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自国に帰った他国の英雄

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「飛空艇はこれ以上は下げられません。城壁の上に着けますので、そこへ下りてください」
「分かった。お前達は外にいる魔法士の援護にまわれ。まだ未熟な者が多いようだ」
「了解しました!」

「レイバンさん。僕は国王陛下に真相を伝える必要があります。よければレイバンさんにも立ち会いをお願いしたいのですが、お願い出来ませんか?」
「サラン王国の魔法士団長として。私に出来る事ならば貴殿に協力させていただきます」
「ありがとうございます」

 見た感じ、完全に城に攻撃が集中している。
 思った通りレイチェルの怨念は、自らの宝玉に引き寄せられている感じだ。このままでは、ゼクルート王国全体に被害が出てしまうのは確実だった。
 一刻も早く国王陛下に宝玉の事を伝えて、地下へ向かわなければならない。

 俺は周りに無数に飛び交う霊体を散らしながら、城の入り口へと向かった。
 地下の宝玉の間は封印されている。
 そこに立ち入るには国王の許可を得て、王国のしるしたる物を翳さないと誰も入れない。

 それは、おそらくレイチェルの怨霊も同じ。
 宝玉に引き寄せられてはいるが、結界により宝玉の間には入る事が出来ない。いつまでも怨念は、この地に囚われた様に周囲を暴れ回る事になる。

 城の入り口付近で、呆然と此方を見て立ち尽くしている魔法士がいる。何処かで見た顔だと思ったが――――

「セシルじゃないか!」
「お前……ルシアンか!?こんな所に何の用事で来たんだ?」
「今は話してる暇が無い。国王陛下は中か?」
「はぁ?国王陛下だと?」

 こんな状況でもセシルは俺に対して敵対的な視線を投げてくる。
 そこにレイバンとルカが追い付いて来た。

「あれ!?セシル君?」
「ルカさん!?ルシアンと冒険に出ていると噂に聞いていたが、何でまた……」
「話中に申し訳ない!君はゼクルート王国の魔法士か?私はサラン王国、魔法士団・団長のレイバンだ。ゼクルートの国王陛下に大至急会いたい」

 レイバンの一言でセシルがビシッと敬礼をした。
 他国の魔法士とはいえ、相手は団長。見習いのセシルとは全然、格が違うからだ。

(俺にはそんな態度しないくせに……)

 相変わらず気分の悪い奴だ。
 レイバンの言葉には従い『現在、まだ城内におられます、僕が案内します』っとハキハキ答えていた。

 城中は酷い惨状だった……

 外の倍近い霊体が飛び交い、多くの魔法士が倒れている。
 霊体は地下に向かう階段に流れ込んでいるようだが、今はそれより先に国王だ。

「セシル!何をしている。お前の任務は――――。ん?ルシアンじゃないか」

 敵を蹴散らしながら階段を下りて来たのは、ヴィクトリア。訓練生時代の先生だ。
 と、言っても卒業してからそんなに経っていないが。何かとても懐かしく感じる。

「先生!?お願いします!僕達を国王陛下の所に案内してください。伝えなければいけない事が」

 先生はチラっと僕の剣を見た。
 間も無くルカの炎魔法も全て散ってしまうだろうが、いまだ赤い輝きを放つ剣を。
 その後、レイバンが直ぐに自らの身分を名乗った。ほんの少し考えた感じの後、先生は俺達に付いてくるように促した。
 とりあえず俺達は国王へ会う事を許された。

 ――――――――――

「こんな時に申し訳ありません。私はサラン王国、魔法士団・団長のレイバン・サルートと申します。
 今まさに起きているこの襲撃に対して、是非このルシアン・ルーグ殿の話を聞いて頂きたく。謁見をお願い致しました」

 少し大きな部屋にいる者達、全員が俺に視線を向けた。
 普段はすれ違う事すら無い、国王を始めとする王族の人間達。
 そしてゼクルートの魔法士団・団長『シバ・フォン・マクガイア』という王国トップの大魔法使いを前にし。
 俺の心臓の鼓動は早まっていた。

「君は?サラン王国の者かね?」
「いいえ。私はここゼクルート王国の人間です」

 名前すら知られていない俺がこの場で発言出来るなんて、異例中の異例だった。その緊張感を察したのか、レイバンが国王に一言差し込む。

「彼、ルシアン・ルーグは、我がサラン王国を救った英雄です。彼の話を聞く事は、今。この国のプラスになるかと思います」

 レイバンの言葉に驚いたのは国王だけでは無い。
 シバ団長、ヴィクトリア先生、王族の者達。つまりは、この場にいる者、全てが虚を衝かれた感じの表情を見せていた。
 だが、そのお陰で俺は勇気が出たのだ。

「恐れながら、国王陛下にご報告させていただきます……」

 俺はレイチェルの事を話した。
 今、襲って来ているのは魔王軍の魔将の一人の怨霊である事。
 そして城の地下に眠る宝玉は、その魔将の物である可能性がある事。

 国王は難しい顔をして沈黙した。
 他の者も同様に眉をしかめていたが、間を置いてシバ団長が口を開いた。

「ルシアン。お主の言葉を信じると、魔王は既に復活している事になるのだが?」
「はい。おそらくは何年も前から復活していると思います」
「それが違った場合。本当に魔王を復活させる事になるのだが。責任はとれるのだろうか?」

 百パーセントの自信は無い。
 あくまでゲームを基準に得られた結果でしかないが、それこそが俺の最大の情報でもあった。
 しかし、ゲームと全く同じ事が起きているわけでも無い。違う結果だって生んでいる。
 だからこそ、俺は言葉に詰まった。

 しかし――――

「その場合。私が全責任を追いましょう」

 意外な発言をしたのはヴィクトリア先生だった。
 それに驚いたのはシバ団長だったようだ。先生と団長は、結構古い仲だと聞いた事がある。
 その団長があんな顔をするのだから。先生の言動は余程のイレギュラーだったのだろう。

「なるほど。では国王陛下――――何かあれば、私も責任を負う事にしましょう」

 シバ団長の決断に、またも全員が驚いた。
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