やる気が出る3つの DADA

～宣言解除後の日常（21）～

　駅の改札は、無人だった。
　先ほどのベビーカーの対応の為に、駅員が出払ってしまっているのだ。ウイルス対応で、そもそもの出勤者を減らしているということも要因だろう。

　あの赤ちゃんは、元気いっぱいだったな――倉橋は微笑んだ。

　改札を抜けようとした時、
「あれ」
　倉橋が呟いた。
　財布のコインケースに入れたはずの、切符が見当たらなかった。さっきのゴタゴタの時に、どこかに落としたらしい。
（まずいな）
　倉橋は首を振った。

　こういう時、誰でも自分に都合のいい理屈を見つけたがるものだ。
（切符は、駅の構内に今も落ちているはずだし、そのうち駅員が拾うだろう。だから、わざわざ買いなおす必要なんてないさ）
　これが、この時倉橋が考え出した、【自分本位】の理屈である。

　――倉橋は、無人の改札を足早に抜けた。無論、呼びとめる者などいなかった。これでいいのだ。倉橋は、高鳴る心臓の鼓動を鎮めながら、そそくさと進んでいった。　
　
　その時、
「ちょっと、あなた」
　男の声が聞こえた。
　男は、駅の警備員のようだ。制服姿の男は、まるで格闘家のようで、見事なほどに鍛え上げられた身体をしていた。