Girls×Basket〇

遠野そと

文字の大きさ
上 下
29 / 51
第1章2 無名の怪物

29. 発動、ビギナーズラック

しおりを挟む
  
 速攻から早琴のレイアップが決まり七点差。
 チームの得点だからもちろん嬉しい。しかしそれ以上に、遥は早琴の初得点が自分のことのように嬉しかった。

 ベンチから、コート内の味方から、歓声が湧き上がる。そこには経験の浅い選手や実力は劣るが練習に真摯な選手らが得点したとき特有の悪意のない笑いが含まれていた。

 独特の盛り上がりに東陽側はどういう選手に決められたのかを再認識する。そして目を背けるのだ。大丈夫、今のはたまたま。点差もまだ余裕がある。

 だが一種のお祭りムードが一気に流れを呼び込む。

 東陽の攻撃。
 ドリブルを始めた相手に対し、つかさは一度ディフェンスの手を緩めるとみせかけてから再度プレッシャーをかけた。
 すると相手は慌てた。笛が鳴る。

「ダブルドリブル!」
「え、マジ」

 流れは目に見えない。だがそれは間違いなく存在する。
 目まぐるしく攻守が入れ替わるバスケットボールは流れのスポーツと言われる。いかに流れを呼び込めるかで勝敗が決まると言っても過言ではない。

 流れを奪われたチームが普段ならありえないミスを連発することは往々にしてある。流れを味方につけたチームはその逆だ。一度流れを掴めば点差が十点であろうと二十点であろうと、時間さえあればあっという間にひっくり返してしまう。

 流れというのはそれほどまでに強力で恐ろしい。

                   〇

 ダブルドリブルにより移った攻撃権。
 そのチャンスに攻め込んだ舞がファウルを受けた。シュートこそ外れてしまったがフリースロー二本を獲得。

 時計が残り四十秒で止まる。
 舞は落ち着いて二本とも沈め、点差を五点に縮めた。

「っしゃあ! ディフェンス!」

 杏が手を叩きディフェンスに戻る。
 追いつけるんじゃないかと早琴は意識し始めた。
 ついさっきまでは満身創痍に近い状態だったにも関わらず、記念すべき初得点を決めたことで不思議とスタミナが回復し、そんな期待を抱く余裕まで生まれていた。

「あと少しだから頑張ろうさっこちゃん」

 遥が盛り立てる。

「ディフェンスここ絶対止めて」

 ベンチからの声が届く。

「止めるよみんな」と舞が鼓舞した。

 早琴は向かって右サイドの高い位置にいる選手についていた。
 トップからこちらへボールが振られる。

 あれ。届くんじゃない?

 自然と体が動き、早琴は飛び出した。
 ボールが手に当たり前方――敵陣フロントコートへ跳ねていく。

 え、うそ、やったやった!

「いけ!」

 ベンチからの声援を力に早琴はボールを追う。敵も必死に追いすがる。
 ボールに追いついた。普通にドリブルすれば簡単に追いつかれたあげくボールまで奪われかねない危険を感じた。

 早琴は一度捕球すると大きく前に突き出した。再度ボールを追いかける形になる。不慣れなせいで思うようにスピードは出ない。それでも敵との距離がわずかに開く。
 転がり跳ねるボールに追いつきもう一度前に突き出す。みたび追いついたところで踏み切った。一、二とステップを踏み左足でジャンプ。
 そしてレイアップシュートが決まる。

 三点差。残り三十一秒。
 ブザーが鳴り響いた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

天使の隣

鉄紺忍者
大衆娯楽
人間の意思に反応する『フットギア』という特殊なシューズで走る新世代・駅伝SFストーリー!レース前、主人公・栗原楓は憧れの神宮寺エリカから突然声をかけられた。慌てふためく楓だったが、実は2人にはとある共通点があって……? みなとみらいと八景島を結ぶ絶景のコースを、7人の女子大生ランナーが駆け抜ける!

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

AGAIN 不屈の挑戦者たち

海野 入鹿
青春
小3の頃に流行ったバスケ漫画。 主人公がコート上で華々しく活躍する姿に一人の少年は釘付けになった。 自分もああなりたい。 それが、一ノ瀬蒼真のバスケ人生の始まりであった。 中3になって迎えた、中学最後の大会。 初戦で蒼真たちのチームは運悪く、”天才”がいる優勝候補のチームとぶつかった。 結果は惨敗。 圧倒的な力に打ちのめされた蒼真はリベンジを誓い、地元の高校へと進学した。 しかし、その高校のバスケ部は去年で廃部になっていた― これは、どん底から高校バスケの頂点を目指す物語 *不定期更新ですが、最低でも週に一回は更新します。

処理中です...