十秒間見つめると、見つめられた人は君の事が気になって仕方なくなる。逆に君は、その人を気にならなくなってしまう飴玉。

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飴玉の効果 5

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 私、篠原恵子は嘘つきで卑怯だ。

 私は、誰にでも気に入られて友達も直ぐ出来る。でも、それは必死で自分を演じているに過ぎなかった。
 本当は誰にでも合わせているだけの人間なのだ。

 高校一年の時。私は一人の男子生徒と出会った。
 名前を柏崎圭吾という。
 彼は誰にも寄り付かないし、少し近寄り難い。根っから、友達を作るのが苦手なのだろう。私には分かる。昔の自分がそうだったから。
 私自身は、高校に入ってから新しい自分を造り上げた。人と話せる様に努力したのだ……正確にはムリをしていたのだけれど。

 私が自分のまま、普通に接する事が出来ていたのは彼、柏崎圭吾だけだったと思う。理由は簡単。彼が私より劣っていると感じるから。
 誰かに声をかける事も出来ず。結果、クラスにも打ち解けられていない。
 だから私は、彼には自然に話が出来たのだ。いや。心のどこかで思っていた。彼に話し掛けてのだと。

 それは彼が私の隣の席だったからもある。だが、彼を見てると、昔の自分を見ている様だったからかもしれない。
 でも、実際彼は。別にムリして友達が欲しいわけでもなく。共通の趣味を持った友達がいればそれで良い、と言った感じだった。
 それは、彼の心の余裕の表れにも感じられ。逆にムリをして人に接している私が、彼に劣っている様に感じ始めた。

 それでも私は当然、彼に話し掛けた。
 彼の反応は毎回大して良くないのだが、それでも私は彼に対しても皆と平等に接した。そうする事が、リア充の条件みたいに決め付けていたのかもしれない。彼にも話し掛ける事で、自分が悦に浸っていたのだ。

 二年になっても、何の因果関係か彼と席が隣になった。
 私は、引き続き彼に話し掛けたが。彼の私に対する対応は相変わらず、どこかよそよそしく感じていた。
 友達と接している時はすごく楽しそうなのに、私とはそんなに楽しそうに話してくれない。初めは似た者同士だと感じたのに。
 いつからか。無理して友達を作っている私の方が、遥かに子供に感じた。

 そして私は、そんな彼が気になりはじめたのだ。
 彼の、友達と私への対応の違いを埋めたいと考えた。彼の趣味が何なのか……、彼の性格はどうなのか……、何処に住んでいるとか、どうでもいい事まで調べていて。
 気が付いたら私は、彼の心が欲しくなっていたのだ。友達といる時の様な、本当の笑顔を私にも向けてほしかった。
 
 そんな時。私は一人の男性に出会った。
 少し怖い感じの金髪の男性。その人は突然、私に一つの飴玉を渡して言った。

「これは君を変える飴だ。そう、例えば。君がこれを食べた後に誰かを十秒間見つめたとしよう。
 すると見つめられた者は君の事が、気になって仕方なくなる」
「どういう意味ですか?」
「ただし。逆に君は、その人の事を気にならなくなる。さて、どう使うかは君次第だ。あげるよ」

 そんなモノを信じる私では無い。無い筈だった。
 でも、その時の私は何も見えていなかったのだ。すごく臆病になっていた。
 私は誰にでも好かれたくて自分を変え。結果、誰とでも話せるようになっていたのだけれど。本当は、その人達の事なんてどうでも良いと思っていたのかもしれない。ただ、リア充というステータスが欲しかっただけ。

 だって。私が今、仲良くなりたい人……柏崎圭吾という男の子には何故か上手く話せないのだから。だからこそ私は、そんな信憑性の無い飴玉でも試して見ようと思ってしまった。
 私は彼の知らないうちに、飴玉を食べて彼を十秒見詰めた。その日は、特に効果は感じなかった。でも、その翌日。

 彼は急に私を意識する様になったのだ。
 昼休みも、体育の時間も、彼が私を見ている事に気付いた。それで私は自信が付いた。
 今なら彼と仲良くなれると思った。
 結局、私は昔と何も変わっていなかった。勇気が無くて、嫌われたくなくて、でも仲良くなりたくて。
 私は、ズルをしたのだ。

 飴玉のお陰で彼は私を意識したのかもしれない。無理やり彼を意識させてから、こちらから近付く卑怯な女になった。
 しかも、それでも自分に自信が無くて。素っ気なくされるのが怖くて。仲良くなるキッカケに、彼の趣味に合わせた嘘までついてしまったのだ。だから、私は卑怯で嘘つきなのだ。

 そんな卑怯者の私は、まんまと彼と仲良くなれた。
 彼は友達と接する時の様に、私とも楽しく笑ってくれるのだ。そんな毎日が続いた。つまり、私は彼の本物を手に入れたのだ。
 これで、私にとっての柏崎圭吾は他の者と同じになったのだ。飴玉の効果で彼が私を気にするようになったのならば。私は彼を気にしなくなる。それが飴玉の効果なのだから。
 と、言うか実際、最初から私は彼を好きだったわけでは無い。私が彼に求めたのは、私に対する一方的な想い。
 想われたかっただけなのだ。

 いや。それだけの筈だった――――
 しかし、日を跨いでも私の意識から彼は消えなかった。寧ろ、彼と接する程に私は彼が気になっていたのだ。
 この気持ちが『恋』というのかは断定出来なかった。だから、私は日曜日。彼を誘った。所謂、デートになるのだろう。あの時の私は、とりあえず彼との時間を過ごしたかった。
 そして私は感じた……彼と、柏崎圭吾と、一緒にいる事が楽しくて。嬉しかった事を。

 気付いた途端に私は罪悪感に苛まれた。
 いや、不安と例えるべきかもしれない。今。彼が私と繋がっているのは、共通の趣味でしかないのであり、ただの友達でしかないのだ。
 飴の効果で、一時的に私の事が気になった彼に付け入ったに過ぎないし、それの延長に過ぎなかったのだ。

 私と彼の関係……それはズルから育てた偽物で、本当の気持ちで彼に向き合って手に入れたモノではなかった。
 だから、私は彼に真っ向から向き合ったのだ。

 〝本当の私は、ラノベもアニメもそんなに好きではない〟

 そして分かっていた事だが、私の暴露に彼は言葉を失った。
 元々、私は嘘で彼と繋がっていたのだから当然だ。今更の様に、私の本心で彼を求めようとした結果……私は全てを失っただけなのだ。
 私は失ってから知った。本物の気持ちは苦しくて、その苦しみの中から導き出した答え。
 それが。柏崎圭吾の事を、私は大好きだったのだという事。
 
 そう。これは私の罰だ。
 私がズルをしたから神様が怒ったのだろう。飴玉を使った時から、私には彼と仲良くなる権利なんて無かったのだ。
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