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キャッチボール⇔雪まつり⇔夢見る羊の夢
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「ジュニア、元気そうだな」
兄貴は言った。
兄貴の身体は、光が当たると遠くの升席の辺りまで透けて見えた。
「会えてよかった」
倉橋は泣いた。
否。正確にいうと、涙はもう出なかった。アンドロイドは、悲しくても感情を表現する術を持たない。
「泣くな。ジュニア」
兄貴が微笑む。
ホログラムの方が、アンドロイドより幾分、表情が柔らかいようだ。
「俺、もうダメだ」
倉橋は、泣いてるふりをした。
「何が駄目なの?」
「だって、こんな身体じゃ生きていけないよ。残りの人生……」
倉橋が文句を言う。
「はははははっ」兄貴が笑い始めた。
「何だよ!」
倉橋が、兄貴へと詰め寄る。
さすがに、笑われると腹が立った。場合によっては、実力行使も辞さないつもりである。
「殴り合いだと幾分、ジュニアの方が上かな」
兄貴が分析する。
どういう意味か分からない。そもそも、実体の無いホログラムと殴り合いなんて可能なのだろうか。
「よそう。せっかく仲直りできたんだから。ケンカはやめようぜ」
倉橋が提案する。
「分かった。じゃあ握手しよう」
兄貴が手を差し出してくる。
「兄貴も丸くなったな」
「丸くなってはいない。毎日ケンカだよバカ!」
「え」
どういう意味だろう。
その時「喰らえっ」
兄貴が、何かを投げつけてきた。
白い粉末が、無人の会場の空間を舞った。粉末は、塩だった。
今日の取り組みで、力士が先刻まで使っていたものらしい。
「ジュニア。生まれて初めて、俺たちがケンカした日、覚えているか…」
「覚えていない」
「夢見る羊の夢」
「夢見る羊の夢?」
「うん。雪まつりだ」
「……雪まつり?」
「札幌大通り公園の雪まつりで、俺たち兄弟は雪合戦の大会に出場したんだ。それで、お前が反則をした」
「反則?」
「そう。お前は石を雪玉の中に埋め込んで投げてきた。それが…俺の後頭部に当たったんだ」
兄貴は言った。
「まさか、それで円形脱毛症になったと?」
倉橋が声を上げる。
――これは、全くの初耳だった。
兄貴は言った。
兄貴の身体は、光が当たると遠くの升席の辺りまで透けて見えた。
「会えてよかった」
倉橋は泣いた。
否。正確にいうと、涙はもう出なかった。アンドロイドは、悲しくても感情を表現する術を持たない。
「泣くな。ジュニア」
兄貴が微笑む。
ホログラムの方が、アンドロイドより幾分、表情が柔らかいようだ。
「俺、もうダメだ」
倉橋は、泣いてるふりをした。
「何が駄目なの?」
「だって、こんな身体じゃ生きていけないよ。残りの人生……」
倉橋が文句を言う。
「はははははっ」兄貴が笑い始めた。
「何だよ!」
倉橋が、兄貴へと詰め寄る。
さすがに、笑われると腹が立った。場合によっては、実力行使も辞さないつもりである。
「殴り合いだと幾分、ジュニアの方が上かな」
兄貴が分析する。
どういう意味か分からない。そもそも、実体の無いホログラムと殴り合いなんて可能なのだろうか。
「よそう。せっかく仲直りできたんだから。ケンカはやめようぜ」
倉橋が提案する。
「分かった。じゃあ握手しよう」
兄貴が手を差し出してくる。
「兄貴も丸くなったな」
「丸くなってはいない。毎日ケンカだよバカ!」
「え」
どういう意味だろう。
その時「喰らえっ」
兄貴が、何かを投げつけてきた。
白い粉末が、無人の会場の空間を舞った。粉末は、塩だった。
今日の取り組みで、力士が先刻まで使っていたものらしい。
「ジュニア。生まれて初めて、俺たちがケンカした日、覚えているか…」
「覚えていない」
「夢見る羊の夢」
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「うん。雪まつりだ」
「……雪まつり?」
「札幌大通り公園の雪まつりで、俺たち兄弟は雪合戦の大会に出場したんだ。それで、お前が反則をした」
「反則?」
「そう。お前は石を雪玉の中に埋め込んで投げてきた。それが…俺の後頭部に当たったんだ」
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――これは、全くの初耳だった。
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