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俺の適正が生むご都合主義
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立ち止まる俺を見てドラゴンは太い首を地面スレスレに下げ、大きな口を開けながら俺を丸呑みしようと突進してくる。
なんと雑な補食方法だろう。恐竜の映画でこういうシーンを見た事がある。
俺はライターの補充用として持っていた油が入った瓶を開け、素早く中身を剣にかける。同時に剣を地面の岩にガキンっと擦ると剣身が燃え上がった。
(おぉ。カッコいい!これぞ俺流魔法剣だぜ)
ドラゴンは一瞬戸惑ったように見えた。
いや、間違い無く戸惑ったのだ。俺は勿論その見た目だけのちゃっちい魔法剣でドラゴンを斬ろうなどとは思わない。
暗いトンネル内に急に激しい光源が現れた事で、視力の良すぎるドラゴンの視界は燃える剣以外の物を見え辛くしているはずだ。
猛然とこちらに……というか剣目掛けて突進して来る。
俺は直前で剣を横の壁に向けて投げ放った。剣は離れた壁に勢いよく突き刺さる。
反応の早いドラゴンは迷わず剣の方を目掛けて方向転換し、そのまま壁に勢いよく突進したのだ。
(やべぇ!思ったより衝撃デカイじゃん!)
トンネル全体に耳をつんざくような激しい音と大きな振動が起きた。ふと俺の視界には頭上から崩落してくる大きな岩が見えていた。
全力で破壊しようと一瞬考えたが、自分で剣を投げたばかり。これは完全に詰んだと俺は覚悟した。
だが――――その大岩は直前で砕け散ったのだ。それでもバラバラと砕けた石つぶてが全身に当たり痛いのは確かだが。
「ルシアン!早くコッチに来なさい!」
「先生!?それにルカまで!まだ居たのかよ!」
先生が魔法を使って砕いたのだと理解した。
何故先生がいるのかを考えるのは後にして全力で走る。直ぐに先生とルカに追い付いたが、トンネル全体が崩落してもおかしくない。
(これじゃ間に合わねぇ!)
「ちょっ!ルシアン、あなた何を?」
「キャッ!」
二人の驚きと悲鳴を無視して、俺は両腕で二人をそれぞれ小脇に抱え込んだ。突然身体が宙に浮いた事に戸惑っている二人の視線を感じるが確実にこの方が速い。
この世界の人間は肉体的に貧弱すぎるのか足が遅いので、俺が抱えて走ったまでだ。前世のインドアな自分ならあり得ない話だった。
しかも、右と左から俺の身体を挟むように二人の胸の感触が伝わってきて、これはかなりのご褒美だ。
(おぉ!両側から未知の柔らかさが……)
人生初の女性の感触を堪能している間に出口は目前。少し残念に思いながらも、ラストスパートをかける俺にルカが叫ぶ。
「ねぇ!ルシアン!?」
「なんだルカ!バランスが崩れる動くな」
「私、重くない!?」
「――――――黙ってろ」
「今、一瞬間があったよね!」
ルカのムダ話に付き合っていられない。
トンネル崩壊の瞬間、俺は外に間一髪で飛び出した。その景色は見覚えがある。ちょうど滝の裏の入り口から半時計回りに山を少し回り込んだ所だ。
昔はこんなトンネル無かった。ドラゴンが巣を作る為に掘ったのだろうか。
(次のプレイヤーが来るまでに、またドラゴンが巣穴掘ってイベントが繰り返されるとかねぇーよな?)
何となくゲーム的な事を考えてしまう。
ゲームの世界は現実的に考えると色々不可思議で、そこをツッコむのはタブーだが。何となく、こういう事が繰り返されてたりするのかもしれない等と思いを馳せる。
―――――――――――
他の皆は滝の入り口で待っていた。
先生だけは俺が洞窟に飛び込んだ時に追いかけようとしたが、直ぐに入り口が崩落し他の入り口がないか探したようだ。
そこへルカがベストなタイミングで飛び出して来たという話だ。
(ご都合主義ってやつだなぁ……まぁ、あそこで俺が囮になるのが一番空気を読んだ行動だしな。結果的にルカと先生が鉢合わせたわけだから……神の力ってスゲェな)
俺には神に授かった【空気を読む】という適正がある。
最初は何の事が全く分からず、無能に拍車をかけるようなふざけた話だと思った。ところが、これに特別な意味がある事に気付いて一年程になる。
意識して空気を読んだ行動等をすると結果がプラスに働くのだ。詰まる所、都合の良い結果が得られるのだ。
実は試験で俺がセシルの嫌がらせと判りつつ、彼等の望むオチに乗っかったのも、この適正の恩恵を信じての行動だったりする。
前世では空気を読んだ結果が頻繁に裏目に出たり、挙げ句の果てには助けるつもりで自分が死んだわけだし。
大した力ではないが……結果がマイナスに向かないだけでも恩恵は大きいのだ。
そして、俺は皆の輪の中に颯爽と戻って行った。
なんせ俺はあの危機的状況からルカを助けた英雄なのだ――――と、思っていたのは俺だけか。
「まったく無能が。何やってんだよ」
「本当、どんだけ俺達に迷惑かけるんだ」
「これだから無能は……」
口々に何も知らない訓練生達のヤジが飛ぶ。
「ゴメン!私のせいだから!」
「ルカさんは悪くないさ。森では逃げ遅れて迷惑かけるし。この無能が全部悪いんだ」
「無能に、この試練は早かったんだよな」
ヤジられる俺に、何故かルカが泣きそうな顔をしている。これには、さすがの俺も少し腹が立つ。
「ちょ、お前ら……」
「あなた達、少し静かにしなさい。ルシアンがいなければルカさんは助からなかったわ。それともあなた達、ドラゴンを倒して彼女を救う事が出来たの?」
割って入ったのは先生だった。
その言葉は大きな声でもないし、怒っている感じもしないが全員が静かになり。『ドラゴン』の言葉に驚愕した表情を浮かべていたのは少し気持ち良かった。
なんと雑な補食方法だろう。恐竜の映画でこういうシーンを見た事がある。
俺はライターの補充用として持っていた油が入った瓶を開け、素早く中身を剣にかける。同時に剣を地面の岩にガキンっと擦ると剣身が燃え上がった。
(おぉ。カッコいい!これぞ俺流魔法剣だぜ)
ドラゴンは一瞬戸惑ったように見えた。
いや、間違い無く戸惑ったのだ。俺は勿論その見た目だけのちゃっちい魔法剣でドラゴンを斬ろうなどとは思わない。
暗いトンネル内に急に激しい光源が現れた事で、視力の良すぎるドラゴンの視界は燃える剣以外の物を見え辛くしているはずだ。
猛然とこちらに……というか剣目掛けて突進して来る。
俺は直前で剣を横の壁に向けて投げ放った。剣は離れた壁に勢いよく突き刺さる。
反応の早いドラゴンは迷わず剣の方を目掛けて方向転換し、そのまま壁に勢いよく突進したのだ。
(やべぇ!思ったより衝撃デカイじゃん!)
トンネル全体に耳をつんざくような激しい音と大きな振動が起きた。ふと俺の視界には頭上から崩落してくる大きな岩が見えていた。
全力で破壊しようと一瞬考えたが、自分で剣を投げたばかり。これは完全に詰んだと俺は覚悟した。
だが――――その大岩は直前で砕け散ったのだ。それでもバラバラと砕けた石つぶてが全身に当たり痛いのは確かだが。
「ルシアン!早くコッチに来なさい!」
「先生!?それにルカまで!まだ居たのかよ!」
先生が魔法を使って砕いたのだと理解した。
何故先生がいるのかを考えるのは後にして全力で走る。直ぐに先生とルカに追い付いたが、トンネル全体が崩落してもおかしくない。
(これじゃ間に合わねぇ!)
「ちょっ!ルシアン、あなた何を?」
「キャッ!」
二人の驚きと悲鳴を無視して、俺は両腕で二人をそれぞれ小脇に抱え込んだ。突然身体が宙に浮いた事に戸惑っている二人の視線を感じるが確実にこの方が速い。
この世界の人間は肉体的に貧弱すぎるのか足が遅いので、俺が抱えて走ったまでだ。前世のインドアな自分ならあり得ない話だった。
しかも、右と左から俺の身体を挟むように二人の胸の感触が伝わってきて、これはかなりのご褒美だ。
(おぉ!両側から未知の柔らかさが……)
人生初の女性の感触を堪能している間に出口は目前。少し残念に思いながらも、ラストスパートをかける俺にルカが叫ぶ。
「ねぇ!ルシアン!?」
「なんだルカ!バランスが崩れる動くな」
「私、重くない!?」
「――――――黙ってろ」
「今、一瞬間があったよね!」
ルカのムダ話に付き合っていられない。
トンネル崩壊の瞬間、俺は外に間一髪で飛び出した。その景色は見覚えがある。ちょうど滝の裏の入り口から半時計回りに山を少し回り込んだ所だ。
昔はこんなトンネル無かった。ドラゴンが巣を作る為に掘ったのだろうか。
(次のプレイヤーが来るまでに、またドラゴンが巣穴掘ってイベントが繰り返されるとかねぇーよな?)
何となくゲーム的な事を考えてしまう。
ゲームの世界は現実的に考えると色々不可思議で、そこをツッコむのはタブーだが。何となく、こういう事が繰り返されてたりするのかもしれない等と思いを馳せる。
―――――――――――
他の皆は滝の入り口で待っていた。
先生だけは俺が洞窟に飛び込んだ時に追いかけようとしたが、直ぐに入り口が崩落し他の入り口がないか探したようだ。
そこへルカがベストなタイミングで飛び出して来たという話だ。
(ご都合主義ってやつだなぁ……まぁ、あそこで俺が囮になるのが一番空気を読んだ行動だしな。結果的にルカと先生が鉢合わせたわけだから……神の力ってスゲェな)
俺には神に授かった【空気を読む】という適正がある。
最初は何の事が全く分からず、無能に拍車をかけるようなふざけた話だと思った。ところが、これに特別な意味がある事に気付いて一年程になる。
意識して空気を読んだ行動等をすると結果がプラスに働くのだ。詰まる所、都合の良い結果が得られるのだ。
実は試験で俺がセシルの嫌がらせと判りつつ、彼等の望むオチに乗っかったのも、この適正の恩恵を信じての行動だったりする。
前世では空気を読んだ結果が頻繁に裏目に出たり、挙げ句の果てには助けるつもりで自分が死んだわけだし。
大した力ではないが……結果がマイナスに向かないだけでも恩恵は大きいのだ。
そして、俺は皆の輪の中に颯爽と戻って行った。
なんせ俺はあの危機的状況からルカを助けた英雄なのだ――――と、思っていたのは俺だけか。
「まったく無能が。何やってんだよ」
「本当、どんだけ俺達に迷惑かけるんだ」
「これだから無能は……」
口々に何も知らない訓練生達のヤジが飛ぶ。
「ゴメン!私のせいだから!」
「ルカさんは悪くないさ。森では逃げ遅れて迷惑かけるし。この無能が全部悪いんだ」
「無能に、この試練は早かったんだよな」
ヤジられる俺に、何故かルカが泣きそうな顔をしている。これには、さすがの俺も少し腹が立つ。
「ちょ、お前ら……」
「あなた達、少し静かにしなさい。ルシアンがいなければルカさんは助からなかったわ。それともあなた達、ドラゴンを倒して彼女を救う事が出来たの?」
割って入ったのは先生だった。
その言葉は大きな声でもないし、怒っている感じもしないが全員が静かになり。『ドラゴン』の言葉に驚愕した表情を浮かべていたのは少し気持ち良かった。
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