十秒間見つめると、見つめられた人は君の事が気になって仕方なくなる。逆に君は、その人を気にならなくなってしまう飴玉。

エンドレス

文字の大きさ
上 下
3 / 6

飴玉の効果 3

しおりを挟む
 毎日。学校で彼女、篠原恵子と話をしていて。その時間は、次第に長くなっていった。彼女は、よく俺に聞いてくる。
『今、何の小説読んでる?』『今季アニメのおすすめは?』そんな、所から話は膨らんでいく。
 気が付くと彼女とは、何時間でも話が続けられる気がした。毎日、学校でちょこちょこ話をするのでは、時間が足りないと思う様になったのだ。

 金曜日の放課後。
 彼女は、部活に行く直前に俺に話しかけてきた。

「あのさ。柏崎くん、明日って昼から暇?良かったら一緒に映画見に行ってくれないかな?
 今、【暁の転生魔術師】の劇場版やってるじゃん。何か、深夜アニメの劇場版って、一人で入りづらくて……」

 突然の誘いだった。人生で初めて女子に誘われたのだ。
 これがデートと言うのかどうなのか。それはどうでも良かった……初めて女子と一緒に好きなアニメの映画を映画館に観に行く。それこそが最高に浮かれるに充分だった。
 当然。俺は即答した。

「それ、俺も見たかったんだ!いいよ。一緒に行こう」
「良かった。じゃあ、明日の午後一時に、駅前待ち合わせね」

 実は友達とも来週、観に行く約束をしていたのだが。どうせ何回でも観れるくらい好きな作品だ。
 明日彼女と先に行っても全然問題ない。俺は初めてのデートと好きなアニメを見れる事にダブルで高揚していた。その日の夜は、明日の服とかを考えていて、結局寝たのは夜中二時だった。

 翌日。日曜日。
 あれだけ遅く寝たのに俺は朝六時に目が覚めた。まるで修学旅行の気分だ。修学旅行の方が俺には大したイベントでは無かったのだが。
 俺は朝八時にはバッチリ用意が出来ていた。
 待ち合わせは午後からだと言うのに、髪型までしっかりセットしてしまい。うっかり横になる事も出来ない。

 駅までは凡そ一時間。俺は三十分早く着く様に、十一時半に家を出た。初めての女子との待ち合わせで遅刻は不味い……との考えだったのだが、駅に到着したら何と、見慣れた顔の女子が歩いている。
 それは、紛れもなく篠原恵子であった。
 駅のトイレの方に向かって行ったので、俺は敢えて声をかけずに別の場所で待つ事にした。女子とは、待ち合わせの三十分前に到着してるのが当たり前なのだろうか。等と考えながらスマホを見ていると、突然声をかけられた。

「柏崎くん?は、早いね!私、遅れちゃったかな?」
「いや。まだ十五分前だよ」

 時計を見ながら俺は苦笑いで答えた。
 私服の彼女は学校での雰囲気より、垢抜けていた。髪型も巻いてあり、大人っぽいし。白のワンピースに薄いピンクのカーディガン。ヒール付きのパンプスを履いて、ブラウンのショルダーバッグを肩にかけている。
 俺も一応それなりにお洒落をしてきて良かったと、心からホッとしたものだ。

「まだ、早いよね?柏崎くん。お昼ご飯食べた?」
「いや。まだ食べてない」
「じゃあ。そこの喫茶店入ろっか」

 食べているわけが無い。十一時半には家を出たのだから。しかし、彼女も同じくらいの距離なので、俺と同じ様なスケジュールだった筈だ。
 少しだけ思ったのは、彼女も楽しみにしていたのだろうか?と、言う事だ。途端に俺は変な緊張をしてしまった。
 俺達は喫茶店で昼食を食べ、その後映画館へと入った。

 友達と来た事はあるが、隣に女子が……それも篠原恵子が座っているのは、とても不思議な気分だった。
 映画が始まるまでの時間が、こんなに長く感じたのは初めてだったが、やがて上映が始まると。俺はそのアニメの世界に完全に入り込んでおり、隣の彼女の事すら忘れていたのだ。
 映画館を出たら、それで帰るのだと思っていた俺に。彼女は意外な提案をしてきた。

「ねぇ、柏崎くん。あそこ寄っていかない?」
「え!?あぁ。いいけど」
 
 俺に断る理由は無い。彼女が指差したのはゲーセンだ。
 これはもう完全にデートなのではないのかと、リア充展開に戸惑った。食事、映画、そしてゲーセン。
 散々ゲーセンで遊び終えた頃には、時刻は午後五時になろうとしていた。結局半日を篠原恵子と過ごしたのだ。充実した一日を過ごして俺と彼女も、凄く距離が近くなったのを感じていた。
 
「篠原さん。家まで送って行くよ」

 俺は自然とそう口にしていた。
 彼女でもないのに家に送って行くという行為が、普通なのか、どうなのか、を少し考えてしまったのは。彼女の返事に一拍があったからだ。

「――――あ。う、うん……ありがとう」

 俯きながらそう答えた彼女を見て。俺、少し気持ち悪がられたかな?なんて事を考え少し後悔したのだが。
 その後三十分程歩き、辺りが薄暗くなり始めた頃。並んで歩く彼女の口から嬉しい言葉が飛び出した。

「今日は本当にありがとう。柏崎くん、誘って良かったなぁ」
「え……そう?何で?」
「あ、だからその……凄く楽しかったって意味だよ」

 彼女の言葉が内心とても嬉しかったのだが。俺は返答に困り、無言になってしまった。照れくさかったのだ。
 そして、間を取り繕う為に思い付いた言葉が……

「ずっと歩いてるし疲れない?少し休憩しよっか。俺、ジュース買って来るから。そこ座って待っててよ」

 普通なら通り抜けるだけの公園。そのベンチの一つに彼女は座った。俺は直ぐに近くの自販機に駆け出し炭酸ジュースを二つ買った。
 一旦は変な間を払拭出来たが、その後当然ベンチで話し合う流れになる事までは考えが至らなかった。
 ジュースを一つ彼女に渡すと、彼女は立ち上がる事無く。お礼を言い、その場で缶ジュースを開けて飲み始めたので、俺も缶ジュースを開け。彼女から少し距離をとって座った。

 益々気まずいのは言う迄も無い。話題を捻り出そうとして、思い出した。そもそも今日の目的は映画だった事を。
 彼女との共通の話題であるアニメの話をすれば良いのだ。

「映画面白かったね。まさか、あの中盤のピンチを、メリフィルが出て来て救うとはね。
 初期シーズンの十一話で死んだ筈だったから、感動したよ」
「あ、あぁ。うん……そうだね」
「篠原さんって、メリフィル好きだったよね?」
「うん……でも、ごめん。そのシーンの時、私ちょっと寝ちゃってたんだ」
「え?そうなんだ?」

 映画館は確かに暗くて眠くなる。
 俺も昨晩は二時まで寝れなかったから、正直眠かった。結局映画が始まった瞬間に目が覚めてしまったが。
 ひょっとして、彼女も遅くまで眠れなかったのかもしれない。待ち合わせに来るのも早かったし。
 やはり彼女も、俺と同じ位には今日が楽しみだったのかもしれない……と、この時の俺は、そんな風に思って。少し嬉しかったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

ここはあなたの家ではありません

風見ゆうみ
恋愛
「明日からミノスラード伯爵邸に住んでくれ」 婚約者にそう言われ、ミノスラード伯爵邸に行ってみたはいいものの、婚約者のケサス様は弟のランドリュー様に家督を譲渡し、子爵家の令嬢と駆け落ちしていた。 わたくしを家に呼んだのは、捨てられた令嬢として惨めな思いをさせるためだった。 実家から追い出されていたわたくしは、ランドリュー様の婚約者としてミノスラード伯爵邸で暮らし始める。 そんなある日、駆け落ちした令嬢と破局したケサス様から家に戻りたいと連絡があり―― そんな人を家に入れてあげる必要はないわよね? ※誤字脱字など見直しているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。

五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」 婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。 愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー? それって最高じゃないですか。 ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。 この作品は 「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。 どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...