Girls×Basket〇

遠野そと

文字の大きさ
上 下
9 / 51
第1章

9. もう一人の新入部員

しおりを挟む
 
 謝らなきゃ。話はそれから。

「おはよう、西宮さん」

 朝のHR後、今日も遅刻だったつかさに声をかけた。 

「昨日はいきなり帰ってごめんなさい」
「始まったばかりだったのに」
「ごめんなさい。次はもう帰らないからまた1on1してほしいです。今度は私からお願いします」
「また来てくれるの?」
「うん。でもちょっと違うかな。私、ほんと勝手ばかりしてるって思うんだけどね。バスケ部に入ることにしたの。さっき入部届も受け取ってもらったよ」

 つかさは驚いたのか少しきょとんとした。それからすぐに「そう」とわずかに頬を緩ませた。

「わたしは西宮つかさ。あなたは?」
「結城遥です」
「じゃあこれからよろしく。遥」
「こちらこそよろしくお願いします。西宮さん」
「つかさ。遥には名前で呼んでほしい」
「私に?」
「だめ?」

 いきなりは少し照れくさく感じた。けれど平然と自分を呼び捨てにしているつかさを見ていると、逆に躊躇っている自分が恥ずかしくなった。

「じゃあそうさせてもらうね。改めて、これからよろしくね。つかさちゃん」

 一限目の授業が終わった。

 休み時間、遥はつかさの左隣に椅子を寄せていた。
 話の流れでつかさがアメリカ帰りであることを知り、驚いた。つかさならアメリカのチームでもエース級なのではないか。実際アメリカではどうであったかを聞こうとしたが、考えてみれば自分はつかさのドライブを一度見ただけに過ぎないことに思い至り、質問するのをやめた。

「そういえば私たち以外にも入部した人がいるんだって」

 話題を変えたときだった。つかさの右隣で誰かが足を止めた。遥はそれに気づいて視線を上げた。つかさも気配を察知し、横目で見上げた。同じクラスではない女子生徒が立っていた。つかさに用があるようだ。

「あの。昨日の放課後、体育館でバスケしてましたよね」

 つかさが頷くと、女子生徒は安堵の表情を見せた。

「私、久我くが早琴さことっていいます」
「久我さんって、もしかして」遥は思わず口を挟んだ。「今朝バスケ部に入部届を出したっていう久我さんですか」
「はい。そうです」
「知ってるの?」
「さっきつかさちゃんに話そうとしてた新入部員っていうのが久我さんだったみたい」

 遥は早琴に視線を向ける。

「あ、実は私も今朝バスケ部に入ったばかりなんだ」
「そうなんだ。じゃあチームメイトだね」

 早琴の口元がにんまりと緩む。

「うん。よろしくね」
「私、バスケはまるっきりの素人だからいろいろ教えてね」
「もちろん」

 早琴のやる気に満ちた表情に、遥は胸に込み上げてくるものを感じた。
 だけどやる気なんてものはいつどこで冷めてしまうかわからない。自分だって例外ではない。やる気の一時的な低下ならまだしも興味そのものがなくなることだってある。いつからだったか、遥はこういった瞬間を手放しで喜ぶことや楽しむことができなくなっていた。
 どうせ悲しむならその傷は小さいほうがいい。あらかじめ結末を想像し覚悟しておくのだ。

 遥は自己紹介をする。つかさもそれに続いた。

「つかさでいいよ」
「わかった。よかったら結城さんのことも、遥ちゃんって呼んでいいかな」
「じゃあ私も久我さんのことはこれから早琴ちゃんって呼ぶね」
「うん。そうして」

 そこでチャイムが鳴った。二限目が始まる。

「じゃあまた」

 早琴は自分の教室へ戻っていった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

処理中です...