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ガーゴイルは城下町の上空をグルグルと飛んでいたが、やがて地上へと降りてきた。
ゲームでは【再起の宝玉】と呼ばれる物を城に奪いに来る設定なので、街に降りてくる事はなかったはすだ。
「なんだコイツは!」
「裸だぞ?」
「キャー!変態!」
当然の反応が街の騒ぎを一層大きくする。その姿は見紛う事なくガーゴイル。三体のガーゴイルは最低級のやつだと分かる。
上位に成る程、服を身に付けているからだ。あまりに安直な設定をした事が心底悔やまれる。
(しかし、なんで街に降りてきたんだ?)
疑問に思っていた矢先。突然、ガーゴイルは予想外の行動に出た。なんと魔法を放ったのだ。辺りは一気にパニックになり、逃げ出す者と戦う者でゴタゴタになった。
(バカな!なんで魔法をつかえる?いや、剣も使ってる!)
魔法と剣を駆使して離れた距離と近距離の戦闘をこなす。いや、それはもう戦闘では無く一方的な虐殺だ。
俺は何とか止めようと思い、ガーゴイル目掛けて走ってから気付いた。
(やべっ!剣持ってねぇ!)
剣を家に取りに帰ろうとも思ったが辺りの状況は一刻を争う事態だ。そこに一筋の風の刃が吹きガーゴイルの一体を襲った。
その魔法の主はルカだった。
「ルカ、気をつけろ!そんな魔法一発じゃ無理だ!」
「ルシアン!?コイツらの事知ってるの?」
「説明は後だ!魔法士が来るまで時間を稼ぐ」
ガーゴイルは雑魚とはいえ体力も多く自己回復機能がある。初級の魔法くらいでは仕留め切れないし、モタモタしてる間に回復してしまうのだ。
それでも俺もとりあえず杖を振り回し、風魔法を連発する。多少の牽制にはなっているが、ダメージが殆ど入っていないのは間違いない。
他にも何人か魔法使いが戦っているが、通常設定以上にガーゴイルの生命力は高いようだ。魔法を使う時点で普通のガーゴイルではないのだが。
そこで、仕方なく俺は学院で貰った杖を振りかざす。
「くらえ、ロックショット!ロックショット!ロックショット」
土魔法の名前を叫びながら繰り出すが、要するに野球のトスバッティングだった。
杖を振ってるように見えて、直前で拾った石を空中に投げて打っていただけ。それがガーゴイルの一体に連続で命中。
奴の守備は甘い。ピッチャー返しが捕れないような奴はベンチにも要らないってもんだ。
石の一つが手に当たり、ガーゴイルは剣を落とした。
周りを見れば他の二体のガーゴイルにかなり苦戦している。俺は素早く接近して、ガーゴイルの剣を奪った。
「ウィンドカッタァー!」
懐に潜り込んだ俺の風魔法が、至近距離からガーゴイルの上半身と下半身を真っ二つに分けた。と、いっても勿論、普通に剣で斬ったわけだが。
俺の動きが速すぎて誰も剣を振っているとは気付かない。
(弱ぇ。ガーゴイルがこんなに脆い。いや、俺が強いのか)
気付いてはいたが俺の剣術はかなりのレベルに達しているようだ。ガーゴイルが剣一振りで絶命したのだから。
ゲームだと王国の魔法士団が片付けるイベントバトルであり、卒業したばかりの魔法使いだけでは勝てないはず。
「君達!下がれ!」
野太く重い声が辺りの空気を裂いた。
声の方を向くと、青いダボっとした服に白いスラックスという格好で統一された人達が数人戦闘用の杖を構えて立っている。
ガーゴイルと対峙していた人々が全員一気に離れた。
途端に幾つもの激しい爆発がガーゴイルの中心で起こり、その後には俺が倒したガーゴイルを含め、全てのガーゴイルが地面に転がっていた。
彼等こそが王国の魔法士団。戦闘のプロである彼等のお陰で場は無事に収まった。
何十人かの怪我人と二人の死人を出したので無事にとは言い難いのだが。
「ルカ。大丈夫だったか?」
「ルシアンこそ。それより、どうしてここに?」
「お前を探しに来たんだよ」
◇◇◇
プレーン家に入るのは十年以上ぶりだ。何とも言えない緊張感に包まれながら俺は一人の男の答えを待っていた。
「サムス様。確認した所間違いなさそうです」
「ふむ。では確かにネフラムの森の事は間違いないのか……にわかに信じられん話だな」
目の前にいる老人に、ある報告をしたのはプレーン家の執事だった。少し難しい顔をした老人は、半ば疑惑の目を俺に向け疑問を呈する。
「ルシアン君。何故君はネフラムの森の事を知っておる?あの……別名【光の森】に入った者は、わしの交遊関係を持ってしても一人しかおらん」
「言った通りですよ。僕は一度入ってますから」
老人の名前はサムス・プレーン。ルカの祖父だ。
そして、その横に座るルカの父親、アメスタス・プレーンも俺に問いかけてきた。
「君はドラゴンを倒したらしいね」
「たまたまですよ……」
俺は顔色を変えずコーヒーに似た飲み物【パティ】を口にする。
「実はヴィクトリアは僕の友人でね。彼女からも聞いているよ。それに昼間の騒ぎでも敵を一体討ったそうじゃないか。魔法士の知り合いが驚いていた」
「それも、たまたまですよ」
さらに俺はパティを一口啜った。
「フフッ。謙遜する男だな。今のネフラムの森の話を聞いてしまった以上、君に託すしか無さそうだ。ルカの……娘の力になってやってくれないか?」
「僕なんかでお役に立てるならば……」
【マジックイーター】を作った俺にとって、この世界の情報だけは最大の武器だ。光の魔法を取得する為の情報は世に出回らない。それを知ってる人間は希少なはず。
しかもそのクエスト攻略に必要な情報も多々知っている。その一部を話すだけでもルカの父親を説得する動機としては大きかった。
後は空気を読んで、デカイ顔をしない――――
(結局こうなるんだよなぁ。まぁ女の子と冒険に出るのも悪くないか。前世では無縁の話だったし……)
こうして俺は案外緩い理由で冒険を決めたのだ。
だが、気になる事は他にある。
あの後、魔法士達が何かを話していたのを少し耳にしたが、それはどうやら俺の知っている物語とは少し違うようだった。
ゲームでは【再起の宝玉】と呼ばれる物を城に奪いに来る設定なので、街に降りてくる事はなかったはすだ。
「なんだコイツは!」
「裸だぞ?」
「キャー!変態!」
当然の反応が街の騒ぎを一層大きくする。その姿は見紛う事なくガーゴイル。三体のガーゴイルは最低級のやつだと分かる。
上位に成る程、服を身に付けているからだ。あまりに安直な設定をした事が心底悔やまれる。
(しかし、なんで街に降りてきたんだ?)
疑問に思っていた矢先。突然、ガーゴイルは予想外の行動に出た。なんと魔法を放ったのだ。辺りは一気にパニックになり、逃げ出す者と戦う者でゴタゴタになった。
(バカな!なんで魔法をつかえる?いや、剣も使ってる!)
魔法と剣を駆使して離れた距離と近距離の戦闘をこなす。いや、それはもう戦闘では無く一方的な虐殺だ。
俺は何とか止めようと思い、ガーゴイル目掛けて走ってから気付いた。
(やべっ!剣持ってねぇ!)
剣を家に取りに帰ろうとも思ったが辺りの状況は一刻を争う事態だ。そこに一筋の風の刃が吹きガーゴイルの一体を襲った。
その魔法の主はルカだった。
「ルカ、気をつけろ!そんな魔法一発じゃ無理だ!」
「ルシアン!?コイツらの事知ってるの?」
「説明は後だ!魔法士が来るまで時間を稼ぐ」
ガーゴイルは雑魚とはいえ体力も多く自己回復機能がある。初級の魔法くらいでは仕留め切れないし、モタモタしてる間に回復してしまうのだ。
それでも俺もとりあえず杖を振り回し、風魔法を連発する。多少の牽制にはなっているが、ダメージが殆ど入っていないのは間違いない。
他にも何人か魔法使いが戦っているが、通常設定以上にガーゴイルの生命力は高いようだ。魔法を使う時点で普通のガーゴイルではないのだが。
そこで、仕方なく俺は学院で貰った杖を振りかざす。
「くらえ、ロックショット!ロックショット!ロックショット」
土魔法の名前を叫びながら繰り出すが、要するに野球のトスバッティングだった。
杖を振ってるように見えて、直前で拾った石を空中に投げて打っていただけ。それがガーゴイルの一体に連続で命中。
奴の守備は甘い。ピッチャー返しが捕れないような奴はベンチにも要らないってもんだ。
石の一つが手に当たり、ガーゴイルは剣を落とした。
周りを見れば他の二体のガーゴイルにかなり苦戦している。俺は素早く接近して、ガーゴイルの剣を奪った。
「ウィンドカッタァー!」
懐に潜り込んだ俺の風魔法が、至近距離からガーゴイルの上半身と下半身を真っ二つに分けた。と、いっても勿論、普通に剣で斬ったわけだが。
俺の動きが速すぎて誰も剣を振っているとは気付かない。
(弱ぇ。ガーゴイルがこんなに脆い。いや、俺が強いのか)
気付いてはいたが俺の剣術はかなりのレベルに達しているようだ。ガーゴイルが剣一振りで絶命したのだから。
ゲームだと王国の魔法士団が片付けるイベントバトルであり、卒業したばかりの魔法使いだけでは勝てないはず。
「君達!下がれ!」
野太く重い声が辺りの空気を裂いた。
声の方を向くと、青いダボっとした服に白いスラックスという格好で統一された人達が数人戦闘用の杖を構えて立っている。
ガーゴイルと対峙していた人々が全員一気に離れた。
途端に幾つもの激しい爆発がガーゴイルの中心で起こり、その後には俺が倒したガーゴイルを含め、全てのガーゴイルが地面に転がっていた。
彼等こそが王国の魔法士団。戦闘のプロである彼等のお陰で場は無事に収まった。
何十人かの怪我人と二人の死人を出したので無事にとは言い難いのだが。
「ルカ。大丈夫だったか?」
「ルシアンこそ。それより、どうしてここに?」
「お前を探しに来たんだよ」
◇◇◇
プレーン家に入るのは十年以上ぶりだ。何とも言えない緊張感に包まれながら俺は一人の男の答えを待っていた。
「サムス様。確認した所間違いなさそうです」
「ふむ。では確かにネフラムの森の事は間違いないのか……にわかに信じられん話だな」
目の前にいる老人に、ある報告をしたのはプレーン家の執事だった。少し難しい顔をした老人は、半ば疑惑の目を俺に向け疑問を呈する。
「ルシアン君。何故君はネフラムの森の事を知っておる?あの……別名【光の森】に入った者は、わしの交遊関係を持ってしても一人しかおらん」
「言った通りですよ。僕は一度入ってますから」
老人の名前はサムス・プレーン。ルカの祖父だ。
そして、その横に座るルカの父親、アメスタス・プレーンも俺に問いかけてきた。
「君はドラゴンを倒したらしいね」
「たまたまですよ……」
俺は顔色を変えずコーヒーに似た飲み物【パティ】を口にする。
「実はヴィクトリアは僕の友人でね。彼女からも聞いているよ。それに昼間の騒ぎでも敵を一体討ったそうじゃないか。魔法士の知り合いが驚いていた」
「それも、たまたまですよ」
さらに俺はパティを一口啜った。
「フフッ。謙遜する男だな。今のネフラムの森の話を聞いてしまった以上、君に託すしか無さそうだ。ルカの……娘の力になってやってくれないか?」
「僕なんかでお役に立てるならば……」
【マジックイーター】を作った俺にとって、この世界の情報だけは最大の武器だ。光の魔法を取得する為の情報は世に出回らない。それを知ってる人間は希少なはず。
しかもそのクエスト攻略に必要な情報も多々知っている。その一部を話すだけでもルカの父親を説得する動機としては大きかった。
後は空気を読んで、デカイ顔をしない――――
(結局こうなるんだよなぁ。まぁ女の子と冒険に出るのも悪くないか。前世では無縁の話だったし……)
こうして俺は案外緩い理由で冒険を決めたのだ。
だが、気になる事は他にある。
あの後、魔法士達が何かを話していたのを少し耳にしたが、それはどうやら俺の知っている物語とは少し違うようだった。
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