上 下
4 / 79

面倒だけど。俺、本気出しますね

しおりを挟む
「こら!ルシアン。あまり深追いしない!」
「そっちに一匹行った。早く倒してくれ」
「うわぁ!こいつ俺の魔法食らっても死なない!」
「何してる。そんなのに構うな」

 森の中で先生を含めた総勢十六名はバタバタの戦闘を繰り広げていた。
 冷静に戦えてる奴が何人いるかわからない。殆どが実戦不慣れだから仕方ないのだが……

「ルカ、お前先頭に行けよ。後ろには殆ど敵回ってこないんだしよ。前の方が戦力必要だろ」
「後ろだって何があるかわからないよ」
「いや、大丈夫だろ。俺のヘナチョコ風魔法でも殺れてるし、ビスマル君もいるしさ」

 ビスマル・スージーは、今まさに炎魔法で一体のイノシシみたいな魔物を燃やしていた。
 彼も俺の事をバカにしているムカつく奴だが、魔法の腕前はなかなかだ。

「そうだよルカさん。ここは僕一人で十分さ」
「だってさ。俺も要らない感じだぜ」
「う、うん……そっか。わかった」

 一々鼻につく奴だが放っておく。
 こいつは多分ルカが好きなのだ。見てればすぐ分かるくらい、ルカの前で格好をつける。
 女子と一緒な体育館で部活の練習とかになると、やたら張り切る中学生みたいな奴だ。
 そしていつも俺の側にルカがいるから気に入らないのも態度で分かっていた。

 とりあえず周りの雑魚は片付いた。殆どカッコつけマンのビスマルが葬ったのだが。
 先頭の方もルカが行ってから素早く片付いたようだ。先生があまり手を出していないのは、これが一応訓練生の実戦経験になるからだろう。

「おい。ルシアン。お前、今日何体倒した?」
「あ、えーと。三体くらいかな?」
「何だそんな程度か。全く僕の仕事を増やさないでくれよ。精神力が尽きてしまうだろ」

 頼んでもないのにバッカバッカと派手な魔法を使うから精神力が尽きるのだ。格好ばかりつけてるから、いつもオーバーキルなのだ。
 本当に強い魔物に当たった時の顔が見物だ。

「お、おう。悪いな……後さ……。後ろのやつも任せていいかな?」
「ん?お、おう……仕方ないな」

 ビスマルの後ろに大きなクマが立っている。さっきのイノシシとは大きさが違う。もちろん、そこそこ強いのだが……ビスマルなら大丈夫だ。
 案の状、派手な炎魔法でアッサリ倒した。彼は火の適正を持つ魔法使いなので炎魔法が大得意。

 だが、森で炎魔法は本来避けるべきなのだ……その理由が現れた。

「後ろ!静かに前に来なさい!」

 先生が緊張感のある声を発したので訓練生は一瞬でビクッとなった。
 後方にいつの間にか現れたのは緑色の髪を靡かせた人間の少女だが目には眼球が無い。不気味な少女の正体は精霊、ドリアード。森で派手に炎を連発すると森を護る為に現れる。
 見れば横にも何体か見える。

(山火事注意の地域防災団体か……不味いな)

 何が不味いって、強さ的にはビスマルやルカでも勝てる。問題は団体さんだって事なのだ。
 森には沢山の木がある。それら全てに精霊は宿っていると言われている。
 その全てが襲ってくるとは言わないが十分に数の暴力だ。既に囲まれていた。

「ふん!こんな奴。僕の相手じゃないさ。木の精霊なら僕の得意分野じゃないか」

 ビスマルが派手な炎魔法でドリアードを一体燃やし尽くす。それを引き金にして他のドリアードがそれを倍にするかの如く一斉に風魔法を放って来た。

(ちっ!余計な事しやがって!)

 俺は身を屈めたが、その必要無く。その風魔法が俺やビスマルに影響する事は無かった。
 辺りにそれより大きな風のバリアが張り巡らされた。予想はしてたが先生を見ると杖を振りかざしている。なかなかカッコいい杖だ。

 ちなみに俺は父の装備は借りて来なかった。何故ならダサいから。普通にほぼ普段通りの服装で来たのだ。
 もちろん先生には怒られたし、他の奴には白い目で見られた。ただでさえ無能のくせに……と。

「前方に道を開くわ。全員走りなさい!」

 先生の強力な風魔法。
 バリアとして覆っていた風は、そのまま前方のドリアードを吹き飛ばす勢いで吹き流れた。
 それに追従するように全員が走りだした。
 ドリアードは炎魔法で攻撃しなければ反撃してこない。しかし、ビスマルがやらかしたせいで戦争になったわけだ。

「くそ!ビスマル!振り向くな、早く走れ!」

 俺の前を行くビスマルが遅い。普段から身体を鍛えないからそうなるのだ。
 こいつを置いていけばいいのだが、さすがにそれは躊躇われる。

(ちくしょう!先生の風の魔法が消える!)

 道を作っていた一筋の風の流れが消えた。俺とビスマルは置いていかれたのだ。
 風の道が消えた途端、周りは多くのドリアード。逃げ道は無い。慌てたビスマルは、またもやらかす。

「くそ!くそ!くそ!こいつら!」
「バカ!やめろ!」

 炎魔法で一体や二体消滅させても解決しないのだ。その倍の風魔法が鋭い刃となって襲い掛かって来て、二人の身体の至る所を切り刻む。

「ひ、ひぃぃ!痛い!痛いよぉ!」

 パニックを起こしたビスマルは地べたに座り込み頭を抱えて塞ぎ込んでしまった。

(ちっ!バカが。お前はそうやって目を閉じてろ)

 普段通りの姿で来た俺だが、一つだけ普段と違う物を身に付けていたのでソレを抜いた。
 腰に装着していた一本の変わった形の杖。俺的にはダサいスーパーゼウスに比べたら圧倒的にナウいのだが……訓練生達には「何だそれ」と笑われた。
 本当にセンスの欠片もない奴らだ。

 しかしそれは杖ではなく鞘だった。そこから抜かれたのは細身の剣。所謂、仕込み杖だ。
 俺はチラリと足元を見た。
 相変わらず何かブツブツと口ずさみながら、ガタガタ震えて頭を抱えている『無能』がいる。

(何で俺がこんな奴の為に……ヤレヤレだな)

 俺は服の袖を捲り上げ剣を構えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

公爵家御令嬢に転生?転生先の努力が報われる世界で可愛いもののために本気出します「えっ?私悪役令嬢なんですか?」

へたまろ
ファンタジー
ここは、とある恋愛ゲームの舞台……かもしれない場所。 主人公は、まったく情報を持たない前世の知識を持っただけの女性。 王子様との婚約、学園での青春、多くの苦難の末に……婚約破棄されて修道院に送られる女の子に転生したただの女性。 修道院に送られる途中で闇に屠られる、可哀そうな……やってたことを考えればさほど可哀そうでも……いや、罰が重すぎる程度の悪役令嬢に転生。 しかし、この女性はそういった予備知識を全く持ってなかった。 だから、そんな筋書きは全く関係なし。 レベルもスキルも魔法もある世界に転生したからにはやることは、一つ! やれば結果が数字や能力で確実に出せる世界。 そんな世界に生まれ変わったら? レベル上げ、やらいでか! 持って生まれたスキル? 全言語理解と、鑑定のみですが? 三種の神器? 初心者パック? 肝心の、空間収納が無いなんて……無いなら、努力でどうにかしてやろうじゃないか! そう、その女性は恋愛ゲームより、王道派ファンタジー。 転生恋愛小説よりも、やりこみチートラノベの愛読者だった! 子供達大好き、みんな友達精神で周りを巻き込むお転婆お嬢様がここに爆誕。 この国の王子の婚約者で、悪役令嬢……らしい? かもしれない? 周囲の反応をよそに、今日もお嬢様は好き勝手やらかす。 周囲を混乱を巻き起こすお嬢様は、平穏無事に王妃になれるのか! 死亡フラグを回避できるのか! そんなの関係ない! 私は、私の道を行く! 王子に恋しない悪役令嬢は、可愛いものを愛でつつやりたいことをする。 コメディエンヌな彼女の、生涯を綴った物語です。

異世界ニートを生贄に。

ハマハマ
ファンタジー
『勇者ファネルの寿命がそろそろやばい。あいつだけ人族だから当たり前だったんだが』  五英雄の一人、人族の勇者ファネルの寿命は尽きかけていた。  その代わりとして、地球という名の異世界から新たな『生贄』に選ばれた日本出身ニートの京野太郎。  その世界は七十年前、世界の希望・五英雄と、昏き世界から来た神との戦いの際、辛くも昏き世界から来た神を倒したが、世界の核を破壊され、1/4を残して崩壊。  残された1/4の世界を守るため、五英雄は結界を張り、結界を維持する為にそれぞれが結界の礎となった。  そして七十年後の今。  結界の新たな礎とされるべく連れて来られた日本のニート京野太郎。  そんな太郎のニート生活はどうなってしまう? というお話なんですが、主人公は五英雄の一人、真祖の吸血鬼ブラムの子だったりします。

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

辺境の最強魔導師   ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~

日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。 アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。 その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

森に捨てられた俺、転生特典【重力】で世界最強~森を出て自由に世界を旅しよう! 貴族とか王族とか絡んでくるけど暴力、脅しで解決です!~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 事故で死んで異世界に転生した。 十年後に親によって俺、テオは奴隷商に売られた。  三年後、奴隷商で売れ残った俺は廃棄処分と称されて魔物がひしめく『魔の森』に捨てられてしまう。  強力な魔物が日夜縄張り争いをする中、俺も生き抜くために神様から貰った転生特典の【重力】を使って魔物を倒してレベルを上げる日々。  そして五年後、ラスボスらしき美女、エイシアスを仲間にして、レベルがカンスト俺たちは森を出ることに。  色々と不幸に遇った主人公が、自由気ままに世界を旅して貴族とか王族とか絡んでくるが暴力と脅しで解決してしまう! 「自由ってのは、力で手に入れるものだろ? だから俺は遠慮しない」  運命に裏切られた少年が、暴力と脅迫で世界をねじ伏せる! 不遇から始まる、最強無双の異世界冒険譚! ◇9/25 HOTランキング(男性向け)1位 ◇9/26 ファンタジー4位 ◇月間ファンタジー30位

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

処理中です...