上 下
2 / 79

魔法なんか使えなくても何とかなる

しおりを挟む
「二次試験は実戦。あのポットを破壊するタイムを競います。最終メンバーの十五名を選びます。では、最初はラキア・ハートン……」

 花瓶のような形をした高さ二十センチ程の物体。それはポットと呼ばれる。色別に五種類あり白、青、黄色、赤、黒とあり、黒が一番丈夫で白は一番脆い。

(色は青色かぁ……ならいけるかな?)

 試験とはいえなかなか実戦を想定した物である。そこまで固くはないが、弱い魔法では壊せない。訓練生にはちょうどよい固さだ。
 


「はい、次……」
「三十三秒」
「はい、次……」
「二十九秒」

 ここまでの大体の平均タイムは三十秒。

「はい、次。ルシアン・ルーグ」
「ぉねがいしゃーっす!」
「では……始め」

(対象までの距離は約十メートルか……よし)

「はぁぁぁ――――。うぃんどぉーかったぁぁー!」

 右手に持った魔法の杖を素早く横一線に振る。強い風が打ち出されポットはグラグラ揺れたが割れない。

「うぃんど、かっとぅあぁー!」

 風の魔法名を叫びながら俺は何度か往復するように杖を猛烈な速さで振り回すがなかなか割れない。
 更に連続で繰り出すと……ようやく割れた。

「…………。二十七秒」
「あざーっす!」

 周りの訓練生から「何発も打ち過ぎだろ」「数打ちゃ当たる戦法とか有りかよ」といった批難の声が聞こえてくる。

(先生は何も言わなかったし、壊れりゃいいんだよ。そもそもあんなダサい杖何回も振り回すとか、こっちは既に恥かいてんだ)
 
 試験用の杖はまるでビッ◯リマンのスーパーゼウスが持ってるやつみたいなダサい杖だ。
 今時はハリー・◯ッターみたいに短い方が良いだろうに。地球は何でも小型化の流れだったのに、この世界のファッションセンスはイカれてる。

「はい、次。ルカ・プレーン……」

 一礼して場を去る俺に、すれ違い様にルカが俺にウィンクをお見舞してくる。『やったじゃん』っとでも言いたげだ。

(やめろよ。外国のドラマかよ)

 その数秒後――――青いポットが派手に砕けて周りがざわめいた。
 ルカのタイムは七秒だそうだ。もう訓練生卒業でいいと思う。

「――――はい。ではタイム順でルカ・プレーン。ビスマル・スージー。ルシアン・ルーグ…………」

 俺が三番目に呼ばれたのが気に入らない奴が沢山いる事だろう。そもそも二次試験に通った事自体が気に入らないのか……辺りはザワザワしていた。
 最後の一人が読み上げられ、落ちた者は露骨に俺を睨み付けるような視線を向けて去って行く。

(こんだけ露骨だと正直凹むわぁ)

 まぁ。魔法を数打ったのは俺くらいだし。無能だし。仕方ないのだが、そもそも実は魔法じゃないし……

 俺は杖を高速で振り回した際に生じる衝撃波をぶつけていただけだ。
 小さい頃からひたすらあの杖の何倍もある重さの剣で修行していたので大した事じゃないが、この世界の人間は魔法に頼りすぎていて身体を鍛えるとか、そういった概念がない。
 だから、まさか杖の衝撃波なんかで物体が割れるとは考えもしない。

(ふん。ヒョロい奴らめ……)

 あんな軽い杖なら高速で振り回すなど野球の素振りみたいなモノ……とか言いながら実際はかなり疲れたが。


「では十五名は明日、城下町の東門に集合。朝、八時までにね。出来る限り最高の装備をして来なさい」

 二次試験合格者は明日の特別クエスト【カーラの滝の試練】に挑戦出来る。
 カーラの滝はここから東へ数キロ行った森を抜けた所の山間にある滝だ。

 そこの滝の裏に洞窟があり、その奥に辿り着くと魔力の泉がある。そこの水を飲むと一度だけだが魔力がアップするのだ。
 ただ、モンスターも出るしある程度の実力が無いと危険極まりない。
 一人や二人ではとてもムリだし。こういうクエストで、揃って行かないと到底行く機会がないので誰もが参加したがる。
 ゲームなら序盤のイベントクエストって所だ。

「ルシアン。明日、一緒に行けるね」
「別にどっちでも良かったんだけどな」
「またそんな事言って。魔力上がったら今より上手く魔法使えるよきっと」
「そうかねぇ……」

 正直俺は興味なかった。
 何故なら、誰にも言っていないが俺は既に一人でカーラの滝の試練を終えているからだ。

(魔力の泉なんて全く意味なかったんだよなぁ。そもそも増える為の魔力自体が俺には無いしな……)

 ただ俺に参加する理由を付けるとしたら、ルカを守る事くらい。
 理由はそう……幼馴染みだし……俺の唯一の見方だし……可愛いし……ただ、それだけだ。
 先生もいるから大丈夫だろうとは思うが、あの森には結構厄介な数で襲って来るモンスターも出る。


 そんな危険な所を俺が一人で攻略出来たのには理由があった。
 
 この世界の名前は【レジテン】
 そして魔法だけが絶対という世界観。存在する王国や魔法の名前、神事によって決められる職業。そして魔法訓練生の初クエスト。

 異世界ラノベならありがちと言えばありがちなのだが、これら全てに共通する舞台を俺は知っている。
 それは【マジックイーター】
 俺が前世で作ったゲームだ。ここは、その世界に酷似している。いや……同じだった。

 つまり俺は異世界転生ではなくゲームの世界に入り込んだのか……それは違う。
 俺は確かに死んだはずだから転生しか考えられない。まぁ今はそこを気にしないが……

 とにかくこの世界は熟知している。
 だから俺は泉の事も当然知っていたのだから。そして、比較的安全なルートも。
 このクエストはゲームでは初級のクエストだがクリア条件は比較的高いはず。
 だが、試験の合格基準が低かったり所々違う所があるのが気になっていた。

「じゃあねルシアン。また明日」
「おう。じゃあな。――――――さてと。俺に何か用か?」

 ぞろぞろと四人組が俺の前に立ちはだかる。その手には攻撃魔法用の杖を装備。

 そう。もう一つゲームと違う事があった。
 言うまでもないが、魔法を使えないイジメられっ子キャラなんて存在しない事だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】炒飯を適度に焦がすチートです~猫神さまと行く異世界ライフ

浅葱
ファンタジー
猫を助けようとして車に轢かれたことでベタに異世界転移することになってしまった俺。 転移先の世界には、先々月トラックに轢かれて亡くなったと思っていた恋人がいるらしい。 恋人と再び出会いハッピーライフを送る為、俺は炒飯を作ることにした。 見た目三毛猫の猫神(紙)が付き添ってくれます。 安定のハッピーエンド仕様です。 不定期更新です。 表紙の写真はフリー素材集(写真AC・伊兵衛様)からお借りしました。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

処理中です...