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第1章4 総体県予選
46. コンマ一秒
しおりを挟む最終クォーター残り二分を切ってのタイムアウト後なので、再開時のスローイン場所を選ぶことができる。
御崎としては一秒でも早く得点したい。よって攻めるゴールに近い敵陣からのスローインを選択した。
遥はサイドラインの外側に立ち、審判からボールを受け取った。
試合が再開する。
つかさがスローインを受けるや二枚のディフェンスの間を割って中へ切れ込む。三人目のディフェンスを引きつけ舞にパス。ワンドリブルでゴール下へ進入した舞が危なげなく決め三点差に。
残り十九・八秒。
川貴志のスローイン。ボールを拾ってエンドラインの外に出る。
スロワーは放っておき、その他レシーバー四人を五人で守る。早琴と環奈は二人で一人につく。
ファウルゲームを仕掛ける前にスローインの五秒オーバータイムを狙ってタイトに守るが、四番にパスを通された。ついていた遥はすかさずファウル。コンマ三秒だけ時間が進み、止まる。
二本とも入れられてしまえば次の攻撃で最低でも二点を決めないと勝利が遠のく。二本とも失敗ですぐさま攻めに転じ得点できるのがベストだが。
一本だけでも外してくれれば……。
ベンチから杏ともなかが祈るように見つめる。
川貴志ベンチから歓声と拍手が沸き起こる。
願い虚しく二本成功で再び五点差。
時間を奪うのとミスを誘発させる目的で川貴志は高い位置からプレッシャーをかけてくる。れのと四番によるつかさへのダブルチームがここにきて機能し始める。連携がうまく取れるようになっていた。
五秒オーバータイムぎりぎりで舞がスローインを受け遥にリターンパス。
無駄な時間は使えない。急いで敵陣へボールを運ぶ。
運んで終わりではない。とにかく得点を。
頼みのつかさがダブルチームを振り切れずボールを入れられない。つかさはディフェンスを引き連れ底へ下りる。
つかさが無理なら舞に。だが舞もダブルチーム気味に守られていてパスが出せない。その分早琴と環奈への守りは手薄になってはいるがさすがに荷が重すぎる。
ならばここは自分で、と腹をくくったとき。
右コーナーにいたつかさがトップ方向へ体を向けると、突如方向変換しリングに向かって走りこんだ。
ディフェンスの虚をつき裏を取りかけるも、裏取りも警戒していたれのにより抜け出すまでには至らない。それでもパスを通すのは可能に感じた。
遥はパスを出そうとして、手が止まった。
中学最後の試合、一点を追う試合終了間際、遥のパスを受けた味方がわざとシュートを外した光景がフラッシュバックした。
やめてよこんなときに。
過去を振り払う。再びパスを出そうとしたときには既にれのにパスコースを切られていた。
もうあのときとは違うのに、と遥は自分を責める。悔やんでも悔やみきれなくなる結末が頭をよぎった。
つかさが遥をちらりと見た。
まだ何か狙いがある。
今日の試合でもミスになっている、体が勝手に動き完璧に思われたパス。レシーバーの反応が遅れる、あるいは反応すらしてもらえないのがほとんどの中、なんなく捕球し得点に繋げられるのがつかさだった。
そしてつかさはそのパスを意図的に引き出すことを可能にしていた。
今は時間をかけず直接得点に結びつくパスを要求している。単純に勝負させるためにボールを入れるのではない。ディフェンスの虚をつく動きに合わせたパスを。
トップの位置から寸分の狂いもないタイミングで、空間にバウンドパスを送る。
リングの真下を通過したつかさが体の向きはそのまま、自然すぎるほどなめらかに後ろへ飛んだ。ディフェンスと遠ざかり間合いが生まれる。まるでつかさの動きに合わせ、あらかじめくくりつけておいたワイヤーで引っぱったかのように。
つかさは空中でゴールと正対しながらリングの右側へ。着地する寸前にバウンドしたボールがつかさの右側、手もとへ跳ね上がり、吸いつくように手のひらに収まる。つかさの口が動いた。
「ナイスパス」
ディフェンスが二枚距離を詰めてくるもマークを引き剥がした状態のまま、淀みなくバンクショットを決める。
三点差。
しかし今回のオフェンスに十一秒近く割いてしまい残り時間がごっそりと削られた。
残り八・八秒。
「ナイス遥。よくわかったね」
喜びに浸っている暇はない。即座にディフェンスに切り替える。敵のスローイン前にマークマンを捕まえなくてはファウルにいけなくなる。遥はスローイン後すぐにファウルできるようぴったりとつく。
ブザーが鳴った。
川貴志が最後のタイムアウトを切った。勝負を決めるために。
遥たちもベンチへ戻る。
タイムアウト中はこれから川貴志にやられたくないこととその対処を確認した。作戦は変わらず最後までファウルゲーム。
「よし、行ってこい」
岩平がそれぞれの背中を押す。
「がんばってとしか言えないけど。お願い、がんばって」
もなかと杏が祈るように五人を送り出す。
タイムアウト終了。
「相手のフリースロー外れるようにその負のオーラ送っといてよ」
にかっと笑った舞が最初にラインの内側へ足を踏み入れた。
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