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そして運命は、同じ道を導く
しおりを挟む「いやぁ!」
ルカの割れる様な叫びが響いた。
それで一瞬止まっていた俺の思考が動き、直ぐに剣を抜いてレイチェルに槍を突き刺した者へと斬りかかった。
それは最速の一振だった。しかし、その者は間一髪後ろに飛び退き、俺の剣は空を斬って地面を叩いた。
レイチェルを貫いていた筈の槍が、糸で繋がれているかの様にレイチェルの腹部から抜け、その者の手に戻ってゆく。
その途中で、俺の頬を掠めていった。
「ほう。なるほど……彼が相手では、どのみちレイチェルではムリでしょうね。
大人しく閣下に報告だけしておけば良いものを、いつまでも連絡が無いと思ったら。
要らぬ感情で敵に接するから死ぬ事になるのですよ。
もっとも、レイチェル。あなたは死ねませんがね」
その者は顔も声も中性的で美しい男性だった。
しかし表情は、笑いを堪えている様な憎たらしい感じだ。
黒髪の長髪を振り乱し、右手の長い槍をクルクル回すと最後にトンっと、その柄を地面に付けた。
全てが金色。細かい装飾も相まって豪華絢爛……いや、センスの無い槍だ。
「る、ルシアン。に……逃げて……」
怯えたような震えた声をルカは発した。おそらく一瞬で勝てない事を悟ったのだろう。
それもその筈――――
この男は魔王軍四魔将のトップ『ベルシュート・ラキュアス』
通称、飛槍のベルと呼ばれる男だ。
(二番目飛ばしてトップが出てくるとか。ゲームのセオリーくらい守れや!)
イレギュラー展開に苛立ちが募る。
見た感じでルカは戦意喪失。ベネットは息はしているが、動くのがやっとだろう。レイチェルは死んでもおかしくない致命傷。
いや。死んでいるが、死ねないのだ。
「レイチェルの気配を辿って様子を見に来たら……コレですよ。
剣術少年の連れらしき特徴の女二人を見つけて、殺そうとしたら。まぁ、驚きですよ。
まさか守るんですものね。
変な感情移入でもしたんですかね。
これだから、女は困る。僕は最初からレイチェルを四魔将に入れるのは反対だったんだ」
ブツブツと語り出したと思ったら、不気味な笑みを浮かべたベルは突然凄い速度で此方に槍を構え飛び出して来た。
俺は咄嗟に身体を捩り交わす。
が……ベルの目的は俺では無かったのだ。
次の瞬間――――
既に肉体の死を迎えているレイチェルの身体は、槍により切り刻まれる。更にレイチェルの身体が突然蒼白い炎に包まれる。
それは、最高位の炎魔法。
全てを灰にする程の火力を誇る ゛地獄の業火 ゛
「ぎゃああああ!」
聞く者の心臓が止まりかねない程の大きな悲鳴をあげたレイチェル。彼女を焼く炎は更に勢いを増した。
その先の結末を俺は知っていた。
その炎は徐々に色を失ったが。代わりに黒い霧の様な物が巨大な顔を形取る様に彼女の肉体から発生した。
これは、肉体を失う想像もつかない痛みを受けながらも、死ぬ事すら叶わぬ絶望が生み出した、怨霊というか生き霊の姿だ。
こうなると、宝玉を壊しレイチェルの魂を解放するより無い。もはや、その姿にレイチェルの意思等存在しないのだから。
ゲームでは主人公達に敗れたレイチェルが火山の中に落ちて怨霊化したはずだが。
経緯は違えど結局、彼女を救う事は出来なかった。
怨霊は幾つにも分裂して辺りを飛び回る。やがて、一つの大きな塊に戻り何処かへ飛び去って行く。
(不味い!早く宝玉を壊さないと!)
その怨霊を目で追っていた俺に『こっちを見ろ』と言わんばかりにベルが槍を放ってきた。
その速度は音速かとも思える。俺はスレスレで避けた。
槍は、またしても持ち主の手元へと戻る。本当に厄介だ。
「さて、少年。君は危険だ。ここで僕が始末させてもらうよ。今日は大変な収穫だ。気に入らないレイチェルを痛めつけれたし、噂の少年も始末出来る」
ベルは満足気に笑みを浮かべる。
気に入らなかった。
仲間であるレイチェルを平気で殺し、怨霊化するまで肉体を消し飛ばしながらも妙に冷静なベルの態度が。
「おまえ……マジで殺すわ」
「おお!怖い怖い。気をつけなくちゃね」
おちゃらけた態度に余計に腹が立つが、今までの剣術修行と変わらない。落ち着いてやればきっと勝てる。
大した相手じゃない筈だと思っていたが、さすがのナンバーワン。動きが速い。
一筋縄ではいかない。しかも、姑息。
俺と戦いながらも、時折戦意の無いルカや動けないベネットに当たりそうな軌道で槍を投げる。
俺は咄嗟にそれを庇ってしまう。
「くそが……卑怯くせぇ」
敵に正々堂々なんて言葉は意味が無いが、今に口を突いて出そうだ。それくらい卑怯な攻撃の仕方をしてくる。
「やりにくそうですね。本当。自分の事だけ考えれば良いものを。僕もいい加減面白くないので、君が戦い易いようにしてあげますよ」
ベルは今までに無い速度でルカに向かって槍を放った。全く反応出来ていないルカ。だが、俺には何故かその光景がスローモーションで見えた。
今までも何度かあった。
熱くなると、冷静さを欠いて自分をコントロール出来なくなる。
そして別の力が身体を動かすのだ。
一瞬でルカに向かう槍を俺は斬り落としていた。弾いたのではなく、斬り落とした。
もはやベルの元に槍が戻る事も無いだろう。
そのまま鏡に反射する光の様に俺の体はベルに向かって、方向転換していた。
ベルが初めて冷静さを欠いた表情をしたのが俺には見える。
そして無防備なベルの左肩から右足へ向けて、斜めに深く刃が斬れ込んだ。
真っ二つに肉体が切断されてもおかしくない。しかしさすがは四魔将トップなのか、ベルの肉体はその形を留めていた。
それでも致命傷だ。意外にも赤い血液が辺りに飛び散った。
悲鳴すらも発する事が出来ず、ベルは地面に倒れた。
俺は容赦なく、倒れたベルに更に剣を振り上げた。
「こ、の……あ、あなたっ!ぐふぇあ!」
その瞬間ベルが何故か喜悦の表情を浮かべ、意味の分からぬ事を叫んだが。その言葉が聞き取られる事は無く――――
俺の剣はベルの胸元に突き立てられた。
それはまるで、子供が残酷に、容赦無く、逃げる虫を殺すが如くのとどめの一撃。
息絶えたベルの表情は、意外にも不気味に笑っていた。
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