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第一章 出会いと復讐

9 復讐を成すとき

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「ハハハハハハハ!! もっと酒を持ってこい!!」
 ギラギラとした悪趣味な部屋で、無駄に太った、贅肉だらけの体を揺らしながら、女を侍らせ酒をあおる男がいた。彼こそが、ドルゲス・グル・ベ・レブリアス・・・レブリアス王国の王。王としての責務を果たさず、民を不当に扱い、あらゆる贅沢をし、周辺国からは愚王と呼ばれさげすまれている。その愚王は昼間であるにもかかわらず、酒と女に溺れていた。しかし、誰も彼を止めない。彼はおろかであるが、この国の王なのである。誰も逆らうことができず、言いなりになるしかなかった。
 そう、この時までは。
「陛下!一大事でございます!!」
「む?宰相か。何事だ?」
「革命軍と名乗る者たちが、城に突入してきました!!」
「何? そんなもの、どうにでもなるだろう? さっさと鎮圧せよ」
「そ、それが」
「宰相閣下、申し上げます!! 革命軍と名乗る者たちは城の一階をすべて占拠!! 二階が占拠されるのも時間の問題です」
「な!!もうなのか!?」
 王の部屋の外から、兵の言葉がかかる。宰相は慌てる。
「陛下、お逃げください!!」
「ふむ。おい、宰相。謁見の間に行くぞ」
「な、なぜ!?」
「あそこには、隠し通路があるのでな」
「し、しかし、謁見の間は二階にございます。すでに占拠されている可能性も・・・」
「な~に。お前が居れば心配いらん。それに、あそこには化け物も閉じ込めておるからな」
 ふんふんと鼻息荒く、酒の入ったボトルを振り回す。女たちは王に無駄に豪華なマントを羽織らせた。
「行くぞ!!」
 多少頭は回るようだが愚王はどこまでも愚王であった。彼は宰相を連れて謁見の間へと向かった。そこに、彼を亡き者にするものがいるとも知らずに・・・・・・。











「ユージェス」
 私が中庭でボーっとしていると、ブレイブがやってきた。
「何?」
「そろそろ時間だからな。呼びに来た」
「そっか」
 もう時間なのかと、うなずき、ブレイブを見る。その瞳には、この間のような迷いはなかった。
「行こうか、ブレイブ」
「ああ」
 私たちは皆のもとへと向かった。

「ユージェスさん、待っていました」
「やっほー、アステリオ。待たせて悪かったね」
「いえ、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ」
 ぐっと握手する。
「あ~!! アス、ずりぃ! 俺も俺も!!」
 そう言って、ブレイブは私の反対の手を取って握った。・・・・・・なんかこいつショタ化してないか? ショタ化って言うと誤解されそうだが、別に物理的に幼児化しているわけじゃない。なんか、犬っぽいっていうか、人懐っこいっていうか・・・・・・。うん、まあ、そんな感じになったていうことだ。
「うん、よろしく」
 ニコッと笑うと、ブレイブは予想通り、頬を少し赤くして顔を縦に振った。うん・・・・・・
「あいかわらず、面白いね。私の玩具は」
「玩具言うな!!」
ピリピリとした空気が、柔らかくなる。うん、いい感じに緊張が解けたね。
「アステリオ、もう作戦の説明は終わったんだよね?」
「ええ。あなたは正面から、自由に暴れてもらうと伝えています」
 アステリオはくすくすと笑いながら頷く。
「ブレイブ、あんたの演説はもう終わったんだよね?」
「うん? もう終わってるぞ」
 キョトンとした顔で、ブレイブはうなずいた。それを確認して、私は笑ってしまう。
「じゃあ、私からも、この軍の最大戦力として、なんか言ってもいいよね?」
「「え?」」
 私は重力魔法で浮かぶと、息を深く吸った。
「諸君! 聞こえるか!? ついにこの時が来た・・・私にとっても君たちにとっても、願ってきたことが、ついに叶うのだ!! 国に対して行う反逆の時だ!! どうした? おじけづいたのか? 安心しろ、お前たちが事を起こさなかったら、この国は亡ぶ!! というかすでに滅びかけている!!」
声高高にそういうと、みんなが、え~という顔で私を見てきた。
「君たちはこの国に住む民たちのために革命しようとしている・・・実に素晴らしい志だ!! 私なんて私情で国を滅ぼそうとしているんだぞ? それに比べたら、君たちの志は、君たちがなそうとしていることは実に素晴らしい! この私が、思わず・・・・・・」
 指を鳴らして・・・・・・

「興奮してしまうほどに!!」

空に大きな虹をかけた。皆が上を見上げた。

「案ずるな、私がいる限り、どんな失敗も成功に代わる。案ずるな、私がいる限り、誰も死ぬことはない。案ずるな、私がいる限り・・・・・・この革命は必ず成功する!!」

 無数の氷の刃を浮かべた。それを炎の矢で打ち消す。風を起こして木の葉を散らす。雷を起こして、打ち抜く。

「叫べ、剣を振れ、思い知らせろ。我らを虐げ、我らを貶め、我らを馬鹿にし・・・・・・大切なものを失わせ、今も我らから奪い続けるあのゴミ共に!!」

 重力魔法で作った小さな大地に足をつけ、引き寄せた革命軍の旗を突き立てる。

「さあ、革命の時間だ」

『うおぉぉぉぉぉぉぉ!!』
 気合十分。実によろしい。私は満足して足場を戻した。
「さて、ブレイブ。出陣の号令を」
「お前の演説の後だと、すっげえ気が引けるんだけど」
「これはリーダーの役目だよ」
 さあ、とブレイブに私が持っていた旗を渡す。ブレイブはため息を吐きながら旗を受け取った。
「こいつの素晴らしい演説の後に、あんまりいい事言えなかった俺が号令かけるのは締まらない気がするが・・・・・・まあ、これもリーダーの仕事、か」
「ブレイブ、浮かそうか?」
「頼む」
私は、ブレイブが立っているところ浮かした。ブレイブが大きく息を吸った。
「全軍、出撃!!」
『おぉぉぉぉぉ!!』
 体に力がみなぎる。やる気と気合に満ち溢れている。これは! 降りてきたブレイブに声をかけた。
「大盤振る舞いだね?」
「なんだ、気づいたのか」
私はこくりとうなずいた。これは、将軍や王などの大勢の者をまとめる職業のスキル『大号令』だ。込めた魔力によって効果が変わってくるのだが、この感じだと、結構な魔力を込めたな。私は、ブレイブに手を伸ばした。
「はい」
「え?」
「魔力渡すから手、貸して?」
「あ、そういうことか。助かる」
 私はブレイブに光学迷彩の魔法と遮音の魔法をかけ、魔力を流す。私は魔力が有り余っているし、魔人になってから魔力の回復が異常に早くなったんだよね。だからこういうことをしても、私には何の問題もない。で、何故ブレイブに光学迷彩と遮音の魔法をかけたかというと・・・・・・
「ん、ふぁ・・・・・・んん!!」
 ブレイブが色っぽい声を出し始めた。そう、これが原因だ。この様子を周りに見えないようにするために、魔法をかけたのだ。何故かはわからないが私が魔力を流した人は、みんなこんな感じになる。そう、みんなだ。ブレイブ以外にも、アステリオはもちろん、いろんな人に試したんだけど・・・・・・みんな同じ反応をしていた。何でそんな反応をするのか聞いても誰も教えてくれなかったので、よくよく観察してみたら・・・・・・なんか、性的快楽を感じている、らしい。これは誰も教えてくれないよね~。あなたの魔力供給で快楽を感じています、とか。誰も言い出せないから私が魔力を渡すことを止められない、と。まあ、魔力の回復自体はありがたいことだしね。そんなことを考えているうちにいよいよクライマックスである。何のクライマックスかって? もちろん、魔力供給だよ。
「っ!! ゆー、じぇす・・・」
「はい、終わり」
 私がぱっと手を放し、魔法を解除すると、ブレイブはその場に崩れ落ちた。うん、あまりの快楽に体が耐え切れなくなったんだね。
「はぁはぁ・・・ちょっと、ひどくね?」
「何が?」
「いや、うん・・・・・・もういいよ」
 疲れたように深くため息を吐くブレイブに、何のことだと私は尋ねた。もちろんわざとである。何故ブレイブがそんなことを言ったのか、理解しているつもりである。私はそこまで鈍くないしね。つまり、魔力供給的にもクライマックスだったが、アッチ方面的にもクライマックスを迎えようとしていたということだ。まあ、こんなことが私にばれてもブレイブが恥ずかしいだけだし、気づかないふりをしておいたほうがいいだろう。
「どう?回復した?」
「うん・・・回復したけど・・・」
「これはある意味、生殺しですよ?」
「アス・・・・・・」
 アステリオがくすくすと笑いながら近づいてきてそういった。ていうか、アステリオって最近会うときいつも笑っている気がするんだけど・・・気のせいかな?
「ブレイブ、僕は心配なんですよ。いつかあなたが、それに耐え切れなくなってユージェスを襲ってしまわないか・・・」
「それは・・・・・・」
 アステリオの言葉に、ブレイブがすっと目をそらした。私は変な空気が流れる前に口を挟んだ。
「大丈夫だよ~。もし、前みたいなことがあったらその時は・・・・・・ふふふっ、どうしよっかな~!」
「・・・・・・アス、そういうわけだから」
「ええ、これは万が一も起きないというか・・・起こすこともできませんね」
 何をされるかわからないといって、アステリオが苦笑した。ちなみに、前みたいなことというのは、私とブレイブが初めて出会ったときのことだ。あえて、襲うという言葉を別の意味で受け取って明後日の方向で答えた。そうすることで、気まずい空気になることを回避した。私はこの結果に満足してうんうんと一人で満足していた。
 そんなやりとりをしていると、アステリオの部下がやってきた。
「リーダー、副リーダー、俺たちもそろそろ行きましょうぜ」
「グラウか。先行組は?」
「今のところ、順調に進軍してるっすよ」
「そうか。・・・・・・ブレイブ、ユージェス、行きましょうか」
「おう!」
「頑張って暴れるよ~!!」
「ユウ。あんたがツエェことはわかってるが・・・・・・無茶はすんなよ?」
 グラウさんが心配そうに私を見る。・・・・・・グラウさんは、私がここに来てから、自分から監視役を名乗り上げてくれた人なんだよね。赤茶の髪に茶色の瞳の少し目つきの悪いヤンキー系のイケメン兄ちゃん。私がブレイブを引きづって遊んでいるとどこからか飛んできて叱って、私がブレイブをフルボッコにしているとどこからか飛んできて叱って、私がブレイブにいたずらを仕掛けているとどこからか飛んできて叱って・・・・・・今は監視役っていうより面倒見のいいお兄ちゃんって感じなんだよね。
「わかってるよ~兄貴!!」
「誰が兄貴だ」
「グラウさんだよ」
「おめえみてぇな手間のかかる妹を妹とは認めたくねぇ!!」
 グラウさんはそう言って、私の頭をつかんで力を込めた。
「大体、さっきのは何だ!? いきなり意味わからんことしやがって!! 皆のやる気が出てるから結果オーライだが、やる気が下がったらどうするつもりだったんだ!!」
「そんなことにはならない!! なぜならこの私の演説で心動かされないものはいな、いだいいいだいいだいいだいいーーー!!」
「反省しやがれ! この馬鹿!!」
「反省しないったらしない!!」
 そんな風にギャーギャー騒いでいると、先ほどの状態が落ち着いたブレイブとアステリオが並んでこっちを見ていた。
「兄妹喧嘩してないで行くぞ?」
「兄妹喧嘩じゃねえっすよ!!」
「え!? 兄妹喧嘩に見える? 見る目あるね~ブレイブ!!」
「グラウ、君たちはどこからどう見ても仲のいい兄妹にしか見えませんよ」
「だから、俺は兄貴じゃねえよ!」
「ブレイブ、行こう」
「ああ」
「ユウ!! 俺は別のところで戦うからな・・・くれぐれも、くれぐれも!迷惑だけはかけんじゃねぇぞ!!」
「わかってるよ~。お・兄・ちゃん!」
「だから・・・・・・俺はお前を妹とは認めてねぇーーーーーーー!!」
 ここでできたお兄ちゃんの叫びを聞き流しながら、私は前へ前へと進んでいった。

 私の役割は暴れること。好きなように暴れて構わないとアステリオから言われている。私のフォローはブレイブと、ブレイブについている仲間たちがやってくれる。
 ああ、やっとだ。やっとこの時が来たのだ!! 口角が自然と上がった。ここまで来るのに、長い時間がかかった。空は何処までも青く、雲一つない。それはまるで、私のことを祝福しているかのようで・・・・・・。
「復讐だ」
 私は静かに哂った。




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