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第1章-1
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「大丈夫?」
金髪の少年が、蹲る子供に声をかける。子供はフードのついたローブですっぽりと体を隠していた。フードがわずかに揺れて、子供が顔を上げたのが分かった。
「ね、大丈夫? お腹すいたの?」
「……べつに」
「お父さんかお母さんは?」
「……べつに」
無愛想な表情と声音にも関わらず、金髪の少年は笑顔でフードの子供の前にしゃがみ込む。
「ねえ、何で顔隠してるの?」
「……」
少年は黙りこくった子供の、顔を隠すフードを少しめくって顔をのぞき込んだ。あれ、と少年は首を傾げる。
「可愛いじゃん。隠すことないのに、もったいない」
さらにフードを外そうとする少年の手を払って、子供はフードを外されないよう、ぎゅっと握りこむ。
「やめて」
「なんで?」
「やめて。……見たら、呪われるから」
「なんで?」
「……黒いから」
「?」
「黒い髪は……悪魔の印だって」
「悪魔?」
子供の、フードを握る手が震える。少年はその手を掴んで、フードを強引に外した。
「!」
黒い髪が風に揺れる。露わになった子供の顔が、恐怖で歪んだ。
「なんだ……綺麗じゃん」
「え?」
「確かに珍しい色だけど、すごく綺麗な色。隠すなんてもったいない」
「え……」
子供が、目を丸くして少年を見つめる。少年はにこにこと笑って、子供の黒い髪に触れた。
「うん、やっぱり綺麗だ」
子供は、何かを言おうと口を開いた。
「そっちの方が……」
「そっちの方が……」
呟いて、目が覚めました。
そして、目の前にある金色と目が合いました。
「あ、起きた?」
「~~~!!?」
リヒトさんが、私をまじまじと見つめています。少し……いえ、かなり近いです。迂闊に起き上がったら頭をぶつけそうなくらい近いです。
「マリウス、意外と寝起き悪いんだな。何回も起こしたけど、起きなかったから」
「え、あ、すみません……?」
「えへへ。マリウスの可愛い顔が見られて役得だったけどね」
その台詞、あなたは言われる側ですよね!?
「何であなたが……ああ、そういえば」
そうでした。リヒトさんはグリムファクトの職員寮に入ることになったんでした。それで、ルームメイトのいない私の部屋に入ることになったんです。
「ほら、マリウス。朝ご飯食べに行こう! そしたら、ベルントさんに会いに行かないと!」
「ああ、そうでした。ベルントさんに呼ばれていましたね」
時期的に、リヒトさんの研修に関する話でしょうか。どうして私まで呼ばれているのかは分かりませんが、ようやくリヒトさんが攻略対象と本格的に交流を始めることになりますね。
「ほら、早く!」
「ちょ、ちょっと待って下さい……!」
あまりにもリヒトさんが急かすので、身支度もそこそこに食堂に向かうことになりました。
……そういえば、何か夢を見ていた気がしますが。結構重要な夢だった気もするんですが、覚えてないですね。
覚えていないものは仕方ありません。……気にならないと言えば嘘になりますが。
寮の食堂で朝食を頂き、身支度を調えたあと、私とリヒトさんはベルントさんの執務室へ向かいました。
「ああ、来たな」
執務室に入ると、書類を読んでいたベルントさんが顔を上げます。
「お前たちを呼んだ理由は二つある。一つは、先日お前たちに回収してしまった魔道書の件だ」
「どうなったんですか?」
「エーベネ村の人々は、宿主であった村長の息子を除いて回復した。宿主は、一応動けるようにはなったが記憶を全て失ったらしい。魔道書の影響だ、恐らく記憶が戻ることはないだろうな」
「ということは、忘却の本だったんですね。眠りではなく」
「ああ。魔道書の名は『オブリヴィオン』。嫌なことを忘れられると宿主に取り憑く本だ。宿主はどんどん記憶を失い、目覚めなくなる。そういう本だったらしい。村人が眠っていたのは、宿主が魔法を使った余波だろうな」
「早く回収できてよかったですね。村人さんも目が覚めたみたいで、安心です」
感想が初々しくて可愛いです……! 私はそんなピュアな心とっくに忘れてましたけど、あなたはずっとそのままでいて下さいねリヒトさん!
「エーベネ村の件は、ひとまず俺たちの出番はなくなった。あとは担当の部署に任せておけばいい。……さて、もう一つの理由だが」
ベルントさんは、リヒトさんを見て言いました。
「一件、事件を解決したとはいえ、まだ一人前とは言えないからな。新人研修だ」
予想通り、リヒトさんの研修のお話をするようですね。
あれ? でも「理由は二つ」でしたよね? 私、何のために呼ばれたんでしょう。第一章以降は、マリウスはメインストーリーにはあまり関わらなかったと思うんですが。
「緊急任務がないときは、王都組と外回り組に別れて、見回りや通常任務をしている。とりあえず、今日は王都組のアレクシス、ヴィルヘルムのペアとと一緒に行動すること」
「は、はい!」
「それから、マリウスもリヒトについていくように」
「え?」
えっ????
「私もですか?」
ゲームでは、マリウスはこのとき、別の仕事を引き受けていたはずです。だから、マリウスが研修に顔を出すようなことはなかったはずです。夜とか、ストーリーの合間に顔を出して、アドバイスをしてくれるようなキャラだったのですが。
序章の最後といい、ゲームの展開と違う部分がありますね。あくまでゲームの世界とキャラがいるだけで、ゲームのストーリーをなぞるわけではないということもあるでしょうが。それにしては、事件が似すぎているんですよね。
「ああ。アレクシスからの意見でな。奇数より偶数の方が動きやすいと」
「は、はあ……」
あなたですか! 序章で予定もないのに突如現れたあなたの意見なら納得です!
「それに、マリウスは調査ばかりで、あまり見回りなんかはやったことないだろう。どうせだから、この辺で確認しておくのもいいかと思ってな」
「……分かりました」
ベルントさんがそういうなら、仕方ありません。リヒトさんの恋愛相談、楽しみにしていたんですが……。
いえ、考えてみれば、リヒトさんが誰かと仲良くするのを近くで見られるわけです。きっと、憧れの人と一緒に行動してそわそわしたり、ちょっとした会話で赤くなるような様子を、こっそり眺めることができるポジションを手に入れたと思えば、安いものです。
金髪の少年が、蹲る子供に声をかける。子供はフードのついたローブですっぽりと体を隠していた。フードがわずかに揺れて、子供が顔を上げたのが分かった。
「ね、大丈夫? お腹すいたの?」
「……べつに」
「お父さんかお母さんは?」
「……べつに」
無愛想な表情と声音にも関わらず、金髪の少年は笑顔でフードの子供の前にしゃがみ込む。
「ねえ、何で顔隠してるの?」
「……」
少年は黙りこくった子供の、顔を隠すフードを少しめくって顔をのぞき込んだ。あれ、と少年は首を傾げる。
「可愛いじゃん。隠すことないのに、もったいない」
さらにフードを外そうとする少年の手を払って、子供はフードを外されないよう、ぎゅっと握りこむ。
「やめて」
「なんで?」
「やめて。……見たら、呪われるから」
「なんで?」
「……黒いから」
「?」
「黒い髪は……悪魔の印だって」
「悪魔?」
子供の、フードを握る手が震える。少年はその手を掴んで、フードを強引に外した。
「!」
黒い髪が風に揺れる。露わになった子供の顔が、恐怖で歪んだ。
「なんだ……綺麗じゃん」
「え?」
「確かに珍しい色だけど、すごく綺麗な色。隠すなんてもったいない」
「え……」
子供が、目を丸くして少年を見つめる。少年はにこにこと笑って、子供の黒い髪に触れた。
「うん、やっぱり綺麗だ」
子供は、何かを言おうと口を開いた。
「そっちの方が……」
「そっちの方が……」
呟いて、目が覚めました。
そして、目の前にある金色と目が合いました。
「あ、起きた?」
「~~~!!?」
リヒトさんが、私をまじまじと見つめています。少し……いえ、かなり近いです。迂闊に起き上がったら頭をぶつけそうなくらい近いです。
「マリウス、意外と寝起き悪いんだな。何回も起こしたけど、起きなかったから」
「え、あ、すみません……?」
「えへへ。マリウスの可愛い顔が見られて役得だったけどね」
その台詞、あなたは言われる側ですよね!?
「何であなたが……ああ、そういえば」
そうでした。リヒトさんはグリムファクトの職員寮に入ることになったんでした。それで、ルームメイトのいない私の部屋に入ることになったんです。
「ほら、マリウス。朝ご飯食べに行こう! そしたら、ベルントさんに会いに行かないと!」
「ああ、そうでした。ベルントさんに呼ばれていましたね」
時期的に、リヒトさんの研修に関する話でしょうか。どうして私まで呼ばれているのかは分かりませんが、ようやくリヒトさんが攻略対象と本格的に交流を始めることになりますね。
「ほら、早く!」
「ちょ、ちょっと待って下さい……!」
あまりにもリヒトさんが急かすので、身支度もそこそこに食堂に向かうことになりました。
……そういえば、何か夢を見ていた気がしますが。結構重要な夢だった気もするんですが、覚えてないですね。
覚えていないものは仕方ありません。……気にならないと言えば嘘になりますが。
寮の食堂で朝食を頂き、身支度を調えたあと、私とリヒトさんはベルントさんの執務室へ向かいました。
「ああ、来たな」
執務室に入ると、書類を読んでいたベルントさんが顔を上げます。
「お前たちを呼んだ理由は二つある。一つは、先日お前たちに回収してしまった魔道書の件だ」
「どうなったんですか?」
「エーベネ村の人々は、宿主であった村長の息子を除いて回復した。宿主は、一応動けるようにはなったが記憶を全て失ったらしい。魔道書の影響だ、恐らく記憶が戻ることはないだろうな」
「ということは、忘却の本だったんですね。眠りではなく」
「ああ。魔道書の名は『オブリヴィオン』。嫌なことを忘れられると宿主に取り憑く本だ。宿主はどんどん記憶を失い、目覚めなくなる。そういう本だったらしい。村人が眠っていたのは、宿主が魔法を使った余波だろうな」
「早く回収できてよかったですね。村人さんも目が覚めたみたいで、安心です」
感想が初々しくて可愛いです……! 私はそんなピュアな心とっくに忘れてましたけど、あなたはずっとそのままでいて下さいねリヒトさん!
「エーベネ村の件は、ひとまず俺たちの出番はなくなった。あとは担当の部署に任せておけばいい。……さて、もう一つの理由だが」
ベルントさんは、リヒトさんを見て言いました。
「一件、事件を解決したとはいえ、まだ一人前とは言えないからな。新人研修だ」
予想通り、リヒトさんの研修のお話をするようですね。
あれ? でも「理由は二つ」でしたよね? 私、何のために呼ばれたんでしょう。第一章以降は、マリウスはメインストーリーにはあまり関わらなかったと思うんですが。
「緊急任務がないときは、王都組と外回り組に別れて、見回りや通常任務をしている。とりあえず、今日は王都組のアレクシス、ヴィルヘルムのペアとと一緒に行動すること」
「は、はい!」
「それから、マリウスもリヒトについていくように」
「え?」
えっ????
「私もですか?」
ゲームでは、マリウスはこのとき、別の仕事を引き受けていたはずです。だから、マリウスが研修に顔を出すようなことはなかったはずです。夜とか、ストーリーの合間に顔を出して、アドバイスをしてくれるようなキャラだったのですが。
序章の最後といい、ゲームの展開と違う部分がありますね。あくまでゲームの世界とキャラがいるだけで、ゲームのストーリーをなぞるわけではないということもあるでしょうが。それにしては、事件が似すぎているんですよね。
「ああ。アレクシスからの意見でな。奇数より偶数の方が動きやすいと」
「は、はあ……」
あなたですか! 序章で予定もないのに突如現れたあなたの意見なら納得です!
「それに、マリウスは調査ばかりで、あまり見回りなんかはやったことないだろう。どうせだから、この辺で確認しておくのもいいかと思ってな」
「……分かりました」
ベルントさんがそういうなら、仕方ありません。リヒトさんの恋愛相談、楽しみにしていたんですが……。
いえ、考えてみれば、リヒトさんが誰かと仲良くするのを近くで見られるわけです。きっと、憧れの人と一緒に行動してそわそわしたり、ちょっとした会話で赤くなるような様子を、こっそり眺めることができるポジションを手に入れたと思えば、安いものです。
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