やる気が出る3つの DADA

ボールの飛ぶ夢⇔男の子の正体⇔メイドの土産

「本当に子供しかいないな」
　倉橋は言った。
　我ら、歪な双子は揃って、小学校の廊下を歩いていた。
　二人の手には、カラフルなグローブと、軟式のボールが握られている。
　だが、小学生の姿になった倉橋たちには、何もかもが大きすぎるようだ。
「海外の子供たちもいるよ」
　兄貴は微笑む。
　兄貴の言った通り、校庭では世界中の子供たちが遊んでいて、とても楽しそうだ。
　そのうち
「校長だ」兄貴が耳打ちしてくる。
「校長？」　
「そう。この学校の校長」　
　兄貴が頷く。
　ちょうど目の前を、数人のSPに囲まれたスーツ姿の男の子が横切っていった。
（あの子が校長か）
　倉橋が、彼らの姿を目で追った。
　男の子は、鼻の下に付け髭をしている。確かに、付け髭でもなければ、他の児童たちと区別がつかないだろう。
「予定変更」
　兄貴が言った。
「予定変更？」
「そう」
　兄貴は、倉橋と自分のグローブを、近くにいた男の子に渡した。
「Thanks！」
　黒人の男の子は、グローブを受け取ると、校庭へと駆け出していった。

　倉橋と兄貴は、そのまま『校長』たちの後をついていった。
　SPを従えた『校長』は、自分を大きく見せようとしていて、ちょっと痛々しい印象だ。
（あの子、本当は、周囲に横柄な態度を取るのが嫌なんだろう）
　
　やがて、『校長室』が見えてきた。
　付け髭の男の子は、SPと供に、部屋に入っていった。
　半開きのドア隙間から、室内が丸見えになっている。
『校長』は、大きなソファに深々と座った。
　その時、きれいなブラウンの髪と、年齢の割に、彫りの深い顔立ちがはっきりした。
　男の子が、西洋人であることは明らかである。
「あの子は？」
　倉橋が聞いた。
「この学校の校長。さらに、『DADAの王国』のキング……」

「……つまり、彼はもしかして？」　
　倉橋が問う。
「そう。彼が、帝王『マルセル・デュシャン』だっ」
　兄貴は呟いた。　　
　
　やがて、校長室の扉が、ゆっくりと閉まった。