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第1章3 総体地区予選
36. そして後半へ
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「悪くないけどちょっと向こうのペースに合わせすぎだな。次からちょっと仕掛けるぞ」
岩平から攻守ともに指示があった。
「杏は十番とのマッチアップ慣れてきたか?」
「正直高さとパワーは厄介だけどそれ以外はないから助かってる」
「よくなってきてるからその調子でがんばれ」
「次ってうちのスローインからだよね」と舞が確認する。
「そうです」と環奈。
「フォーメーション敷いて一本組み立ててみようよ」
「どれやる?」
「まずは――」
第二クォータースタート。
スローインを受けた遥はトップでキープし陣形が整うのを待つ。
打ち合わせで決めたフォーメーションは『Horns』と呼ばれるものだ。
左右のコーナー・ハイポストに二人ずつ。そしてトップに一人を配置するこのフォーメーションは『角』のような形になることから『Horns』と呼ばれる。
今回は遥がトップの位置。普段はつかさが担当することが多い。
ハイポストには舞と杏。左右のコーナーにはつかさともなか。
トップから末広がりにポジショニングする選手たちを、遥は山頂からの景色を眺めるように見渡す。
敵はそれぞれのマークマンに寄っている。そのためペイントエリア内にはぽっかりとスペースが生まれていた。この戦術はマンツーマンディフェンスの相手に対して効果的にスペースを作り出すことができ、また攻め方のバリエーションも非常に豊富である。
遥はハイポストで手をあげる舞にボールを入れ、自分はコーナーのもなかのもとへスクリーンにいくパターンを選択した。そこからもなかがゴール下へフリーで抜け出せれば最もシンプルに得点することができる。
それが無理でももなかが上へ移動しパスを受けるパターンや、逆サイドのつかさが杏のダウンスクリーンを使うなど、あれがだめならこれ、これがだめならあれ、と攻め方は臨機応変に派生していく。
遥がスクリーンをセットする直前、もなかが舞のいる方向へフェイントをかけた。するとディフェンスは振られ、遥をマークする敵も一瞬そちらへ反応した。
遥はもなかのディフェンスの背後で壁になる。もなかは急速に行き先を変更しゴール下へ駆け出す。そうはさせまいと追走したディフェンスは、しかし壁にぶち当たり進路を断たれる。本来カバーに入るべき遥のディフェンスもその方向を読み違えており後ろから追うのがやっとだ。
舞からのパスが通り、第二クォーター開始早々チームで作り出したもなかのシュートが決まった。
楽しい。
遥はバスケをしているんだと強く感じた。
中学時代からさっきのようなプレーをしてみたいと日々思い描いていた。でもそれは叶わなかったのだ。二人だけでは五人のプレーはできない。できたのはせいぜい体育の延長のようなバスケくらいだった。
「もなちゃんナイシュ」
「あっさり決まってびっくりしちゃった」
「フェイントからのカットがよかったんだよ」
「えへへー」
「もなか顔、気が抜け切ってる」と杏。
「よーしディフェンス!」
箕澤が得意のインサイドで点を取りにきた。
十番にボールが入ったところですかさずダブルチーム。
箕澤は外からのシュート確率があまりよくない。そのため外からなら打たせていいので十番へのダブルチームとボックスアウトを徹底するようにとの岩平の指示だった。
十番が外へボールを出した。ダブルチームに寄ったことでノーマークになった選手へのパスだ。
杏は早くも十番を外へ外へと押し出し始める。
パスを受けた選手は一瞬躊躇したのちミドルレンジからのシュートを放った。
結果はショート。距離が足りずリング手前に当たったボールは杏のいる方向へ飛んでいく。杏はなおも中に入ろうとする十番を全身で押さえていた。
やがてボールは杏の前――コートに落ちた。
杏は十番を押さえたまま片手を伸ばしボールをタップ。杏に代わってリバウンドを確保しようとしていたつかさの手に渡り、次の瞬間にはリング目指してトップスピードに。
他の味方の走り出しは遅れていた。リバウンドの行方がはっきりしなかったのが原因だ。遥も急いで攻めに切り替えようとするが既につかさが先を行っていた。ディフェンスとつかさで三対一の状況になっている。
遥はつかさならそのまま一人でシュートまで持ち込むだろうと思った。
強みを封じてからの追加点。それも、敵からすればやらせたくない速い展開からの得点。箕澤としてはそれをやらせず御崎を勢いに乗せないまま終始スローペースで進めたいはず。
だから、この一本の重要性はつかさならきっと理解しているはず。
大事な局面を見極め、確実に決めてこそエース。そしてその自負がつかさにはあるはずだ。
味方の上がりを待たずして、つかさは空間を切り裂くように進攻する。数的有利でありながら敵は足がついていかず手を出してしまう。
ピーッ!
力のこもった笛が鳴り、シュートも決まる。
「おおし!」
「ひやー! つかささーん!」
立ち上がった岩平が力強く手を打ち鳴らし、環奈はぴょんぴょんと跳ねる。早琴と三好も「すごいすごい!」とハイタッチを交わしている。
遅れて、悄然とする箕澤ベンチからぽつぽつと励ましの言葉が投げ込まれる。
ゲームの雰囲気ががらりと変わるのがわかった。
つかさが攻め込んだときの安心感といったらなかった。決まるのが当たり前とさえ思わせられる。
惚れぼれしている場合ではないと遥は切り替える。ワンマン速攻からのカウントワンショット。テンポを上げるいい機会だ。
「ナイシュッ」
ボーナススローもきっちり決めて五点差。
箕澤は執拗にインサイドからの組み立てを続けてきた。
双方にとって攻守の大事な局面が続く。
得点源である十番にボールが入る。御崎は作戦通り近くの選手が素早い寄りを見せる。
十番はそれでも攻めの姿勢を崩さないがディフェンスを振り切れない。
「一旦戻して!」
十番は味方の声を無視し攻撃を敢行。やや苦し紛れに高さを活かして杏たちの上から狙ったシュートは、しかしリングに嫌われた。
杏がリバウンドを確保するや、
「GO!」岩平の声。
「あんちゃん!」
「ほいっ」
遥は密集地からのパスを受け、すかさず前へ送る。とにかく前へ前へ。
いきなりのテンポアップに敵はばたばたと自陣へ戻る。
遥は密集地からのパスを受け、すかさず前へ送る。速攻を防がれて組み立て直すことになっても構わない。とにかく前へ前へ。試合をテンポアップさせ、こちらのペースに引きずり込めればそれでいい。
いきなりのテンポアップに敵はばたばたと自陣へ戻る。
先頭を走っていた舞にボールが渡った。敵が守りを固める前にドリブルで中へ切り込む。ディフェンスをステップでかわし、高い打点から流し込むようにレイアップシュートを置きにいく。そっとネットが揺れた。
ブザーが鳴る。
箕澤がタイムアウトで流れを止めにきた。
「さっすが」
「ナイシュー舞ちゃん」
遥たちは得点した舞を迎えて手のひらを合わせる。
岩平から攻守ともに指示があった。
「杏は十番とのマッチアップ慣れてきたか?」
「正直高さとパワーは厄介だけどそれ以外はないから助かってる」
「よくなってきてるからその調子でがんばれ」
「次ってうちのスローインからだよね」と舞が確認する。
「そうです」と環奈。
「フォーメーション敷いて一本組み立ててみようよ」
「どれやる?」
「まずは――」
第二クォータースタート。
スローインを受けた遥はトップでキープし陣形が整うのを待つ。
打ち合わせで決めたフォーメーションは『Horns』と呼ばれるものだ。
左右のコーナー・ハイポストに二人ずつ。そしてトップに一人を配置するこのフォーメーションは『角』のような形になることから『Horns』と呼ばれる。
今回は遥がトップの位置。普段はつかさが担当することが多い。
ハイポストには舞と杏。左右のコーナーにはつかさともなか。
トップから末広がりにポジショニングする選手たちを、遥は山頂からの景色を眺めるように見渡す。
敵はそれぞれのマークマンに寄っている。そのためペイントエリア内にはぽっかりとスペースが生まれていた。この戦術はマンツーマンディフェンスの相手に対して効果的にスペースを作り出すことができ、また攻め方のバリエーションも非常に豊富である。
遥はハイポストで手をあげる舞にボールを入れ、自分はコーナーのもなかのもとへスクリーンにいくパターンを選択した。そこからもなかがゴール下へフリーで抜け出せれば最もシンプルに得点することができる。
それが無理でももなかが上へ移動しパスを受けるパターンや、逆サイドのつかさが杏のダウンスクリーンを使うなど、あれがだめならこれ、これがだめならあれ、と攻め方は臨機応変に派生していく。
遥がスクリーンをセットする直前、もなかが舞のいる方向へフェイントをかけた。するとディフェンスは振られ、遥をマークする敵も一瞬そちらへ反応した。
遥はもなかのディフェンスの背後で壁になる。もなかは急速に行き先を変更しゴール下へ駆け出す。そうはさせまいと追走したディフェンスは、しかし壁にぶち当たり進路を断たれる。本来カバーに入るべき遥のディフェンスもその方向を読み違えており後ろから追うのがやっとだ。
舞からのパスが通り、第二クォーター開始早々チームで作り出したもなかのシュートが決まった。
楽しい。
遥はバスケをしているんだと強く感じた。
中学時代からさっきのようなプレーをしてみたいと日々思い描いていた。でもそれは叶わなかったのだ。二人だけでは五人のプレーはできない。できたのはせいぜい体育の延長のようなバスケくらいだった。
「もなちゃんナイシュ」
「あっさり決まってびっくりしちゃった」
「フェイントからのカットがよかったんだよ」
「えへへー」
「もなか顔、気が抜け切ってる」と杏。
「よーしディフェンス!」
箕澤が得意のインサイドで点を取りにきた。
十番にボールが入ったところですかさずダブルチーム。
箕澤は外からのシュート確率があまりよくない。そのため外からなら打たせていいので十番へのダブルチームとボックスアウトを徹底するようにとの岩平の指示だった。
十番が外へボールを出した。ダブルチームに寄ったことでノーマークになった選手へのパスだ。
杏は早くも十番を外へ外へと押し出し始める。
パスを受けた選手は一瞬躊躇したのちミドルレンジからのシュートを放った。
結果はショート。距離が足りずリング手前に当たったボールは杏のいる方向へ飛んでいく。杏はなおも中に入ろうとする十番を全身で押さえていた。
やがてボールは杏の前――コートに落ちた。
杏は十番を押さえたまま片手を伸ばしボールをタップ。杏に代わってリバウンドを確保しようとしていたつかさの手に渡り、次の瞬間にはリング目指してトップスピードに。
他の味方の走り出しは遅れていた。リバウンドの行方がはっきりしなかったのが原因だ。遥も急いで攻めに切り替えようとするが既につかさが先を行っていた。ディフェンスとつかさで三対一の状況になっている。
遥はつかさならそのまま一人でシュートまで持ち込むだろうと思った。
強みを封じてからの追加点。それも、敵からすればやらせたくない速い展開からの得点。箕澤としてはそれをやらせず御崎を勢いに乗せないまま終始スローペースで進めたいはず。
だから、この一本の重要性はつかさならきっと理解しているはず。
大事な局面を見極め、確実に決めてこそエース。そしてその自負がつかさにはあるはずだ。
味方の上がりを待たずして、つかさは空間を切り裂くように進攻する。数的有利でありながら敵は足がついていかず手を出してしまう。
ピーッ!
力のこもった笛が鳴り、シュートも決まる。
「おおし!」
「ひやー! つかささーん!」
立ち上がった岩平が力強く手を打ち鳴らし、環奈はぴょんぴょんと跳ねる。早琴と三好も「すごいすごい!」とハイタッチを交わしている。
遅れて、悄然とする箕澤ベンチからぽつぽつと励ましの言葉が投げ込まれる。
ゲームの雰囲気ががらりと変わるのがわかった。
つかさが攻め込んだときの安心感といったらなかった。決まるのが当たり前とさえ思わせられる。
惚れぼれしている場合ではないと遥は切り替える。ワンマン速攻からのカウントワンショット。テンポを上げるいい機会だ。
「ナイシュッ」
ボーナススローもきっちり決めて五点差。
箕澤は執拗にインサイドからの組み立てを続けてきた。
双方にとって攻守の大事な局面が続く。
得点源である十番にボールが入る。御崎は作戦通り近くの選手が素早い寄りを見せる。
十番はそれでも攻めの姿勢を崩さないがディフェンスを振り切れない。
「一旦戻して!」
十番は味方の声を無視し攻撃を敢行。やや苦し紛れに高さを活かして杏たちの上から狙ったシュートは、しかしリングに嫌われた。
杏がリバウンドを確保するや、
「GO!」岩平の声。
「あんちゃん!」
「ほいっ」
遥は密集地からのパスを受け、すかさず前へ送る。とにかく前へ前へ。
いきなりのテンポアップに敵はばたばたと自陣へ戻る。
遥は密集地からのパスを受け、すかさず前へ送る。速攻を防がれて組み立て直すことになっても構わない。とにかく前へ前へ。試合をテンポアップさせ、こちらのペースに引きずり込めればそれでいい。
いきなりのテンポアップに敵はばたばたと自陣へ戻る。
先頭を走っていた舞にボールが渡った。敵が守りを固める前にドリブルで中へ切り込む。ディフェンスをステップでかわし、高い打点から流し込むようにレイアップシュートを置きにいく。そっとネットが揺れた。
ブザーが鳴る。
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「さっすが」
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遥たちは得点した舞を迎えて手のひらを合わせる。
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