺もハッキリ覚えていた。この世界では、レイチェルの絡みで少し展開こそ変わってしまったが。

 しかし、俺は大元を忘れていたのだ。
 プシュケスフィアを受ける以前は、死と転生を繰り返してきた魔王だったのだが。
 思えば初代魔王が誕生した経緯こそ。原点回帰として、ゲームにマジックイーターと名付けた決めてだった。つまりは、魔王誕生の歴史に由来させたタイトルなのだ。

 後の初代魔王、ブライトの歴史は、お婆ちゃんが話した通り。
 バカにされ続けた彼の、人々への恨みから全ては始まった。
 ブライトは自分の魔力だけでなく、他人の魔力もマジックイーターで喰らい続けていったのだ。
 その結果、最強の剣士となったが。同時に人としての心も失ってしまった。

 そんな力に溺れた魔王も遂に、一人の勇者により倒されたのだ。
 その時に魔王が喰い続けた、何万という人々の大量の魔力の源は、魔王の肉体崩壊と共に分散され。各地の泉へと散らばったのだ。

 後にそれは、魔力の泉と呼ばれる事になった。
 人々は、そのお陰で巨大な魔力を手に入れる事になり。魔法文化は大きく進展した。
 結果。剣よりも魔法に世界のバランスは変わり始めた。時代の流れと共にバランスはどんどん変わり、やがて剣術は廃れた。
 魔法主義の世界が築き上げられていったのだ。

 ついつい、俺までお婆ちゃんの話に夢中になってしまっていたが、考えてみれば自分が考えたシナリオじゃないか。
 だったら、あの夢のブライトとは初代魔王の事なのかもしれない。寧ろ、そう考えれば色々と辻褄は合うのだ。
 
(じゃあ、あのリリスという女性は誰だ?さすがにそんな細かい設定まではしていないしな。そもそも、何で俺の夢が魔王の記憶なんだよ……)

 単純に深層心理的な物かもしれない。魔王の設定だって忘れていただけだし。しかし、何かが釈然としなかった。
 それよりも。
 今はランド領主の人質の奪還をしなければいけない事を俺は思い出した。
 ルカとベネットは相変わらず話に夢中だ。まぁ、この様子なら安心して置いておいて大丈夫そうだ。

「――――国王になったブライトは、先見性も素晴らしかったそうよ。未来を読める、とまで言われていたほどにね。そのお陰で国の危機や数々の災害を未然に……」

 相変わらず、お婆ちゃんの話は息もつかせぬ勢いで続けられている。

「あのぉ……。僕はそろそろ行きますね」
「あら。まだ来たばかりじゃないの」
「もう、二時間は経ちますし……」
「ここからが面白いのよ?」
「あぁ。後は、彼女達にお願いします」
「残念ねぇ。じゃあお嬢さん達に伝えておくわね」
「はい。それでは失礼します」

 一体どれだけネタが出て来るのか気になったが、後から二人に聞けばよい事だ。そのうち、彼女達もウンザリしてくるのだろうとは思うのだが。
 俺は魔王の経緯を思い出せただけで、十分な収穫だった。
 そして。ルカとベネットとお婆ちゃんに見送られ、俺は場を後にした。

 気付けばスッカリ夜も更けていた。
 それから城へと戻り、そのまま玉座の間へ向かう。玉座の間の扉前には、やはりあの男が立ちはだかる。
 ワングと呼ばれる魔将の一人だ。と、いっても今。魔将は彼一人しかいないのだが。

 彼の勤務時間は二十四時間なのだろう。見た目人間だが、中身は魔物の設定だし、疲れる事は無いのかもしれないが。
 魔王軍というのはイメージ通りのブラック企業のようだ。
 それにしても、お婆ちゃんは魔王には天使の様な一面もあったと言っていた。そこら辺の話も興味はある。


「これは魔王様……」
「ついて来なくてよいぞ。ここで見張りを続けろ」

 一瞬戸惑ったようにも見えたが、俺の一言でワングはその場に立ち止まった。黙っていたら付き添って来るのは目に見えたが、魔王の力は偉大だ。
 言葉一つで屈服させるのは少し癖になる。
 お婆ちゃんの話で聞いた、ブライトが権力を得たかったのも少しは分かる気がする。

 俺は玉座を動かして迷宮に入った。
 迷宮の奥。あの広大な場所まで行くと、デモンズが居そうなので。とりあえず迷宮の中で牢屋が見付かる事を祈りながら、アチコチ移動してみる事にする。

 迷いながら三十分程迷宮を探した結果。
 薄暗い場所で鉄格子の扉を発見した。近付くと、それは間違いなく牢屋だ。
 中を覗いて誰かいないかを探す。

 並んでいる牢屋の三つ目にして、奥で女性が二人倒れているのが見えた。よく見ると微かに胸が動いている。
 一応、他の牢屋も覗いたが人質はこの二人だけのようだ。間違いなくランドの妻と娘だろう。

(あれか!まだ、生きてるぞ!)

 俺は直ぐに剣の一撃で鍵をぶっ壊す。
 結構大きな音がした。一応暫く様子をみたが、誰も来る気配はなかったので、迷宮には他に誰もいないようだ。
 俺は静かに扉を開けササッと中に滑り込む。

「大丈夫ですか?」

 身体を揺すってみると、微かに反応はある。
 しかし、見た感じガリガリに痩せ細っていて、体力は既に無い事が伺えた。いつからここに囚われているのか知らないが、何も食べていないのだろう。
 人質というより、子供が適当に捕まえた虫を虫籠に放置してるような扱いで。実際、二人は明らかに虫の息だった。

 とても自分で動ける状態では無いので、俺が二人を抱えて行く事にする。こんな時ベネットがいれば直ぐに回復が可能なのだが……大至急、彼女の所に連れて行くしかない。

(アイツ、嫌がるだろうなぁ……)

 ルカも多少は回復魔法が使えるが、ここまでの状態だとベネットの力が必要なのは明白。彼女の説得は後で考えるとして、再び迷宮を出る為に俺は慎重に行動を開始した。
 とはいえ問題は迷宮内ではない。
 玉座の間以降を無事に切り抜けられるかだ。ここで失敗したら、全てが水の泡になる気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

愛すべき『蟲』と迷宮での日常

熟練紳士
ファンタジー
 生まれ落ちた世界は、剣と魔法のファンタジー溢れる世界。だが、現実は非情で夢や希望など存在しないシビアな世界だった。そんな世界で第二の人生を楽しむ転生者レイアは、長い年月をかけて超一流の冒険者にまで上り詰める事に成功した。  冒険者として成功した影には、レイアの扱う魔法が大きく関係している。成功の秘訣は、世界でも4つしか確認されていない特別な属性の1つである『蟲』と冒険者である紳士淑女達との絆。そんな一流の紳士に仲間入りを果たしたレイアが迷宮と呼ばれるモンスターの巣窟で過ごす物語。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

処理中です...