魔法主義世界に魔力無しで転生した俺は、無能とバカにされつつも無能の『フリ』して無双する

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王都での三日間は濃い

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 ガーゴイルの軍団は魔将カリザリスが死んだ途端、撤退を始めた。多くの犠牲者を出したが、ゲームではサラン王国自体が既に半分壊滅していたのだ。
 それを考えるとかなり健闘したと言える。
 暫くは亡くなった人達を埋葬したり、ガーゴイルの死体を始末したりで忙しい日々が続いた。

 俺達も関わったからには無視出来ない。なんやかんやで三日程をこの街で過ごしていた。
 そんな三日目の朝。漸く落ち着きを取り戻した俺達は、玉座の間にて国王に謁見を許された。

「――――つまりは、そなた達のお陰だ。見た通りバタバタしており何のもてなしも出来ておらぬが、儂に出来る事ならば何なりと申せ。若き勇者よ」
「それでは王宮の抜け道を使わせて下さい。僕達は魔力の泉が目的だったのですが、出来れば時間はかけたくありませんし」

 周りの者達がざわついた。
 王宮の抜け道とは、玉座の下からこの城の地下にある魔力の泉までの最短ルートの事で、その事を知ってるのは一部の王国関係者だけだからだろう。

 ゲームでは城が既に半壊しており、秘密の抜け道は【泉の迷宮】からの帰りでしか使えない。迷宮側から瓦礫を退かさないと玉座の所に抜けられないからだ。
 で――――その泉の迷宮の正規のルートだが。
 城下町の外から地下に潜り、迷宮を攻略して進む必要ある。本来なら冒険者は、そこからしか泉には向かえないのだ。
 その帰り道で玉座の下に抜ける道は見付けられるのだが……それでは帰りが楽になるだけだ。

 それを最初から、玉座の下のルートでワープさせろって要求を俺は出した。
 意外と国王は何も問う事なく快く受け入れてくれた。これで、この第三の魔力の泉は五分で終わるヌルゲーになった。

「他には何も要らぬのか?魔力の泉等はルシアン殿ならば本来苦労する事でもなかろう。裏道を使わせるだけでは褒美にもならんというものじゃ」
「うーん……そうですね。今は特に……」
「アレを下さい!」

 ルカが突然玉座の後ろを指差して叫ぶ。
 そこにあるのは大きな、大きな国旗だ。

(うげっ!マジかこいつ!)

 俺は咄嗟に小声でルカに注意する。

『お前!なに考えてるんだ。国を欲しがるとか!バカなのか?』
『誰がそんな事言ったのよ!アレよ!剣よ!』

 どうやら国旗ではなく、国旗の更に上に飾られている青い剣の事を言ってるようだ。どちらにしても国を司る物だと思うが。

「ほう。何故アレに目をつけたのだ?」
「アレって、魔鉱石で作られてますよね?」
「そなた。まさか魔力が見えるのか?」
「少しだけですが……」

(なにぃ!初耳だぞ!それってお前!)

 この世界には稀に存在する。
 魔力を可視出来る者が。
 本来は見えない物なのだが、俺はその存在を最も警戒していたのだ。何故なら、俺に魔力が無い事を確実に知る方法だからだ。

「なるほど。残念だが、それだけは無理だ。アレは我が国の王に代々伝わる神聖なる。譲る事は出来ぬ」

 剣とは言わず『モノ』と表現する時点で、いかに剣の存在価値が薄いのかを思い知らされる。
 確かにあの剣を貰えたら、俺には相当喜ばしいのだが。でも、ルカは俺の事を考えて言ってくれたのだと、少し嬉しくもあった。

「だが、そなたの欲しいモノは分かった。ここから北へ少し行った所にドワーフの街があり、腕の良い職人がおる。その者に頼めば同じモノも作れよう。何せコレも大昔のドワーフが作ったと伝えられるモノだからな」
「でも、肝心の材料が……」
「魔鉱石ならある。純度の高い物だ。それを授けよう」

 ――――――――――

 国王との謁見は終わった。
 それから一時間後。レイバンの案内で、誰も居なくなった玉座の間に案内され。秘密の抜け道を使わせてもらえる事になった。

 なんたる簡単な事か。
 ここの地下迷宮はなかなか大変な事で有名だったが、ゲームならばチートとも言える行為により、アッサリと三つ目の泉はルカとベネットの体へと浸透していった。

 そして。再び玉座の間へ戻った所、サラン国のお姫様らしきドレス姿の女性がそこに待っていたのだ。
 その横には、従者らしき者が凄く重そうに魔鉱石を抱えていた。

「勇者様。こちらを国王陛下より預かっております。どうかお使いくださいませ。そして、この度は本当にありがとうございました。私からも心よりの感謝を申し上げます」
「あ……いえ。こ、こちらこそ感謝申し上げます」

 一体、何を感謝申し上げたのか。
 突然目の前にシンデレラが現れたので俺はテンパッた。そのまま苦笑いで、従者が一生懸命持つ魔鉱石を片手でヒョイと持ち上げると、従者とシンデレラが驚きの顔を見せる。
 だが、とりあえずその場を早く離れたくて、ペコペコと頭を下げながら俺は逃げるように玉座の間を出た。

「ちょっとルシアン。しっかりしてよ」
「ルシアン様は、とても強いけど。偉くはなれませんね」
「うるさいな……それよりルカ。お前、魔力見れたのか」

 もし本当なら、俺はとっくに見破られていた事になる。

「うん。少しだけどね」
「じゃあ俺が魔力無いの知ってたのか?」
「うん……」

 ルカは言う。十歳の時から知っていたのだと。
 俺が隠し続けるから言えなかったようだ。俺はずっとルカに気を遣わせていたのだ。

「だから言ったじゃん。私はルシアンを無能だなんて思わないって。
 だって、魔力がないのに魔法使いのを続けるんだよ?
 そんな事、無能な人に出来ない。
 ずっとバカみたいに演技し続ける。それは才能なんだよ。
 使えもしない魔法名叫んで杖を振る?私には出来ないよ。そんな事続けたら精神的に病んじゃうもの。
 そんな辛い思いするなら、幼馴染みとかに相談して楽になろうとするもの。だからルシアンは凄いよ!」
 
 とりあえずルカは、俺に積年の恨みを持っている事がわかった。どうやら隠し続けたのは間違いだったようだ。
 隣でベネットが笑いを堪えているのが伝わる。その表情がとっとこハ○太郎みたいだからだ。

 顔から火が出るとはこの事か。
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