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第1章4 総体県予選
51. 新チーム
しおりを挟む総体予選敗戦から二ヶ月が経とうとしていた。
季節はすっかり夏一色。御崎高校は夏休みに突入していた。
うだるような暑さが続く中、気温が上がる日中を避け御崎高校女子バスケットボール部の練習は午前中に行われていた。
夏休みも早一週間が過ぎた。長期休暇中の練習も日常に馴染みつつある遥は今日も練習のため朝から学校へ向かう。
川貴志との一戦は忘れられないものになっていた。
入部当初の謎であった、つかさが日本へ来た理由。その一件についてのいざこざは無事解決したようだった。
試合後にれのと二人で話していたつかさによれば、れのとは以前よりも良い関係を築けそうとのことだった。話せばわかってくれたが逃げるように日本へ来た一件がなければおそらく無理だったので結果オーライとのことだ。
れのの所属する川貴志高校に関しては、御崎との接戦を制したその後も勝ち進みベスト4に進出。決勝リーグでは三位とインターハイ出場にはあと一歩及ばなかったが、冬の予選の参加資格を獲得した。
もなかの怪我については思いのほか重傷で、治療には手術が伴った。日常生活への復帰だけなら手術の必要はないが、競技に復帰するにはその必要があると診断を受けた。
もなかは手術を受ける道を選んだ。
手術は無事成功し現在は復帰に向けてリハリビに励んでいる。長ければ復帰までに一年かかることもあるらしい。
もなかがチームを離れている間、選手は四人。大会への参加はしばらくできない。
残されたメンバーみんなで話し合い、もなかの帰りを気長に待とうということであっさりまとまりかけるも、環奈が待ったをかけた。
「私が選手としてプレーするのはだめですか」
「だめなわけないよ」杏は問う。「でも環奈はそれでいいの」
「はい。もなか先輩が復帰して、それから新入部員も入って交代メンバーの心配がなくなるまでは。私も選手としてがんばります。もちろん足手まといにならないように練習もがんばります」
反対する者はいなかった。
総体予選から引き続き環奈が選手として活動することが決まった。これにより大会への参加も可能になった。
入部当初は選手としてやっていくことを頑なに拒んでいた環奈だったが、現在は前向きかつ自発的に練習に取り組んでいる。
引退しOGとなった舞は、毎日とはいかないが今でも体育館に顔を出し、練習にも参加してくれている。
この前は練習試合にも一緒に出た。
また舞と同じチームで他校と戦えるなんて思ってもいなかった。
嬉しかった。
遥は感情がそのまま表情に表れた。
高校でバスケを始めてから、いつしか後先考えず嬉しいことを嬉しいと、楽しいことを楽しいと素直に思えるようになっていた。
中学時代にバスケへの情熱を失ってからは何事に対してものめり込む前に距離を置き、冷めた目でみるよう心がけていた。そうすれば反動で傷つくこともがっかりすることも最小限に抑えられたからだ。
高校へ入学してからは思いもよらないことの連続だった。
つかさとの出逢いがすべての始まりだった。
バスケに関わることは二度とないと信じて疑わなかった。それがつかさと一対一をしたあの日、遥の中で何かが弾けた。一瞬だった。自分を抑え込むにはもう手遅れだった。
それまでは部活外であってもバスケを嫌悪し避けていた自分がもう一度バスケに向き合うことができた。つかさのおかげだ。感謝している。つかさ本人にそんなつもりは一切ないだろうけれど。
今ならバスケが好きだと胸を張って言えた。それはつかさだけではない、チームのみんなのおかげだ。
そうなるとれのにも感謝しなければいけない気がした。彼女のほうこそ感謝されてもわけがわからないだろうが。
でも彼女がいなければつかさと御崎高校で出逢うことはなかった。
またこの場に戻ってこられて本当によかった。
「始めるぞー」
杏が言った。
そういえば新キャプテン・副キャプテンも決まった。舞から引き継ぎ、新キャプテンにはもなかが就任した。そのもなかが不在の今は副キャプテンの杏が代理としてチームをまとめている。
新チームになった当初は日替わりで全員がキャプテンを体験した。その順番はなぜか舞にも回ってきた。
体育館内にある掛け時計の針が午前九時を指していた。練習開始時刻だ。
夏休み中には練習試合も決まっている。その日を心待ちに日々の練習に励んでいる。やはり、たとへ小さくても近くに目標があるといつも以上に練習に身が入る。
夏休み――長期休暇を嫌う部活生はそれなりにいる。
しかし遥は嫌いにはならなかった。部活動を行う上でこんなに幸せなことはない。好きなことをしているのだから当然だと思われるかもしれないが、そんなことはないのだ。
シューティングやお喋りをしていた部員たちが一箇所に集まった。
「さ、始めるよ」
御崎高校女子バスケットボール部。
部員総数六名。
あっという間に終わる彼女たちの練習が今日も始まる。
第一章完
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