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第七の洞窟は御一人様でお願いいたします
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「あれ?ここは何処だ?」
さっきまでウォータースライダーではしゃいでいた筈だった。しかし、何故か俺は朽ち果てた建物の中にいた。
雰囲気からそこは、何処かの城の中にも感じられる。
「おーい!ルカ!?ベネット!?」
叫んでも二人の声は帰ってこない。昨日見た夢と同じような状況だ。暫く辺りを歩いているとガシャっと何か音が聞こえた。
崩れた壁の向こうからだ。そちらを覗いて見ると、一人の甲冑を着た兵士の様な男がこちらを見て立っていた。
魔法がメインのこの世界では、甲冑なんて初めて見たかもしれない。
「ひっ!く、来るな!化物め!」
ひきつった顔。震えた声。男は何かに恐怖を感じていた。
それが自分に対してだと気付くには暫しかかった。その男が突然俺に斬りかかってきた事で、俺は漸く自分が怖れられている事に気付いたのだ。
咄嗟に俺は剣を抜いて男の剣を弾いた。
昨日の夢とは違い、驚くほど剣は軽く感じた。男の剣はクルクルと漫画の様に飛んで行き天井に突き刺さる。
「う、うわぁ!た、助けてくれ!」
再び男は絶叫して俺に背を向けた。
その瞬間、男の身体は蒼い炎に包まれてその場から消えたのだ。
何が起きたのか分からなかった。
「お、おい!一体、どうなってんだ」
◇◇◇
「ルシアン!」「ルシアン様!」
ルカとベネットの声が聞こえ、突然俺は夢から覚めた。
水のせせらぎが聞こえる。青い空と自然の匂いで、現実に戻って来た事を感じた。
「良かった。ルシアン!本当にごめんね!」
「ルカ?俺……何してた?」
彼女の話では、ルカのスケスケ姿を見た俺は後ろから彼女に頭を叩かれたようだ。情けない。
だが、ルカは軽く叩いた程度だと言っていたし、それが原因とは思えないが、俺は暫く意識を失っていたようだ。
「そうか……どうでもいいけど。早く服乾かせよ」
俺が倒れた事に余程慌てたのか、ルカの服は現在も透けたままだ。しかもその格好で、俺の上半身を抱き起こしているものだから。彼女の透けた胸が俺の顔のすぐ目の前にあり、思わず注視してしまう。
気付いたルカが真っ赤な顔をして俺をパッと離す。
支えを失った俺はガンっと地面に頭を打ち付ける事になった。
これで再び俺は夢の中に――――入る事はなかったのだが。
(頭いってぇ!でも、最高の景色だったわぁ。それより、あの夢なんだろうな……)
――――――――――
そんな訳で、なかなか素敵に第八の泉は攻略された。
次は、元レブン王国王都の近くにある第七の泉だ。
現在の場所からだと国境のトンネルにも近い。(もはや国境では無いが)
そこを越えて徒歩で向かう事も出来るし、サランの王都に戻って飛空艇で運んでもらう方法もあったのだが。
身体の鈍り防止にも、直接歩いてもよいだろうという結論に至った。
レブン王国は現在サラン王国扱いとなっている。俺達は元、王都であるエクレアに向かうまでの途中にある街、レイクで色々と情報を得ていた。
どうやらサラン王国になったとはいえ、レブンの領土は元の王都と同じように元国王『ランド』が統治する事になったようだ。
城の復興はまだ未定だが、当面は街にある領主館でエクレアの復興を行っているらしかった。
まぁしかし、俺達にはさほど関係の無い事だ。
第七の泉はエクレアの近くにあるので、そこを目指して進んだ。
「これ入り口?どうやって入るの?」
「どうだろうなぁ……」
「ルシアン様?自分でここって言ったんですよ?」
第七の泉がある洞窟へは着いたが、入り口は頑丈な扉で封鎖されていた。そこには張り紙がしてある。
゛危険。立ち入りには許可を ゛
張り紙の最後に元レブン王国の印が押されている。
どうやら扉を開けるには鍵が必要なようだ。そんなのゲームにはなかった筈だが。ゲームと違う事は多々起きてるし、そろそろ知らない展開も予想しなければいけないようだ。
とにかく、今はランド領主に会う必要があった。
――――――――――
「ルシアン・ルーグ殿。サラン国王から……いや、国王陛下から、そなたの活躍は伺ってますぞ。泉の洞窟に入りたいのですか?しかし、現在あそこは危険なので条件がありましてね……」
ランド領主によると、洞窟の真下に大規模な水脈が見付かったようだ。それにより洞窟内の足場が崩落する危険性があり、補強工事を予定していたとの事だった。
あまりドヤドヤと大人数で入ると、床が抜ける可能性がある為。立ち入りを制限していたようだ。
どうしても入るならば、中には魔物がいない事も確認済みらしく、原則一人だけで静かに泉の水を汲んで帰って来る程度にしてほしいとの事。
それでも、床に敷いてある大きな木の板の上を移動するようにしないと、ズボンッと足が抜け。そのまま水脈に落ちる可能性があるらしい。
「工事は、いつ終わるのですか?」
「それが、今はエクレアの復興が優先なのでな。当面は無理だろう。入り口までは魔法士に送らせる事は出来るが?」
「まぁ。僕は必要無いので、彼女達だけお願い出来ますか?女性なら軽いので大丈夫だと思いますし」
「それでも、安全を考慮して一人づつになるが構わんかな?」
ルカとベネットは問題無いと頷く。
俺はその間、復興の手伝いをする事にした。
(しかし、あの洞窟。そんなに足場が弱かったっけ?)
考えた所で俺に判断出来る事では無いし。
この土地の人間がそう言うのだから、間違いないだろうとの結論を出した。
そして、先ずは一番軽いベネットが行く事になった。
俺とルカは、鍵を持った兵士と共に洞窟入り口へと向かうベネットを見送った――――
それから二時間もしないうちにベネットは戻って来る。
「全然大丈夫でしたよ。確かに少し地面が柔らかい気はしましたが、ちゃんと木の板が敷いてあるんで。そこを歩いて行くだけで泉まで辿り着けます」
続いて俺とベネットの二人で、ルカを見送った。
当然、彼女もすぐに戻ってくると俺達は思っていたのだ。
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