上 下
6 / 79

イレギュラー過ぎるゲーム

しおりを挟む
 ◇◇◇

 時折壁に灯る松明の明かりだけを頼りに、俺は洞窟の中を全力で走っていた。ほんの十数分前、大きな音を立てて激しく地面が揺れた。
 皆がパニックになる中、俺だけは真っ先に洞窟に飛び込んでいた。おそらく誰もが忘れていただろうが、まだルカが戻っていなかったからだ。

「ルカ!ルカ!」

 洞窟はそこそこ深いが分かれ道は無い。俺が全力で走ればそんなに時間はかからない。案の定、直ぐに反応があった。

「ルシアン!?どうして?」
「良かった!大丈夫か?」
「う、うん。すごいビックリした!」
「あぁ……あの揺れじゃな」
「いや、そうじゃなくて。ルシアンがそんなに一生懸命なのがさ……ところで皆は大丈夫?」
「分からん。とりあえず洞窟は危ない。早く出よう」

 足早に来た道を戻ったが、直ぐに立ち止まり額を押さえる。

「くそっ!今まで大丈夫だったのに」
「え!?崩落?ルシアン危なかったね!」

 危なかったのはルカだろうと思ったが、ツッコミ入れてる場合ではない。こんな岩、俺が本気を出せば何とかなるかとも思うのだが洞窟がさらに崩落しかねない。

(こんなイベントは知らんぞ?今後、他のプレイヤーがこの試練出来なくなるイベントとかありかよ!)

「とりあえず奥に戻るぞ!」

 俺が閃いたのは、外で他の奴等が言ってた洞窟奥にあった狭い入り口とやらだった。
 そして泉を目の前にして左奥の方に確かにそれはあった。
 四つん這いなら入れそうな気がする。

「これ。何処に続いてるの?」
「分からん。行き止まりかもしれねーな。でも今は望みを託せる道がこれしか無い。ルカ。先に行け」

 地面はまだ微妙に揺れている。もはやいつ崩れるか分からない。ルカだけでも先に行かせようと気ばかりが焦った。
 彼女が四つん這いになって入って行き、その後を俺が続いたのだが一つだけ気になる事があった。

「ねぇ、ルシアン。暗くてよく見えないよ」
「俺はよく見えるぞ……」
「え?」
「あ?あぁ。確かに……松明とか無いしな」

 俺の前を這って進むルカのスカートが短い。たまにチラチラ、チラリズム……
 ダサい装備しか無かった俺の家とは違い、ルカの装備は今時の魔法使いっぽいのだ。の使い方があってるかは分からないが……なんせここは異世界だし。

(こいつ、結構大人っぽいパンツ履くんだなぁ)

「ちょっと戻って松明持って来てよぉ」
「魔法で火を起こせばいいだろ?」
「何言ってるの。泉の水飲んだら暫く魔法使えないじゃない」

 そういう設定だった。
 ゲームでは魔力が上がった後に帰りが大変になるように作った覚えがある。何て子憎たらしいゲームなのだろうか。

「あぁ。そうだったな……これ使えよ」

 俺は小さな容器をルカに渡す。

「何?これ……」
「上に付いてるやつを何回かガリガリと動かしてみろ」

 金属を擦るような音がする。するとパッとルカの正面で小さな明かりが灯り、驚いたような声が聞こえてきた。
 俺が渡したのは引火性の高い油を入れた容器に、火花を起こす仕掛けを施した物。つまり簡易的なライターだ。

 この世界では火種を起こす道具が無い。
 何故なら誰でも魔法で小さな火くらい出せるからだ。そこで俺も、魔法を使えるフリをする為に火を起こす道具を作った。
 色々と便利でこれがあれば俺でも火の魔法が使える。
 ―――もとい。それっぽく見せれる。むしろ、これが無かったら俺はお湯も沸かせない。

 魔法が当たり前の世界だとこんな物すら無いのだから、逆に文明が発展しないのも頷ける。

「これどんな仕組みなの?」
「何も考えるな。こういう時を想定して作ったんだ」
「どんな事想定して生きてるのよ」

 その狭い穴は意外と短いようだ。何の為に明かりを欲したのか分からないくらいに……だが、それを抜けてから俺とルカは固まった。

 そこは途端にバカみたいに広い所だった。
 滝の裏の山の中身をそのままくり貫いたような空洞。そしてその横には、高さ十メートル程にもなるトンネルが外に向かって続いていた。
 その空洞とトンネルがどうやって出来たのか――――考えるまでもない答えが目の前にあった。

「る、ルシアン……」
「声を出すな……静かに移動しろ」

 静かに移動。などと言ったが、既に俺の体と同じくらい大きな瞳が俺とルカを睨みつけているのだ。
 そこに見上げる程大きなトカゲが寝そべっている。
 背中に己れの体格の倍近い大きさの翼を持っていた。皮膚はゴツゴツしていて相当固い事も俺は知っている。

 【マジックイーター】ではゲーム中盤で初めて御目見えして、一回は全滅させられる定番の魔物『ドラゴン』がそこにいた。

「ルカ!外に向かって走れ!」

 もはやコッソリ逃げる事など不可能だと思った俺は叫ぶと、ルカは反射神経良く飛び出した。
 途端にドラゴンが起き上がり地面が大きく揺れた。

(コイツのせいだったのか!)

 大きな揺れもそうだが、泉で魔物に遭遇しなかったのは偶然ではない。ドラゴンが近くに居たから魔物が逃げ出したのだ。
 
「ダメだ、このままじゃ逃げきれない。魔法でアイツを牽制できるか?」
「だから魔法は使えないって!」

 自分の作ったイカれた設定に涙が出そうだった。

「ちっ!じゃあ俺が時間稼ぐから全速力で逃げろ」
「はっ!?バカじゃないの!一人じゃムリだよ!」
「俺もすぐ追いかける。早く行け」

 戸惑いながらも走って行くルカを見送り、俺は振り向いて剣を抜いた。
 ドラゴンの移動速度は思った以上に早かった。
 自分で掘ったであろうトンネルの天井に激しくぶつかりながらも止まらずに此方に向かってくる。

 ――――だからこそ好都合なのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

森に捨てられた俺、転生特典【重力】で世界最強~森を出て自由に世界を旅しよう! 貴族とか王族とか絡んでくるけど暴力、脅しで解決です!~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 事故で死んで異世界に転生した。 十年後に親によって俺、テオは奴隷商に売られた。  三年後、奴隷商で売れ残った俺は廃棄処分と称されて魔物がひしめく『魔の森』に捨てられてしまう。  強力な魔物が日夜縄張り争いをする中、俺も生き抜くために神様から貰った転生特典の【重力】を使って魔物を倒してレベルを上げる日々。  そして五年後、ラスボスらしき美女、エイシアスを仲間にして、レベルがカンスト俺たちは森を出ることに。  色々と不幸に遇った主人公が、自由気ままに世界を旅して貴族とか王族とか絡んでくるが暴力と脅しで解決してしまう! 「自由ってのは、力で手に入れるものだろ? だから俺は遠慮しない」  運命に裏切られた少年が、暴力と脅迫で世界をねじ伏せる! 不遇から始まる、最強無双の異世界冒険譚! ◇9/25 HOTランキング(男性向け)1位 ◇9/26 ファンタジー4位 ◇月間ファンタジー30位

前世で眼が見えなかった俺が異世界転生したら・・・

y@siron
ファンタジー
俺の眼が・・・見える! てってれてーてってれてーてててててー! やっほー!みんなのこころのいやしアヴェルくんだよ〜♪ 一応神やってます!( *¯ ꒳¯*)どやぁ この小説の主人公は神崎 悠斗くん 前世では色々可哀想な人生を歩んでね… まぁ色々あってボクの管理する世界で第二の人生を楽しんでもらうんだ〜♪ 前世で会得した神崎流の技術、眼が見えない事により研ぎ澄まされた感覚、これらを駆使して異世界で力を開眼させる 久しぶりに眼が見える事で新たな世界を楽しみながら冒険者として歩んでいく 色んな困難を乗り越えて日々成長していく王道?異世界ファンタジー 友情、熱血、愛はあるかわかりません! ボクはそこそこ活躍する予定〜ノシ

白紙にする約束だった婚約を破棄されました

あお
恋愛
幼い頃に王族の婚約者となり、人生を捧げされていたアマーリエは、白紙にすると約束されていた婚約が、婚姻予定の半年前になっても白紙にならないことに焦りを覚えていた。 その矢先、学園の卒業パーティで婚約者である第一王子から婚約破棄を宣言される。 破棄だの解消だの白紙だのは後の話し合いでどうにでもなる。まずは婚約がなくなることが先だと婚約破棄を了承したら、王子の浮気相手を虐めた罪で捕まりそうになるところを華麗に躱すアマーリエ。 恩を仇で返した第一王子には、自分の立場をよおく分かって貰わないといけないわね。

私立 悪役学園へようこそ!

てぃー☆ちゃー
ファンタジー
男とは…筋肉である! そう思い込んだ少年は、HEROに憧れた だがその夢は憧れのHEROの心無い一言によって挫折しかける だが、少年は諦めなかった! 「悪役のほうがムキムキキャラ多くないか?」 確かに! この物語は、筋肉を夢見る少年が 悪役達を育成する魔界の学校に日本から入学する、そんな話からスタートします。 あ、感想欲しいっす(涙)

箱庭の魔王様は最強無敵でバトル好きだけど配下の力で破滅の勇者を倒したい!

ヒィッツカラルド
ファンタジー
死んだアルバイトの青年は女神が崩壊を予言した世界に最強無敵の魔王として転生する。 女神の予言とは、勇者を名乗る者から世界を破滅に導く輩が現れて、その世界を終わらせるであった。 世界が、すべてが、何もかもが消えて無くなるのだ。 そして、魔王は女神から貰ったチート能力で、その世界を破滅に導く勇者を討伐する使命を受けるのである。 だが、魔王は最強でありながらも授かったチート能力のペナルティーのために自力で勇者を倒せない。 故にモンスターを配下に加え、魔王軍を編成して勇者たちとの戦いに挑むのであった。 魔王は魔王らしく、配下の魔物たちを勇者に差し向けて討伐を叶えるのである。 魔王のチート能力を使い配下のモンスターを鮮血の儀式で強化して、魔王軍を築き、魔王国を築き、ハーレムまで築き、更にはマジックアイテムまで作り出し始める。 魔王は、破滅の勇者を討伐して世界を救えるのか? この物語は、社会不適合者だった怠け者な青年が、魔王として世界を救うまでのお笑い戦記である。 破滅を予言された世界は、このおバカな魔王が救うのであった。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!

武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。

処理中です...