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第1章
9. もう一人の新入部員
しおりを挟む謝らなきゃ。話はそれから。
「おはよう、西宮さん」
朝のHR後、今日も遅刻だったつかさに声をかけた。
「昨日はいきなり帰ってごめんなさい」
「始まったばかりだったのに」
「ごめんなさい。次はもう帰らないからまた1on1してほしいです。今度は私からお願いします」
「また来てくれるの?」
「うん。でもちょっと違うかな。私、ほんと勝手ばかりしてるって思うんだけどね。バスケ部に入ることにしたの。さっき入部届も受け取ってもらったよ」
つかさは驚いたのか少しきょとんとした。それからすぐに「そう」とわずかに頬を緩ませた。
「わたしは西宮つかさ。あなたは?」
「結城遥です」
「じゃあこれからよろしく。遥」
「こちらこそよろしくお願いします。西宮さん」
「つかさ。遥には名前で呼んでほしい」
「私に?」
「だめ?」
いきなりは少し照れくさく感じた。けれど平然と自分を呼び捨てにしているつかさを見ていると、逆に躊躇っている自分が恥ずかしくなった。
「じゃあそうさせてもらうね。改めて、これからよろしくね。つかさちゃん」
一限目の授業が終わった。
休み時間、遥はつかさの左隣に椅子を寄せていた。
話の流れでつかさがアメリカ帰りであることを知り、驚いた。つかさならアメリカのチームでもエース級なのではないか。実際アメリカではどうであったかを聞こうとしたが、考えてみれば自分はつかさのドライブを一度見ただけに過ぎないことに思い至り、質問するのをやめた。
「そういえば私たち以外にも入部した人がいるんだって」
話題を変えたときだった。つかさの右隣で誰かが足を止めた。遥はそれに気づいて視線を上げた。つかさも気配を察知し、横目で見上げた。同じクラスではない女子生徒が立っていた。つかさに用があるようだ。
「あの。昨日の放課後、体育館でバスケしてましたよね」
つかさが頷くと、女子生徒は安堵の表情を見せた。
「私、久我早琴っていいます」
「久我さんって、もしかして」遥は思わず口を挟んだ。「今朝バスケ部に入部届を出したっていう久我さんですか」
「はい。そうです」
「知ってるの?」
「さっきつかさちゃんに話そうとしてた新入部員っていうのが久我さんだったみたい」
遥は早琴に視線を向ける。
「あ、実は私も今朝バスケ部に入ったばかりなんだ」
「そうなんだ。じゃあチームメイトだね」
早琴の口元がにんまりと緩む。
「うん。よろしくね」
「私、バスケはまるっきりの素人だからいろいろ教えてね」
「もちろん」
早琴のやる気に満ちた表情に、遥は胸に込み上げてくるものを感じた。
だけどやる気なんてものはいつどこで冷めてしまうかわからない。自分だって例外ではない。やる気の一時的な低下ならまだしも興味そのものがなくなることだってある。いつからだったか、遥はこういった瞬間を手放しで喜ぶことや楽しむことができなくなっていた。
どうせ悲しむならその傷は小さいほうがいい。あらかじめ結末を想像し覚悟しておくのだ。
遥は自己紹介をする。つかさもそれに続いた。
「つかさでいいよ」
「わかった。よかったら結城さんのことも、遥ちゃんって呼んでいいかな」
「じゃあ私も久我さんのことはこれから早琴ちゃんって呼ぶね」
「うん。そうして」
そこでチャイムが鳴った。二限目が始まる。
「じゃあまた」
早琴は自分の教室へ戻っていった。
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