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自己中ドワーフの最高傑作です

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 ◇◇◇

 ――――ヴィルゼフ・ヨハネ山脈――――

「ここにおられましたか閣下」
「この景色は圧巻であろう、ベル。この景色の全て。いや、世界の全てを再び魔王様が支配するのだ」
「―――――そうですね。しかし未だ魔王様は何処に行ったのやら不明です。もはや、ゼクルートにはいない可能性も」

「肉体蘇りしも精神が未だ覚醒していない可能性は?」
「それも考えられます。捜索範囲を拡げましょう」
「うむ、任せる。ところでサラン王国は?」

「それをご報告に参りました。単刀直入に申し上げると失敗です」
「やはり。ガーゴイルの大量投入だけでは無理か」
「いえ。それが、カリザリスが出しゃばりまして……」

「むぅ。アイツが動いたのか……。ならば何に失敗したのだ?」
「カリザリスは討ち取られました」
「――――――どういう事だ」
「そのままの意味です。サラン国の何者かに殺されました」

「閣下!お話中、失礼いたします。レイチェル卿よりご報告です。レブン王国が落ちたようです」
「分かった。後は他の者に任せて戻るように伝えろ」
「承知いたしました!」

「それで、ベル。カリザリスをったのは一体誰だ?」
「分かりません。まだ若い少年だという話です。それも、嘘か本当か、剣で斬り裂いたと……」

「剣だと?確認の必要がある――――そちらはレイチェルに任せる。お前は引き続き魔王様を探せ」
「それでは、世界中に手を拡げましょう」

 ◇◇◇


 ヒッポリクに魔鉱石の剣を注文して三日経った。
 ドリルの街は狭い。さすがにそこで三日過ごすのは普通の人間には圧迫感があったので、キネスモまで戻っていた俺達。
 そろそろ確認に顔を出そうと、朝になって宿屋で準備をしていた。
 するとドアが軽くノックされ。宿の女将が扉越しに話しかけてきた。

「ルシアン・ルーグ様。お客様がお目見えですが、いかがなさいますか?」
「直ぐ下に降ります」
「では、お客様には下でお待ちいただきます」

 俺が準備を終え一階の宿受付に向かうと、そこの向かいの長椅子に見慣れた人が座っていた。
 自分の身長程もある、袋に包まれた長いモノを抱えたヒッポリクの姿。右足が、トントンと忙しなく床を踏みつけている。
 その袋の中身は間違いなく剣だろう。わざわざ持って来てくれたようだ。

「ヒッポリクさん。わざわざ持って来てくれたんですか?」
「おう。お前が待ってると思ってな。俺が作った素晴らしい剣をよ!どうだ?見たいか?」

 自画自賛がスゴい。そして見せたくて仕方ない様子だ。
 
「そ、そうですね。早く見せてください」
「仕方ねぇ。ほらよ」
「か、軽いですね!」

 俺は、袋ごと渡されたソレを手にして驚く。まるで木製の杖くらいの重さしかなかったからだ。
 そして袋を開けた時、更に俺は驚いた。

「あれ?あのぉ~。は?」
「それが、鞘だが?見れば分かるだろ。それが剣身に見えるか?さぁ、さぁ抜いてみろ」

 それは俺が渡した杖型の鞘ではなく。『剣』と丸分かりな鞘だった。当然、今までの杖型の鞘では収まらない長さと太さ。
 
(おいおい、俺のオーダー無視かよ!)

「あの。俺の鞘はどうなったんですかね?」
「あんな物は捨てた。せっかくの俺の剣を隠すなんて許せねえ」
「は、はぁあ。そうですか」

 自分の剣を世に晒す為に、勝手に人の物を捨ててしまうのだから、恐ろしく自己中心的な性格だ。
 仕方なくソコには目をつむり、とりあえず剣を抜いてみる。
 その剣身は蒼い。

「どうだ!見事な青だろ!一流の鍛冶師が打つと、この色が出る。魔鉱石の中の結晶を少しも無駄にしていない証拠だ。つまり、俺は天才だ」
「すごいですね!ありがとうございます。お代は?」
「まぁまぁ。それよりとりあえずそれに魔法を入れてみろ」

 魔鉱石だから当然、中に魔法を溜める事が出来るのだ。しかし俺は魔法を使えない。

「いや……実は俺。魔法が……」
「ルシアン、おはよう。あれ!?剣、出来たの?」
「おう!ルカ。丁度良かった。この剣に何か魔法を込めてみてくれよ」
「え!?何でもいいの?それじゃ……」

 丁度現れたルカに然り気無く頼む。
 するとルカが剣に向けて手を翳した。直ぐに剣身がライトグリーンの光を放ちだした。

(おぉ!まさにス○ーウォーズ!ライトセイバーじゃないか!)

「はぁあ綺麗~。風の魔法ですね、ルカ様」

 いつの間にか近くにいたベネットが、その剣を見て感嘆の溜め息を漏らす。神秘が好きな彼女には美しく光る剣は、さぞかし神々しい事だろう。その顔がウットリとしている。

「どうよ!イカシテるだろ?勿論、切れ味も保証付。何たって作ったんだからな!」
「本当にスゴいです!それで、お代は?」
「代金は要らねぇ。それは俺の最高傑作だ。隠さず持ち歩け!宣伝しろ!俺の芸術を世界に轟かせるのがお前の仕事だ!」

 急に妙な仕事が出来てしまった。
 ヒッポリクは承認欲求の塊のようなので、何を言っても無駄だろう。よく見ると鞘も派手だし。
 そして剣身には彼の名前まで掘り込んであるのだ。
 
(自分が大好きだな、この人……)

 この世界は、式典以外で剣なんか装備してたらバカにされるような世界だ。
 そんな世界で剣を自慢しろと言うのだから。ポジティブというか、何というか。

「久しぶりに楽しかったぜ。その剣で何をするのか知らないけど、まぁ頑張ってくれや」
「何って……これで魔物と戦うに決まってるじゃないですか」
「アハハ。お前なかなか言うねぇ~。気に入ったぜ!また何かあれば来いよ。隣の姉ちゃんへの婚約指輪とかよ~」

 そう言って俺の肩をバシバシ叩くヒッポリク。
 俺の両脇に立つのはルカとベネット。何故か二人ともが驚いたような照れたような顔をしていた。
 そして彼は、多分。俺がこれを戦闘に使うとは考えていないようだ。わりとマジで。

 台風の様に現れて、去って行くヒッポリクを俺達は見送った。
 次の目的は勿論、第四の魔力の泉――――と、この剣を宣伝して廻る旅の始まりだ。
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